「ねえ、着いたよ」
「……ん?」
 俺は目を開けて……4枚の羽をはためかせる妖精を見つめた。
「なんだ、ピコか」
「なんだ……って、もうちょっとアクティブなリアクションはないの…」
「ふっ…」
 俺は口元に笑みを浮かべて。
「男って生き物はな…」
「はい、さっさと降りる…入国手続きがあるんだから」
 
「えーと、これで間違いありませんね」
「ああ」
 頷いた俺の隣で、ピコがため息をつきながら呟いた。
「……間違いだらけじゃん」
「いい男には、一つや二つや三つ、秘密が必要なのさ」
「は?」
「いや、こっちの話だ」
「はあ、そうですか…」
 入国管理局の女性……いい女だ……は、営業スマイルを浮かべて言った。
「美しい自然に囲まれたドルファンへようこそ」
「自然よりも、君の方が美しい」
「え、え…?」
「……また始まったよ…この人」
 ピコの声が聞こえたような気がしたが、気にしない気にしない。
「どうやら、俺がこの国にやってきたのは、君に巡り会うためだったらしい…」
 手を取り、情熱的に見つめる……ふむ、反応は悪くない。
「あ、あ、あの…いきなり…困ります」
「運命ってやつは、いつだって突然だ…違うかい?」
 
「やれやれ…」
「まったくもう、キミって人は…」
「いい雰囲気だったのに…」
「キ、キミねえ…」
 ぷるぷると、ピコの肩が震えて……おっと、握りしめられた拳がなかなかにキュート。
「前にいた国を、何で追い出されたかちゃんと理解してる?前だけじゃないよ。その前も、その前の前も……」
 長くなりそうなピコの台詞を遮るため、俺は肩をすくめて首を振った。
「愛に対して理解の無い国は、遅かれ早かれ滅亡するものさ……実に、悲しいことだ」
「……キミの言う『愛』を、理解してくれる人はほとんどいないと思うよ」
「そんなことはない」
 俺は首を振って、記憶をたどりながら指を折り始めた。
「ステファニー・ジェシカ・アーニャに、アンジー……どうしたピコ?頭痛か?」
「……誰のせいだと…」
 ふっと、ピコの目が、あらぬ方角へと向いた。
「きゃー」
「むっ、推定15歳の美少女……それも、やや薄幸の気配をそなえた悲鳴がっ!?」
「気のせいだよ、気のせい」
「ピコ、困っている女性を放っておくなどと、男の風上にも置けないぞ?」
「女、私は女だからね。そもそも、人間じゃないし……って、もういない!?」
 
「てめぇ、なぁに見てんだよ。文句あるのかぁ、その面はよぉ」
「ああ、あるな。大ありだ」
 俺は、にこっと微笑みを浮かべながら頷いた。
「大の男が3人そろって…この国では、美しいお嬢さんに対する感謝の念とか、敬意を払う文化がないとでもいうのか?」
「あ、あぁ?」
 男3人、やや困惑の表情を浮かべて…。
「美しいお嬢さん、世の男性を代表してこの3人の非礼をお詫びしたい。おそらく彼らは、お嬢さんの美しさに舞い上がってしまっているのだと思われる」
 手を取り、微笑む……と、美少女は、ぎこちなく笑った。
 ふむ、いけないな。
 (美しい)女性が幸せな笑みを浮かべるのは、権利であると共に、義務でもある……周囲の男共は一体何をやっているんだ。
 俺は、義憤を覚えた。
 愛、すべては愛が足りないせいだ。
 俺は、そう結論づけて、彼女の手の甲にキスをした。
「ぁ…」
「失礼、お嬢さん」
 少女の頬に、さっと朱が走る。
「何やってんのさ、キミはっ!!」
 聞こえない、聞こえない。
「お嬢さん、潮風に長くあたるのは良くない…すこし、場所を変えましょう」
 さりげなく、腰に手を回す。
 女性だけでなく、人は雰囲気に流される。
 当然のことであるかのように振る舞えば、それをとがめられる人間はそう多くない。
 少女と俺は歩き出し、男3人はそれを見送る。
 うん、出だしは悪くない。
 ドルファンか、いい国じゃあないか、ここは。
 そう心の中で呟いた俺の耳元で、低いピコの声が聞こえた。
 
『爆殺っ、ピコピコハンマーっ!』
 
 さて、解説せねばなるまい。(笑)
『爆殺ピコピコハンマー』とは、主人公たる『俺』との旅の中でピコが身につけた、『48の必殺技』の内のひとつであり、ピコ自身が持つ魔力を怒りによって一時的に増幅し…(以下略)……なお、この攻撃は、俺以外の人間のダメージを与えない。
 ただ、周囲に響き渡る爆音と打撃音だけは、人間の耳に聞こえる。
 余談であるが、この攻撃によって吹っ飛ばされた俺の身体とぶつかった人間は、当然その衝撃をまともに食らう。
 
 
「……愛に障害はつきものさ」
「……なんだろう、ホント、めげないよね、キミは」
 呆れたように、ピコ。
「ホント、耐久力とか、回復力とか、人間とは思えないよ」
「愛だよ、愛。俺の中の、溢れんばかりの愛が、そうさせるのさ」
「……百歩譲って、それが愛だと認めるとしても…溢れるというよりは垂れ流してるって表現の方がしっくりくるよ…」
「まあ、それはそれとして……うん、ここが傭兵宿舎のようだ」
「へえ、ここが…」
 あ、ピコのテンションが下がった。
「どうした?」
「あ、いや…この前までキミが住んでたところと比べると…」
「ふ、雨風がしのげて、寝る場所があれば、それ以上のモノはいらないさ…」
「キミってさ……ホント、物欲とか、名誉欲とか、ある一点をのぞけば、綺麗さっぱり存在しないよね」
「そんなことはないさ」
「いや、皮肉だから…真面目に受け取らないで」
 
 南欧の小国ドルファンとの傭兵契約は3年。
 何はともあれ、俺(とピコ)のドルファンでの生活はこうして幕を開けたのだった。
 
 
続いちゃう。
 
 
 さて解説せねばなるまい。(笑)
 いえ、もとより高任自身がこういうの苦手なのは百も承知なのですが、ごくたまにこういうのが書きたくなるときがあってですね。
 まあ、精神的にすさんでるときが多いです、基本的に。
 
 生やさしく見守ってくださるとありがたいです。

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