「いらっしゃいませ〜ドリームクラブへようこそ〜♪」
 左右にずらりと並んだお出迎えガールズをじろりと一瞥し、自称雇われ店長はすっと腕を持ち上げ、1人を指さした。
「そこの貴女」
 指をさされたお出迎えガールは、さっきまで浮かべていた笑顔を凍り付かせる。
 かつ、かつ、かつ…と、音を立てて近づき、店長はきゅっとお出迎えガールの顎をつかんで持ち上げ……至近距離からにらみつけた。
「ひぃっ!?」
 顎をきつく指で締め付けられる不自由な体勢のまま、彼女は身体をがたがたと震わせ始める。
「この仕事、舐めてんの、アンタ?」
「そ、そそそそんなことはっ!」
 言葉だけでなく、首を振って否定の意を表現したかったようだが、一体どれほどの力が込められているのか、店長の細い指が彼女の動きを封じ込めているのだ。
「じゃあ、私を舐めてんだ?」
「て、ててて、店長。百も承知だとは思いますが、その娘、まだここにきたばかり…」
 などと、勇気を振り絞って助け船を出したお出迎えガールの1人にちょっと目をくれ。
「ええ、そうね……でもそれが何?」
「……」
「入ったばかりだから、今日は体調が悪くて……そんなのは、こっちの都合。そんなこっちの都合を、毎度毎度、お客様に押しつけるつもりなの?」
 こつ、こつ……と、今度はそちらに向かって歩み寄り……もちろん、最初のお出迎えガールの顎をつかんだままだから、よたよたと引っ張られてついていかされる羽目になる。
「この娘、先週はちゃんと出来てたの……それが、今日は出来てない」
「……」
 店長は空いている手で、助け船を出した女の首を優しくつかむ。
 彼女は『この店にやってきたばかりではなかったから』、店長そのそれに抗ったりはしなかった。
「…ってことは、この仕事を舐めてるか、私を舐めてるか……そういうことよね?」
 にっこりと微笑みながら、くくっと、軽く首を絞められる恐怖と来たらもう。(笑)
「……す、すみません…考えが足りませんでした」
「仲間をかばうのは嫌いじゃないけど…ケースバイケースよ」
「は、はい…」
「そう、わかってくれたのね…」
 きゅっと、優しく首を一締めしてから、店長は女を解放し。
「ホストガールばかりがもてはやされるけど、受付とお出迎えは、お客様がここで最初に目にする……いわば店の顔」
 と、顎をつまんだままの女を引き寄せて。
「こんな店の顔いらないって…ねえ、そう、思わない?」
「はぁ…ぁ…は、…はいぃぃ…」
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、がくがくと頷こうとしているようだが……顎をつまむ店長の指がそれを妨げている。
 もう、涙と鼻水と涎で、化粧がドロドロだった…。
 
 さて、そんな恐ろしい光景を目にしながら、ホストガールがひそひそと。
「……今日の店長さん、怖いわねえ」
「あー、多分…例のお客さんが、今日は来る予定らしいから」
「例の…って…」
「店長、昼過ぎから早出して、自分で店内の清掃するぐらい気合い入ってるし」
 店内の清掃をしていた娘の1人がどういう目に遭わされたかについては華麗にスルー。
「指名されたいような、されたくないような…」
「別に、店長のお気に入りであろうが無かろうが関係ありませんわ」
「誰が相手だろうと、誠心誠意なのです」
「ってか、玲香さん、話したんだよね?」
「まあ、優しそうな人やったけど…」
「セッちゃん、優しい人なら好きだよ〜」
「優しいだけじゃなぁ…」
 ひそひそ、ひそひそ。
「はいはーい、我がドリームクラブが誇る、ホストガールの皆さん」
 ぱんぱん、と手を叩きながら、晴れやかな顔の店長が、ホストガールの輪に近寄って。
「ひーふーみー……うん、全員そろってますね」
 などと微笑む店長の背後……腰が抜けた状態で、涙と鼻水を流しているお出迎えガールの1人に、ホストガールの半分ほどの視線は釘付けだ。
「今日は、新規会員が来店される予定です」
「はい(*12)」
 12人がそろって、良い返事。
 あれ?12人?
 などと、ツッコム存在はその場にはいなかった。(笑)
「誰が相手でも、いついかなる時も誠心誠意……ですが、最初が肝心という言葉も私は結構好きです」
「……はい(*9)」
「終わりよければすべて良しという言葉も素敵ですね」
「……はあ(*6)」
「さて、皆さんが気になってるらしい、指名の件ですが…」
「……地獄耳(*3)」
 今ここにいるホストガール12人中、少なくとも命知らずが3人程いるようだった。
「他の会員との兼ね合いもありますが、一応、みおさんを希望されてるので…みおさん、そのつもりでお願いしますね」
「うち…ですか?」
 微妙な視線がみおに集まる。
 それを気にした風でもなく。
「はあ、よろしゅおす」
「……」
「……」
「……」
「……店長はん、何か、他にありますの?」
「……いえ、よろしく」
 ちなみに、みおは玲香と同じく、さほど店長を苦にしていないというか……怖がってはいない。もちろん、少数派だ。(笑)
 店長はみお以外のホストガールを見回し。
「言うまでもないことだけど、みおさんを指名する会員が先に来店されたときは、他の誰かを指名してもらうことになるから、そのつもりでよろしく」
「はい(*11)」
 そして、店長がその場を去ってから…。
「おめでとうございます。みおさん」
「そ、そうかしら…?ただ、やっかいな客を担当することになっただけのような…」
 などと、仲間がそれぞれ口に出すのだが、みおはどこ吹く風だ。
「ねー、みおちゃん」
 くいくいと、心配そうに手を引っ張られ……ようやくみおがため息をついた。
「実際に会いもしないウチから、あれこれ言うてもはじまりまへんやろ?」
「まっ、そりゃそうだよな…」
 
「……と、こっちだったな」
 いわゆるお水系の店舗は、もちろん駅近くに存在はしても、メインストリートから外れた裏路地に展開されることが多い。
 昼は、人の目に触れないように……とまで言うと言い過ぎかも知れないが、人は無意識に、あるいは意識的に、その店舗の雰囲気にふさわしい場所に落ち着いていく。
「……落ち着いていくはずなんだけどなっ」
 思わず、俺の語尾が荒くなる。
 駅から程良く離れた……いってみれば住宅街のど真ん中。
 俺の視界に、きらびやかなネオンに包まれた建物が出現したからだ。
 日が昇ってしまえばともかく、日が沈んだ後……特に、住宅街のど真ん中でライトアップされたそれは、悪目立ちしすぎとしか俺には思えない。
「つーか、風営法…大丈夫なのか、この立地」
 俺は呟き……はっと気が付いた。
 あのやたら惚れっぽい雇われ店長が言ってたように、会員制の秘密クラブなのだから、そもそも風営法に従った届け出が為されていない可能性はある。
「うん、そうだ…そういうことだよな」
 俺は頷き、あらためてその建物を……見た。
 多少、洋館っぽい作りを意識してるのか……入り口前に設置された街灯なんかは確かにそれっぽいのだが、ネオンに彩られたでかい看板やらなんやら…。
「秘密じゃねえ、絶対、秘密になってねえ…」
 俺はぶんぶんと首を振り……いや、あるいは、それこそが人の盲点というか、カムフラージュなのだろうかと思い直した。
 住宅街のど真ん中。
 きらびやかなたたずまい……は、全く忍ぶ気配なし。
 ここまで堂々と存在していたなら、反対に『ああ、あの建物変わってますわねえ』などとスルーされる可能性があるような気もする。
 実際、俺は何度もこの辺りを訪れたことがあるはずなのだが、こんな建物の存在には全く気付いていなかった。
 人間の意識は、基本的に自分が見たい物しか見ないし……俺もそうだ。
 今の世の中、他人のことに構ってられる人間はそんなに多くない。
 俺は、ちょっと笑って………建物に向かって、1歩2歩。
「きゃー、良くいらっしゃまいましたぁ〜♪」
 抱きっ。
「お、おお?」
 隙をつかれた、というか俺はどぎまぎしながら、抱きついてきた女を見た。
 フォーマルなベスト姿。
 あ、ショートじゃなくてちょっとアップにしてるのか、この髪型。
「って、あんた…誰かと思えば店長さんじゃねえか…」
「やーん、もう……会員になること承知して、次の土曜にでもやってくるかと思ったら、2週間も待たされちゃったぁ〜」
「あ、いや…悪い……つーか、仕事があったもんで」
 何故か言い訳してしまう俺。
「あ、違うの。責めてないの。ちゃんと今日来るってメールくれたし……会員制のクラブだから、そういう気遣いはとても助かるというか……私ったら、お昼過ぎから、もう、張り切っちゃってぇ」
 店の娘を、2人ほどヤキ入れちゃったの〜♪
「……ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんか、…幻聴か?」
 俺はちょっと頭を振って。
「しかし……店長さん自らお出迎えとは」
「あ、一応他の娘にもやらせる事はあるんだけどね……受付は、店長である私の仕事でもあるの」
「そ、そうなのか…」
 店長が俺をじっと見つめ。
「んーっと、お客様であるあなたに言う事じゃないかも知れないけど、人って色々と事情を抱えているじゃない」
「そりゃ…まあ」
「たとえば、いいことがあって来店された時と、悲しいことや腹の立つことがあって来店された時じゃあ、同じお客様でも対応の仕方を考えなきゃならないわけ」
「……面倒そうだ」
「つまり、受付はその日訪れるお客様を初めてみるの。見るだけじゃなく、判断するわけだけど……それを、昨日今日から仕事を始めた娘にはさせるのは、ちょっと冒険かな」
「…なるほど」
 俺は頷き、感心した。
 そりゃそうだ、曲がりなりにも店長をまかされているんだもんな。
 そして、その気になれば人に任せることもできるはずの仕事もきちんとする。
 俺は、なんだか優しい気持ちになって。
「あんたに迷惑をかけるような客にはならないつもりだよ」
「……」
 あ、また何かスイッチ押したか。
「あなたの来世を私にキープさせて…」
 こ、この人…ホントに、人を見る目あるんだろうか…少し不安だ。
 
「いらっしゃいませ〜ドリームクラブへようこそ〜♪」
 店長に導かれて建物の中……というか、入り口からフロアに足を踏み入れた瞬間、俺は、少し目のやりどころに困る衣装に身を包んだ女性達に左右から挨拶された。
 みんな笑顔だが、俺と目が合うと、その笑顔がさらに花開く。
 たったそれだけのやりとりで、従業員の教育とかしっかりしてるのが良くわかるし……それはおそらくこの店長の手腕でもあるのだろう。
 あ、でも1人だけ……ちょっと笑顔が硬い。
 つーか、視線が俺じゃなく……店長向いてるや。
 まだ、新人さんなのかな。
 俺はふっと、先日店長に言われた事を思い出した。
『あなたが私に使ってくれた気を、他の子にも向けてあげて…』
 それはつまり……こういうことか。
 俺は、微笑み……そのつもりだが……客である俺を出迎えてくれた彼女たちに、声をかけた。
「ありがとう、色々とお世話になるだろうし、今日はよろしく」
 一応、全員に……でも、店長に視線を向けていた彼女は俺を見つめ……安堵したように笑ってくれた。
 彼女達にもう一度頭を下げられて、俺はフロアの奥に…。
「……あの方の思いやりに感謝なさい」
「え?」
 場違いと思えるドスの利いた低い声に思わず振り返る……が、店長がにこにこと微笑んで俺を見つめているだけだ。
「もう、お客様ったら、いきなりすごいピュア紳士」
「え、あ、いや…なんとなく…」
 俺は、照れて頭をかいた。
「瞬間戦闘力、50万越えましたよぉ、今の」
「せ、戦闘力?な、何…それ…?」
 首を傾げる俺。
 そんな俺を、にこにこと笑って見つめている店長。
 その店長の背後で……なんだろう、さっき俺を出迎えてくれた彼女たちが、頬を上気させて何度も何度も俺に向かって頭を下げている。
 
 そして俺は、フロア中央に位置する噴水の前で……彼女と、みおさんと対面した。
「はじめまして。みおっていいます」
「あ、こちらこそ。今日はよろしくおねがいします」
 俺は慌てて頭を下げた。
 写真で見て美人なのはわかっていたけど、実物はまたひと味違うというか。
「……」
「な、なんでしょう…?」
「……けったいなお人やなあ」
「け、けったい…??」
 なんだそれ…っていうか、イントネーションが独特だ。
 関西ッぽいんだけど、なんか単純に関西ってのも違うような…。
「ほな、こちらへ」
「え?」
「うちが、ボックス席まで案内させてもらいます」
「あ、はい…よろしくお願いします」
 また頭を下げる。
「……くす」
「え?」
 俺は頭を上げて、みおさんを見た。
「ホンマ、けった……変なお人やなあ…」
 あ、なるほど……『けったいな』イコール『変な』って意味なのか。
「……」
 いや、言い直した意味ないんじゃね?
 フォローにもなってない気が激しくするんだけど……するんだけど。
 俺はあらためてみおさんを見つめ。
 悪意は、全く感じないんだよなあ……まあ、俺は俺で、自分が変わり者って自覚も多少あるし……ここは、肯定しておくか。
「そ、そうかな…?」
「これから進路指導を受ける学生さんみたいに、緊張して…」
「あ、いや…緊張というか…慣れてないんだ」
「よろし」
「へ?」
「うちがよろし、ゆうたら、よろしおす」
 よろしおす……って、何だ?
 何となく雰囲気的に、肯定的な表現ぽいのだが。
「男の人が、細々と自分の過去を語るもんやあらしまへん」
 あれ、これは否定的……だけど、表情とか雰囲気が、肯定的なんだよなあ。
 
「飲み物は何にしまひょ?」
「みおさんは?」
 俺がそういうと、みおさんはちょっと目を伏せ…でも、口元はちょっと笑った感じに。
「……こういう席では、結果ではなく過程を楽しむもんや思います」
「へ?」
 結果じゃなく…過程…って?
 俺の戸惑いが伝わったのか、みおさんは仕方ない、という感じに小さくため息をついて。
「いきなり、うちの好みを聞いたりするのは、野暮、いいます」
「……と、言うと?」
「あんたはんは、うちのことを何も知らしまへん。うちかて、そうです」
 俺は頷いた。
「嫌なモノは、嫌て言いますから、あんたはんが好きに頼んでみたらよろしいのや」
「……」
「人生、直線ばかりやあらへんやろ?何かを楽しむ言うのは、回り道を楽しむ心の余裕を持つ言うこととちゃいますか?」
「な、なるほど…」
 つまりは、俺がみおさんのドリンクを注文して……その反応を観察したり、会話の中から、彼女の好きな飲み物を絞り込んでいく、と。
 確かに、それはゲームっぽい。
 ああ、それはつまり……会話でも、直接的な質問はするなって事か。
 そりゃそうだ。
 店長が『エッ〇なサービスはありません』って力説してたしな。
 酒と会話を楽しむと言っても、彼女の言う『野暮』な質問を連発してたら、すぐにネタが尽きちまう。
 彼女のそのものが目的ってわけじゃないもんな。
 ああ、なるほどなあ……。
 俺は、あらためてみおさんを見つめた。
 確かに、ここ数年……というか、あの時からそういったモノを楽しむ心の余裕なんてモノを持ち合わせてはいなかった。
 回り道、か…。
 さて、みおさんはどんな飲み物が好きか…。
 若くて美人。
 なんか、いいとこのお嬢様って感じもするし……『ビール』ってのはイメージじゃないような気がする。
「……じゃあ、日本酒を」
 フロアを行き来している黒服の女の子にオーダーを伝えた。
 まあ、ワインだと何か直接的過ぎるかなあという気がしたのだ。
「日本酒がお好きなんどすか?」
 そっちが聞くのはいいのかよ?
 などと思ったが、向こうから見ればやっぱ俺は客だしな……こっちほど自由に振る舞えないと言うか、こっちの好みを早めに把握する必要があるのか。
「あ、いや……酒はほとんど飲んだことがない」
 それ以前に、味とか考えたこともないのだが。
 食事は、単にカロリー摂取であり、栄養補給の手段でしかなかった。
 みおさんはじっと、俺を見つめ。
「お酒、飲みなれてないのに…平気ですのん?」
「……」
「……」
「あ、そうか…俺も飲むんだ」
「うちだけ飲まして、何をなさるおつもりです?」
 みおさんは目だけで睨んで……口元は笑っていた。
「お待たせしました」
 こと。こと。
「じゃあ、いただきます」
 俺に断ってから、みおさんが一口。
 まあ、仕方ないから俺も一口。
「……あ、なんか、うまい気がする」
「うちが言うのもなんですけど、値段に見合った酒が用意されてます」
「へえ」
 俺は二重の意味で感心しつつ、もう一口。
「酒なんて、まったく興味なかったからなあ…」
 ……いけね、突っ込まれるか。
 俺はちらりとみおさんを見たが、彼女はまるでそれを聞かなかったかのように、すましている。
 なるほどね……そこらの、ただ若いだけのキャバ嬢とはひと味違うって事だ。
「どうしました?」
「あ、いや…みおさんを観察して、日本酒が好きなのかどうなのか判断しようと思ったんだけど、なかなか難しいや」
「……素直なお人やなあ」
 そう呟くと、みおさんはちょっとそっぽを向いた。
 彼女の素顔につながる反応らしい反応といえば、今のが最初だったように思う。
 それほど会話を交わしたわけでも無いのに、1時間はあっという間に過ぎた。
 
 みおさんのお見送りの後、建物の外で店長のお見送り。
「あ、あんた…仕事はいいのか?」
「私の仕事は私が決めます……だって私は店長だから」
 と、何故かポーズをとって店長が言う。
「あ、んー、そりゃそうだろうけど…」
「初めてのお客様の反応、とても大事、すっごく大事」
 なんか、口実って感じもするが。
「楽しかったよ」
 店長さんの表情が、明るく晴れた。
「……良かった」
「なんだよ…自信満々みたいな事言ってたのに」
「心にいつも太陽を」
 それは、何か違う気もするが。
「みおさんも、あなたのことは気に入ったみたい」
「そうかな……なんか、すっごく隙のない人って感じだけど」
「ん、んー」
 店長は、店長らしからぬ歯切れの悪い口調で。
「……こういう仕事してる人の多くは、自分の心を固く閉ざしがちだから」
「……かもな」
 俺は肯定も否定もせず、ただ、そう答えた。
 やがて、店長は俺から一歩距離をとり。
「またのご来店をお待ちしております」
「ああ、そのつもりだよ…」
 
 そして一週間後。
「……残念なお知らせがありますぅ」
「え、な、何?やっぱ、俺が会員とかまずかった?」
「あ、いえ。なんせ、あなたはこの私が見込んだピュア紳士」
 相変わらず、この店長さんの基準はよくわからないが……残念なお知らせって結局なんだろう。
「今日、みおさん、お休みしてるんです」
「……ああ、なるほど」
 俺はちょっと遅れて頷いた。
 そりゃそうだ、みおさんをはじめ、店で働く彼女たちはロボットじゃないんだから、当然休みもあるよな、そりゃ。
「と、いうか……月初めに、会員様にはホストガールの欠勤日を伝えるメールを送っているのだけれど……その、ねえ?」
 店長さんが、『ほら、わかるでしょ』みたいな表情で、俺を見つめてくる。
「ああ、店長権限とやらで、俺を無理やり会員にぶち込んだから、手配が間に合わなかったというか、忘れてた、と…」
「あ、あの…その…ね」
 店長は顔を赤らめ、もじもじし始めた。
「理由はどうあれ…これは、店長である私の落ち度だから…その、私のことを好きにしてもいいのよ?」
「エッ〇なサービスは無かったんじゃないのか?」
「違うもん、これはサービスじゃなくて誠意だもん」
「もっと、自分を大切にしてくれ」
 あ、わかってたのにやっちまった…。
「私は…私の事が大好き…だから、問題なしよ…カモン」
 店長が自分の身体を抱くようにして、ちょいちょいと指の動きで俺を誘ってくる。
 もう、この人はどこまで本気でどこまで冗談なんだか。
「……いや、そうじゃなくて」
 俺は首を振り。
「ロボットじゃなくて人間のやることだろ?休みもするし、ミスもする……ま、まあ…俺もあんまり人間できてないから怒ったりすることもあるけどな。とりあえず、今俺は全然怒ってない」
「……」
「アンタだってそうだろ?店長って立場なんだから、ここで働いている女の子のミスに注意はしても、理不尽に怒ったりは…そう、心がけたりしてるよな」
「あ、うん…そう。私、優しくて我慢強い店長さんだから」
 ふっと、店長の背後に目をやると……黒服やら、お出迎えガールの娘さんやらが、何ともいえない表情で俺のことを見つめているのだが、どういう意味だろう?
 くるり。
 店長が背後を振り向いた瞬間、彼女たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
 そして、店長が再び俺を向き……深々と頭を下げた。
 頭を上げたときは、もう、いつもの店長だった。
「みおさんがお休みだけではなく、今日の当クラブは大盛況でして…」
「いいことじゃん」
「あ、いえ…手の空いているホストガールが1人だけしか」
「あ、うん…じゃあ、その人で。あまり忙しいようなら、このまま帰ってもいいし」
「……帰っちゃ、やだ」
 店長が泣きそうな表情で俺の服の裾をつかむ。
「あ、はい…」
 
「ご指名感謝いたしますです。ワタシの名前はアイリなのです」
「……うん、今日はよろしく」
 と、俺はアイリと挨拶を交わしてから席を立ってちょっとトイレへ。
「ロボットじゃねえかっ、思いっきりロボットじゃねえかよ、あの娘っ!」
 
 訂正、彼女…アイリはアンドロイドだった。
 正直俺にはロボットとアンドロイドの違いがよくわからないが……なんというか、彼女は……ロボットなんかじゃなく、アイリっていう女の子だと、俺は思った。
 
「いらっしゃいませ〜ドリームクラブへようこそ〜♪」
「ああ、こんばんわ。今日もよろしく」
 お出迎えガールズの挨拶にも結構なれてきた……というか、他の会員への挨拶を見たこと無いからわからないけど、お出迎えガールズの俺への挨拶って、すっごく心がこもってるように思えるのは気のせいだろうか。
 なんというか…『ようこそいらっしゃいました』って、感謝の気持ちみたいな何かを、ひしひしと感じるというか。
 店長いるときとか、特に……って、今日は店長いないのか。
 ちょっと寂しいような気もする。
 まあ、それはそれとして……たぶん、みおさんとも慣れてきた。
 と、いっても……今日で3回目。
 あ、客として来るのは4回目か……この店、会員制の秘密クラブのせいなのか、週に1回土曜日だけの営業なんだよなあ。
 料金体系もそうだが、週に一度の営業とか……建物やら人件費やら、とても経営が成り立っているとは思えない。
 会員制の秘密クラブ……案外、どこかの金持ちの道楽だったりするのだろうか。
 まあ……あんまり考えない方が良さそうだ。
 とりあえず俺は、土曜の深夜に仕事を入れないようにしたから、毎週この店に通うことができるだろうけど。
 なんだろう……意外に、金がかからないもんだな。
 約3年、血反吐を吐きながら金を稼いだ……それをやめた2年前から、あの通帳の金は俺の心と連動するように動きを止めた。
 この店に通うことで、初めてその金に手をつけた。
 何故、と問いかけられたなら、なんとなく、としか答えられない。
 あの、大晦日の夜……なんとなく空を見上げて、トラブルを予感しながらもなんとなく裏路地に足を踏み入れていた。
 よどんでいた自分が、何かに流された。
 なんとなく、今は、何となくだ……ただ流れるままに。
 こんな俺が、どこかに流れ着くこともあるのだろうか。
 俺は、そんなことを考えながらぼんやりと噴水を見つめていた。
「……?」
 ふと気配を覚えて、そちらを振り向く。
「うわ、みおさん」
 声、かけてくれればいいのに。
 言葉にはせずとも、顔に出てしまっていたのか……みおさんが言った。
「何か、考え事しはってたみたいで…よう、声がかけられませんでした」
「んー、大したことじゃないです…」
 俺は頭をかいたが……こういうときのみおさんの目はちょっと苦手だ。
「ちょっとね…ちょっと昔のことを考えてただけ」
「あら、だれかいい人のことでも考えてたんと違いますの?」
 そう言って、みおさんが笑った。
 みおさんが、気をつかって話題を逸らしてくれたのが俺にもわかる。
 さすがにそのぐらいは……と言いたいのだが、俺は未だに、みおさんの好きなドリンクすらわからない状態だった。
 まあ、結果じゃなく過程……回り道を楽しむ…だっけ?
 別にこれと言った目的があるわけでもないしな、のんびりとそういうことも……まあ、みおさんの事ってことになるのかな……わかっていけたらいいか。
 俺は、ボックス席に座って注文したウイスキーを一口飲み……あ、あの席にいるの、アイリだ。
「どないしなはりました?」
 うおう、反応が早いよみおさん。
 あ、いや……でも、それだけ俺に対して注意を払ってくれてるって事か。
 俺はちょっと苦笑を浮かべ、アイリのいる席を、目立たぬように指さした。
「この前、みおさんがお休みだったときに、アイリについてもらったんだ。それで、ちょっと気になってさ」
「あら…」
 みおさんが微笑んで……あれ、その手は何?
「…っ!?」
 腕をつねられた。
「いけずな事言わんといて」
 え……あ、誤解されたかも。
「いや、そうじゃなくて…ロボットじゃなくてアンドロイド?だっけ。なんか、科学はここまで来たのかっていうか…すごいなあと思ったと同時に、人間と、人間じゃない線引きって、どこでされるんだろ…とか、柄にもなく色々考えさせられたんだ」
「……」
 みおさんは俺をしばらく見つめ。
「要するに、こういうことやね?アイリさんは素直で可愛い、と」
「っ、だ、だから、何で腕をつねるの?みおさん」
「さあ、何でですやろ?」
「いや、だから…別に指名替えとか考えてる訳じゃなくて…」
「別にウチは構いません…その代わり、二度と話しかけんといておくれやす」
「だから、そうじゃなくて…」
「…くす」
 唐突に、みおさんが笑う。
「え?」
「こんな手に引っかかるなんて、初心なお人やなあ」
「……えーと」
「うちも、アイリさんのことは、気に入ってます……というか、発明家として、刺激を受けるて言うべきかも知れまへん」
「……」
 今、何か……未知の言葉が通り過ぎていったような?
「…発明…家?」
 えっと、エジソンとか、テスラとか…もしくはドクター中〇?
「……みな、似たような表情しはりますけど」
 みおさんは、ちょっと眉を寄せ。
「うちが発明家いうの、そんなヘンやろか?」
「いや、変とかそういう話じゃなくて…それはどうなのかというか、発明家ってものが、そもそもイメージできないと言うか……こう、異国の言葉を耳にしたという感じかな」
「世のため人のため、画期的な開発を……だけやなくて、色んな人の心を楽しくさせるような…んー、どう言ったらええのやろ」
 みおはちょっと言葉を選ぶように目線を上げて。
「極端な話、がらくたと思われてもええねん……そのがらくたに接した人が笑顔になり、楽しい気持ちに…そうですなあ、ウチは、色んな人に楽しんでもらいたい思うて、発明をしてるってことやろか」
 色んな人に楽しんでもらう……か。
 俺は、なんとなくフロアを見渡した。
 この仕事も、言ってみればそうだよな……客というか、会員に楽しんでもらうために、店長やらみおさんやらは、色々努力しているわけで。
「うん…いいなあ、そういうの」
 俺とは、違う。違いすぎる。
 だから、素直にそう言えた。
 ああ、そうか…だから俺は、あの時店長に対しても、素直になれたんだろう。
 ……気がつくと、みおさんに見つめられていた。
「…え、なに?」
「ウチは、この店で働くことで研究資金と…アイデアみたいなもんを得とります」
「あ、そっか…ここの仕事は副業って事になるんだ」
「……今、うちには足りないモノがあります」
 えーと、その視線は……そういうこと、かな。
「俺に手伝えることがあるなら、手伝うけど。まあ、ろくに勉強もしてないし、手伝えることと言ったら、ごく限られた範囲だと思うけど」
「……おおきに」
 ぽつりと、みおさんは呟いてくれた。
 いつもはきはきと言葉を口にするみおさんにとって……それが、『仕事の言葉』では無かったからか?
 あるいは……『それ』も『仕事』のうちなのか。
 
 みおさんに後の予定がないと聞き、時間の延長を告げてから俺はちょっとトイレに立った。
「……ん?」
 おや、この店の女の子が、客の進路をふさぐなんて珍しい。
 別に怒るようなことでもないので、俺は横に身体を……何故ついてくる?
「えっと…」
 俺は顔を上げ……って、この格好、ホストガールか。
 ホストガールの衣装は、顔から下は、目のやり場に困るというか……自然と、相手の顔か足下を見つめることになってしまう。
 この娘、ボードの写真で見たよな……名前、名前は…えーと、確か…魅…。
「携帯、出して」
「……へ?」
「か、勘違いしないで…今、店長がいないから」
「……」
「か、顔…じっと見るのやめて」
「あ、ごめん…」
 目をそらす……というか、顔から下は目のやり場に困るので、身体ごとよそを向く。
「無視しないで」
 ……怒られました。
「えーと、何の用ですか?」
 彼女の、頭頂部のあたりをぼんやりと見つめながら言ってみる。
「だから、携帯出して」
 まあ、出せというならだそう。
「……これ、型式古くない?」
「……5年ちょい?」
「ご、5年?」
 彼女は俺を見つめ…感心したように呟いた。
「物持ち、いいのね」
「通話とメールだけだから…まあ、電池は何度か替えたけど」
 さすがに次は買い換えか…とは思っているのだが、正直なところ、最近の機種は余計な機能が多すぎるんだよな。
「あ、そうよ…メール出すから、お願い」
 と、彼女も携帯を出す。
「いや、みおさんに悪いから、他の娘を指名するつもりがないんだ、ごめん」
「そうじゃっ、なくっ…て」
 なんだろう…人のことはいえないが、コミュニケーション能力に難がある人っぽい。
「わ、私…みおちゃんと友達だから」
 友達なのに、指名客の奪い合い……むう、この店にも、ドロドロした争いがあるんだなあ。
「えーと、ごめんね…」
 と、彼女の脇をすり抜けてトイレに…。
 がしっ。
「み、みおちゃん…笑ってた。私、見てたの…だから、私…手伝いたい…の」
 
 ぴろん。
 ん、仕事のメールか……と、俺は携帯を開いた。
『……魅杏さんに、教えてもらいました』
 みおさん…からだ。
 魅杏……ああ、あの娘が、そんな名前だったか。
「……ん?」
 つーか、続きがある。
『うちになんか知られたくなかったかも知れまへんけど、堪忍しておくれやす』
「……」
 え、ホストガールとメールのやりとりなんか普通にするの?
 お店の中だけで楽しい時間を過ごすというか、そういうお店じゃなかったのか、店長さん?
 あ、いや…俺のメールアドレスなら、店長が知ってるじゃん。
 店長に聞けばいいだけの話では?  
『か、勘違いしないで…今、店長がいないから』
 あの時の、魅杏の言葉を思い出す。
 ……えーと、店長がいないから、ああいうことができた?
 つまり、店長がいるとダメ。
 え、これ……店のルール的に、やばいことなんじゃ?
 ああ、でも、なんか返事はしないと…返事…返事って、何書けばいいんだ?
 つーか、仕事がらみじゃないメールって何年ぶりだ……じゃねえ、店長に『今週店に行きます』ってメール出したよな。うあ、そもそもあれが、何年ぶり…。
 などと、1時間ほど悩んでいたら。
 ぴろん。
『……かんにん。このことは、忘れよし』
 うあああ、みおさん、仕事早すぎ……じゃねえ、俺が寝てたりしてるって考えたりしないのか?
 つーか、このタイミングで返すと、いかにもな返事になりそう……って、『忘れよし』って、どういう意味だ?
 くっそぉ、表情とか口調とかの情報が無いだけに、メールってのは意志の疎通がものすごく面倒じゃねえかよ……。普通のコミュニケーション能力すら劣ってる俺に、高いハードルを突きつけるよなあ…。
「……あ、でも…昔はそれなりにできてたはずなんだよな…俺」
 俺は息を吐き…吸い込んで、ゆっくりとメールをうった。
 何やってんだ、俺……という気持ちも確かにあったが、俺は、心のどこかでそれを楽しんでいたように思う。
 
「いらっしゃいませ〜先週はごめんね、ちょっとはずせない用事があったの」
 店の外で抱きつかれ、腕を組むようにして建物の中に……それは、いつものこと。
 いつものことなんだけど。
 みおさんとのメールのやりとり。
 あれが、何ともいえない罪悪感めいたものを俺の心の中に発生させている。
「……」
「な、何か?」
「あ、あのね…」
 店長が俺の腕をぎゅっと抱きしめて。
「浮気は…浮気は別にいいの……最後に、私の隣に戻ってきてくれたら…それで…」
 あれ?
 いつの間にか俺、所有権を主張され始めてねえか?
 まるで、どっかの国の領土問題というか、国家戦略のような…。
 つーか、浮気がオッケーなんて、すげえ卑屈な物言いのような…いや、問題はそこじゃねえ。
「……どこまで知ってる?」
「無敵のピュア紳士がとうとう、ホストガールとメールのやりとりを始めたとこぐらいまで」
「……えっと、それはお店のルール的には?」
「それは、ピュア紳士にも程があると思うの」
「先に言ってくれよっ!」
 店長がため息をつき。
「言ったら、みおちゃんに教えてくれって言えた?」
 俺はちょっと考えて。
「いや、最初からその発想がなかった」
「でしょ……というか、メールのやりとり禁止とかいう発想が、既に規格外だもん」
 店長は二度、三度と頷いてから。
「人間を最後に傷つけるのは、悪意じゃなくて好意なの」
「……」
 悪意じゃなくて、好意が最後に人を傷つける…か。
 何となくだけど、それはわかるような気がする。
 そして俺は、店長に抱きつかれたまま店の中へ。
「いらっしゃいませ〜ドリームクラブへようこそ〜♪」
 お出迎えガールズの挨拶。
 それを聞きながら……俺は、ふと考えた。
 メールのやりとりは何の問題も無し。
 だったら……『今、店長がいないから…』ってのは、どういう意味だ?
 
 ぴろん。
『みおちゃんの誕生日は3月7日です』
 ……えっと、これは…魅杏さんからのメールだけど……本人以外からそれを聞くってどうなんだ?
 いや待て……みおさんと魅杏さんは友達だ。
 と、すると……魅杏さんは、みおさんが俺に対して『もうすぐ誕生日なんです』などと切り出せないと思っているわけか。
 ん……ああ、そうか。
 誕生日のお祝いに、高い酒を注文したり、プレゼントをしたりするわけだ。
 ああ、そりゃ自分から口にしたら、催促してると思われかねないよな……ってことは、俺の方から聞かなきゃダメなのか?
「……?」
 俺は、そのことに何か違和感を覚えてしばらく悩み……ようやく、順番が逆なことに気がついた。
 通常というか、本来は……客というか、俺が、みおさんのことを知りたいと感じて、色んな事を聞いたり推測するわけで。
 その上で、みおさんの誕生日をお祝いしてあげたい……という気持ちに従って、何かをプレゼントする……という流れに至る。
 それが今俺は、魅杏さんからみおさんの誕生日を教えられて……ああ、誕生日には何かやらなきゃいけないのか……などと考えているわけだ。
 よくわからないが……たぶんこれは、店長がいうところの、ピュア紳士の思考じゃないような気がする。
 つーか、3月7日ってそもそも土曜日なのか……?
 俺は、カレンダーを調べてみたが、7日は水曜日だった。
「ありゃ、ダメじゃん…」
 
「ようこそいらっしゃいました〜今日は楽しいコスプレデーっ。あなたも好きねえ、このこの〜」
 と、店長に脇腹を肘でつつかれた。
「……コスプレ?」
 首をひねった俺を、店長がじっと見つめて。
「……お店からのメール、読まないの良くない」
「いや、毎週店に来てるし」
 何かあったらその場で聞けばいいし、臨時休業なら、諦めて帰ればいいだけの話。
「……惰性で店に来てる?」
「ん、いや、楽しいよ」
 つーか、娯楽とは完全に無縁だったし。
 店長は俺を見つめて。
「店の娘が粗相したらすぐに教えてね」
「みんないい娘だと思うけど…ああ、そうだ」
 店長がいつもの惚れモードに入りそうだったので慌てて話を変えた。
「な、なあに?」
「いや、みおさんの誕生日が3月7日って聞いたんだけど…その日水曜日だから、どうすればいいのかなと思って」
 誕生日の前?後?
 何かをやるやらないはともかくとして、当日じゃないとどこか間の抜けたお祝いになるような気がしてならない。
 ……と言うことを、言葉を足す形で告げてみたのだが。
「……」
 店長が、じっと俺を見つめている。
 表情はない。
 と、いうか……俺には、ちょっとうかがえない。
 仕方ないから、俺は店長を見つめる事にした。
「……あなたが望み、みおさんがそれを受け入れるなら、店の外で会えばいいんじゃないかしら?」
「え、店の外で会ってもいいのか?」
「えーと…」
 店長には珍しい、どこか困ったような表情で。
「雇われ店長ではあるけども、この店は私の店」
「ああ、そりゃもちろん」
「つまり、私の目の黒いうちは、店の中で好き勝手は許さない……ということで」
「そりゃそうだろう」
 俺は頷いてみせた。
「いや、だからね…」
 店長が、はぁーっと、ため息をついて。
「つまり、店の外では、ふりーだむ?」
「疑問系なのか?」
「そこは、その…処世術ってやつ?」
「あぁ…責任者ってのも、大変だよなあ…」
 いざというときは、責任だけとらされる……それが責任者だ。
 そういや表に出てこられないらしいオーナーに、顔の形が変わるまでぶん殴られてた店長がいたっけ……あれを目撃したときは、正直びびったけどなあ…。
「……なんか、あなたって、私に対してすごく優しい気がするの」
 ああ、結局モード入っちゃった…。
「あ、あの…あなたが望むなら、私も…コスプレ…」
 口調は恥ずかしがっているのに、何故か目が期待に光っているのは何故だろう。
 
「ああ、これがコスプレデー…ね」
 なんか、着ぐるみでもかぶってくるのを想像してた。
「あ、あんまり見んといて…」
 みおさんはちょっと恥ずかしそうだった。
 その割には、せっかくだからと、カラオケで踊りまで披露してくれたんだけど。
 と、いうか……あの歌の『半分はママのシナリオ』というタイトルが気になって仕方ない。
 何が半分で何がママのシナリオなんだろう?
「う、うち…普段は白衣でいることがほとんどやから」
「へ?」
「せ、せやから…うち、普段は実験とか、研究とか…そういう…」
 ああ、そうか…発明家って言ってたもんな。
 ……なんだろう、学校の理科実験室と、子供の頃読んだ漫画の秘密基地との、2択の想像力しかはたらかない自分がちょっと悲しい。
 あれ、発明家って……もしかすると、ものすごい金がかかる仕事じゃないのか?
 俺はあらためてみおさんを見つめたのだが、彼女は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「ちょっと…恥ずかしぃ…見んといて…」
 ああ、そういう視線じゃなかったんだけど……このまま話をつなげておくか。
「……んー、高校の時の制服がちょうどそんな感じだったかも」
 と、いってもうろ覚えだが。
「高校の頃……懐かしいですか?」
「ん、懐かしいっていうか……すぐにやめちゃったからなあ」
「……」
 ああ、いかん。ついぽろっと……ツッコまれて当然なのに、みおさんは空気を読んで何も聞かないんだよなあ。
 この微妙な空気に耐えかねて、俺は酒を飲んだ。
 なんとなく、なんとなくだが……みおさんは、焼酎を好きな気がする。
 そして、みおさんは……しばらく、グラスを見ていたのだが。
「……お酒、いただきます」
 そう言うと、みおさんはいきなりグラスを空けた。
「おかわり…よろしい?」
「え…?」
 お、お酒は、お酒は楽しんで飲むものじゃなかったの、みおさん?
 目のすわったみおさんに俺は敗北を喫して、焼酎をボトルで注文することにした。
 ボトルで頼んだそれを、みおさんがまたくいっと……ひょっとして、みおさん、俺が思ってるより酒に強い?
「あ、いや…大丈夫、みおさん?」
「大丈夫や…思います?」
「あ、えっと…氷も、水もあるな。おしぼり冷やして…」
 酔っぱらいの介抱なら、それなりに経験がある。
 ぺしっ。
 みおさんの額におしぼりをあてようとしたのだが、たたき落とされた……この反応、酔ってないな。
「ウチに興味は無いかもしれまへんけど、ウチは興味あります……あんたはん、何してはるお人ですのん?」
 みおさんには珍しく、ストレートな質問だ。
「んーと…まあ、フリーター?」
「その割にはいうたら失礼かも知れまへんけど、金銭に執着おまへんなあ、ええとこのボンボンってやつですか?」
「まあ、そういう時期も……と言っても、高望みしなきゃお金の苦労はしなかったというレベルだから、えーと、『いいとこのボンボン?』未満だと思うなあ」
 と、俺は苦笑を浮かべた。
 ああ、でも金があっても……助かったとは限らないんだよなあ。
「ちゃんと答えておくれやす、さっぱりわからしまへん」
「いや、そのまんまだよみおさん……今の俺は、特に人生の目標もなく、色んなバイトで生活費を稼いで生きているだけの、ただのフリーターなんだ」
「……」
 みおさんが俺を見つめ……というか、睨んでる。
 なんだろう、俺って何かまずいことしたのかなあ。
 明るい会話や、お酒を楽しむのに、素性やら、過去やらが、必要だとは俺には思えないんだけど。
 ああ、でも……これまでで、みおさんのことを多少知ることができたから……不公平って事なのか?
 わざわざ酔った振りをしてまで……まあ、少しぐらいは仕方ないのかなあ。
「俺、親も兄妹も死んじまったから……探せば、遠い親戚ぐらいはいるのかも知れないけど、まあ、天涯孤独って身の上だと思う」
 ……嘘はついてないんだけどな。
 結構、これって便利な口実だと思う。
「……堪忍しておくれやす」
 みおさんが、『素』で頭を下げた。
 本当に謝るべきは、俺の方だけど。
 今の答えで、みおさんの質問を封じてしまったから。
「ん、気にしないでみおさん……別に隠してたわけじゃなく、あんまり愉快な話じゃないからさ」
 一応、場を取り繕う台詞を口にしてみたが……みおさんは、笑ってくれなかった。
 もしかすると、二度とこれまでのような時間をみおさんと過ごすことができないのではないか……俺は、なんとなくそんなことを考えた。
 
 ……その日、俺は久しぶりに家族の夢を見た。
 
「……桜にはまだ早い思いましたけど」
「俺は、『花見』としか言わなかったよ、みおさん」
「『花見』の『花』は、ほぼイコールで桜のはずですけどなあ…」
 そう、呟くように言って……みおさんは、梅の花を見つめた。
「……梅は、冬の花思うてました」
「梅にも色々あるから……場所にもよるけど、早いのは1月には咲くよ」
 別に俺が詳しいわけではなく、母さんの受け売りだ。
 俺達に笑いかけながら、色々と説明してくれた……まともに聞いていたという意識はなかったけど、夢に見るって事は、ちゃんと覚えてたって事だろう。
「そうどすなあ…『お遍路を、梅の花に迎えられ』…言いますし」
「……?」
 みおさんは、梅の花を見つめたままで。
「昔は、人生の最後を迎えるためにお遍路に出ることが多うおましたんや……年明けと共に、家族に見送られ、永久の別れをすませてなあ」
「……」
「……そういう旅に出るお人は、当然路銀なんか、さほど持ち合わせておまへん」
「それって…姥捨て山じゃねえの?」
 思ったことをそのまま口に出した。
「全部やおまへんけどな……そういう面は確かにあったみたいです」
「……」
 ふっと、みおさんの視線が俺に向いた。
「やっぱり…」
「え?」
「……店の噴水の前でよう声がかけられんかった時も、そういう目をしてました」
「そういう目…と言われてもなあ」
 自分で自分の顔を見られるわけじゃない。
「お年寄りがよく…そうですなあ、人の生き死にを考えてるときに……そういう目をしてます」
「……」
「死んだ家族のこと、考えてましたんやろ」
「まあ……そうかな」
 俺は、曖昧に同意しておいた。
「でも、まあ……たまたまだよ」
 そう、たまたまだ。
 たまたま両親が死んだ。
 たまたま兄さんが死んで……当たり前のように妹が死んだ。
 ただ、それだけのこと。
 でも、それがわかるみおさんは……どうなんだろう?
 俺がみおさんを見つめると……彼女は、ふっと笑みを浮かべて言った。
「うちとあんたはんは……似てるのかも知れまへん」
「んーと……みおさんも…誰か身近な人を?」
「そうやなくて……自分の心の中、他人にずかずか踏み込まれるのが、耐えられんのと違います?」
 それはある……けど、ちょっと違う。
「……踏み込ませたことがないから、わからない」
「入り口で拒絶ですか」
 そう言って、みおさんはやっぱり笑った。
「……だとしたら、店長は、やり手どすなあ」
「ああ、うん…そうかも。今思うと、すげえ流されたって感じがする」
 そう言って、俺も笑った。
 そしてみおさんは、再び梅の花を見つめ始めた。
 夢の中では、5人。
 今は、2人。
 少なくなったとは思わず………1人じゃなかったから、また梅の花を見に来ることができた、と俺はみおさんに感謝していた。
 結局俺は、みおさんに誕生日のプレゼントは渡さなかったし、用意もしなかった。
 ただ、先日のわだかまりのようなモノが少しでも解せたらと……店の外で会っただけ。
 それなのに……何故だろう、みおさんは楽しそうだった。
 
「……店からのメールは、読んで欲しいの」
「え?」
「今日、みおさんお休みです」
「なるほど」
 と、俺は頷き。
「あ、でもちょうどいいや…魅杏さんを指名していいですか?」
「えっと、あいてますけど…?」
 店長が俺を見つめる。
「いや、一度はちゃんとお礼を言っておこうかなと思って」
「あぁ…」
 と、店長は曖昧に頷いて。
「しかし……最初に来店してからずっと皆勤賞なんだけど、そういうワケアリ以外で他の女の子を指名しようとか、まったく思わない?」
「みおさん1人を相手に右往左往してるのに、他の女の子まで相手する能力はもちろん、甲斐性もないよ」
「……」
 何故か…というか、ある意味当たり前のように店長がもじもじとし始めた。
「えっと…えっとね…それって、私狙いだと解釈していいよね?」
 ……なんだろう、どうやら店長の頭の中には俺には理解できない公式が常備されているようだ。
「……店長さんには、ピュア淑女であることを期待してるんだが」
「うん、男の人っていつもそう…」
 恥ずかしげに俯いた店長が、人差し指で俺の胸のあたりをくにくにといじり始めて…少しくすぐったい。
「これは、エッ〇なサービスに分類されないか?」
「私、ピュア淑女だから大丈夫…」
「いや、俺の足を太腿で挟み込まれても困るんだが…」
 
「魅杏です……で、何で私なんかを指名したの?」
 不機嫌、というかぶっきらぼうな態度で魅杏さんが言った。
「ん、色々気を遣ってもらってるみたいだから、一度ちゃんとお礼を言っておこうと思ったんだ」
「べ、別にあなたのためじゃなくて、みおちゃんのため…だもの」
「うん」
「……『うん』って何よ?」
「いや、みおさんもそうだけど……友達とか、他人のために何かしたいとか、何かできるって、凄いなあって思うから」
「な、なによ、いきなり?」
「ははは…」
 俺は笑いながら酒を飲んだ。
 たぶんこの店は……うまく酒が飲める場所なんだろうと、わけもなく思った。
「……みおちゃんも言ってたけど、変わった人ねえ…」
 
「うち、発明してしまいました」
「……何を?」
「何かを」
「……」
 にこにこにこ。
 知ってる、その微笑みは知ってる。
 営業スマイルってやつだ。
「『手伝えることがあるなら手伝う』……確か、そう言うてくれましたなあ」
 にこにこにこ。
「あ、いや、せめて、何を発明したのかぐらいは教えて欲しいというか…」
「……被験者に、先入観を与えるのはあきまへん」
 被験者って……何か、嫌なひびきだが。
 にこにこにこ。
 みおさんが、『何か』を、つっと差し出してきた。
 まあ、みおさんを信じて……。
 
「……あ、起きた」
 俺の顔をのぞき込んでいるのは……誰だったか。
「もう、安心なのです」
 あ、この声は……誰だっけ。
「……命拾いしましたね、みおさん」
「かんにんや、かんにんしておくれやす…」
 え、あの人…片手というか、アイアンクローで自分より体が大きな女の人を持ち上げて……あ、ああ…そうか。
 俺は……懐かしい、夢の余韻を味わうように、もう一度目を閉じた。
 そして、吹っ切るように目を開け、体を起こす。
「きゃ」
 魅杏が避ける。
 上体を起こしたが……俺はすぐに手のひらで顔を覆った。
「どこか、身体に異常あるですか?」
 アイリの声に、俺は首を振った。
「……みおさん」
「は、はいっ」
「あれは……何?」
「あ、あれは……その人の、幸せな記憶を呼び覚ます薬です」
「……そっか」
 手で、顔を隠したまま……俺はようやく、その言葉を絞り出した。
「ありがとう…懐かしかったよ」
「……はい」
 みおさんの返事は固かった…まあ、俺もそれほど演技がうまいってわけじゃない。
「はいはい、後は私がお世話するから、みんなはとっとと出ていって〜」
 と、店長の声が、彼女たちを追い出した。
「……」
「……えーと」
 店長の声をきっかけに、俺は顔を覆っていた手を握りしめ、座っていたソファーにたたきつけた。
 柔らかく、たよりない感触が、余計に俺の心のいらだちを募らせた。
「……ありがとう。あの娘達の前でしないでくれて」
「善意だろ…善意なのはわかってる……わかってる…けど」
 夢から覚めて、現実と向き合う瞬間の……それを……少しは想像しろよっ!
 二度、三度と拳をたたきつけ……俺は再び、手で顔を覆った。
 どのぐらいそうしていたか……あるいは、短い時間だったのかも知れない。
「悪かった…もう、大丈夫だから」
「……」
「……店長さん?」
 そちらを見ると、店長が何故か熱に浮かされたような表情で俺を見つめていた。
「ど、どうした?」
「あなたの涙の味を知りたい…」
「……」
 うん、良心的に解釈させてもらうことにする。
 俺は無言で顔を拭いた。
 
 その日、みおさんは俺を見送ってはくれなかった……店長がそばにいたせいかもしれないが。
 
 世間はゴールデンウイークというやつに突入らしい。
 もちろん、誰かがレジャーを楽しむその裏で、サービスを提供する人間がいるわけだが……ここ、ドリームクラブも例外ではない。
「……どーせ、メールは読んでないんでしょ」
「あれ、みおさんはお休みですか?」
「あ、みおさんを指名するつもりだったんだ…」
 店長がうかがうように俺を見る。
「……先週、俺は酒に酔った。そんだけだろ?」
 店長さんの目が見開かれた。
「……戦闘力100万?この子、どこまで成長するの…」
 なんか、店長のそういうノリにも慣れてきたなあ……ん?
「……じゃあ、メールって、何の?」
 そう問いかけた瞬間、いきなり店内の電気が消え…いや、光量を絞ったのか?
 微かに見える店長の姿。
「時は巡り、この約束の地においてあなたは再び目にすることになるだろう…」
 店長が俺に背を向け、ばっと両手を天井に向かって突き上げた。
「さあ、よみがえるがいい、ホスト・バニーっ!!」
 店内の明かりが一斉に灯る。
「いらっしゃいませ〜ドリームクラブへようこそ〜♪」
「うおあっ」
 ……って、そ、その格好、目のやり場に激しく困るぞ。
 あっちをむいても、こっちをむいても……そうだ、店長だけはいつものスーツ姿だ。これはもう、店長を見るしかない。
 まさか、それが狙いなのか?
「耳の白いバニーガールは邪道だと思うの」
「そ、そうなのか?」
「尻尾だけが白い!それがポイントなのっ!ポイントなのよぉ〜っ!」
 いや、そんなことを力説されても、どう対応していいのか…。
「と、いうか、バニーの神髄は尻尾にあると思うの。耳じゃないの、尻尾なの。あのもこもこふわふわに(以下略)」
 尻尾……もこもこ、ふわふわ。
 いや、でも……それって、女の子のお尻を凝視することになるじゃん。店長の言うピュア紳士的にそれは大丈夫なんだろうか?
「さあ、今夜ははりきっていってみましょーっ!」
 む、むう……前のコスプレの時に比べて、店長のテンションが異常に高いような気がする。
 
 さて、店長の視線を微妙に感じながら、みおさんとボックス席に。
 みおさんの表情が微妙に硬いのは気のせいじゃないんだろうなあ……と、ちょうど俺が口を開きかけた瞬間に、みおさんが口を開いた。
「……先週は」
「この前は、酒に酔ってみっともない姿を見せて悪かったね」
「え?」
 みおさんは、しばらく俺を見つめ……ぽつりと呟いた。
「…おおきに」
 この店は、ホストガールと会話を楽しむ店のはずだから、これでいいはず。
 もちろん、みおさんはバニーガールの姿だ。
 しかしいつもの制服?ユニフォーム、もそうだけど、この格好は身体のラインがくっきり出るというか……。
 俺は、さりげなく目を背けた。
 心の中で、『ピュア紳士、ピュア紳士…』などと呟いてみる。
 人という生き物は逞しい……などと言うが、俺に言わせれば、人というより、人の身体は哀しくできていると思う。
 こちらの意志には関係なく、空腹を主張するは、睡眠を要求するは……心臓は勝手に動き続けるし、呼吸が苦しくなれば、意識を失わせてまでそれを求める。
 思うだけでは死ねやしない……自分の身体さえままならない……それが人間って生き物だ。
「……いや、それはあかん」
「え?」
 俺はみおさんを見た。
 眼鏡のレンズの向こう……強い目の光。
「何もなかったことにするのは、あんたはんの優しさかもしれまへんけど、何もなかったことにする言うのは、現実から目を背けることやろ」
「……」
「手で隠してましたけど、あんたはん、あの時泣いてました。うちに、あれを忘れろ言うのは無理どす」
 強いな……俺はただそう思った。
 ふっと、みおさんが口をつぐみ……俺の目を見つめてきた。
「ひとつ、聞かせてもらえますか?」
「なにを?」
「うちの薬で、幸せな記憶やのうて、悲しい記憶を呼び覚ました……ゆうわけでは…」
「……いや」
 俺は首を振った。
「そう……どすか」
 みおさんは口を閉じ、俺も何も言わなかった。
 そのまま時間は過ぎて、見送りの際にようやくみおさんが口を開いた。
「ウチは…発明家です」
「……?」
「色んな人を楽しませて……言うなれば、幸せにするために発明家をしてます」
「うん…すごいね」
 今ひとつ理解しかねて、俺は曖昧にそう答えたのだが……みおさんは、銃を撃つようなポーズをとった。
 指先は、俺に向いている。
「覚悟、しておくれやす」
 そう言って、みおさんは指を跳ね上げたのだけど……俺に、何を覚悟しろと言うのだろう?
 
 
                  続く
 
 
 いや、まあ…なんというか、『ゼロ』の発売に合わせて、プロローグと並行して、ちびちびと書き始めていたんですけどね。
 時期が特殊だったから、良く覚えてます。
 プロローグを書き上げて、文書を加工したのが3月11日だったんですよ。
 ええ、あの日のお昼過ぎ。
 それから2時間ほど後に、東日本大災害が……内容とか、完成度とか、思い入れとは別に、忘れられないお話ですね。
 まあ、お話の内容とは関係ない話ですが、なんとなく。
 
 と、いうか……これを書き始めたというか、構想を練った頃は、『ゼロ』は発売前というか、書き始めた頃も、当然未プレイ状態。
 そして、後に『ゼロ』のあすかのシナリオの情報を耳にして……げふぅっっと、吐血するような気持ちでした。(笑)
 そのまんまじゃん、とか言われるのは悔しいので、修正してやるっ、と迷走を始めたのが……なにもかもみな懐かしい。つーか、今は今でまたタイムリーですが、『所有権を主張』云々を書いてたのは去年(2011年)だったり。

前のページに戻る