「おい、有崎」
「はい?」
 女子校の校門をくぐった矢先に声をかけられ、尚斗はそちらを振り向いた。
「って、水無月先生じゃないですか。何故こんなとこに…」
「アタシは保健室に住んでるわけじゃないっ!」
 尚斗は飛んできたライターを受け止め……水無月の白衣に目を向けた。
「でも、白衣ですか…」
「白衣が制服と思えば、朝が面倒じゃないからな」
「なるほど…」
 尚斗からライターを受け取りつつ、水無月は本来の目的を思い出したのか、ちょっと笑みをこぼしながら言った。
「青山……というヤツはお前の知り合いか?」
「ええ、まあ……よくつるんでますよ」
「そうか…」
 水無月はちょっと頷き、言葉を続けた。
「暇だったら保健室に顔を出すように伝えてくれ……学食で飯でもおごってやるぞって」
「……青山が何か?」
「いや、なに……」
 水無月はちょっと空を見上げ、ひどく嬉しそうな口調で呟いた。
「綺羅をへこましたと聞いて……こう、なんだ……ぶっちゃけた話、胸がすかっとしたというか」
「……」
 ふっと、尚斗の頭の中で何かがつながった。
「えっと、水無月先生の下の名前はひょっとして……『かおる』ですか?」
「そうだが?」
 尚斗はちょっと頷き、しみじみと呟いた。
「……苦労したんでしょうねえ」
 
「……というワケなんだが?」
「筋合いじゃないな」
 青山はにべもなく首を振った。
「まあ、青山ならそう言うとは思ったが…ちょっと断りの返事してくる」
「まめだな、有崎…」
「なんというか……すごく嬉しそうだったもんでな。一応きちんと返事をしといた方がいいかと」
 
「……と言うわけで、気を遣わないでくださいと」
 青山の言い分をそのまま水無月に伝えるとアレなので、尚斗なりにちょっとアレンジしつつ。
「ふむ、そうか……そうだな」
 水無月はちょっと頷き、自分に言い聞かせるように呟いた。
「ワケも分からず飯を驕ると言われてもな……浮かれてるせいかな、無理を言った」
「いえ、別に……」
 ガララッ。
「水無月センセ、ご機嫌いかが?」
「おお、香月。もちろんご機嫌だとも」
 力強く答える水無月に気付かれないように、尚斗はそっとため息をついた。
 ひょっとすると……この女子校で保健医をしてるのも、何か事情があったのかも知れないなどと思いつつ。
 冴子は尚斗にちょっとだけ視線を向け、そして水無月に向き直った。
「水無月センセ、ちょっとお耳を拝借」
「…ん?」
 水無月の耳に唇を寄せ、冴子が何やらぼそぼそと呟き始める……おそらく、自分に関係ある話なのは水無月が時々視線をこちらに向ける事でわかる。
「……なるほど」
 水無月はパンと自分の膝を叩き、こう……なんというか、感謝しつつも同情するような視線を尚斗に向けて言った。
「有崎、何が食べたい?」
「は?」
「いや、何も言うな…」
 水無月は眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせながら、有無を言わせぬ口調で告げた。
「黙っておごらせろ」
「まだ1時間目なんですが…」
「大丈夫だ、食堂のおばさんとは学生の頃からの知り合いだから」
「いや、そういう問題では…」
「ごちゃごちゃ言うなっ」
「はあ…まあ、いいですけど」
「いってらしゃい…」
 冴子が微笑みながら手を振った。
 
「……遅かったな、有崎」
「んー、朝っぱらから昼飯を食いつつ迸る愚痴を聞かされてお腹一杯……つーか、俺の弁当どうするかな」
 尚斗は弁当箱片手に周囲に視線を向け……紗智に声をかけた。
「おーい紗智」
「ん、なに?」
「弁当食うか?」
 紗智はちょっと複雑な表情を浮かべて呟いた。
「普通、立場が逆じゃない?」
「立場が逆も何も、ずかずかと家までやってきて何度も飯食って帰ったヤツが言う台詞か?」
「……そうじゃなくて」
「……?」
「男子生徒の手作り弁当を貰う女子高生って構図は、結局、私の……あーもうっ」
 紗智はちょっと髪の毛を掻きむしり、尚斗の手から弁当箱を奪い取った。
「紗智……?」
「じゃ、有り難くいただくから…」
 そう言い残して小走りに教室から出ていく紗智に、青山と世羽子が視線を注いでいたり。
「……尚斗君」
「ん、なんだよ麻里絵?」
 ちょっと困ったような表情を浮かべて麻里絵。
「紗智は女の子だから」
「……と言うと?」
「だから、女の子が男の子のボリュームでご飯食べたら太っちゃうでしょ」
「ああ、なるほど…ちょっと無神経だったか」
 そんな麻里絵と尚斗の会話を聞き、世羽子はちょっとため息をついた……そして、頭痛を紛らわせるように指先でこめかみのあたりを揉みほぐす。
 世羽子はちらっと青山に視線を向け、再度ため息をついて立ち上がった。
「……椎名さん、ちょっといい?」
「……え?」
 麻里絵は、意識してなのか無意識なのか、尚斗の影に隠れるように回りこんだ。
「な、何ですか?」
 尚斗の視線が世羽子に向く。
「何もやってないわよ…」
「いや、何があったか知らないが無意識に威圧してるって…」
 尚斗はちょっと苦笑し、麻里絵に視線を向けた。
「ところで麻里絵、世羽子は理由がない限り滅多なことはしないんだが…」
「り、理由が……あったら?」
「それは……麻里絵が悪いな。少なくとも、俺は世羽子を信用してる」
「そ、それは私を信用してないって……あれ?」
 麻里絵がちょっと首を傾げ、何か思い出すように遠い目をした。
「……信用してない……」
 麻里絵の視線が世羽子に向く。
「……ぁ」
 麻里絵がちょっと口元を押さえ、慌てて世羽子から視線を逸らした。
「あら、どうかしたの椎名さん?」
「な、ななな何でもないです」
 どこか含むような世羽子の口調に、麻里絵は思いっきりどもりながら答える。
「ふーん…」
 世羽子はちょっと目を細め、再び口を開いた。
「椎名さん、ちょっといいかしら?」
「は、はい…」
「……じゃ、ちょっと廊下に」
 世羽子の後をついていく麻里絵は、手と足が一緒に出ていた……。
 
「さて……」
 人気のない廊下の片隅までやってきて、世羽子がくるりと振り返る。
「え、えっとね、秋谷さん……あれは、秋谷さんを陥れようとかそんなんじゃなくて……な、尚にーちゃんにかまって欲しかったからで……ほら、困ってる子にはすごく優しかったから…」
 あたふたと言い訳を始める麻里絵を見つめたまま、世羽子がちょっとため息をついた。
「……一応女の子だったから、年上の男の子2人に向かっていくのは勇気がいったわ」
「あ、あの時は……ありがとう…」
「いじめっ子から助けてあげて、しかも泣きながら道がわからないって言うから尚斗の家の近くまで送ってあげて……その挙げ句に、『この人がいじめるの…』ですもんね」
 皮肉の棘を混ぜ込みながら、世羽子がしみじみと呟く。
「だ、だだだからアレは…」
「別に気にしなくて良いのよ……ただ、私は椎名さんがやったことを一生忘れないけどね」
 にっこりと微笑みながら世羽子。
「……」
「三つ子の魂百までとはよく言ったモノよね……この数週間でそれが良くわかったわ」
「そ、そこまで言わなくても…」
 世羽子がすごい目つきで睨み付けたので、麻里絵は慌てて口を閉じた。
「まあ、椎名さんをいじめるのが目的じゃないからそれはおいといて…」
 世羽子はちょっと言葉をきり、腕組みをして壁にもたれた。
「椎名さんの部屋……電化製品はいくつあるの?」
「……はい?」
 麻里絵がきょとんとした表情を浮かべた。
「え、えっと……何の話なの?」
「いいから……いくつあるの?」
「し、CDラジカセと…ドライヤーと、電気スタンドと、エアコンと…」
「……基本的に、自分が快適に過ごしたり楽をするためにそれはあるモノよね?」
「そ、そう…です」
 コクコクと頷く麻里絵……話の流れについていけないのと、世羽子に対する後ろめたさがいつも以上におどおどとした態度をとらせている。
「それ、全部同時につけたらどうなると思う?」
「ぶ、ブレーカーが落ちます…」
「そう……誰かが楽をすると、その分どこかに負担がいく……そういうモノなのよ」
 世羽子はちょっとため息をつき、言葉を続けた。
「それ…人間も同じだからね」
「え?」
「この人といると楽でいられる……それって結構、自分が楽なだけで、相手には負担になってるって事多いわよ」
「……」
 世羽子はちょっと眉をひそめ、視線を足下に落として呟いた。
「この前の……私が尚斗に言ったことだってそう。あれは……言ってみれば、私が楽になりたかっただけ……その分、尚斗にとっては負担が増えたかもしれないし」
 麻里絵はちょっと俯き、ぽつりと呟いた。
「……考え過ぎじゃないですか?」
「かもね……でも、一ノ瀬さんがあなたにとって友達なら、そのぐらい考えてあげなきゃいけないんじゃないかしら」
「……」
「気付いてない……とは言わせないわよ。『太っちゃうから』で納得する尚斗は尚斗で問題だけど、気付いてるのに放置しておくのはもっと問題よね」
「わ、私は…」
「友達なんでしょ?」
 世羽子はちょっと肩をすくめて言った。
「それとも、壊れたら電化製品のようにただ捨てるだけなの?」
 ぱんっ。
「……ぁ」
 自分がしたことに気付き、麻里絵は慌てて手を引っ込める。
 そして世羽子は、微笑を浮かべて呟いた。
「……それ、仮面じゃなくて素顔だって思っていいのね?」
「……はい」
「そう……なら、後は自分で考えてなんとかしなさい」
 そう言って、世羽子は麻里絵に背を向けた。
「あ、秋谷さん…」
「……なに?」
 振り返らずに答える世羽子。
「わ、私……1人で?」
「あなたねっ!」
 世羽子はまなじりを吊り上げて麻里絵を睨み付けた。
「自分で何もしないうちに他人を頼るのはやめなさいっ!」
「で、でも…」
 世羽子は怒りを鎮めるようにちょっとため息をつき、言った。
「じゃあ、例えば私なり尚斗なりが問題を解決したとして……また同じ事が起こったらあなたはどう対処するつもりなの?その時に、私や尚斗があなたの側にいるとは限らないのよ」
 麻里絵はちょっと俯き、唇を噛んだ。
「もちろん、向き不向きや、可能不可能はあるけど……あなた、まだ何もしてないじゃない。他人に頼る以前の問題でしょ」
「……ゲームじゃないから」
 麻里絵が、ぽつりと呟く。
「やり直しなんて出来ないのに……失敗したらどうするの?」
「失敗は失敗ね……受け入れるしかないわ」
「そんな…」
「……友達を裏切るか、自分を犠牲にするか……友達をそこまで追いつめてしまうのは決して友情なんかじゃないわよ」
 世羽子は、どこか自嘲気味に吐き捨てて再び背を向けた。
「ぁ……」
 麻里絵が呼び止める間もなく、世羽子はその場を立ち去った。
 
「……さて、と」
 とりあえず尚斗から貰った弁当を素早く平らげ、紗智は屋上の手すりに背中を預けて空を見上げた。
「……てんぱってるのはわかってるけど」
 我慢しようと思ったらいくらでも我慢できる自信はあるし、我慢しないと決めたらとことんまで自分本位に行動する自信もある。
 つまるところ……
「……どうしたいのかな、私」
 呟きと共に吐き出された白い息が、冬の風に吹かれて消える。
 きーんこーんかーんこーん……
 4限目の始まりを告げるチャイムが鳴り響く……が、紗智は空を見上げたままその場から動けないでいた。
 
「……しかし、水無月先生も苦労したんでしょうねえ」
 昼休みの中庭で、冴子と2人。
「苦労した……と言うより、ほとんどの人が水無月先生の言い分を認めてくれないって部分のストレスでしょうね」
「いやあ……俺は信じますよ」
 あの人ならそのぐらいのことはするだろうと、尚斗は小さく頷きながら呟く。
「多分……途中で諦めて、自分の中に抱え込み続けたんでしょうね」
 ふ、とあることに気付いて尚斗は冴子の顔をじっと見つめた。
「あら、口説いてくれるの?」
「そうじゃなくて……冴子先輩は、何故知ってるんですか?」
「知ってるって……何を?」
 冴子がちょっと微笑む。
「いや……ほら、昨日の件とか」
「確か言ったと思うけど……」
 冴子はちょっと首を傾げてみせてから言葉を続けた。
「私にとってね、興味深い人間は観察対象なの……キミもそうだし、藤本先生もそう」
「……はあ」
「麻里絵は……そろそろ観察対象から外れそう」
「と、いうと?」
「上手く言えないけど……こう、恐ろしく複雑に屈折してた部分が大分ほぐれてきたみたいだから…」
 残念無念、とばかりに大きくため息をつく冴子。
「……青山はどうですか?」
「彼はちょっと……」
 冴子が微苦笑を浮かべた。
「興味深くはあるけど、心の壁が厚すぎるから……一言で言えば不可能ね」
「なるほど」
 尚斗はちょっと頷き、空を見上げた。
「なんというか……頭がいいってのは、それはそれで大変なんでしょうね」
「そうね、見たくないときは目をつぶればいいけど、思考を停止するのは簡単じゃないから…」
 冴子の言葉を聞いて、尚斗はちょっと笑った。
「青山は、酒を使うって言ってましたけどね」
「お酒?」
「酒に酔うと、ちょっと思考が鈍るらしいです……たまに、そうやって思考を止めたくなるんだそうで」
「ふうん…」
 冴子は微笑み、尚斗の顔を下から覗き込むように見上げてきた。
「写真、撮ろうか?」
「は?」
 あんまりさり気なかったので、尚斗が言葉の意味を理解するのにちょっと時間がかかった。
「あ、え…撮るんですか?」
「ちょっとね……機械任せでキミの写真を撮りたくなったの」
 と、冴子がスカートのポケットから取りだしたのは使い捨てカメラ。
「……最初からその気でしたか?」
「ふふ…ご想像にお任せするわ」
 そう言って、冴子は無造作にカメラを構えた……のだが。
「……機械任せってのはそういう意味ですか?」
「そういうこと」
 冴子はちょっと頷き、カメラのファインダーをいっさい覗き込まずにカシャカシャとやり始めた。
「……なんか、俺が映ってないのもありそうですね」
「そうね」
 まるで他人事のように答えながら、冴子がちょっと首を傾げる。
「キミって……顔を作らないね?」
「へ?」
「……少し、羨ましいかな」
 ため息混じりに呟き、冴子はカメラをポケットにしまった。
「……キミに、お客さん」
「はい?」
 尚斗は肩越しに後ろを振り返った。
「お、お邪魔…します」
 ゆっくりと、頭を下げる御子がそこにいたり。
 
「あ、有崎さんは…九条家のことをご存じでしょうか?」
「いや……でも、そういうって事は結構有名なんだろね」
 努めて軽く答えながら、御子が『私の家のこと』と言わずに『九条家のこと』と言ったことがひっかかった……それは、以前気にかかったことと同じで。
「九条家は……華道の宗匠と言いますか…」
 御子は尚斗にちょっと視線を向け、別の言葉で言い直した。
「家元なんです…」
「……流派としては、結構大きかったりするわけだ」
「……はい」
 御子はちょっと俯き……しばらくしてちょっと深呼吸をした。
「九条流の…その、家元は血縁によって引き継がれる決まりがありまして…」
「御子ちゃん、ストップ」
「はい?」
 尚斗は意識して優しい視線を御子に向けて言った。
「多分……御子ちゃんなりの考えも、苦しみもあるんだと思う」
「……」
「でも……その続きは、それを話して良いか弥生に聞いてからにした方がいい」
「弥生おねえさまは……多分」
 そう呟きながら、御子は力無く首を振った。
「ああ、俯かない俯かない…」
 ぽんぽんと御子の背中を軽く叩き、尚斗は温室内を見渡した。
「ほら、植物って世話する人の気持ちが分かるって言うじゃない……御子ちゃんがそんなだと、しおれちゃうよ」
「そ、そう…ですね」
 御子がぎこちなく微笑んだ。
「それと…」
「それと…?」
「多分、弥生も心配すると思う……御子ちゃんが弥生を心配してると同じように、弥生も御子ちゃんのことを心配してるだろうから」
 御子はちょっと尚斗をみつめ、ゆっくりと頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「いや、別に礼を言われる筋合いは…」
「……そんなことありません」
 頭を下げたまま、御子がぽつりと呟く。
「有崎さんは…私に水をくれましたから」
「……みず?」
 御子は顔を上げて微笑んだ。
「私……おねえさまともう少し話をしてみようと思います」
「ふむ、頑張れ」
 御子がちょっと顔を赤くして、尚斗の顔を見上げてきた。
「……どうしたの?」
「あ、あの…その…頭を…なでていただけませんか?」
「え…いいけど」
 尚斗が撫でやすいようになのか、ちょっと下げられた御子の頭に手を乗せて撫でてやる。
「……有崎さんにこうしてもらうと、なんか元気が出てくるような気がするんです」
「そ、そうなんだ……」
 尚斗がちょっと首を傾げた瞬間。
「危なああぁぁいっ!!」
 わざわざ声をあげながら尚斗の横腹に突進してくる小さな物体。
「こんな狭いとこでっ」
 御子の頭から手を放し、尚斗は結花の勢いを殺しつつなんとか周囲の植物を傷つけないように受け止めた。
「お、お前なあ……」
 何か一言言ってやろうとした瞬間、結花は尚斗の手を逃れて御子の元へ。
「九条さん、この人に頭なんて撫でさせてると赤ちゃん出来ますよ」
「赤ちゃん…」
 御子は口元を手で隠し、真っ赤になって尚斗の顔を見た。
「できないって…」
「そ、そうですよね…」
「できるんですっ」
 再び、御子は頬を赤らめて尚斗を見た。
「いや、できないって…」
「有崎さんも有崎さんですっ、女子高生の頭撫でるなんて馬鹿にしてるのと同じですよっ!?」
 お前が言うか…と尚斗がツッコムより早く、御子がちょっとムッとした表情を浮かべて言った。
「わ、私は…馬鹿にされてるなんて思ってません」
 結花は御子と尚斗に視線を向けた。
「むむむ…」
 結花は尚斗に近寄り、腹の部分をぽかぽかと叩きはじめた。
「よ、よくわからんが落ち着け…」
 結花の頭に手を乗せて、なだめるように撫でてやる。
 そんな結花の様子をじっと見つめていた御子は、小さく頷いてからとてとてと尚斗に近寄り、結花がしたようにぽかぽかと尚斗を叩きはじめた。
「何故御子ちゃんまでっ!?」
 尚斗は仕方なく、御子の頭にもう一方の手を乗せて撫でてやるのだった。
 
「……どうした有崎。働いても生活が苦しくなる一方なのか?」
「は?…あ、いや…」
 尚斗は視線を自分の手のひらから青山に向けて呟いた。
「俺の手って……なんか妙なモンでも放出してるのかなと」
「……してるかもな」
「してるのかっ!?」
 尚斗は食い入るように自分の手のひらを凝視する。
 そんな尚斗を横目で見ながら世羽子は小さくため息をつき、その後ろの席で安寿は『ひ〜とり、ふ〜たり、3人4人〜♪』などと、口ずさんでいた。
 
 
                    完
 
 
 2月8日の話を、2月8日に書いているのはまずいんじゃなかろうか。(笑)
 そうだ、これは日記なんだ…日記だから1日1話のペースで書けて当然だよね。(笑)
 
 それはさておき、御子とちびっこをならべて頭を撫で撫で……好きな方にはたまらないシチュエーションかと思いますがいかに。

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