ずざざぁー、ばちばちばち…
 カーテンを開けると、冬とは思えない大きさの雨粒が激しく窓を叩いていた。
「……カメハメハ大王っていいよなあ」
 尚斗はまだ暗い窓の外を眺めながら、お米の国の陰謀で滅ぼされてしまった南の島の国の伝説の王様にしばらく思いを馳せた。
 
「……有崎ぃ、これが女子校、コレが女子校なんだよぉっ!」
 教室に入るなり、涙にむせぶ宮坂にからまれる。
「お前の地球語は非常にわかりにくいんだが…」
「何を言うか有崎っ!雨の日の!あの、湿気のこもった男子校の匂いを思い出せっ!」
 濡れた制服、濡れたズボン、濡れた靴下……むせ返るような湿度の高さにくわえて、不快指数を上昇させる汗の匂い。
 それがこの教室はどうだ。
「……そう言われると、確かに」
 目から鱗が落ちた。
「だろ!?全然違うだろ!?」
 我が意を得たりと大きく頷きながら男泣きにくれる宮坂の肩を叩き、尚斗は言った。
「しかし……気持ちは分からんでもないが泣くな」
「これが泣かずにいられるかっ!」
 宮坂はグッと拳を硬く握りしめ、ちょっと危ない目つきで吼えた。
「俺はっ!男子校プレハブ校舎爆破計画をここ立案すっ…」
 宮坂の両サイドで鈍い音が炸裂する。
「……ホントに、成長しねえなこいつは…」
 尚斗がため息をつきながら右手をひらひら振ると、青山が同じように右手を振りながら頷いた。
「まったくだな…爆破なんてめちゃめちゃアシのつきやすい手段で計画もへったくれもないだろうに」
「……あ、青山?」
「……冗談だ」
 何故か青山の目は笑っていない。
 青山個人がこの女子校に執着する理由はない……と、尚斗は思っているのだが。
「大体、そんなコトしなくても基礎工事の段階で生コンに細工して、市なり県なりの土木課にタレ込み電話すりゃ間違いなく工事は3ヶ月ほどストップするしな」
 にやり……という擬音がここまで似合う笑みを浮かべることができる男もかなり珍しい。
「あ、青山先生…?」
「冗談だ」
「そ、そーか…冗談か。それにしてはやたら実現可能な内容だったような気がしたが」
「ま、あの工事にも胡散臭い部分が多いから色々調べてる、心配するな…」
「は?」
 青山は自分の席に座りながら、何でもないような口調でさらりと言った。
「有崎がここにもっといたいと思ったなら、俺がどうにかしてやるよ」
「……はい?」
「……冗談だよ」
 そう呟くと、青山はちょっとだけ笑って見せた。
 
「……にしても、すごい雨だな」
「そうね、夏の夕立みたい」
 ホームルームと1時限目の僅かな休み時間、麻里絵と2人して廊下側の窓から中庭を眺めながら。
「……この降水量が全部雪だったら、もっとえらいことになってるだろうな」
「え、えーと……確か積雪量の十分の一が降水量換算だったから」
 麻里絵は一旦言葉を切り、そしてぶつぶつと呟き始めた。
「……1時間20ミリとしても……1時間で20センチの積雪」
「……なんか、ピンとこないな」
「1日で約5メーター」
「そりゃすげえや……先週の大雪なんて目じゃないな」
「この校舎、2階まで埋まっちゃう…」
 まるでそこに雪が積もっているかのように、麻里絵は怖々と窓の下に視線を向けた。
「ここ、3階で良かったね…」
「いや、しみじみとそんなことを呟かれても困るんだが……?」
 尚斗の視線が、中庭の隅の小さな建物に向けられた……いや、正確にはこの雨の中傘にしがみつくようにしてその建物に向かう人物に、だが。
 雨の勢いが激しいとはいえ、傘がユラユラと不安定に揺れる様子がなんとも尚斗の神経に障った。
「麻里絵……あの建物、何だ?」
「温室……らしいよ。昔、園芸部の活動がすっごく盛んだった時期があったらしくてその時に建てられたとか聞いたような気がするけど……」
「……あ、こけた」
「尚斗くん?」
「いや……ちょっと、まずいか…」
 そう言い残して尚斗はその場から素早く移動を始めた。
 
 とりあえず傘を……と理性が囁いたのだが、温室とやらの近くでうずくまったまま動いていない少女の様子にただならぬものを感じて、尚斗は制服のまま中庭に飛び出した。
「あたたた、寒いから雨が痛いっ…」
 と言うことは……と、尚斗は走る速度を上げた。
「おいっ、生きてるかっ!?」
 水しぶきを上げながら横滑りの要領で少女の傍らでストップして声をかける……が、無反応。
 口元から漏れる白い湯気にとりあえず呼吸をしていることだけはわかったが、頬のあたりがやたらと赤い。
「……うわ」
 指先が額に触れた瞬間、思わず引っ込めてしまうほどに。
 尚斗は少女の身体を抱え上げ、再び中庭を疾走する。
「急患ですっ!先生いますかっ!?」
「はい?」
 保健室のドアを開けて叫んだ瞬間、振り返ったのはお煎餅をくわえて目をぱちくりさせた女子生徒……上着の色から察するに3年生。
「この子、熱あるみたいで話し掛けても反応無し、意識は飛んでる。自発呼吸あり、脈は……ああ、まだ取ってなかった」
「ちょ、ちょっと落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるかあっ!」
 
「……で、落ち着いた?」
「まあ、何とか…」
 白いシーツにくるまり、女生徒が入れてくれた熱い茶をすすりながら尚斗は呟いた。
 あの後女生徒が保険医を呼び、万が一に備えて救急車で病院にって事でばたばたと事態は慌ただしく推移し……そして、最後には全身ずぶぬれの尚斗と、なんともつかみ所のなさそうな女生徒だけが残されたわけで。
 ついさっき1時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り終えたところだから、尚斗が保健室にやってきてから約50分と言うところか。
「なんか、あの娘、学校に来る前から風邪っぽかったらしいわね……こればっかりは本人に聞かないとなんとも言えないけど」
「風邪っぽいって……すごい熱だったような?」
「そりゃ……冬の雨に濡れた手で触れば、普通の体温でも……ほら」
 女生徒は尚斗の手を取り、妖しく微笑みながら自分の額に押しあてた。
「ふふ、キミの手、冷たい…」
「……なるほど」
 コレといったリアクションも見せず、手を振り払うこともせずに空いている方の手で茶をすすった尚斗を見て、女生徒はどことなく興味深げな視線を注ぐ。
「どうしました?」
「いえ…」
 女生徒は尚斗の手を掴んだまま、再び口を開いた。
「あなたの話を聞いた限りじゃあ、雨に打たれてた時間は短かったみたいだし……多分、基本的にはただの風邪ってことで問題はないと思うけど」
「……ただの風邪でも、人は死にますけどね」
「……」
 ちょっと虚をつかれた感じで黙った女生徒にちらりと視線を向け、尚斗は掴まれていた手を引き戻しながら呟いた。
「……ものの例えッスよ」
 そして、あたりに漂った気まずさを紛らわせるように茶をすする。
「……えっと、キミの名前は?一応規則で、保健室を利用した人間の氏名を記入しなきゃいけないんだけど?」
「あ、2年の有崎尚斗っス……って、自分で書きますよ」
「そう?じゃあ、これ…」
 そう言って女生徒は机の上に置いてあった紙を尚斗に渡した。
「……そういや先輩は何でここに?いたって健康そうに見えるんですけど?」
「ああ、心が病気なのよ。だから、ここで休憩してるの」
「はあ、サボりですか」
「端的に言うとそうかしら……お煎餅、食べる」
「有り難く頂戴します…」
 つやのある醤油煎餅をもらい、尚斗はガシガシかじってその香ばしさと歯ごたえを楽しんでからお茶をすすって至福の表情を浮かべた。
「やっぱ、お茶には醤油煎餅ですよね」
「……個人的にはゴマ煎餅も捨てがたいんだけど」
「いやいや、ゴマ煎餅は単独であじわうものですよ……というか、醤油の香ばしさをお茶で中和するというかですね…」
 何やら話の合う人間をやっと見つけたという感じに、女生徒はずずいっと身をのりだした。
「あらぁ?ひょっとして、駅前の……ちょっと裏路地に入ったところのお煎餅屋さんを知ってる?」
「千虎(ちとら)ッスか?あそこを知らずして、煎餅は語れないでしょう……」
 などと、マイナーな話題ならではの盛り上がりを見せかけたところで保健室のドアが開いた。
「尚斗君…あ、やっぱりいた…」
「あら、麻里絵…」
「えっ、冴子先輩……どうしてここに?」
 尚斗を挟んで見つめ合う麻里絵と女生徒。
「気分が乗らなかったから、ここで休憩中」
「サボりはダメです」
「もう、相変わらず真面目っ娘なんだから麻里絵は…」
 肩をすくめ、女生徒はため息をついた。
「麻里絵……お知り合い?」
「知り合いも何も、冴子先輩は写真部の部長さんなの」
 尚斗はちょっと首をひねり、麻里絵に聞いた。
「この人が写真部の部長なのはいいとして、麻里絵と知り合いになる必然性が見えてこないのだが?」
「あ、えーと……あはは」
 なんだか照れくさそうにあさってを向いた麻里絵の代わりに、冴子が答えた。
「それは、麻里絵は写真部員だから」
「……」
 カメラ片手にぶらぶらと散歩しながら、一瞬のシャッターチャンスに素早く反応して満足げな笑みを浮かべる麻里絵を想像しようとして、尚斗はブンブンと首を振る。
「……なんか、ひどく失礼な想像をされてるような気がする」
 ジト目で睨んできた麻里絵に向かって、尚斗は首を振った。
「いや、失礼な想像をしたんじゃなくて、失礼じゃない想像に失敗しただけだ」
「尚にーちゃんっ!」
「えっと……今度は私から質問、いいかな?」
「あ、どうぞ」
 麻里絵の怒りの矛先をかわしつつ、ごゆっくりどうぞといった表情で尚斗は冴子に振り向いた。
「じゃあ、遠慮なく…」
 冴子は尚斗と麻里絵を交互に見て、微笑みを浮かべながら言った。
「……2人の関係は?」
「5年前、生き別れになったおさななじみっス」
 冴子はちらりと麻里絵に視線を向ける。
「おさななじみです」
「ふーん…」
 冴子は生返事をしながらほんの少し目を細めた。
 
 2時限目の始まりを告げるチャイムと共に冴子と麻里絵は去り、尚斗は寒そうにシーツをかき抱いて1人寂しく過ごしていたのだが。
 2時限目が終わると、今度は麻里絵と青山がやってくる。
「……1時間目からサボったなと思ってたら、またお節介してたんだって?」
「またとは何だ、何を証拠に…」
「私、窓から見てたもん…」
 麻里絵の口調が微かに硬い。
 青山はそんな麻里絵の様子にちょっとだけ面白そうな視線を向けると、わざとらしく保健室の中を見渡した。
「……で、有崎がお姫様抱っこで助け出したお姫様とやらは?」
「救急車で病院直行」
「ああ、アレが……」
 救急車のサイレンの音を聞いていたのだろう、青山が曖昧に頷く。
「救急車って…そんなにひどかったのっ!?」
「さあ……念のためとは言ってたが、そのあたりは俺自身が部外者だし」
 などと話していると、麻里絵が思い出したように時計に目をやった。
「あ、3時限目始まっちゃう……2時限目、遅刻しちゃったんだから」
「俺のせいじゃないと思います」
「尚兄ちゃんのせいですっ!」
 麻里絵がこういう口調で話すときは、大抵怒っているときだ。
「大体、女の子抱えて走り回れるぐらい元気なくせに授業も出ないで保健室でゴロゴロ…」
「……あの制服を着ろと?」
 壁に掛かった制服から、タイミング良く滴が垂れた。
「……間違いなく風邪をひくな」
「えっと…私、体操服なら持ってるけど…」
「みそ汁で顔洗って出直してきなさい、麻里絵」
「うーん、やっぱり小さすぎるよね…」
「つーか、授業始まるんだろ?さっさと教室に戻んなさい」
「はーい…青山君は?」
「ああ、さっきから少し気分が悪いから休んでくよ」
 いけしゃあしゃあと応える青山をじっと見つめ、麻里絵はため息をついた。
「……もう」
 麻里絵が保健室を出ていくと、青山は尚斗に向かって手を伸ばしながら言った。
「……じゃ、家の鍵よこせ、有崎」
「うむ、持つべきものは友人だな」
 頷きながら青山の手に鍵をのせる。
「この雨だ……多少濡れるのは覚悟しとけよ」
「ま、コレよりはマシだろ」
 壁にかかった制服に目をやり、尚斗は苦笑を浮かべた。
 
「なんでそんなに急いでやってくるかな……しかも制服の替えを持ってくるとは」
「雨の中せっかく学校に来たのに、お節介やいた挙げ句に1つも授業に出なかったら馬鹿馬鹿しいと思ってな」
「……確かに」
 などと、雨の中だというのに尚斗の家から替えの制服を持ってさっさと戻ってきた青山と会話をかわしつつ、尚斗は自分の席に座った。
「おや?」
 左隣が空席。
「さっちゃんよ」
「さっちゃんゆうな」
「じゃあ、紗智……えーと、安寿は?」
「朝からお休みだけど?」
「ほほう…昨日の今日でお休みとは…?」
 ふと、視線を感じて反射的にそちらを振り返った。
「……」
「……おはよう、世羽子」
「……もう、4時限目なんだけど」
 呆れたように……だが、春の足音が聞こえてくるような口調に思えたのは気のせいか。
「……何故?」
「何故って言われても……尚斗が、自分の都合で勝手に遅れただけでしょう」
「……あれ?」
 ここは、こう……なんというか、返事も無しに目を逸らされるとか、絶対零度の視線なり微笑みなりのリアクションが期待される場面のような。
「尚斗、ひょっとして寝ぼけてる?」
 馬鹿にしたような、それでいてすこしだけ心配したような世羽子の口調と表情に、尚斗の意識が一瞬だけ中学時代に後戻りする。
 ぱちん。
「ちょっと、尚斗…」
「はい?」
 世羽子の手が、尚斗の目の前でうち合わされたようだった。
「……ああ、そう言うことか」
「いきなり惚けておいて、今度は自己完結?」
「いや、昨日の……世羽子だったのかなと」
 そう呟いて、尚斗は誰もいない左の席に視線を向けた。
 
「おーい、安寿さんやーい…」
 屋上に向かうドアの前で、ひそやかに。
 ちなみに今は4時限目の真っ最中……何のために学校に来たの?と、麻里絵の愚痴を聞きながら教室を抜け出してきたのだが。
「おーい、安寿ーっ」
「こいしや、ほーやれほー♪」
「……それ、若い子にはかなりピンポイントなネタだと思います」
「そうなんですか…」
 何故かひどく残念そうにうなだれる安寿が背後に立っていた。
「それはさておき安寿先生……世羽子の記憶をどうにかしたりしてないかね?」
 安寿は飼い主から褒美がもらえなかった犬のような表情を浮かべた。
「サービスのつもりだったのですが…」
「今すぐ戻しなさい」
「……」
「ゲームじゃあるまいし、ここで失敗した、じゃあ最初からやり直そう……じゃあ、ダメだろ?楽しいことや苦しいこと、辛いこと……そりゃ生きてりゃ色々あるだろうけどさ、俺としては『何もない』ってのが一番イヤなんだ」
「何もない……ですか?」
「俺の……じゃなくても世羽子も含めて、お互いの時間を否定するようなことはやめてくれ」
 安寿はちょっとだけ首を傾げ、口を開いた。
「忘れたいこと……って、ないんですか?」
「いや、だから……」
 尚斗はちょっと言葉に詰まり、そして上手く表現できないもどかしさを堪えながら言葉を続けた。
「俺は……自分の行為が引き起こした事に対する責任をあやふやにしたくないんだ。俺が何かをする……それを好意的に受け取る奴、受け取らない奴、否定する奴……いろんな奴がいるけど、そのいいとこだけを取るのはフェアじゃない」
「……」
「俺は、自分が間違ったことをしたとは思ってない……でも、世羽子がああいう態度をとる気持ちは分かるんだ。俺は、それを忘れてしまいたくない……忘れちゃダメだとも思う」
「わかりました…」
 安寿は小さく頷き、口の中でもごもごと何かを呟いた。
「おっけーです」
「軽いな……とはいえ、まあ、さんきゅーな…気持ちだけはもらっとく」
 尚斗は安堵のため息をこぼした。
「……変な人です、あなたは」
「しみじみと呟かれると、ちょっとアレなんだが……というか、今日はどうしたんだ安寿?朝からいなかったんだって?」
「あ…」
 安寿の表情がにわかに曇った。
「有崎さん…」
「はい?」
「幸せって何でしょうか?」
 時間にして2秒ほどの沈黙だっただろうか、尚斗は惚けたように呟いた。
「はあ、幸せですか……」
「はい、今日は天使長に朝から呼び出しを受けまして……人を幸せにしたいという気持ちは確かに大事ですが、幸せについて少し考えてみなさいと」
「ああ、なるほど…」
 安寿は、はふう…とため息をつきながら呟いた。
「……こうして言葉にすると一言ですむはずなのに、3時間に渡って同じ事をくどくどくど繰り返されまして」
「はあ、くどくどくどくどと3時間ですか…」
 天使も大変ですね……という言葉を尚斗はのみ込んだ。
「……と言うか、俺にリセットが効かない理由とかは聞かなかったのか?」
「その理由も、自分で考えなさいと」
「……スパルタだな」
「スパルタなんです…」
 しょぼん、と安寿が肩を落とす。
 そして、チャイムの音が鳴った……。
 
「有崎…尚斗君」
「……はい」
「朝のHRと、帰りのHRだけ出席してくださるなんて先生ちょっと感激したの…」
 ちょっと私怒ってますというような顔つきなのに、どことなく浮ついたような口調で綺羅が言う。
「この後……えーと、先生ちょっと用事があるから、2時半頃に私の教官室に来てください。お話がありますから」
「先生の教官室……ですか?」
 なんか日本語おかしくないか……という表情を浮かべながら呟いた尚斗に、左隣に座る麻里絵が囁いてきた。
「……この学校、先生一人一人に小さいけど個室があるの」
「個室?」
「専用の指導相談室みたいなものかな…」
「はあ、さすがスケールでかいなこの学校は…」
 
「2時半と言われてもなあ……」
 今はちょうど1時をまわったとこで、その時間までどう時間を潰せと言うのか。
 ちらり、と青山を見た。
「……俺は、せっかくだから図書室の品揃えを確認しに行くが?」
「1人で頑張ってくれ……って、品揃えって言うな」
「俺は、主に綺羅先生のおっかけを…」
 いきなりぬっと現れた宮坂を無視しつつ麻里絵を見る。
「麻里絵は?」
「私、写真部によるけど…来る?」
「聞けよ、有崎っ!」
「あ、すまん……最近お前の影薄いから」
「ふふふ……影が濃くては情報屋はやっていけないからな」
「まあ、重ねて念を押すが、警察沙汰だけは起こすなよ……」
 そんな2人の会話を聞いて、麻里絵は不思議そうに青山に尋ねた。
「……警察沙汰って?」
「椎名。世の中には聞いたら仲間と見なされる事があるんだが?」
「聞きたくない!聞きたくないですっ!」
「……それが賢明。……じゃ有崎、俺は行くから」
「おー、頑張れ」
「じゃ、私も…」
「おー」
「じゃ、俺も…」
「お前はとっとと家に帰れ、宮坂」
 
 
                   後編へ続く
 
 
 ……やっとペースダウン。(笑)
 1週間で4本書いたときはどうしようかと思いました。

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