「……最近のゲームは、どれもこれもあざいとわよねえ」
 そう呟きながら、紗智は順番の回ってきたゲーム筐体にクレジットを投入した。
 家庭用ゲーム機の普及による、アミューズメントとしてのゲーム人口の減少というよりは、一時に比べてリズムゲームの人気そのものが下火になりつつあるからだろう。
「むかしは、時限式だったってのに…」
 ある時期が来ると、それまでプレイできなかった曲選択が解除される……それが、時限式。
 それに対して。
「同じメーカーの、違うゲームを一定数プレイすることで特定の曲選択ができるようになるってさぁ…」
 携帯で会員登録、ゲーム履歴が記録され……つーか、最近は、クレジットまで、デジタル課金というか、他のメーカーのゲームには金を使わせないぜ……みたいな、露骨な囲い込みが、ユーザーをうんざりさせていると、紗智は思うのだ。
「……って、これ…結構面白いかも」
 紗智の指先が、忙しく画面の上を走る。
 不幸中の幸いと言うべきか、これでつまらなかったら、ただの拷問だ。しかも、最低でも50回プレイってアンタ…いったい、どれだけ金を使わせようってんですか。
 どのメーカーの、どんなゲームかは、敢えて説明しまい。(笑)
 
 世間はゴールデンウイーク。
 紗智が子供の頃は、この時期ゲーセンにいるのは、暇をもてあました学生連中がほとんどだったのだが、最近は親子連れなんかも見かけるようになった。
 それが良いことなのか悪いことなのか、経済やら政治やらに関係あるのかないのか、紗智はそんなことを考えたりはしない……少なくとも、遊んでいる最中は。
「さって、次は何を…」
 ゲームを物色していた紗智の目が…。
「あ」
「げ」
 こちらが気づいたとほぼ同時に、向こうもこちらに気づいたのだろう。
 紗智の身体はすでに人混みを縫うように走り始めていて、少年は少年で、紗智が走り始めたのを見ていきなり背を向けて逃げ出した。
「ちょ、尚斗っ!何で逃げるのっ!?」
「……それもそーだ」
 まだ速度があがってなかったから、尚斗はいきなり立ち止まれた……が。
「いきなり止まるなぁっ!」
 紗智は、急には止まれない。
「おいおいおいっ!?」
 狼狽しつつも、尚斗は紗智の身体を受け止めようと、重心を落とす。
 そして紗智は、前方への運動エネルギーをいかにして短距離で収束させるか……などと小難しいことを考えたわけではないが、ぐっと右肩を内側にひねり込み、後ろ足で地面を強く蹴った。
「ちょ、お前っ!?」
 紗智の身体は前方に鋭く回転……それに遅れて、ための効いた左足が尚斗の頭部めがけて襲いかかろうとする。
 ちょいと紗智なりにアレンジを効かした、胴回し回転蹴り。
 見た目も派手で、きちんとヒットすれば破壊力満点の大技なのだが、いかんせん隙が大きく……男子校という、自由と暴力の渦巻く環境できっちり生き抜いてきた尚斗もそれを見逃すことはない。
 微かな逡巡が命取りになるが、尚斗は前に出ることを選択し、既に行動に移していた。
 おっけー、それでこそ、男の子。
 と、回転する視界の隅で紗智がそれを認めたかどうかはさておき……漫画やアクション映画と違って、頭で考えたように物事がうまく運ばないのが、現実というものである。
「ちょ、ちょっと!どこ触ってんの!」
「知るかっ!いきなり、こんな場所でアホな大技繰り出しやがって…」
「は、早く離れて…」
「つーか、どうなってんだ今…」
「見るな、バカぁ!」
 
 すったもんだの上、2人がそのゲーセンから逃げ出したのは言うまでもない。
 
 公園のベンチに腰掛け、二人してペットボトルを傾ける。
 一見、高校生カップルに見えなくもない光景だ。
「……ゲーセンで、いきなり浴びせ蹴りって、バカだろ、紗智」
「浴びせ蹴りじゃないわよ、胴回し回転蹴り……まあ、最初に考えたのはドロップキックだったけど、一応空手をかじった人間としての、プライドをもあるし」
「人前でいきなり暴力を振るうって、人としてのプライドを優先してくれよ」
「いーじゃん、当たらなかったんだから」
「避けたんだっつーの」
「いーじゃん、私のパンツ見たんでしょ」
「見たんじゃねえ、見えたんだ」
「……そこは否定して」
 こめかみのあたりをひくつかせながら、紗智が低い声で呟いた。
 仕方ねえな、と尚斗は軽く咳払いして。
「全然、見えなかったです」
 げし。
「……」
「……口より先に手が出るとはいうが、手を出した後に何も言わないのはどう言えばいいんだ?」
 それはたぶん、ものすごく怒ってるだけだよ……と、この場に麻里絵がいたならば、呆れたように呟いただろうか。
「……」
「……ふむ」
 尚斗はため息をつくと、ベンチに背中を預けて空を見上げた。
「久しぶりだったが、元気そうで何よりだ」
「……まーね」
 渋々、ではなく…怒ることに飽きた、そんな感じで、紗智が呟く。
「つーか、久しぶりに会って、こんな事言いたくないんだけど」
「いきなり、蹴りをかますのはいいのか」
「ああ、あれは弾み」
 弾みで、胴回し回転蹴りかよ……と、尚斗は心の中で呟き。
「まあ、いいけど…なんだよ、言ってみろよ。なんとなく、想像はつくけどな」
「……麻里絵に、会ってないでしょ?」
「まーな」
「……信じらんない。幼なじみを5年も放ったらかしといて、再会した後で、また会いにも行かないなんて」
「……」
 紗智は、ちらっと尚斗を見て。
「なんか、言いなさいよ」
「何も、言えねえっての……薄情モンだからな、俺は」
「そう思えないから、わざわざ言葉にして聞いてるの」
 尚斗は、空を見上げたまま。
「……紗智は、直接俺に文句を言いに会いに来るだろなって、思ってた」
「別に、アンタを待ち伏せしてたわけじゃないわよ…今日のは、ただの偶然」
「……そっか」
「……何よ?」
「いや、何で直接俺に文句を言いに来なかったんだ?いつもの紗智なら、そうしてたんじゃねえの?」
「アンタに、『いつもの』なんて、言われたくないわよ…」
 紗智は、ペットボトルの中身をぐいぐいと飲み干して。
「1ヶ月じゃん。アンタとのつきあいなんて」
「そりゃそーだ」
 はっ、と、尚斗が空に向けて笑った。
 そう、たった一ヶ月のつきあいだったというのに、今尚斗が、敢えて悪ぶっているのが紗智にはわかってしまう。
「……もう、5月じゃん」
 あれから時が流れて……桜が咲き、散って、尚斗に紗智、麻里絵も3年生になった。
 そして、遠い空の下で、みちろーもまた3年になり……自らの道を歩むために、勉強にいそしんでいることだろう。
 どんな経緯があろうと、自分が進むべき道を……少なくとも、そう思いこめる何かを見つけた人間は幸いだ。
 かつては、尚斗、みちろー、麻里絵の3人。
 そこから尚斗が消えて……紗智が加わり。
「……みちろーは、いいかげんよね」
 恋人であった麻里絵を、そして自業自得とはいえ紗智を惑いの中に置き去りにして……おそらくは、罪悪感を抱えて歩いていく。
 それでも、歩いていける人間はまだいい。
「幼なじみへの悪口は、程々に願いてえな」
 紗智は、口元をへらっと歪めて。 
「……程々なら、いいんだ?前は、『幼なじみの悪口は聞きたくねえ』って言われた記憶があるけど」
「紗智は俺のダチだと思ってるからな……まあ、麻里絵の前では言えねえだろうし、そのぐらいは引き受けるさ」
「……麻里絵の友達、じゃなくて、アンタの友達になったんだ、アタシ」
「少なくとも俺の方はな……ま、そっちはそっちの判断に任せる」
「アタシは…」
 紗智はちょっと言葉を切り。
「麻里絵の、幼なじみかな……まだ」
「別に、いいんじゃね?」
 尚斗を横目で見て、それから視線を空へ。
「……麻里絵は、アンタが会いに来てくれるのを待ってると思う」
 それはたぶん、昔から。
「……」
「……幼なじみだからとか、そういう理由でも、会いに行ってあげられないの?」
「麻里絵は、幼なじみだからな……だから、余計に会いに行ってやれない」
 ああ、やっぱり、そうなんだ…。
 空を見上げたまま、紗智は心の中で呟いた。
「幼なじみとして会いに行くのは……麻里絵に対する裏切りだろ。たぶん、みちろーに対してもな」
 尚斗と再会したから、尚斗がいたから……みちろーは、麻里絵と本当に別れることができた。
 それはたぶん、あとを託せると思ったから。
 みちろーの身勝手さと、尚斗に対する信頼、そして消えない麻里絵への想い……それがよくわかる。
 ただ、そこに……間違いなく自分はいない。
「……」
 5年間、会わなかった幼なじみ。
 尚斗が麻里絵に、麻里絵が尚斗に会いに行かなかった理由。
「……ねえ、尚斗」
「ん」
「麻里絵は……アンタに、幼なじみではない関係を求めたの?」
「……」
「だったらさ…なんで、なんで、麻里絵はみちろーを受け入れたのかなあ?」
 まただ、結局アタシは……ここから一歩も進めない。
 それは、紗智が迷い込んだ惑いの森。
「……」
「……なんか、言ってよ」
「結局紗智は…」
「え?」
「自分でみちろーを支える、という覚悟を決められなかったんだな」
 げし。
「……ナイスパンチ」
 たった一ヶ月のつきあいの、麻里絵の幼なじみにすぎない男。
 顔は普通、成績は悪い、素行も誉められたモンじゃないけど……誰かのために、自分が悪者になることを厭わないのは確かだった。
「じゃあ、どうすれば良かったって言うのよ…」
「もう5月だぜ、紗智」
「は?」
「高校3年のな」
 紗智に殴られた頬に、尚斗はペットボトルを押しつけて。
「終わったことは……取り返せないモノを、取り返そうとするのはやめとけよ」
「ずるい…アンタは、ずるい」
「ずるいって言うか…頭が悪くて、忘れっぽいだけなんだがな」
 とぼけた言葉だったが、紗智は尚斗の優しさを感じた。
「そんな、簡単に…割り切れるわけないじゃない」
「そこまで甘えんなよ…」
「……」
 尚斗は、頬に当てていたペットボトルを一口飲み。
「みちろーだって、麻里絵に別れを切り出すまで2年…へたすりゃそれ以上かけてんだよ。それまでどれだけ悩んだんだ…って思ったら、悪口は言えねえよ」
「でも…」
「……」
 尚斗の手が伸びて、紗智の頭に。
「……ちょっと」
「麻里絵も、みちろーも……そんで紗智、おまえも、自分の中に抱え込む性格なんだよな」
「髪、触んないで」
 その言葉をスルーして、尚斗の指先が、紗智の髪の毛をまさぐり続ける。
「なんか、面白れー感触」
「悪かったわね、麻里絵みたいに綺麗なストレートじゃなくて」
 別に、悪いなんて言った覚えはないんだが……という表情を浮かべ、尚斗は心の中で麻里絵に謝りながら言った。
「……麻里絵のやつ、髪の毛はまっすぐだけど、心の中は結構ねじれてるぞ」
「アタシだって、ねじれてるわよ」
「……話のオチを先回りすんな」
「だから、触らないでってば」
「なんか、エッチだな、これ」
「……死にたいの?それとも、殺されたいの?」
「……」
 黙ったが、尚斗は変わらずに指先で紗智の髪をまさぐり続ける。
「……ねえ」
「俺が、『好き』って言ったら、好きになれそうか?」
「……は?」
 紗智が、尚斗を凝視した。
「いや、この髪……触ってて、飽きねーから」
「……」
「その沈黙、怖えって」
 尚斗のじっと見つめていた紗智が、ふいに、へらっと口元を歪める。
 ただ、力が抜けたのはその口元だけだ。
「……尚斗はアタシを怒らそうとしてるわけなんだ?」
「泣くぐらいなら、怒る方がマシに決まってる」
「……なんで?」
「まあ、泣くって言うか…悲しいって気持ちは、自分の心の中をせっせと掘りかえすようなもんじゃねえの?」
「……」
「俺はもちろん、麻里絵も、みちろーも……そんでもって紗智も、たかだか17や18のガキに過ぎねえわけだから、自分の中を掘り返そうったって、すぐになくなるだろ?」
 尚斗は、紗智の目から逃れるようにちょっと目を背け。
「もんのすげー天才なんかは、自分の中を掘り返すだけでも色々なモノが出てきて、びっくりしたり、楽しんだりできるかも知れねえけど……ふつーのガキは、外に目を向けてナンボって気がするんだよな」
「……」
「怒るとか、笑うとか、喜ぶって、1人じゃ出来ねえだろ?」
「自分自身に対して怒ることはできるけど?」
「……何事にも、例外はある」
「……何それ」
 口元だけでなく、紗智の目から力が抜けた。
「ちょっとだけ真面目に聞いちゃって損した」
「じゃあ、損したってのも、ちょっとだけだろ?いーじゃねえか」
「尚斗って…馬鹿だよね」
「否定したことないだろ?」
「や、そこは否定できるように……つーか、いつまで触ってんの?」
 がしっと、尚斗の手首をつかみ、紗智は皮肉っぽい口調と表情で、尚斗に話しかける。
「あれかなー?女の子の髪を撫でてあげるのが重要とか、完全男目線のオタク雑誌に影響されてるクチなの?」
「え、そんなのあんの?」
 尚斗はくいっと手首をねじって紗智の手を振りきり。
「悪ぃ、なんかつらそうだから頭でも撫でてやろうかと思ったんだが、おまえの髪の毛、マジで感触が楽しくてな……イヤな思いさせたんなら、マジで謝る」
「……」
「いや、ごまかしてるわけじゃなくて…俺、子供の頃とか、麻里絵の髪で三つ編みとか編むのに夢中になってたクチだから。ちょっちフェチ入ってるかも知れないが、他意はないんだ、マジで」
「……フェチ入ってるとか言ってる時点で、もうアウトじゃない?」
「自分が持ってないモノに、興味持ったり憧れたりするのは普通だろ?」
「……」
「だから、悪かったって」
 紗智は、ちょっと口をとがらせて。
「尚斗って……たまに、頭良いのか悪いのかわかんなくなるときあるよね」
「は?」
「……本人に自覚ないのが、ちょっとムカツク」
 
「つーか、ゴールデンウイークにぶらぶら何やってたのよ…」
 自分のことを棚に上げ、紗智がぽつりと呟いた。
「いや、予定を入れてたバイトの都合が悪くなってな……この日だけ、ぽっかりと開いちまって、仕方ねえから本当にぶらぶらしてただけ」
「へえ、この日だけぽっかりと…」
 紗智は、ゆっくりと尚斗を振り返り。
「……4月27日(土)は?」
「ん?ああ、バイト」
「28日(日)は?」
「バイト」
「29日(祝)は?」
「バイト」
「30日(火)……は、平日か」
「学校さぼってバイト」
「……」
「だから、4月の27日(土)から、5月6日(月・振り替え休日)の10日間、学校さぼって全部バイトの予定だったんだっつーの」
 尚斗はぶつぶつと。
「それを、宮坂の馬鹿が……バイトをひとつパーにしやがって…」
 紗智は、指先でこめかみのあたりを揉みほぐし。
「……何やってんのよ、受験生」
「高校生がみんな、進学するわけじゃねーだろ」
「しないの?」
「しないんじゃなくて、できねえ」
「……選ばなきゃ、入れる大学はあると思うわよ?」
 尚斗はため息をつき。
「まあ、キャンパスライフってやつに興味がないとは言わないが……バイトのためだけに進学するのもな」
 紗智は、何かを言いかけてちょっと口をつぐみ……そーっと、空を見上げた。
「ごめん、アタシちょっとばかり、デリカシーのないこと聞いた?」
「いや、家に金がないというより、もう俺の親は、俺に金を出すつもりがこれっぽっちもないってだけのこと」
「や、それって…金銭面よりシビアな話なんだけど…」
「そうか?男子校だと、それほど珍しくもない話だぞ……入学前に両親に泣かれたとか、入学してから親が1年以上口きいてくれないとか、家に帰っても飯の用意がされないとか……」
「……」
 なんとなくだが、みちろーが男子校に進学していれば、意外に、長く苦しむことなく立ち直ったのではないか……などと紗智は思った。
「……アンタから見れば、みちろーの悩みなんてちっぽけだった?」
「俺はみちろーじゃねえからな……あいつが鼻歌交じりですらすら解く数学の問題とか、俺はたぶん、手も足も出ないで眠りにつくだろうし」
「いや、そういうこと、言ってるんじゃなくて…」
「俺は、頭悪いからよくわからねえし、うまく説明もできないけど……自分の悩みと、他人の悩みを比べることに、意味はねえと思う」
「……」
「他人を、思いやることはできても、本当の意味で理解はできない……つーと、ちょっと寂しいなあ、とは思うんだが」
「はははっ」
「笑うなよ」
「あ、そーじゃなくて…そーよね、ちょっと寂しいわよね、それって…あははは」
 空を見上げたまま、紗智は、断続的に笑い声をあげ続けた。
「……あはは、ねえ、尚斗」
「ん?」
「アンタ、昔はみちろーより、成績も、運動もできたわけでしょ?」
「……の、ようだ」
「中学にあがってさ、何があったの?」
「何、と言われてもなあ…」
 尚斗も、空を見上げ。
「子供の頃やってたように、しょーもない弱いモノいじめをやってた連中を、3、4人、ぶん殴ったのが始まりだったが」
「あははは、ばっかじゃん」
 紗智はケラケラと笑って。
「アンタ、ガキのまま中学生になっちゃったんだ?」
「……まー、そういうことだな」
 怒られたのは、自分だった。
 そんでもって、教師と、周りの人間が自分を見る目が変わった……その理由が理解できなかっただけのこと。
「……そういうのって、借金みたいなモノなのよね」
 ぽつりと。
「ん?」
「勝手に利子がかさんでくの…何もしてないのに、周囲の評価はどんどん悪くなる」
「いや、何もしてないわけじゃないからな」
「懲りなかったの?」
「真剣に悩んでる生徒の言葉をろくに取り合わずに、適当なこと言ってた教師の態度が目に余ったんで、ぶん殴った」
「わちゃ…」
 そりゃ、ダメだ……と、紗智が手で顔を覆った。
「なに?じゃあ、後はお決まりのコースなの?」
 そうではないことをわかっていながら、紗智が聞く。
「いや、妙な先輩に誘われはしたが、話を聞いてむかついたから2人ほどぶちのめしたけど、押さえつけられてぼこられたよ」
「あったま、悪いわねぇ」
「軽く言うなよ…大変だったんだぜ」
 その後も、最終的にはぼこられても、かならず2人は道連れにし続けて……ようやく、手出しされなくなったのが、2ヶ月ぐらい経ってからだ。
 ただ、それはつまるところ……中学校で、尚斗に関わろうとする人間が誰もいなくなったということだったが。
「そりゃ、わかるけど…」
「まあ、男子校じゃあ、そのぐらいで普通だけどな」
「ああ、ある意味エリートの集まりなのね…」
「本当にすげーのは、学校を辞めていったり、辞めさせられたり、だけどな」
「……女子校にいる間は、おとなしかったのにねえ」
 と、紗智が笑い。
「女は強いってこったな」
「いや、ちょぉっと、意味が違うんじゃないかしら?」
「……勘違いしないで欲しいが、俺、男子校の連中っていうか、男子校の雰囲気そのものは好きなんだぜ」
「……」
「その、何かを期待する妖しい目はやめろ。そういう意味で言ってんじゃねえのは、わかってるだろ、紗智も」
「……残念」
「……ったく」
 尚斗は小さく息を吐き。
「たとえば宮坂のバカだが……あれは、ただのバカじゃないぞ」
「ええ、すごいバカよね」
 じろり。
「……ごめんってば。友達なのよね、尚斗の」
「……つーか。なんというか…ほんのちょっと、ほんのちょっとしたきっかけというか、歯車がかみ合ったら、宮坂は、すごいことができるやつだと、俺は思う。発想とか、行動力がな、こう、尋常じゃねえんだ」
「ああ、それはわかるわ…」
 と、紗智が頷く。
「あいつさ、いわゆる普通の学校ってところにいたら、とっくに追い出されていると思うんだ」
「……でしょうね」
 女子校にいた期間でも、色々とやらかしていたが……こう、普通の人間が持っている枠がないというか、面白いこと、楽しめそうなことに対して、躊躇がない。
 まあ、基本的に偏見とか悪意がなく、だからこそ、他の人間が二の足を踏むようなことを容易にやってしまう……もちろん、それ故に、どこに転がっていくかわからないという危うさを秘めるのだが。
「うまく説明できないけどな…宮坂みたいなやつが力を発揮しようと思ったら、周りの人間がそれを支えるって言うか、受け止めるだけの心の余裕っていうか、度量っていうか、そういうもんが必要なんじゃねえのかな」
「……」
「宮坂だけじゃねえよ……俺みたいに、ただ暴れただけで周囲からはじかれた奴らはともかく、ただ周囲に認められなくて、男子校に来るしかなくなったってな奴らが結構いるんだ」
「……ふーん」
 生返事をしながら、紗智は尚斗の横顔を見つめていた。
「個性が大事とか、ゆとり教育とかいってもさ……基本、この国はそういうのをすりつぶしていく構造になってるよな。高校生にもなって、ようやくそれに気づくんだから、俺は確かにバカなんだろう」
「そうね……中学校に上がるまでに、それはわかってなきゃいけないことだから」
「宮坂みたいな、何かをできる可能性を持つすげえバカな連中を、俺みたいなただのバカと一緒にしちゃダメだよな」
「ただのバカって言うか、優しいバカよね、アンタ」
 ちらり、と尚斗が自分の方を見たから、紗智は慌てて顔を背けた。
「まあ、もちろん……そういうやつがいるってだけで、嫌なやつもいるけどな。ただ、俺は、あの男子校に入ったおかげで、随分他人に対して優しい気持ちをもてるようになったと思う」
「へえ」
「……『出身校は?』って聞かれたら、俺は男子校の名を出すよ。小学校や、中学校の名前は出したくねえ。特に、中学校には、恩師なんて1人もいねえと思ってるからな」
「……そんな状況で、学校行きたくない、とは思わなかったんだ?」
「休んだら負けじゃねえか」
「あはは、マジでバカだ…尚斗ってば、マジでバカ」
 ゲラゲラと笑いながら、紗智は、ああ、何かアタシテンションあがってるなあ……などと考えていたり。
「まあ、頑張っていい成績とったら、指導室に呼び出されて『カンニングだろ?』とか追求されたりしたからなあ……言い訳になるが、勉強する気はなくなるぞ」
「そりゃ、そーね」
 そう、相づちを打って。
「アンタとみちろー、似てるわ」
「……」
「みちろーはね、仲の悪い両親の気をひこうとして、いい子を演じた」
「似てねえじゃねえか」
 尚斗の呟きに、紗智はしばらく何も答えず。
「……いい子を演じ過ぎたから、離婚するって両親に対して、何も言えなくなったのよ。むしろ、みちろーの両親は、それを利用したのかもね」
「……」
「『あなたは、いい子だから、お母さんの言うことはわかるわね?』そんな風に言われたら、何も……今までの自分の努力を踏みにじるようなことは、何も言えないに決まってるじゃない」
「……悪かった」
 尚斗の方に目を向けず、紗智が呟いた。
「……何が?」
「『自分でみちろーを支える、という覚悟を決められなかった』んじゃなくて、紗智、おまえは…おまえには、その結末が見えすぎたんだな」
「……」
「どうあがいても、みちろーの両親が別れてしまうって事と、その後、みちろーがこれまで演じてきた自分を壊すために、この街を出ていくって事まで」
 紗智が、口元を歪めて笑った。
「あはは…アンタと麻里絵をくっつけようとした理由、わかったぁ?」
 いつもの、力の抜けた笑みではなく、どこか引きつったような笑い方。
「みちろーも、麻里絵も、そんなに引きずるって思ってなかったから……みちろーはいいかげんで、麻里絵は被害者……アタシ、最初から尚斗にはそう言ったよね」
「……それでも、放っておけなかったんだろ?」
 尚斗の言葉に、紗智の目が微かに泳いだ。
「な、なにが?」
「結末が見えて、自分には何もできないって事がわかってたけど……それでも、紗智、おまえは、みちろーに何かしてやりたかった」
「……優しいバカは、これだから」
 と、紗智は肩をすくめ。
「なんでもかんでも、善意に解釈しないでよ……ばかばかしい」
「……紗智」
「何よ?」
「そろそろ、認めた方が楽になれるんじゃないか?」
 立ち上がろうとした紗智の手を、尚斗が握った。
「……放して」
「座れ……いい機会だろ」
「何が?」
「麻里絵は泣き虫だけど、バカじゃないぞ」
「……」
「俺が気づいたぐらいだ、麻里絵も気づいてる」
「そりゃ、気づいてるでしょうね……アタシが、みちろーを好きだったってこと」
 ふてくされたように言って、紗智は再びベンチに腰を下ろした。
「だから、何?」
 きっと、尚斗を睨み。
「アタシが好きだったみちろーは、麻里絵のことが好きだった。やがて、麻里絵とみちろーはつき合い始めて、アタシは2人の邪魔はしなかった」
 一旦言葉を切り、紗智はふっと口元に笑みを浮かべて。
「そうね、みちろーが麻里絵とつきあえるように、背中は押したわ」
「……優しいよな、紗智は」
「皮肉?」
「いや、麻里絵に対する負い目で、同じ学校に進学したんだろ、おまえ?」
「……否定はしないわ」
 尚斗の目を見返すように。
「結局、みちろーの背中を押したのはアタシだから……言ったでしょ、アタシ、仲人女だって。いったんくっつけたカップルに対して、責任を感じてるの」
「……で、どうやら麻里絵が俺のことをにくからず思ってるようだから、くっつけちまおうって?」
「……そこまでわかってるなら、くっつきなさいよ。麻里絵は、いい子よ。胸もおっきいし」
「胸にこだわんなよ…」
 『ひがみか?』という一言を、尚斗は何とか飲み込んだ。
 この場面で、余計な一言は、本当に余計な一言になりかねない。
「胸がおっきくても、別に太ってるわけじゃないのよ?ウエストも適度に…」
「友達を売るなよ」
「……友達なわけないでしょ」
「……」
 紗智は一瞬目を逸らし……開き直ったのか、尚斗をにらみつけてきた。
「アタシはみちろーを好きで、みちろーは麻里絵のことが好きだった……それだけ」
「それだけじゃねえから、負い目を感じてるんだろうが」
「バカ言わないでよ……麻里絵が友達だったら…友達だったら…」
「あのな…紗智」
 尚斗は、頭をかきながら。
「別に、おまえが嘘を言ってるとは思わねえ……ただ、人の気持ちってやつは、変わっていくんだよ」
「そうね、みちろーは、麻里絵を置いて、よその街でやり直そうとしてるぐらいだし」
「……最初は、何とも思ってなかったんだろ、麻里絵のこと」
「そうよ、今もだけど」
「おまえ、自分で『いい子』って言ったじゃねえか」
「胸はおっきいし、サラサラのロングヘアー…おまけに、アタシが好きなみちろーが思いを寄せてる相手」
 紗智は、相変わらず引きつった笑みを浮かべて。
「うらやましいを通り越して、むかついたわ」
「でも、『いい子』だった」
「……」
「……そうだろ?」
「そうね……でも、友達なんかじゃないから」
 尚斗が、くっくっと、笑った。
「何がおかしいのよっ!?」
「いや、強情なやつだなと思って」
「何をっ…」
 ふっと、紗智は引きつった笑みを浮かべて。
「忘れてたわ、怒らせるのは、アンタの手段(て)だものね」
「残念、のってこなかったか」
 と、本当に残念そうに尚斗が呟き。
「麻里絵と再会した日にな、一緒に帰ったんだ」
「ふーん」
「その途中でな、麻里絵に『私、みちろーくんとつき合ってた』って言われたよ」
「……なんて答えたの?」
「『みちろーから告ったんだろ?』って……後は、『みちろーが告って、麻里絵がそれを受け入れた…だったら、それは別にいい事じゃねーの』…だったかな」
「……残酷だわ」
「そうか?」
 尚斗は、ちょっと笑って。
「なんせ、5年も幼なじみを放ったらかしにする薄情者だからな。事情もわからんし…まあ、みちろーが、麻里絵のことを好きだったのはわかってたから」
「でも、麻里絵はアンタのことを…」
「友達でもないのに、随分と麻里絵に肩入れするんだな」
「負い目があるって言ってるでしょっ!」
「その負い目は、紗智が麻里絵を、友達として好きだからだろ」
「違う」
「友達として好きだから、最初の、出会いっつーか、そういうことに我慢がならねえ……としか、俺には思えないんだが」
「女に幻想を持ってる男はこれだから…」
「女に幻想を抱いてることに関して否定はしないけどな。おまえがいいやつだって事ぐらいわかるっての」
「だから…」
「みちろーと麻里絵のそばに、おまえがいてくれて良かった」
 尚斗の目は、もう紗智を見ていなかった。
「ありがとな、紗智」
 空を見上げたまま、尚斗がそんなことを言う。
「べ、別に…アタシは、アンタの代わりなんか…」
「紗智は紗智だっつーの……おまえは、2人の間をただかき回したとしか思ってるかも知れないけど、おまえのおかげで、麻里絵も、みちろーも、随分救われたと、俺は思うよ」
「勝手に、決めないでっ!」
「んー?」
 尚斗が、紗智を見る。
「いや、おまえ絶対に認めようとしないし……だったら、俺も勝手に決めるしかねーじゃん」
「そんな、勝手なこと…」
「麻里絵に聞けよ」
「はぁっ?」
「紗智、おまえは麻里絵の友達だよ…いや、親友かな?」
「麻里絵じゃなくて、私が、麻里絵のことをなんとも思ってないって…」
「じゃあ、麻里絵がおまえのことを友達って思ってるのは認めるな?」
「……」
 紗智は、言葉に詰まった。
 たぶん、でも…自分がしたことを知れば……そんな思いが渦巻く。
「おい」
 尚斗に髪を捕まれ、揺さぶられる……乱暴な仕草だったが、髪をつかむ手も、その動きも優しかった。
「俺は幼なじみを5年も放ったらかしにする薄情者だっつーの。5年も前の、自分の気持ちを……それも、自分自身で間違ってるってわかってるモノを大事に抱えて手放さそうとしないのは、俺に対する当てつけか?」
「な、何を…」
 無茶苦茶だ……と思った。
 それでも……これが、目の前の少年の優しさだと、痛いぐらいに感じて。
「昔の気持ちなんてのは、ただの記憶だろ。今の、たった今の自分の気持ちに素直になれよ。お前、昔じゃなくて今を生きてるんだから」
 ただの記憶って……気楽なことを言う。
 口元の、力が抜けるのを紗智は感じた。
 まずい、と思う。
 力を入れなきゃ……そうしてないと…。
 唇を噛んだ……が、少し遅かった。
「くっ…う…ぅ」
 自分の目から流れていく……涙と、それ以外の何か。
「…むかつく…アンタ…ホントに、ムカツク…」
 そう捨てぜりふを投げて……紗智は、尚斗の胸に自分の顔を押しつけた。
 
「あー、むかつく…ホント…むかつく……さいってーの気分」
「そうか、たまに泣いたりすると、気分がすっきりしたりしねえ?」
「え、アンタ泣くの?うわ、やだ、キモ」
 相変わらず、公園のベンチに腰掛けたままの2人。
「何が最低かって、アンタなんかに泣き顔見られたことよ」
「いや、『俺に泣かされたこと』の間違いだろ?」
 げし。
「……ナイスキック」
 ベンチに座ったままの、ただ早いだけの蹴りだから、それほどダメージはいかないはずだった。
「ホント最低よね…か弱い乙女泣かして悦ぶなんて、変態よね変態。最悪にキモい」
「……紗智、お前気づいてないかも知れないが、笑ってるから」
「え、うそ…」
 はっと、手で口元をおさえるフリをして…そのまま一直線に尚斗の顔面へ。
「……ちっ」
「悪いな、これは読んでた」
 尚斗に受け止められた拳を、手をはじくように振り払って引き戻す。
「……何?アンタはアタシに対して、悪いとか思ってないわけ?」
「ふむ」
 尚斗はちょっと考え。
「そこのコンビニで何か買ってきてやろう」
「……」
「んじゃお前、俺と2人っきりで飯とか食いに行きたいのか?」
「冗談でしょ」
「だろ、だからコンビニ」
 紗智はしばらく考えて。
「そこのコンビニって、どこのチェーンだったっけ?」
「……サ〇クス、かな」
「じゃあ、デザートね……いい?ちゃんと覚えて」
 と、紗智は矢継ぎ早に、五種類のデザートの名をあげた。尚斗にはわからなかったが、お勧めというか、かなり客の支持を受けているラインナップ。
「ふむ、このうちのどれかってこと…」
「全部」
「……」
「全部よ、全部……あったり前じゃない」
「……太るぞ」
「太る?」
 ふふん、と紗智は鼻で笑って立ち上がる。
「麻里絵と違って、お腹につまめる肉なんかないのよ、アタシ」
「ああ、わかったわかった…見せんでいい」
 手を振り、尚斗は小走りに公園を出ていき……ものの5分もしないうちに、袋を下げて戻ってきた。
「5種類のうち、ひとつ売り切れてたからな。俺の独断と偏見で別のを選んできたぞ」
 と、自分と紗智の間……ベンチの上に、デザートを並べていく。
「へえ」
「何だよ?」
「覚えられずに、間違うかなって思ってたのに」
「全部は無理だったからな、最初の3文字だけ覚えた」
「……あ、そう」
 尚斗からデザートスプーンとフォークを受け取り、紗智がスイーツを口に運ぶ。
「……欲しい?」
「いや、別に」
「……欲しいんでしょ?」
「いや。甘いモンには、あんまり興味ねえし」
「……人生の半分、損してるわね、アンタ」
「アリみたいな人生だな、そりゃ」
「あははは…言えてる」
 もう一口食べてから。
「確かにね、人間って、甘いものばっかり集めようとしてるわね」
 アリが言葉を話せたなら、抗議の声をあげただろう。
 ひとつ、またひとつと、スイーツをたいらげていく紗智を、尚斗はうらやましがるでもなく、どこかぼんやりとした感じで見つめていた。
 ふっと、周りに視線を向けて……紗智は笑った。
「どうした?」
「いや、ちょっとね…」
 ゴールデンウイークのまっただ中、麻里絵の幼なじみと2人、公園のベンチでコンビニスイーツを……いや、食べてるのは自分だけだけど。
 一言で言うと、アタシ、何やってんだか……ってなとこだ。
「……あ」
 紗智は、尚斗を見た。
「今度は何だ?」
 目を背けるのではなく、紗智の視線は、コンビニデザートへ。
「あはは…」
「甘いモン食ったら、幸せってやつか?」
「いや…はは、そうじゃなくてね…」
 『いつもの』ではなく、はにかむような微笑み。
 今の今まですっかり忘れていたようだが、今日は、紗智の誕生日だった。
 18歳の誕生日に、コンビニスイーツ……それも、麻里絵の幼なじみにおごらせて。
「……安い女」
 誕生日が理由なら、もっと他ののモノを……せしめたこともできただろうに。
「……アンタ、明日からまたバイト?」
「ああ…さっきも言ったけど、宮坂のせいで、今日だけ予定が開いた」
「ふーん……そっか」
 スイーツを一口食べて。
 今日の事すべては、偶然。
 それでも、今日、自分は18歳になった……何かのきっかけとしては、悪くない節目のはず。
「……宮坂君にさあ、お礼言っといて」
「へ?」
「何も余計なこと言わなくていいから、ただ一言『ありがと』って」
「……そう言えば、わかるのか?」
 紗智は、口元をへらっと歪めて。
「ううん、絶対わからない」
「……なんだそりゃ」
 悪くない誕生日を…誕生日プレゼントを、もらったのかも知れないから。
「ねえ、尚斗」
「ん?」
「あんた、泣くぐらいなら怒った方がマシって言ったよね」
「ああ」
「……麻里絵を、怒らせようとは思わないの?」
 尚斗は、ちょっと難しい顔をして。
「幼なじみだからな…俺の手は、麻里絵にはばればれだぞ」
「へえ…それは、怒らせる事については、やぶさかではないと、受け取ってオーケー?」
「そりゃ、内容にもよるが…」
「んふふふ…」
「……ぶ、不気味な笑い方しやがって」
「尚斗、ちょい、こっちへ」
 ちょいちょいっと、紗智が尚斗を手招きし。
「なんだよ…」
「はい、こっち来て…そうそう、アタシの肩に手を置いてね」
「ん?」
「はい、チーズ」
 かしゃ。
 そして紗智は、器用に片手で携帯をぺこぺこといじり。
「はい、送信」
「え、ちょっと待て…送信って、何だ?送信って?」
「んふふふふふ…」
「まて、その笑い方…なんか、嫌な予感しかしねえぞ?」
 紗智が思いついた、『麻里絵を怒らせる手』……その意味に、紗智自身がまだ気がついてはいなかった。
 
 
 
 
 まあ、10年前から、紗智と麻里絵の関係については色々と…本当に色々と書いてきたわけですが。(ちびっこと夏樹には劣るけど)
 こういう形もアリだろう……と、高任は思うのです。
 頑なな麻里絵にたいし、頑なな紗智。
 原作では、麻里絵の過去への固執が描かれてましたが、本当は同じぐらい紗智も過去に固執していたはずで……紗智だけに焦点を当てると、こういう描き方も許されるかなあと思ったり。
 
 ……紗智は可愛いなあ。(笑)
 
 紗智の場合、ラブラブいちゃいちゃの描写より、すれ違いもじもじの描写より……こういう、言葉の駆け引きというか、そういうやりとりの方が、書いてて楽しいですね。
 たぶん、高任の中で紗智というキャラクターの猫っぽいイメージがあるからでしょう。
 
 つーか、ラブラブいちゃいちゃの紗智?(笑)

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