「お兄ちゃん…手紙に書いてあったコトってホントなの?」
 微かに頷く海燕を見た瞬間、ロリィの視界は涙に滲んでいく。
 夕日に照らされたドルファン港の波止場。
 ロリィの髪を飾る大きなリボンが、3月の風に大きく揺れた。
 これから夏に向けて乾燥していくこの国のように、ロリィの心もまた渇いていく。
 大人になりたい……でも、今の自分はどうしようもなく子供で……
 そう思った瞬間、ロリィは海燕の服をぎゅっと掴んでいた。涙がこぼれるのも構わずに、ただふるふると首を振りながら哀願する。
「行っちゃやだよぉ…ロリィを1人にしないでよう…」
 海燕の大きな手が髪の毛に触れてきたのを感じて、ロリィはぴくっと反応した。
「……お兄ちゃん?」
 おずおずと見上げた先には、優しい……優しすぎる表情をした海燕がいた。その表情のまま、ロリィの頭を優しく撫で回す。
 それは、最近になってレズリーがしばしばロリィに見せた表情に似ていた。……多分、まだ自分が知らない心の深い部分から出てくる表情なのだろう。
 ロリィは、その優しすぎる表情をなんだか悲しいと思った。
「……でも、行っちゃうんだね。」
 海燕の服をぎゅっと握りしめ、ロリィは地面へと視線を落とした。
 この3年間で少し細くなった顎の先から、涙が地面にシミを作っていくのを見つめる。
「お母さんが教えてくれたの……法律で決まったって。」
 鼻の奥がツンとするような感覚を覚え、一旦言葉をきって息を吸い込む。
「だから……ロリィがワガママを言っても、誰も聞いてくれないって。」
 誰かに話すのではなく、ただ自分自身に言い聞かせるための言葉。
「お父さんも、お母さんも…レズリーお姉ちゃんも……誰もお兄ちゃんがこの国を出ていくのを止められないからって……」
 そうしてロリィはゆっくりと顔を上げ、黄金色に輝く海へと視線を向けた。
 その表情に何かを感じたのか、頭を撫でていた海燕の手がゆっくりと名残惜しそうに離れていく。
「あのねお兄ちゃん…ロリィ、大人になるから。早く大人になって、1人で何でも出来るようになるから……」
 少女から大人へと移り変わろうとしている瞳に涙をにじませ、ロリィは海燕の顔をじっと見つめた。
 その姿を絶対に忘れないように……再会することがあったら、真っ先にその胸に飛び込んでいけるように……
「……その時は、ロリィのことをちゃんと見てね。」
 本当は、『迎えに来て…』と言いたかった。
 でも、その言葉をぐっとのみ込んで別の言葉を口にした。
 ガランガラン……ガランガラン……
 船の出航間近を意味する鐘の音が、風に乗って響いていく。
 海燕が船の方を振り向いた瞬間、ロリィは海燕の荷物の上に乗ってその頬に唇を近づけた。
「……っ?」
「約束だよ、お兄ちゃん…」
 クリクリッと動く大きな瞳に至近距離から見つめられ、海燕は軽く狼狽えたようだった。
 それからしばらくして、海燕を乗せた船は港を離れた。
 港からゆっくりと遠ざかっていく船を見つめるロリィの隣に、いつの間にかレズリーがやってきていた。
「行っちまったか……ロリィの王子様は。」
 同じように船を見送るレズリーの表情は、やはり優しすぎた。
「お姉ちゃん……」
「…ん?」
「ロリィは…1人で大丈夫だよ。」
 一瞬だけレズリーは驚いたような表情を見せ、そして納得したように目を伏せた。
「あたしはさ、絵の勉強をしようと思ってる。」
「……うん、何となくわかってた。」
「海燕から、いろんな国の、いろんな風景を聞かせて貰って気が付いたんだ。あたしは……まだまだガラス越しの風景しか見ていないって。」
 レズリーの瞳がキラキラと輝いているのを見て、ロリィは今まで見たレズリーの中で一番綺麗だと感じた。
 ……微かな嫉妬とともに。
「ロリィはね……ロリィは、大人になるの…」
 いきなり、レズリーの手がくしゃくしゃっとロリィの髪の毛をかき回した。
「お、お姉ちゃんっ?」
「大人ってのは、なろうと思ってなるもんじゃないと思うよ、あたしは。」
「もう、意地悪っ!」
 逃げるレズリーの背中を追いかけながら、ロリィは思っていた。
 こうしてお姉ちゃんと一緒にいるのも、もう最後だと……。
 
 
                     完
 
 
 おいおい、いきなりエンディングかよ!
 などというツッコミが聞こえてきそうですが……、正直エンディング以外に思い入れ無し!(輸血イベントさえも)……などと言ってはいけないことなんでしょうか?(笑)
 なんせ高任お気に入りのレズリーとセットで現れて、爆弾処理してたら恋愛度がレズリーより高くなって、レズリーのエンディングが見られなかった……などと悔し涙を流して幾星霜。(嘘)
 高任の独断と偏見で言うと、ときメモの『美樹原+優美+鏡』のそれぞれ悪いところを足して3で割った様なキャラです。(笑)しかも、上の3人はそれを逆手に取ったイベントがあったりしたけど、このキャラはゴーイングマイウェイ!
 まあ、そういう部分が好きな人にはたまらないキャラなんでしょうけど。
 でも、エンディングでひとしきり泣きじゃくった後の何かを悟ったように呟く『でも、行っちゃうんだよね…』の台詞が大好きです。まさに、少女から大人へと脱皮しようとする瞬間の様な気がしまして。それだよ!何故それを途中のイベントで出さない!
 と言うわけで、レズリーに絡めて登場させますのでロリィファンの方はご容赦を。

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