君子は疲れた身体をそのままベッドへと横たえた。
「ふえーん、お兄ちゃんの知り合いがまた一人増えちゃったよう。」
転校が決まってから、君子の日常は多忙を極めていた。家庭部の活動に掃除・洗濯・炊事と気の休まる暇もない。
「・・・君子ちゃん、泣き言を言っても始まらないよ。」
君子が枕から顔を上げるとそこには諸悪の根元とも思える黒い猫がいる。所々の白い模様がトレードマークでみんなにユゲと呼ばれている猫だ。
「ほらほら急がないと、お兄さんがやってくるよ。」
そう言って君子に魔法スティックを手渡した。
「こんなに大変だとわかってたら引き受けなかったのに・・・。」
ぶつぶつと呟く君子に対してユゲがにやりと微笑んだ。どこからともなく取り出した紙切れを君子の目の前でひらひらさせる。
「君子ちゃん、契約破棄は命で償うことになるからね。それにこの仕事さえ終われば君子ちゃんの願いもかなえてくれるんだから我慢しなきゃ。」
君子はため息をつくと、さっき手渡された魔法スティックを左手に持ち替えてゆっくりと頭上へと持ち上げた。そしてためらいがちにユゲに話しかける。
「・・・どうしてこんなことわざわざしなきゃいけないの?」
「本物の魔法使いなら必要ないんだけど、素人さんは形から入らないと魔力を発動できないからだよ・・。」
「呪文だって良くわからないし・・・。」
「この世界の言語形態とはちょっと違うから。」
君子はあきらめたように大きく深呼吸すると、新体操のリボンの演技のように滑らかな曲線を描き出す。それと同時に君子の口から意味の不明な呟きが紡ぎ出され始めた。
そしてユゲが君子に背中を向けた瞬間君子の身体が眩しい光に包まれた。足下から一際まばゆい光の帯が君子の身体にまとわりついていく。
その間僅か0.01秒。宇宙刑事もびっくりだ。
まばゆい衣装に身を包んだ君子が自分の身体をじろじろと眺める。
「何回見ても慣れないや・・。」
ユゲは君子の様子にはお構いなしでせっせと準備を始めている。そして最後に君子のノートを開いて幾分真面目な表情で君子の方を振り返った。
「・・うん、じゃあ始めるね。」
君子の口からまた意味不明な呟きが漏れ出す。すると、ノートの上に女の子の顔が描かれたコマみたいなものが現れてそのまま静かに下がっていく。
そこで君子は一息ついて新たな呪文の詠唱に取りかかった。君子の身体のまわりをぼんやりとしたやわらかな光が包み込む。
ノートの上にばらまかれたコマがぞろり、ぞろりと蠢いている。あるコマは左上に向かって、またあるコマは上に向かってと言う風に一見規則性のない動きだ。
不意に、君子のまわりの光が消失した。
「お疲れさま、君子ちゃん。」
「本当に疲れたよう・・・。」
「今日はコマが増えて6人になったからね。」
他人事のように囁くユゲに対して君子はため息を吐くように呟いた。
「でも、どうしてこんなに疲れるのかな・・。」
「それは足りない魔力を君子ちゃんの生命エネルギーを使って補ってるからじゃないかな?」
にっこりと微笑むユゲの身体を君子はがっしりと掴んだ。
「何それ?そんなの聞いてないよ!」
「大丈夫。ちょっと、ほんのちょっぴりだから・・。」
ユゲは器用に両足を使い、このぐらい、と隙間を示すがはっきり言って信用ならない。
こんこん。
「君子。ちょっといいか?」
「わっわっ、ちょっと待って!」
君子は慌てて衣装を脱ぎだした。ユゲは紳士的に背中を向けている。
「どうしてこの服はぱっと消えないの?」
「魔力がこの世界に具現化したものだから君子ちゃんには消せないよ・・。」
慌てて着替えをすませると脱いだ衣装をユゲに手渡した。衣装はユゲに触れるとその存在がまるでなかったかのように消えてしまう。何か言いたげな君子の様子に気がついたのかユゲが窓から出ていこうとして口を開いた。
「僕の身体を通して魔力が拡散されたから消えるの。だって君子ちゃん僕に着替えるところ見られたくないんでしょ。・・・じゃあね、君子ちゃんまた明日。」
ユゲは闇の中にとけ込むようにその姿を消した。
「お兄ちゃん、もういいよ。」
かちゃり。
「何をごそごそやってたんだ?」
「ううん、別に・・・。」
行き倒れのおばあさんに声をかけたことから始まった君子の多忙な日々は始まったばかりである。
一発ネタですね。(笑)長く書こうと思ったら書けないこともないですが書くほどのもんでもないでしょう。
僕自身は、魔法少女属性を持ってないので友人にいろいろ教えて貰いました。やはり、着替えは足下からのアップ以外は邪道だそうです。別に指先からだろうが頭からだろうが胸からだろうがかまわないと思うんですが・・・。まあ、そこは彼らの価値観を優先させました。
とりあえず一言。君子のイベントって犯罪に近いですよね。シナリオ担当の人がのりのりでやっているのが目に見えるようです。(笑)
ダーク君子のネタなんかもやってみたかったんですが・・。
「お兄ちゃん、ベッドの下の雑誌・・・。」
「あ、あれはだな友達に・・・」
君子はぽんと大輔の肩に手を置くとにやりと笑った。
「わかってる。わかってるって・・・・ふふふ。」
「わかってない!絶対にわかってないぞ君子おぉっ!」
・・・とか。
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