「率直に申し上げますと、あなたでは失われるあの娘の未来に責任がとれないと思います。」
 あの娘の未来……自分でそう口にしておきながら、下劣で、嘘寒い言葉だと思う。ただ、それだけに自分の目の前に立つ、純情で世間知らずな少年には威力を持つことも承知していた。
 人の心は弱く……言い訳さえ与えられればそれにもたれていく。
 それが、自分の愛する少女のためなら、なおさらのこと……。
「……ただ、手を引けとは言いません。」
 弥生は、少年の手を取って自分の胸へと導いた。
「少なくとも、気は紛れると思いますよ……」
 何も映していない少年の瞳は、何を見ているのか。
「あなたの寂しさが何かで埋まるまで、おつき合いしますから…」
 
 穏やかな寝息をたてている少年を起こさぬように、弥生はそっと身体を起こした。少年の手は温かかったが、その手は決して弥生を温めてはくれない。
「…う、…ん…。」
 穏やかな表情の裏では、どんな夢を見ているのだろうか。少年の目尻から、涙がこぼれて落ちた。
 自分には何かが欠けていると感じるのは、決まってこんな時だ。
 それを人生のどこかでなくしてきたのか、それとも最初から無かったことに気づかされたのかはわからない。
 今はそれを知っているだけだった。
『寂しいことなんてありませんよ……』
 そう囁いた瞬間、少年が涙をこぼしたことを思い出す。
 それはそうだ。
 少年も、弥生もそんな言葉を信じてはいなかったのだから。
 二人ともが信じていない言葉に真実などあろうはずがない。そこにあるのは、例えようもなく空虚な空々しさだけ。
 その空虚さに共鳴して少年は泣いた。
 そして……弥生は泣けなかった。
 弥生は、肌を刺すような寒気に我を取り戻し、手早く身支度を整えた。彼女にはまだまだ仕事がある。1つの仕事にずっと関わっている場合ではない。
 弥生はバッグからメモ用紙を取りだし、几帳面な細かい文字で少年にメッセージを残してから部屋を出ていった。
 足早にその場を立ち去りかけて、ふと後ろを振り向いた。
 白い息が街灯に照らされながら拡散していく。
 弥生は軽く首を振って、再び歩き始める。
 何故自分は、あの少年が窓から見ている様な気がしたのだろうと思いながら。
 
 
                    完
 
 
 ホワイトアルバム……友達の家でちょろっとプレイしただけです。(汗)
 取りあえず、小一時間もプレイしてみると『ゲームとしては終わってることはすぐ分かりました。』まあ、高任としては弥生さんのシナリオだけがちょっとだけ印象に残ったと言うところです。……にしても、あのエンディングはどうかなあ?(笑)

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