「はっきり言おう、冤罪であると」
「しらばっくれるなっ!」
昼なお暗き取調室の中……俺を殴ろうとした男の拳を避けた。
「爆破テロが頻発し始めた時はもちろんだが、発生場所は、すべて貴様がうろついていた場所ばかり。証拠は全部挙がっているんだっ!」
俺はちらりとそちらを見たが、気まずそうにピコがそっぽを向いていた。
なんというか……ピコのせいではないのだが。
「ふむ、素人考えかもしれないが、普通は、現場から離れるモノじゃないのか?」
「くっくっくっ、犯人はなあ、現場に戻ってくるもんなんだ」
「わざわざ現場に戻ってきて、自分を巻き込んで爆発か?わけがわからんな」
「だから調べているんだっ!」
「それは、本末転倒だろう」
俺はまた、飛んできた拳を避けた。
「それが正しいとしたら、今度狙われるのはこの場所だ。いいのか、ここにいて?」
「ふっ、念入りに身体検査をさせてもらったからな……貴様が何者か知らないが、材料がなければ何もできない」
「ほう…」
思いこみとか、独断とか……それはとても悲しいことだ。
「既に仕掛けられているとしたら?」
「それも調べた。なにもない、何もないんだよ、ここには」
「なるほど」
俺は重々しく頷き。
「あー、ひとつ提案があるんだが」
「なんだ、仲間を売るとでも言うのか?」
「いや、取調官を、女性にしてもらいたい」
「……」
「年齢は、15〜50で、美人ならなお良し」
「……」
「そして、今すぐ耳をふさげ」
どかぁぁぁん!
「ふっ、また威力を上げたな、ピコ」
「……なのに、平気なんだね」
「男子三日会わざれば、刮目して見よという言葉がある」
俺はにこりと笑って。
「俺は、まだまだ成長期なんだ」
「はぁ…」
それは、いつもの(?)俺とピコのやりとり。
それをよそに。
「なんだ、何が起こったっ!?」
「馬鹿な、何もなかったはずだぞっ?」
「入り口をふさげ。仲間がいるかも知れん。容疑者の逃走を防げ」
取調室は、大騒ぎだった。
「……証拠がない」
「この国は、いい国だな」
「……?」
眉をぴくりと上げ……そのまま、俺の言葉の続きを待っているのか。
「証拠の有無に関係なく、処刑してしまう国なんかごろごろしてる」
「……被害者がいない」
「音は?」
「実際の爆破テロを思えば、考慮にも値せんな」
「ふむ、それは少し乱暴だ…」
「なのに、貴様は吹っ飛ばされた」
「子供の頃から雷が苦手でね…どうも、大きな音はダメなんだ」
「ふむ、びっくりして飛び退いた…と」
「無意識の行動なのでね、俺にもうまく説明できない」
「んあー」
2日ぶりに見る太陽の光の下で、俺は大きくのびをした。
「……」
「ん?」
肩に目を向ける。
「……ごめん」
「何が?」
「何がって…そりゃ…」
「誤解は、とても悲しいことだ」
「……?」
「だが、誤解が全く生まれない結びつきは、それ以上に悲しいことだ」
「……」
「俺という世界と、ピコという世界……その2つに違いがあるのはむしろ当然で、だからこそ衝突する」
「でも…」
俺は、微笑み。
「本当に悲しいことは、その衝突が、新たな衝突を生むことだ。ひとつの衝突が、新しい理解に向かうこと…それは、悲しい事じゃなく、喜ばしいことだ」
「……」
「俺は傭兵だが……戦争を美化したりはしないし、必要悪と言いたくもない。人の……いや、意志ある存在の数だけ物差しが存在するだろうが、俺は、その物差しの中にたったひとつだけ共通する目盛りがあると信じているんだ」
「共通する…目盛り?」
「この世界に起こりうる悲惨を、少しでも減らすために…これまでの、無数の存在が積み重ねてきた努力の上に、自分の努力を重ねていくこと」
俺は微笑んだが、ピコはうつむいた。
俺と共に旅をすることで、ピコはいろんな事を目にしてきたから。
「キミは…強い…ね」
「強いというか、それを信じたい…それだけだ」
「そっか…」
ピコを肩に乗せたまま、俺は歩き出す。
明日ではなく、愛に向かって。
「お嬢さん、何かお困りの様子のですが、何かお力になれますか?」
「あ、いえ、困っているのは私ではなく…このおじいさん…」
「優しいお嬢さんだ…困っている老人に手をさしのべる。姿だけでなく、その魂まで清冽な…」
「キ、キミ…ねえ…」
『雷迎っ!ピコピコサンダーっ!』
さて、解説せねばなるまい。(笑)
炎に対する耐性が強い相手には、別の攻撃方法を試してみるのが有効だよ。
「……そっちの解説なのかよ」
「し、しぶとい…」
「大丈夫か、ピコ?巻き込まれなかったか?」
「それって、気をつかうタイミングが完全に狂ってるからっ!」
俺の耳元で、ピコがわめくわめく。
うん、この様子なら大丈夫そうだ。
俺は満足げに微笑むと、あらためて、恐怖に立ちすくんでいるお嬢さんに声をかけた。
「お嬢さん、ひどい雷でしたが、お怪我はありませんでしたか?」
「へ、あ、いえ…そ、その…あなたは、大丈夫なんですか?」
「ああ、私のことを心配してくださる…ありがたいことです」
ああ、この女性は愛のなんたるかを知っている。
それはとても素晴らしいことだ。
「さて、名残惜しいですが、私はこれで失礼します」
「え?」
「へ?」
後者は、ピコの声だ。
振り上げていた両手を…何故振り上げていたかは言うまでもない……おろして、不思議そうに、俺の背中にとりついた。
「え、あの…キミ…大丈夫?頭でも打った?」
「彼女は愛を知っていたよ…俺が語るまでもなかった」
「あ、そう…」
そのまま、ピコが俺の肩に乗った。
俺の名はキャプテン。
人生という名の旅の舵取りをする、愛に生きる男だ。
そう、愛とは与えること。
求めるだけの世界は、いつか滅ぶ。
それはとても悲しいことだ。
そろそろマンネリ?
夏の雷は危険ですねえ。
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