ゴロロロ…
「……冬の雷ってのも珍しいな」
 雨の勢いは多少衰えてきたようだが、空を覆う雨雲はその濃さを増し、昼だというのに日暮れを思わせるほど。
「嵐の予感ですぅ…」
「……唐突に現れるとびっくりするんですが、安寿さん」
「だったら、少しは驚いたリアクションを取って下さい…」
 安寿は何故か残念そうにうなだれた。
「で、まさかとは思うけど『嵐の予感ですぅ…』という台詞を言うためだけに登場したワケじゃないよな?」
「はい、有崎さんに一言忠告をと思いまして…」
「……忠告ですか?」
 安寿は小さく頷き、真剣な表情で言った。
「今日は、このままおとなしく帰った方が良いと思います〜」
 刹那の沈黙を経て、尚斗はおそるおそる口を開いた。
「……それは予言ですか?」
「いいえ、ただの勘なんですけど〜」
 にっこりと……天使の微笑がなぜか尚斗の脈拍を早くする。
 もちろん、恋だの愛だのといった甘ったるいモノではなく、どちらかというと背中に冷たい汗が流れる方面のモノだ。
「……ええとですね、藤本先生に呼び出しを食らってるのですが」
「それはブッチして、帰った方がいいです〜」
 真剣な表情で、歌うように。
「ちなみに……今日このままおとなしく帰ったとして、来週の月曜日あたりに俺の人生破綻をきたしたりしませんか?」
「んー、2日後みたいな遠い未来についてはちょっとわかりません…」
 いや、申し訳なさそうに呟かれても。
「とにかく、今日、この学校で、俺がいると危険?」
「危険というか何というか…ろくな目に遭わない感じです」
「ああ、その程度なんだ…」
 尚斗はほっと胸をなで下ろした。
「ま、そのぐらいなら平気……心配してくれてさんきゅ」
「……」
 安寿はちょっと困ったような表情を浮かべて、胸の前で……
「何故、十字を切るんですかっ!?」
「いえ、何となく〜」
 ゴロロロ…
 遠くで雷が鳴った……
 
「ろくな目に遭わないと言われてもな…」
 まず尚斗の脳裏に浮かんだのは宮坂だったのだが、これは災害みたいなモノで回避しようと思って回避できるモノでもない。
「それ以前に、安寿の勘って当たるのか……?」
「あら、尚斗じゃない」
「ん?」
 反射的に振り向いた……が、確かめるまでもなく、この学校で尚斗を呼び捨てにする女性は1人しかいない。
「こんな所で暇つぶし?」
「よお……って紗智、お前部活とかは?」
「言わなかったっけ?私、インターネット部の部長だから」
 少し誇らしげに紗智は胸を張った。
「おいおい、それじゃ会話になってないぞ」
「早い話、部長だからやりたい放題ってわけ……くふふ」
 ちょっとばかり腹黒さをかいま見せる笑みをこぼし、紗智はじろじろと尚斗を眺め回し始めた。
「その、人を値踏みするような視線やめれ」
「気にしない、気にしない……くふふ」
 尚斗はため息をつき、話題をちょっとばかし変えることにした。
「しかし、インターネット部って…具体的には何をするんだ?どう考えても、『部』にそぐわないイメージがあるんだが」
「くふふ」
「もしもし?」
「有崎尚斗君、ちょっと頼みがあるんだけど」
「お前、なんとなく宮坂と似てるな」
「……そっか、もう1人は宮坂君に」
 紗智の目が怪しく光る。
「で、頼みって…」
「うん……ちょっとした小説を音読…」
「ほも小説お断り」
 きっぱりと。
「ほもじゃなくてっ、ボーイズラブって言うのっ!」
「ものは言いよう……という、いい例だと思うが」
「ぜんっぜん、違うッ!読めばわかるから」
「……積極的にはわかりたくないです」
「えー、男子校なんて身近に見慣れてるんでしょ?」
「独断と偏見でモノをいうのはやめてください」
「女子校ってだけで、妄想と欲望を迸らせる男どもと同じ事やってるだけだけど?」
「……それに関しては否定しない」
「うんうん、認めるところはきちんと認めるのが尚斗のいい所よ…」
 紗智は満足げに頷き、ちょっと翳を感じさせる笑みを浮かべて呟いた。
「……現実を認めない人間って多いもんね」
「なんだ……他にいいたいことがありそうな口ぶりだな」
「あはは、察しがいい男って嫌いじゃないわ」
 紗智は腰に手を当てて、力の抜けた笑みを尚斗に向けた。
「麻里絵のことだけど……」
「言ってみろよ」
 ちょっと言いにくそうに口ごもった紗智を促した。
「麻里絵も、みちろーも……遠恋が成立するタイプじゃないから。私から見れば2人はもう別れる寸前だし」
「……」
 俯いていた紗智には、尚斗の表情の変化が見えなかったかも知れない。
「つき合え……なんて言えた義理じゃないけど、麻里絵の心を……軟着陸させてくれないかな?」
「みちろーのフォローは?」
「みちろーはみちろーでっ!」
 紗智ははっと口元を押さえ、また例の力の抜けた笑みを浮かべて言葉を続けた。
「男の子だもん……1人で立ち直るぐらいじゃなきゃ」
「……手厳しいな」
「まあね。私、女の子だから……じゃあ、考えておいてよ」
 そう言い残し、紗智はその場を去った。
 紗智の背中が見えなくなってからしばらくして、尚斗は呟く。
「『別れる寸前』……ね」
 『私、みちろー君と……つき合ってた』あの日、麻里絵は確かにそう言った。
「さて、現実を認めていない人間は……誰なのかな?」
 
「……まだ1時半か」
 約束の時間まで後1時間。
 兎は寂しいと死んでしまうらしいが、やることがないと死んでしまう動物は何だったか……などと考えていると
『儂は種を蒔くよ…』
『一昨年も、去年も、種を蒔いてもダメだったじゃないか。この凍てついた大地に種を蒔いても無駄なんだよきっと』
 尚斗は思わず立ち止まった。
『それでも……儂は種を蒔こう』
『どうして?』
『……儂は』
『ダメッ!そこの台詞、一拍速い。いい、ここを舞台だと思って……客席に声が届くまでの僅かな時間差を考慮しなきゃ……』
「……演劇部か」
 尚斗はちらりと教室名プレートに視線を向けた。
 第2視聴覚室とあるが、多分演劇部の稽古に使われているのだろう。
「……しかし、随分とレベルが高そうだが」
「知った風な口を…」
 足下から(笑)声がした。
「台詞だけで素人の足を止める……そりゃ、どう考えてもレベルが高いだろ」
「当たり前です」
 怒ったように、それでいて誇らしそうに結花は言った。
「ウチの演劇部はイロモノなんかじゃないですから」
「……?」
「……何でもないです。忘れてください」
 結花はプイッとそっぽを向いた。
「公演が近いのか?そういや、確かバレンタイン公演があるとか聞いたような…」
 結花の視線が再び尚斗を向いた。
「一応、季節毎に養護施設なんかでお芝居をしたりするんです……これは、そっちの方の稽古ですけどね。これが終わって、やっとバレンタイン公演に取りかかることができるんですけど……」
 微かに、結花の表情に暗い何かが走った……が、尚斗は敢えてそれに気付かないフリをした。
「そっか……大変なんだな」
「好きですから」
「好きですから……か。えらいぞちびっこ、誉めてやる」
 ぐしぐしと掻き回すように結花の頭を撫で回す……髪のボリュームのせいか、見た目はともかく、本当にちっちゃな頭の感触は尚斗にある種の懐かしさを呼び起こす。
「てい」
 結花の手が尚斗の手を払いのけた。
「その癖、すっごく失礼だと思うんですけど」
「……すまん。何というか、絶妙の位置にあるもんだからつい」
「流星パンチ」
 結花の左拳が尚斗の腹に吸い込まれた。
「……」
「……いたぁーい」
「鬼タックル以外はからっきしか……つーか、殴り方からして間違ってるぞ」
「この状況で、かける言葉がそれだけですか!?」
 涙目になった結花の手首を持ち、指先で筋の部分を触診していく。
「痛い、痛いですってば…」
「動くな……って、ほい」
 コキッ、と結花の手首が小気味よい音をたてた。
「偶然テーピングを所持しているから巻いといてやるが、2日間安静な」
「どういう偶然ですかっ!?」
 ガラッ!
「ちょっと!稽古の邪魔になるからよそで……って、結花ちゃん?」
「あ、夏樹様…」
 目に涙を浮かべた結花の手首を掴み、何やら怪しげなテープを巻き付けようとしている男子生徒。(夏樹ビジョン)
 夏樹の掌がノーモーションで尚斗の顔面に伸びた……が、間合いが僅かに遠く、かわすまでもなく尚斗には当たらない。
 が、それはフェイク。
 尚斗の視界を掌でふさいだ瞬間、夏樹の長い足は既に尚斗の股間めがけて蹴り上げられていた。
 
「あ、あの、大丈夫……じゃないよね、やっぱり?」
「ど、どこで……どこで、そんな高度なフェイントを…」
 背中を丸めたまま廊下に転がり、全身に嫌な汗を流しながら尚斗が呻く。
「あ、えっと…護身術の先生に…」
「夏樹様のご実家は名家ですから、ぬかりはありません」
「た、確かに……見事としか…」
 結花の手首にテーピングテープを巻こうとして体勢が崩れていたのは確かだが、体勢が崩れていなかったとしてもかわせたかどうか怪しいほどの技のキレとタイミング。
「えっと……背中とか、さすった方がいい?」
「夏樹様、これは時間が解決するのを待つしかないです」
「そうなの?」
「ち、ちびっこの…言うとおり……なんだけど…」
「と言うわけだから稽古に戻りましょう、夏樹様」
「え、でも…」
 膝をカクカク震わせながら、壁に背中を預けてなんとか尚斗は立ち上がってみせた。
「……大丈夫…だぞ」
「……そうは見えないけど」
「夏樹様、あの人のプライドを一応尊重してあげてください」
 尚も渋る夏樹を教室内に押し込むと、結花は尚斗に向かってテーピングの巻かれた左手首を上げ、申し訳なさそうに頭を下げた。
 
「……ふう、やっと落ち着いたぜ」
 男の、男による、男だけの地獄の苦しみを乗り越え、尚斗はほっと一息ついた。
 どうやら30分ほど苦しんでいたようで、見れば時刻は2時を少し回っている。
「さて……問題はアレだな」
 さっきの出来事が、『ろくな目に遭わない感じ』とやらの本命なのか、それとも前菜にすぎないのか。
「あ、尚斗くーん」
「ああ、麻里絵か…」
 飼い主を見つけた犬のような表情で、麻里絵は尚斗に向かって駆けてきた。
「……どうしたの、何か顔色が」
「聞くな」
「え、でも…」
「聞くな」
「……はーい」
 麻里絵はちょっと釈然としない感じで頷いた。
「部活、終わったのか?」
「ううん……元々、自由な部だから全員揃ってみたいな日はほとんどないの。私は、ちょっと休憩に…」
 ゴロロロ…
「きゃっ」
 麻里絵が首をすくめるようにして可愛らしい悲鳴を上げた。
「……雷、嫌いだったっけ?」
 ピッシャァァンッ、ゴロロロッ!
「きゃ、今落ちたっ!絶対落ちたっ!」
 キャーキャーと騒ぎながら、尚斗の腕にしがみつく。
「いや、随分遠そうだし大丈……」
 ドォーン、ゴロロッ!
「大丈夫じゃないっ!絶対大丈夫じゃないようっ!」
 麻里絵は既に涙目で、ぎゅうううっと尚斗の身体を抱きしめる。
 ふ、と首筋のあたりに突き刺さるような視線を感じて、そちらを振り向いた……が、そこには誰もいない。
「気のせいか…」
 
「…なんとなく空が明るくなってきたような」
 さっきの雷が雨雲を形成していた中心部だったのか、朝から降り続いていた雨も、雨足が随分弱くなってきた。
 そして時刻は2時20分。
 ちょっとばかり早いが、そろそろ教官室とやらに向かいかけ……尚斗は足を止めた。
「……教官室って、どこよ?」
 さっき麻里絵に聞いておくんだったと尚斗は悔やんだが、今さらそれも詮無きこと。
「誰か通りすがりを…」
「よお、有崎」
「さっさと帰れ……じゃなくて、いいところで」
「あん?」
 宮坂は怪訝そうに尚斗を見た。
「お前ならわかるだろう。教官室ってどこだ?」
「そこの、渡り廊下を抜けた先に別館があるだろ、大体の先生はそこだよ。ドアにプレートがついてるから、誰でもわかる」
「藤本先生もか?」
「……ふふ」
「なんだ、その不気味な笑みは?」
「いや、何でもないさ有崎尚斗君」
 その瞬間、尚斗は宮坂の背後に回って首を締め上げた。
「な、何をする…?」
「お前が俺をフルネームで呼ぶときは、大抵ろくな事を考えてないからな……さっさと吐けよ」
「き…綺羅先生の教官室は別館じゃなくて……北校舎の1階に…」
「……えらく素直だな、宮坂幸二君」
「おいおい、俺とお前の仲じゃないか…」
「だから怪しいんだ」
 さらにグイッと首を締め上げる。
「ふふ、お前に負けたよ……教官室は学年で別れててな、綺羅先生は2年だから南校舎の一階、理事長室の近くだ」
「了解……」
 宮坂が遠い目をしながら呟いた。
「早く行かねえと遅れるぞ…」
「うむ、さんきゅー」
 
 コンコン。
「返事がない」
 宮坂の言うとおり……そこに至るまでの経緯はともかく、綺羅の教官室は理事長室から目と鼻の先にあった。
「有崎尚斗、入ります…」
 ガチッ。
「……鍵かかってるし」
 さてどうしたもんだか……と、ドアに背中を預けてため息をついた。
「お祖母様、生徒を待たせてますので私はこれで…」
 声のした方に目をやった。
 開いているのは理事長室のドア。
「学校では理事長先生と呼びなさい、綺羅」
「はい、理事長先生…」
 部屋の外で一礼し、ドアを閉じたのは……やはり綺羅だった。
 そして、教官室の前で待っている尚斗を見つけてたおやかな笑みをこぼす。
「ごめんなさい、少し用事がおしてしまって…」
 謝罪しながら教官室のドアの鍵を開け、綺羅は尚斗を中に招き入れた。
「えっと……内緒の話だったなら忘れる努力をしますが、さっき、理事長先生にお祖母様とかなんとか…」
「あら」
 綺羅はちょっと驚いたように顔を上げ、そして柔らかく微笑んだ。
「別に、秘密でも何でもないことです…」
「……って事は、この学校は藤本先生の?」
「綺羅」
「は?」
「できれば藤本先生ではなく、綺羅と…お呼び下さいな」
「年上の、しかも先生を呼び捨てにできるほど根性座ってませんので」
「今、冒頭に非常に失礼な単語を使用されたような…」
「……ほぼ同年代の女性であり、先生を呼び捨てにできるほど度胸座ってないです」
 尚斗が言い直すと、綺羅は満足そうに微笑んだ。
「さっきの質問の答えですが……私、分家筋にあたりますので、この学校を継ぐ継がないという問題からは基本的に自由です」
「あ、そうですか……すいません、立ち入った話題を振って」
「いいえ、別に」
 綺羅は急に立ち上がり、スタスタとドアに向かって歩いていく。
「…?」
 そして、白い指先でドアノブに伸ばし、カチリ、と音をたてて鍵をかけた。
「さて…」
 当然のことをしたという感じの綺羅に向かって、尚斗は椅子を倒さんばかりの勢いでから立ち上がった。
「待ってください!」
「どうか…しましたか?」
「何故、今、この状況で、ドアに鍵をかける必要があるのですかっ!?」
 噛みつかんばかりの尚斗の剣幕をいなすように綺羅は視線を逸らし、そして小さく頷きながら呟いた。
「生徒のプライバシーを護るのは、教師としてのつとめですから」
「今考えませんでしたかっ!?」
「尚斗君の気のせいですわ」
 にっこりと、その微笑みが、尚斗の背筋に冷たいモノを走らせる。
「お茶、入れますね…」
 じりじりとドアに向かって後退を始めた尚斗を制するように、綺羅がこれ見よがしに急須に湯を注ぎ始める。
 そして、ポケットから紙包みを取り出すと
「お砂糖はいくつ?」
「お茶に砂糖は入れません……っていうか、その紙包みはなんですかっ!」
 尚斗のツッコミを無視し、綺羅は紙包みの中身をお茶の中に放り込む。
「さらさらさら〜っ」
「すいません、今日は帰らせていただきます」
 尚斗は礼儀正しく一礼し、ドアの鍵を開けて……開けようとしたのだが、びくともしない。
「何故にっ!?」
「尚斗君……私の顔に見覚えはない?」
 にこにこと微笑みながら、綺羅が近づいてくる。
「え…?」
「ようく考えてね……見覚えはない?ある?」
「ない…筈ですが?」
「そう…」
 綺羅は、しゅんとうなだれた。
 子供がやるような仕草を、綺羅のような美人がやると妙な色気が漂う。
「話は終わりです……」
 綺羅はそう呟くと尚斗の脇をすり抜け、どういう仕組みになっているのか鍵をひねってドアを開けた。
「……えっと?」
「帰っていいですよ」
「あの…授業をサボったお小言とか」
 おそるおそる尋ねた尚斗に向かって、綺羅はさっきとは違う澄んだ笑みを浮かべた。
「体調の悪い女の子を助けてあげてたんでしょう……それは怒られるような事じゃないと思いますけど」
「え、あ……それなら、失礼します」
 お魚をくわえた野良猫のようにするりとドアをくぐり抜けた尚斗の手を綺羅が掴んだ。
「でも、悔しいから罰は与えます」
「はい?」
 綺羅の唇が尚斗の右頬に…
 その瞬間、左右から雄叫びのような怒声が巻き起こった……もちろん、その中に宮坂の姿もある。
『許せん…コロセ』
 などと物騒な事を呟きながら男子生徒がぞろぞろと近づき始めた瞬間、その場の雰囲気にそぐわない脳天気な声で宮坂が呟いた。
「あれ?有崎の頬にしたら……綺羅先生と間接キスだよな?」
 ざわっ!
 周囲の雰囲気が一変した。
 まず、宮坂を。
 次に綺羅を。
 そして、常軌を逸した目をして迫り来る男子生徒の群を。
 尚斗は見て、理解した。
 『罰』の意味を。
 もちろんそこに至った『罪』が何なのかわからないのだが、今の尚斗にそれを考える余裕はない。
 
「……しくしくしく」
 十数人までは撃退したのだが、最後は多勢に無勢……大勢にのしかかられて次から次へと野郎どもの唇が右頬に。(笑)
「安寿……忘れたい記憶があるんですが」
 布団にくるまったままぶつぶつと呟き、尚斗は枕を涙で濡らすのだった。
 
 余談ではあるが、この1月19日の騒動はインターネット部を中心とした一部の女子生徒の間で語り継がれ、当時の部長が撮影した画像と共に伝説化していくのだが……もちろん尚斗はそれを知らない。
 
 
                  完
 
 
 やっと、登場人物が揃って……きたかな。(笑)

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