「……はぁ」
西日に照らされた教室の窓際。
頬杖を付き、物憂げな視線を窓の外に向ける美少女の姿に、少年の胸は四方に跳ねた……
「妙なナレーションを入れるなよ、紗智」
「……ふつー、女の子が物憂げにため息ついてたら声ぐらいかけない?」
「状況によるだろ、それは……」
紗智はへらっと力の抜けたような笑みを浮かべて頷いた。
「まあね」
「それに、俺が教室に入って来たことを知ってため息ついただろ……ちょっと勘ぐられても仕方ないぞ」
「あはは……ちょおっとわざとらしかったかしら?」
紗智は尚斗の視線を束の間受け止め、そして再び窓の外に視線を向けた。
「……麻理枝とは一緒に帰らないの?」
「よせよ、わかってんだろ?」
「私がうるさいからつき合ってるフリをしてくれって?……麻里絵の言いそうな事ね」
「ごまかせてると思ってるのは麻里絵だけ……だな」
紗智はほんの少し肩をすくめ、尚斗の方を振り返った。
「私ってさ、おせっかい?」
「それが分かるほどつきあいは長くねえな……」
「あはは、優しいんだ……」
紗智は口を閉じ、何かを窺うような視線を向けた。
「中学校の頃の、あの二人の事は全然知らないのよね?」
「紗智が、それ以前のことを知らないようにな」
「痛いとこつくわね」
「お互い様だ…」
タイミングを計ったように、二人同時に口元に笑みを浮かべる。
「何で麻里絵に……ううん、みちろーでもいいけど会いに来なかったの?」
「……まあ、いろいろと」
「アンタ達、3人でどんなコトしてたの?」
「ふつーの遊びだよ……ただ、3人が3人とも無意識に違う何かを相手に求めてた」
尚斗は一旦言葉を切り、間が持たなかったのか頭をかいて笑った。
「……多分、俺が一番先にそれに気付いてた」
「もういい、話さなくても」
「みちろーは、ただ麻里絵といたかった」
「もういいって…」
「麻里絵は、ずっと子供でいたかった」
「もういいって言ってるでしょ!」
左頬をかすめた紗智の拳には目をやらず、尚斗はそっと紗智の手首を優しく握った……それが、紗智の心を少しだけ動揺させる。
「俺は幼なじみでいたかった……でもそれは、母さんを亡くす前のことで」
いつも明るく振る舞っている少年の顔から少しずつ表情というモノが失われていくのが紗智には辛かった。
「俺は、母さんのことを忘れていたかった」
尚斗はそっと目を閉じ、再びその目を開いたときにはいつもの明るい表情がそこにあった。
「許せなかったんだな、自分が……なんか、大事な幼なじみを利用してるみたいで」
尚斗は紗智がするように、にへらっと口を歪めて笑った。
「会う資格がなかった……それだけだ」
「嘘つき」
尚斗につかまれていない左手で、鳩尾を軽く突き上げる。
「空手有段者の拳は凶器なんだぞ……」
「……どうしてそんな嘘をつくの」
「嘘って……」
紗智は尚斗の手を振りほどき、ぽつりと呟いた。
「麻里絵やみちろーにもう1人の幼なじみの話を聞いてからずっと心にひっかかっていたことがあったの……」
「やめとけ、紗智…」
「さっきの話は、尚斗が麻理枝達に会いに来なかった理由付けにはなるわ……でも、『どうして麻里絵はアンタに会いに行かなかったの?』」
尚斗は鼻の頭を指先でかき、ちょっと笑った。
「ちび麻里はいつも俺達の後をついてきてたからな、多分そういう発想がなかったんだろう……自分から会いに行くのは、自分の望みである子供であることを壊してしまうから」
「茶化すのはやめて…」
「茶化してるつもりはないんだが……その、なんだ、それ以上はやめとけ」
「……何で?」
「自分の好きな相手の悪口は言いたくないだろ……俺も、幼なじみのそんな話は聞きたくないし」
みちろーと麻里絵。
麻理枝曰く、紗智を恋愛至上主義者にしてしまったカップル……それは、幻想だったのだろうか。
みちろーは現実から逃避するために、麻里絵は麻里絵で子供の頃の想い出を壊さないように……そんな二人の結びつきが、中学を卒業してから少しずつ見えてきた。
ただ、それを認めるわけにはいかなくて……
「麻里絵がアンタに会いに行かなかったのはみちろーに…」
「だからやめとけって……みちろーはいい奴だ。ただ、麻理枝が好きだっただけで……そんだけでいいだろ」
そう言って笑った尚斗を見て、紗智はみちろーがこの少年に対してコンプレックスを抱かざるを得なかったことを理解した……いや、実感したのか。
「……困ったな」
「何が?」
「あ、うん……私、ちょっと……ね」
「なんだそりゃ?」
「ま、気にしないで……こっちの話」
はにかむような表情を浮かべた紗智に、尚斗は意外そうな視線を向ける。
「へえ、そういう風にも笑うのな、紗智って」
「あははっ、これからいろんな顔を見せてあげることになるかもね」
そう言って片目をつぶる。
もうすぐバレンタインで、尚斗達は自分達の学校へと戻っていく。
でもそれは終わりではなく始まりの日。
バレンタインが終わればすぐに春がくる……多分、それは恋をするにはいい季節に違いない。
完
何か違うような気もするが、だったら良し!(意味不明)
いやー、久しぶりにプレイしてみたら記憶と違ってて…(笑)
つーか、ちびっこは別格として(笑)、紗智、紗智ですよ!いや、弥生とか夏樹あたりも捨てがたいんですけど。
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