「あの、有崎君……授業の資料を運ぶ手伝いをして欲しいのですが?」
「……何故俺に?」
「なんとなく…」
 尚斗はため息をついて立ち上がった。
 教室の男子からの緯線が痛い……わざわざ自分に頼まなくても、男子生徒のほとんどが二つ返事で奴隷のように働くだろうになんでわざわざ……と不平しか出てこない。
「……で、どこに運べば?」
「次の授業は4組だから、そこに……ごめんなさいね」
 口調こそ丁寧だが、尚斗は最初からそうなのだが、どうもうさんくさいモノを綺羅から感じとらずにはいられない。
 美人なのは認めるが、はっきり言うとお近づきにはなりたくないタイプだった。
「……有崎君は、先生のことが嫌いなの?」
「そう見えますか?」
「他の男子はみんな嬉しそうなのに、有崎君は1人不機嫌そうだから……」
「おおむね、生まれつきです。あんま気にしない方が……」
 資料を抱えた尚斗の顔を下から覗き上げる。
「……笑ってみない?」
「笑いたいときには笑いますので、おかまいなく……大体、こんな仕事なら他の奴に頼めば二つ返事ですよ」
「んーと……先生ね、幼年部から大学院までこの学校で過ごして、そして教師としてこの学校に赴任したから実際の男の人って良く理解できないから」
 胸の前で指と指を絡めながら呟く……資料を全部尚斗に持たせて非常に身軽そうな格好が神経に障る。
 第一、会話の受け答えが成立していない。
「はあ……壮絶ですね」
「……それで、男の人がこんなに親切だなんて知らなかったのね、私」
 嬉しそうに微笑む女教師の言葉に、尚斗はあっという間に結成された綺羅ファンクラブの面々の顔を思い出す。
 そりゃあ、親切だろうよ……
「はあ、先生はこのままこの学校で骨を埋めた方がいいかもしれませんね……世間に出たら、間違いなく食いものにされます」
 もしくは、女王様として君臨できるかも知れないが。
 随分と失礼な発言の筈なのに、綺羅は何故かにこにこと微笑んでいる。
「……ところで有崎君」
「なんすか?」
「尚人君って呼んでもいいかしら?」
「丁重に辞退させていただきます」
「そう……」
 残念そうに俯く綺羅。
「でも、どうして駄目なの?」
「良きにしろ悪きにしろ、教師には権威が必要だと思ってますので。教師と生徒の無意味なお友達ごっこには賛成しかねます」
 むかついてくるとだんだん口調が丁寧になってしまう……早いところこの癖を直さなければと思うのだがなおらない。
「……教師と生徒はお友達にはなれないの?」
「なれるでしょうね。でも、その代わり失うモノの方が多いでしょうけど……っと、つきましたよ、先生。次は違う奴に頼んでください……」
 尚斗は資料を教壇に置き、そのまま綺羅には目もくれずに歩き去る。
「有崎ぃっ!綺羅先生と何を話し……」
「黙れ」
 教室に戻るやいなや飛びついてきた宮坂をとりあえず黙らせた。
「尚兄ちゃん、暴力は……」
「麻里絵……男子校での殴り合いはコミュニケーションの1つなんだ」
「そ、そうなの?」
「おう……世の中には麻里絵の知らない常識がいろいろ転がっているからな」
 何か言いたげだった麻里絵をもまるめこんでやっと一息つく。
「尚斗、ご機嫌ななめね……」
「まあな……なんつーか、どーもあの先生とは相性が悪い」
「あはは、綺羅先生は女の園の住人だから……この学校の外は知らないもんね、あの人」
 などと呟く紗智は、麻里絵と同じく高校からの外部編入組だ。
 この女子校では基本的に幼年部からの生え抜きほどお嬢様度が高い。
「……あの先生ってこういう趣味の人だから。気をつけてね」
 と、紗智が鞄から取りだしてちらりと尚斗に見せたのは……少年同士の愛情を描いた小説。(耽美系)
「……持ち歩いてるお前に言われても」
「私はただの趣味だからいいの……でもあの人の場合、こういう本でしか男の子の情報を得てないから」
 おかしそうにけらけらと笑う紗智を見て、尚斗はこめかみを押さえながら呟いた。
「……それは、すごく駄目な人なんじゃないのか?」
「20歳を越えて初めて生の男子を目にしたわけだから……案外、これがきっかけであの先生の人生変わるかもね」
「……それにしても、どうして俺が?」
「まあ……基本的には面倒見のいい先生なんだけどね」
 そう言って紗智はにへらーと笑う。
 多分、他の誰にも真似できない紗智だけの笑い方。
「なんか企んでないか?」
「さあ?」
 
「……指先で巧みに抵抗を封じながら、徹の唇は亮の首筋を滑り、胸板とは呼べないほどに薄い胸の上を……ってこんなもん読めるかあッ!」
 尚斗が投げ出した文庫本を紗智は慌てて床すれすれでキャッチした。
「ちょっと、私の本なんだから手荒に扱わないでよね…」
 紗智は唇をとがらせ、しかし幸せそうにぎゅっと本を抱きしめた。
「やっぱり、こういう本は男の子に読ませないと駄目ね。リアリティが全然違うっていうか、読みながら苦痛に歪む表情がサイコー(笑)」
「お前、絶対Sの趣味はいってるだろ?」
「趣味ではね……でも、まあ多分尽くすタイプかな私は」
「お前の個人的趣味云々にけちを付ける気はないが、他人を…いや、俺を巻き込むのはやめてくれ……つーか、こういうの読んで楽しいのか?」
 わけわかんねえ、といった感じでこめかみを押さえながら首を振る尚斗に向かって、紗智は力一杯断言した。
「楽しいわよ」
「そ、そうか……」
「第一、女同士のアダルトビデオをクラスで循環させてる人間にそんなこと言われたくないし…」
「……しかしだなあ、昔から美術対象となってる数からいえば裸婦像の方が遥かに多いだろ?つまり、女性の身体ってのはそれだけで美しいという認識があるという証明じゃなかろーか?」
「ただ単に、芸術家に女性が少なかっただけじゃないの?」
「……一理ある」
 そうでしょうそうでしょうと、紗智は嬉しそうに頷いて鞄の中から別の本を取り出す。
「で、綺羅先生の趣味は……こっち」
「は?」
 ヨーロッパ系美中年同士の崇高な愛情を描いた…(以下略)
 尚斗が冷静さを取り戻すまでに約3秒。
「……あの人にとって、俺は守備範囲外じゃないのか?」
「うん、だからちょっと不思議…」
 紗智は指先で器用に本をくるくると回転させた。
「多分、あの人ちょっとファザコン入ってるのよね……お父さん以外の男性と口きいたことがなかったらしいし。それが、どうしてアンタに興味を持つのか…」
「楽しんでないか、お前?」
「楽しんでるに決まってるじゃない」
 紗智はくすくすと笑い、からかうような視線を尚斗に向けた。
「…ったく、他人の不幸だと思って」
「……本当に不幸?」
「ファンクラブの奴らには恨まれるわ、やりたくもない雑用を押しつけられるわ、麻里絵は不機嫌になるわで踏んだりけったりに決まってるだろ」
 そう吐き捨てた尚斗から目をそらし、紗智は何気ないように呟いた。
「気になる誰かにちょっかいを出す、幼稚園児がやるような経験値も持ち合わせてないのよ、あの人って……一応それは頭に入れておいてね」
 
「藤本先生、職権乱用という言葉をご存じですか?」
「職務上の権限を拡大解釈して行使することかしら……それが何か?」
「いや、いいです……」
 尚斗は何かをあきらめ、机の上に分別して積み上げられた本を持ち上げた。逃れられない雑用ならば、さっさと終わらせるのが一番だと判断してのことである。
「……ごめんなさいね、クラブに入ってない男の子ってほとんどいなかったから」
「宮坂だって帰宅部ですよ」
「宮坂君には別の用事を片づけて貰ってるから…」
「そうすか…」
 お気楽な宮坂とは違って、尚斗の場合、買い物や夕飯の支度といった家事が目白押しなのだがそれを説明する気にもなれなかった。
 爪が長く、家事とはあからさまに無縁そうな綺羅の指先を見て小さくため息をつく。
 そんなことを考えてしまう自分は多分狭量なのだろう……母親がいないということでおそらく苦労はしているのだろうが、違う部分で楽をしている事は間違いない。
 自分の中の、どうしようもなく子供の部分を自覚させられる相手として嫌悪感が走ってしまうのか……
「……で、この本はどこに?」
「あ、そっちの棚に…」
「順番通り並べればいいんですよね…」
 綺羅の返事を待たずに、背表紙の整理番号を見て本棚に収めていく。
 カウンターと本棚を4往復……時間にして10分程度の雑用ぐらい1人でやれよななどという思いは表情に出さず、尚斗は軽く首をまわした。
「こんなもんでどうでしょう?」
「……」
 綺羅は少し驚いたような、それでいて不満そうな表情を浮かべて本棚を無言で見つめていた。
「あの、どこかまずかったですか?」
「……1時間はかかるかな、と思っていたのだけど」
「先生、それ、手際悪すぎッス」
 たかだが数十冊の本の整理(分別済み)に1時間もかかるはずが……と思ったのだが、尚斗の脳裏に1人の少女の顔が浮かんだ。
 いつも時間をかけて温室の花に水をやるおっとりとした少女……彼女なら、そのぐらいはかかるかも知れない。力もなさそうだし。
「んじゃ、俺はこれで…」
 そう言って背を向けた尚斗の袖がぎゅっと引っ張られた。
「まだ、何か?」
「え……あ、ごめんなさい」
 綺羅は頬のあたりを赤く染め、慌てて尚斗の制服から手を放した。
 無意識につかんでしまっていたのか……もちろん、よっぽどの役者でなければと言う前提だが。
「何か…急ぎの用事でもあるの?」
「……ありますけど」
「そう……ごめんなさい、引き留めたりして」
 存外にも、綺羅はあっさりと頭を下げた。
「んじゃ、俺はこれで……」
 そう言って図書室から外に出た瞬間、尚斗は軽やかにジャンプしてそれをかわす。
「つれない男ね」
 空手二段のわりには……もちろん、本気ではなかったのだろうが……鈍い足払いだった。
「のぞき見趣味の女にそんなこたぁ言われたかねえな……つーか、何がしたいんだお前は?」
 麻里絵と自分をひっつけようとするだけではなく、綺羅と自分をもどうにかしてみたいのか……どうも、紗智の意図がつかめない。
「何と言うかさ……」
 紗智はため息混じりに呟いた。
「誰かが幸せになるのを見るのが好きなのよ、私って……」
「……幸せになれるという自信がどこからくるのかわからんのだが。麻里絵だってそうだが……あの先生の場合、やっぱりお前が思ってるようなタマじゃないと思うぞ」
「……藤本先生の事、嫌いなの?」
「どことなくうさんくさいものを感じるな……世間知らずなお嬢様のフリして、かなりしたたかな気もするし」
「ひねくれてるのね…」
「苦労してると言ってくれ……これからしたたかな上に逞しい主婦に混ざって夕飯の買い物なんでな」
 尚斗は紗智に背を向け、軽く右手をあげた…
 
「おう、ちびっこ」
「その呼び方やめてくださいって何度言ったらその貧相な脳細胞に刻んでくれるんですか?」
「まあまあ……」
 尚斗は機嫌の悪い飼い犬をなだめるような手つきで、結花の頭を撫でた。
「……すっごく子供扱いされてるような気がするんですけど」
「それはお前の気のせいだ」
 きっぱりと言い切る。
 もちろん、犬扱いしているなどとは口が裂けても言うつもりはないが。
 それにしても……こうやってまともな会話が成立できるまでにはかなり苦労したよなあと感慨にふける尚斗に向かって、結花はうさんくさそうな視線を向けた。
「……ところで、2月14日に男子校の有志が集まって芝居をやるという噂は本当ですか?」
「……はぁ?」
 初耳だった……もちろん、最近は綺羅のおかげで男子校の連中とはあまり会話をしていないせいもあるのだろう。
「いや、初耳だが…」
 結花はどことなく怒ったように顔を赤くして、尚斗から視線を逸らしながら呟いた。
「……有崎さんが主役って言ってましたけど?」
「は?」
「一ノ瀬先輩と、藤本先生が脚本を書いたとか何とか…」
「そういうことかよ!」
 頭の中で全てのラインがつながった気がした。
 それは間違いなく、紗智や綺羅をはじめとする愛好家のためだけのリアリティに溢れた芝居内容なのだろう。(笑)
「あ、あいつら……」
 既に綺羅に対して敬語を使う余裕もないほど尚斗はあきれ果てていた。
「でるんですか?」
「でねえよっ!」
「……でしょうね」
 結花は小さな身体をさらに小さくさせて肩をすくめた。
「私の耳に入ってきたのも偶然だったぐらい秘密裏に話が進んでいるみたいですね……」
「……ひょっとして、顔が広い?」
「人を制するには情報を制する必要がありますから…」
 中学生の段階で高等部に乗り込み、潰れそうだった演劇部をあっという間に立て直した手腕の持ち主だけに言葉に重みがあった。
 その結花でさえ偶然でしか耳にできなかったと言うことは……尚斗の頭に、綺羅ファンクラブの会員の人数がはじき出された。
 綺羅のためなら、火の中に飛び込むことも厭わない精鋭達。
「……ひょっとして、今の俺は胸がドキドキするぐらい大ピンチなのか?」
「まあ、有崎さんにそういう趣味がないのなら……」
「すまん、今度ばかりは無条件で恩に着る…」
 そう言って尚斗は結花の頭を撫で回す。
「か、勘違いしないでください!私は…ただ…」
 顔を真っ赤にする結花を黙らせるように、尚斗はいっそう優しい手つきで頭を撫で回した。
「勘違いでも何でもとにかく感謝だ……この借りは絶対に返す」
 
「おや?」
 自分の鞄の中から弁当箱が消失していた……しかも、教室の中に人がいない。もちろん、ここで言う人とは、人畜無害という意味での人のことだ。
「有崎君、お弁当作りすぎたんだけど一緒に食べない?」
「お断りするッス!」
「そうね、今日は割と暖かいから中庭なんかいいかも知れないわね…」
「聞いちゃいねえ…」
 その弁当に薬が盛られているのはほぼ間違いない。
 何というか、にこにこと微笑みを絶やさない綺羅の瞳にどことなく余裕のなさが感じられるだけに、ひしひしと身の危険を覚える。
 2月14日のブラックバレンタインデー公演の話が真実ならば、そろそろ日程的にも限界の筈だった。
 尚斗はこの1年間の自分の出席率を素早く計算し、素早く行動を開始する。
「気分が悪いので早退します!」
 脱兎のごとくドアに向かってかけだそうとした瞬間、首筋にひやりとしたモノを感じて慌てて床の上に身を投げた尚斗の髪の毛が数本宙に舞った。
「大丈夫、痛くしないから…」
「おっさんか、お前は!」
 容赦なく急所めがけて飛んでくる攻撃を転がってかわし、慌てて立ち上がった。
「アンタが黙って頷けば、喜ぶ人がいっぱいいるのよ」
「悪いな、俺は自分の幸せだけを祈るタイプなんだ…」
「うふ、うふふ…」
 楽しげな綺羅の笑いで、尚斗は教室のドアが選び抜かれた屈強な数人の男子生徒達に固められていることを知る。
「……お前1人で俺を倒せるとでも?」
 挑発するような視線を向けると、紗智は口元に笑みを浮かべて呟いた。
「アンタ、女性には手を挙げられないような気がするしね……ちなみに、藤本先生は合気道の二段だから」
「護身術程度ですけど…」
 にっこりと微笑む綺羅……ドキドキするほど大ピンチだった。
「わざわざ俺を抜擢しなくても、そいつら使って芝居でも何でもすればいいだろう?」
「言わなかったっけ?」
「何を?」
「苦痛に歪む表情がサイコーって(笑)」
 尚斗の心拍数、さらに倍。
「先生はただ単に尚人君がお気に入りなだけなのよ、信じてね…」
 じりじりと間合いを詰めてくる紗智と綺羅。
 ちらりと窓に視線を向ける。
 シチュエーションに酔ってしまいそうだったが、三階から飛び降りて植木をクッションにすれば足を少し怪我するぐらいで逃げ切れるなどと思うほど判断力は鈍っていない。
 身動きできなくなったところを拉致られるのがオチだろう。
 が、2人に対する牽制にはなる。
 紗智と綺羅の注意が窓に向いた瞬間、尚斗は廊下側の窓に向かって大きく跳躍した。
「シャアッ!」
 初めての経験だったが、大きなガラス窓を蹴破る感触は場面が場面でなかったら癖になってしまいそうなほどに心地よかった。(笑)
「囲んで!」
 さすがに紗智の反応は速い。
 しかし、ドアの前に集中していた男子生徒の脇をほぼ無抵抗で通り抜けることに成功する。
 綺羅の操り人形と化した男子生徒達が自己判断力を半ば喪失しており、綺羅の指示がないかぎり能動的な行動が取れないとふんでの行動だったのだが少なくともこの場面では賭に勝ったようだ。
「ま、2月の14日まで学校は休むことにして……」
 鼻歌交じりに校門を駆け抜ける尚斗……自分の考えが、まだまだ甘かったことに気付くのは数時間後だった。
 
 プルルル……
「はい、有崎で……」
『うふ、うふふ…』
 ガチャ
 ピンポーン……
「家の前から電話かけてたんかい!」
 尚斗は勢いよくドアを開け、牛でさえすごすごと引き下がりそうな冷たい視線で綺羅を見据えた……が、綺羅は平然とそれを受け流す。
「何の用です?」
「担任として家庭訪問を……」
「今、親がいないから無駄ッスよ」
「ええ、知ってるわ」
「……」
「……(にこにこにこ)」
 バタン
 慌ててドアを閉め、鍵をかけた。
 恋愛感情とは全く違う次元で胸がドキドキする……しかも、かなりの危険速度で。それでも、何事もなかったかのように自分の部屋に戻ってベッドに腰を下ろした。
「……何故、親父が出張なのを知っている?」
 そんなこと、麻里絵にすら話してはいない。
 尚斗にしたって、今朝、陽も昇らない明け方に起こされて『今日から3日間出張だから…』と寝ぼけたまま聞かされただけで……
「……」
 イヤな想像が頭の中でマイムマイムを踊り出し始め、尚斗はゆっくりと立ち上がってテレビの方を向いた。
「まさかな……」
 考えすぎだと思いながら、尚斗はトレーナーの裾をまくってみた。
 その瞬間…
「キャアーッ、尚人君の腹筋ーっ!」
 尚斗の頭の中で、綺羅の評価がちょっとダメな人から強烈にやばい人へと劇的なクラスチェンジを果たす。
「アンタ、いつ仕掛けた!」
 近所迷惑を顧みずに窓から叫んでみたが、何やら嬉しそうにキャアキャアと嬉しそうに騒ぐ声が返ってくるだけである。
 所詮は美中年趣味で自分は守備範囲外という考えが心のどこかにあったのだが、そんな甘えはこの瞬間に綺麗さっぱり吹き飛んだ。
「お、俺は狙われているっ!」
 今更と言えば今更だったが、敢えて口にすると身体中の毛穴という毛穴からイヤな汗が滲み出てくるのを感じた。
 小さい頃はあんなに簡単に見つけることができた人間としての大事なモノが、何故か指の間から砂のようにさらさらとこぼれていく……しかも、1人の女性のせいで。
 尚斗は自分の部屋にある電化製品のコンセントを全て引き抜き、今度はズボンの裾を……反応無し。
「ど、どうやら単独で仕掛けられたモノじゃなさそうだな……」
 テレビ、ビデオ、ミニコンポ、スタンドライト……おそらくこのあたりに仕掛けられているのは間違いないが、今はそれどころではない。
 どうしようもないことがあり、それでもどうにかしなければいけないことが人生には多々あることを母親の死は教えてくれた。そしてまた、そういうときは自分がどうにかしなければいけないことも。
 あんな危険な存在を甘やかしたりすることはもちろん、野放しにすることはできない。
 子供の頃に麻理枝を泣かせてしまってから二度と女性に手を挙げるまいと誓っていた尚斗だったが、その禁を破るために固く拳を握りしめ階段を駆け下りていく。
 
「……尚兄ちゃん?」
「聞くな」
「うふ、うふふ…尚人君、だーい好き!」
 人目をはばからずに尚斗の首にしがみつく綺羅はもちろんのこと、尚斗もまた顔には絆創膏、腕には包帯をまいている。
「麻里絵、綺羅先生は尚斗にキズモノにされたのよ…」
「…………え?」
 顔を真っ赤にして口元を押さえる麻里絵。
「……怪我は俺の方が多いんだが」
「アンタが勝ったんでしょ?」
「哀しい勝利だ……」
 遠い目で呟く尚斗。
「尚兄ちゃん……全然わけが分からないんだけど」
「麻里絵、尚斗は人類の平和のために戦ったの。だから、誉めてあげて……」
「お前が言うな!お前が!」
「うふ、うふふ…尚人君、だーい好き!」
 三者三様の困惑の中で、綺羅だけが1人幸せそうだった……
 
 
                      完
 
 
 ……こんなキャラ真面目に書いてられません。(笑)
 それはさておき、ゲームとしてこのキャラで何がしたかったのか意味不明の様な気がします。
 一応断っておきますが、何気なくやばげな表現が文章中に散見できるとは思いますが、誹謗中傷を目的としたモノではありません。
 後は、高任の古い知人に知られないことを祈るだけ。(汗)
 ちなみにこのSS、おおむね間違ってますがおおむね間違ってません。(笑)

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