楽器は正直だ。
 どんなに技巧を凝らしても音色には演奏者の気持ちがのってしまう。かすみはフルートから唇を離し、演奏をやめた。
「・・・凝るほどの技巧があるわけじゃないけど・・・ね。」
 何かに言い訳するような独り言。それは自分の奏でた音色に対してかそれとも自分の心に対してなのかはかすみ自身にもわからない。
 その日の気温、湿度によっても楽器の音色は変化する。そうすると二度と同じ音色で奏でることなどできないはずなのに、ここ数日のかすみのフルートは同じ音色を奏でているように聞こえる。
 それは演奏者の感情が他の条件を圧倒するぐらいに悲しみに沈んでいるからかもしれなかった・・・。
 ふと窓の外を振り返ってみると西の空が鮮やかに燃えていた。
 ・・・・また一日が終わってしまった。
 
「君ちゃん、おはよう。」
「おはようかすみちゃん・・。」
 今朝も君子と同じバスを待っている。とは言っても住んでいる場所も行く場所も同じなのだから当然と言えば当然なのだが。
「かすみちゃん、借りてた本だけど、今夜返しに行くから。」
「別にいつでもいいのに・・。」
「えへへ・・早めに返しとかないと気になるから。」
「君ちゃんは、大輔君とは正反対だね・・。」
「お兄ちゃんはだらしなさ過ぎるんだよ。昨日だってゴミを捨てといてねって言っておいたのに忘れてたんだから・・」
 などとバスを待ちながら他愛もない会話をするのはいつもの事であった。それでもここ2・3日、かすみは自分の心のどこかに冷めた部分があることに気付いていた。
 ・・・君ちゃんは嘘が下手だから。
 そう思いながら君子の話にあわせていくのは多少の苦痛をともなう。さっきの会話にしたって、君子が大輔にゴミ捨てを頼むということは家が普段とは違う状態にあるということを白状しているようなものだ。
 とは言っても小さい頃から一緒にいて、なおかつ君子達が今学期一杯で転校するということを知っているかすみだから気付くことなのかもしれないけど・・・。
 かすみはふと空を見上げた。
 朝の天気予報で放射冷却云々を説明していたが、冷え込みの厳しさに反して確かに今日は雲1つ無いいい天気だった。
 かすみは、今日もまた綺麗な夕焼けを1人で眺めることになるのだろうかと思い、君子に気付かれないようにそっとため息をついた。
 
 穏やかな水面に投げ込まれた小石はその波紋を静かに広げていく。無論広がっていくにつれその波の高さは小さくなり、かつ目立たなくなる。だがその波紋はいろんなところで反射し、所々で人に知覚されるほどの高さになることがある。
 引っ越しを隠している大輔本人は不自然なぐらい普段通りの日常を過ごしていたが、それを知っているかすみの態度の不自然さは大輔に対してではなく、まわりの人間に対して表面に現れつつあった。
「かすみ、今日の昼休みにどうして声をかけてこなかったんだ?」
 行きはいつもバスだが、帰りに限ってかすみはたまにこうして葵と二人歩いて帰ることがある。そんな帰り道の途中、ふと何かを思いだしたように葵がかすみの方を見た。
 今日の昼休みの終わり頃に、廊下で大輔と話し込んでいた葵。もう昼休みも終わろうとする時間で特に用事もなかったかすみは、葵達に声をかけることなくその場を立ち去ったのだが、その時のことを言っているのだろう。
「・・うん、邪魔しちゃ悪いかと思って。・・・それにもうすぐ昼休みも終わりそうだったから・・。」
「ふうん・・・別にたいした話をしてたわけじゃないんだけど。」
 葵はそう呟くと、途端に興味を失ったのか話題を切り替えて次々と話を続けていく。葵との会話はいつもこうしてかすみが聞き役にまわることが多い。あまり表面的には似たところのない二人だが、お互いに無い部分を補うような形でウマが合っているのかもしれなかった。
「でさ、あたしはこう言ったんだ・・・・かすみ、聞いてる?」
「・・・えっ?聞いてるよ。」
 普段と変わりなく話を聞いていたつもりだったのだが、葵にそうやって急に尋ねられると少しどぎまぎしてしまう。自分でも内心無理を重ねていると思っているからその態度は尚更のものになってしまう。
「いや、なんかかすみの様子がぼーっとしてたように見えたから・・。」
「やだな、ちゃんと聞いてたよ。」
「いや、あたしの話を聞いてないとかじゃなくて・・・なんて言ったらいいのか・・。」
 そう呟いて葵は眉間にしわを寄せた。
 あの日かすみが大輔に感じたのと同じような違和感を葵もまた自分に感じているのだろうと、葵の姿を見てかすみはふとこう思った。
「うーん・・・起きたばっかりで半分夢を見てるような感じなのかな?」
「・・・私、眠そうに見える?」
 そんなやりとりをかわしながらかすみは葵には聞こえないようにそっと呟いた。
「ホントに夢だったら良かったのにね・・。」
 
 1・最近かすみの様子がおかしい。
 2・かすみと最も親しい女の友達であるあたしはその理由がわからない。
 3・つまりかすみがおかしい理由はかすみと最も親しい幼なじみの大輔個人にある。
 独断と偏見による葵の三段論法の結論である。辿ってきた道筋の是非はともかくとして、その独断と偏見のベクトルがしっかりと正解に向けられていたのはさすがというかなんというか・・・。
「・・・というわけで。」
「波多野・・・お前は絶対政治家や公務員にはなるんじゃないぞ、他人の迷惑になる。」
 そんな理論の矛先を向けられた大輔にとってはたまったものではない。しかも大輔自身もおそらくそれが正解のような気がするから尚更であった。
「俺は何もしてないぞ。」
「それ、そこなんだよな。早川がかすみに何もしないからいけないんだ。やはり相思相愛の二人がずっと幼なじみのままでいること自体が不自然であって・・・」
「波多野、熱があるみたいだな。早退しろ、先生には俺が言っといてやるから。」
 そう言い残して立ち上がりかけた大輔の肩が葵の手にがっしりと掴まれる。
「早川、かすみから言い出せないことはお前から切り出すべきだとあたしは思うぞ。」
「まるで恋愛の経験が豊富な様に聞こえるな・・男っ気無しの波多野君。」
 葵がひるんだように見えるのは内心気になっているからかもしれない。
「ぐっ・・あたしは別にいいんだよ。」
「困りますねえ・・・素人さんが口を出されては・・。」
「じゃあ、プロ野球の審判は野球選手より野球が上手いって言うのか?」
 あまりに見事に切り返されたため今度は大輔が言葉に詰まった。こういう状態になると、もはやどちらが正しいとかいうレベルではなくて相手を言い負かした方が正しい事になるからやっかいなのである。
「と、とにかく。で、誰と誰が相思相愛だって言うんだ?」
「かすみと早川。」
「初耳だな。誰に聞いたんだ?」
「見てればわかる。」
「この前のテスト何番だった?お前。」
「あれは見てもわからないの!」
 言い争う一秒ごとに二人の精神年齢は下がっていき、ミジンコからアメーバぐらいまで退化した頃になってようやく正気を取り戻してくれたようである。
「・・・・・今日のところはこれぐらいにしといたるわ。」
 大輔がへたくそな関西弁でそう呟きそっと目元を拭う仕草をすると、葵はそれに合わせてスナップを利かせたつっこみを返す。無理矢理新喜劇で締めくくろうとした矢先にどこからともなく現れた黒装束の人間が教室の舞台セットをばらしていくところを見るとブルームーン探偵事務所だったのかもしれない。(笑)
 既に作者の精神年齢も取り返しのつかないところまで退化してしまったようであった。
 
 (作者進化中・・・笑)
 
「かすみはさあ・・・」
「ん?」
 何やら葵が思い詰めたような顔をしているのを見てかすみはイヤな予感がした。こういう表情の葵がかすみに切り出すことと言えば、かすみの困ることかかすみの嫌がることのどちらかの二者択一であることが多い。
 どちらにしてもかすみにとってはろくな事ではない。
「かすみは・・・どうして早川に告白しないんだ?」
 二者択一どころか両方だった。
 はっきり言ってこういう状況で即答できる人間はほとんどいないだろう。無論かすみもそうであるし、また状況も少し違う。
 かすみは大輔が好きだと言うことを明言していないのだから・・・。
 目元のあたりに盛大に縦線を貼り付け、かすみは思わず滑り落ちてしまった椅子にしがみつくようにして体を起こした。
「あ・葵・・・あのねえ・・。」
「どうも二人を見てるといらいらしてさあ・・。磁石みたいに素直にくっつけばいいのになんか無理にひっつかないみたいで・・。」
「同じ極同士ならくっつかないよ。」
「違うよ。磁石には必ずS・N極が存在してるからくっつかないことは無いの。それは何かが無理矢理同じ極同士を向き合わせてるだけの話。」
 含蓄のある深い言葉だが、葵にそういう意識があったかどうかはわからない。しかし、葵はさんざんかすみをあおるだけあおってその場を立ち去った。
「あの様子だと大輔君にも何か言ってるんだろうなあ・・。」
 かすみは独り言のように呟き、ふと表情を曇らせた。
「でも・・・葵自身も気付いてないんだろうなあ・・・自分の気持ちに・・。」
 葵が必死になればなるだけ、かすみはその情熱に違うものを見てしまう。それは単なるかすみの勘違いかもしれないが、不思議と大輔に関することならほぼ間違えたことがないのがかすみの密かな自慢でもあった。
 
「かすみ、こんな時間にどこ行くの?」
「ちょっとお散歩。」
 かすみは母親の心配気な声を聞き流すようにしてコートを羽織って外に出た。
 暗闇の中にぽつりぽつりと浮かび上がるような街灯が何とも物寂しい。12月の夜だけにかなり冷え込みが厳しく、吐く息は白く闇の中に溶けていく。
「あ、やっぱり。」
 真っ暗な空に突然星が現れたように白い粒が舞い落ちてきた。天気予報を見て、もしかしたらと思って外に出てきたのだが、ずばり的中したようだ。
 団地に住む人間も気がついたのか、窓際にいくつか黒い影が浮かび上がっている。それでも外に出てまで雪を見物する物好きはかすみぐらいのものであろう。
「やっぱりかすみか・・。」
「あ、大輔君。見て見て、雪だよ。」
 そう言ってかすみは両手を広げてくるくると回転する。そんな子供じみた仕草が妙に似合っていたので大輔も何も言わずにその光景をただ黙って眺めていた。大輔もまた君子に言われて窓際にへばりついた1人であったのだが、こんな寒空の下で空を見上げている物好きの姿に嫌な予感がしてこうしておりてきたのであった。
 かすみもまたこうして大輔がやってくるのを待っていたかのように平然と受け止めている。
「ねえ、大輔君。今から浜辺に行かない?」
「・・・寒い。」
 即座に断った大輔であったが、下からすくい上げるようなかすみの視線にたまりかねたように渋々ながら了承した。
「そんな目で見るなよ・・・じゃあ、おばさんに断ってからだぞ・・。」
 ため息をつきながら二人はかすみの住む団地の階段を上っていく。
「おばさん、これから二人で散歩に行ってきます。」
「あら・・・散歩だけでいいの?」
「おっ、お母さんっ!」
 珍しく大きな声をだしたかすみには気も留めず、かすみの母は大輔に向かってにっこりと微笑んだ。
「大輔君が責任とってくれるならかすみには何したっていいからね。」
「だ、大輔君行こう。」
 かすみが大輔を引っ張るようにして出ていった後、かすみの母はぶつぶつと意気地のない娘に対して文句を垂れ流していた。
「今勝負をかけないでいつかけるっていうのかしらあの子は・・・。」
 どうやらかすみは性質的に母親に似なかったようである。
 口を開くたびに寒いとしか言わない大輔を連れて、小雪の舞う砂浜をかすみは歩いていた。既に先程の母親の会話は記憶にはない。
 あたりの光源は向こうに見える臨海広場だけである。
 真っ黒に塗り潰されたような光景の中で、足下の砂浜はぼんやりと白い。そして闇の中を乱舞するような風に舞う粉雪だけが色彩を感じさせる全てであった。
「雪・・・積もるかなあ?」
「このぐらいじゃあ溶けちゃうだろ。」
 さっきから降っては溶け、溶けては降り続ける雪の様子を眺めながら大輔は呟いた。
「・・・一杯降れば積もるよね。」
「そうだな・・・でも最後には結局溶けちゃうぞ。」
 闇が二人の足下まで迫っていた。いつの間にか波打ち際を歩いていたらしい。
 真っ暗な海に向かっても雪は平等に舞い降り、そして次々と溶けていく。永遠に繰り返される徒労のようなその光景を眺めながらかすみは思わず口に出していた。
「でっ、でも・・・溶けない雪もきっとあるよね。」
「・・・・本当にたくさん積もったら溶け残る雪もきっとあるだろうな。」
 それきり二人の会話はとぎれ、寄せては返す波の音だけがあたりを支配する。どれぐらいの時間二人でそうしていただろうか、大輔がぽつりと呟いた。
「かすみ、帰ろうぜ。」
 二人のどちらかがそう言い出すのを待っていたかのように、突然雪は小降りになり数えるほどしか落ちてこなくなった。
 浜辺に背を向けようとした大輔の背中をかすみはきゅっとつかんで呟いた。
「一杯積もってるよね・・・私達の雪って。」
「・・・・それにしても今日は寒いな。」
 何も聞かなかったようにして大輔がそう呟いたのは、思わず身震いしてしまった自分に対しての言い訳だったのかもしれない・・・。
 
「ふわっ・・あふ・・。」
「かすみ、眠そうだな?」
 大きなあくびを繰り返す姿が気になったのか、葵が心配そうにかすみの顔をのぞき込んでいる。
「ん、ちょっと夜中までお母さんに怒られてたから・・・。」
「え?」
「ううん!なんでもないなんでもない。」
 かすみは慌てて顔と手をぶるんぶるんちぎれそうなぐらい横に振ってそれ以上の葵の追求を封じた。さすがの葵もその迫力に負けたのか、すごすごとその場は引き下がっていった。最近のかすみが心配なのか、クラスが違うのにこうして出張してきているのだった。
 少々寝不足で頭の回転が悪いせいか、迂闊なことを口走ってしまったことをかすみは深く反省しながら昨夜のことを思い出していた。
 何事も無く帰ってきたかすみを見て、母親はいきなり廊下に正座させたのであった。それから数時間にわたって『そんなことでどうする』などと説教されていたのだが、無茶苦茶である。
『でも、大輔君引っ越しちゃうんだよ・・・。』
『一年ぐらい我慢しなさい。・・・あの子は真面目な子だからここでかすみが身も心もがっちり捕まえておけばきっと帰ってきてくれるわよ。』
『みっ!身も心もって!』
『お母さんが許可します。』
 などという実にハートフルな親子のやりとりというか、お母さん大爆走というかなんというか・・・。
「今の私に必要なのは大輔君の許可だけだもの・・・」
 小さい頃からいつも自分を守ってくれた大輔。
 それは妹の君子に対するのと同じような気持ちからだったのかもしれないし、ひょっとすると放っておくにはあまりにもかすみが泣き虫だったからかもしれない。
 ・・・かすみを悲しませることはしない。それが大輔の優しさであるならきっと何も伝えられないままこの街を去るであろう。
 そしてかすみにできることと言えば・・・笑って見送ることだけ。
 そうしないと大輔はきっとつらそうな目で自分を見るであろうから・・・。
「でも、あんまり自信無いや・・・。」
 そう呟いてかすみは目を閉じた。
 冬休みになったら、それまで我慢し続けた涙を流すだけ流そう。でもそれまでは絶対に泣かない。
 くじけそうになる自分を励ますように、かすみは自分の頬を軽く叩いて気合いを入れた。
 
 目の前の景色が歪んだ瞬間、かすみは静かに教室を後にした。
 あれだけの人間がいれば、自分一人いなくなったところでほとんどの人間は気がつかないだろう。
 屋上で風に吹かれながら、かすみはぼんやりと空を眺めていた。強い風で雲の動きが激しく、時々赤い夕陽がかすみの顔を照らしてはまた隠れていく。涙の乾いた頬のあたりが妙に突っ張った感じで変な気分になる。
 明日になれば思いっ切り泣けるというのに・・・どうして後一日、いや数時間が我慢できなかったのだろう。
 そんなことを考えているとまた泣きそうになり、かすみはぐっと我慢した。まだ泣くわけにはいかない・・・。
 ぎいっ。
 屋上への扉が軋む音がした。
 涙は乾いたけれど目の赤さはどうごまかせばいいのだろう。そう思った瞬間夕焼けの赤がかすみの顔を照らした。
 そしてかすみは振り向いた。
 目の前に幼なじみの大輔が立っている。その表情はどこかつらそうで見ているかすみの方が悲しくなる。
 ・・・どうしてそんな悲しそうな顔するの?
 そう言いかけて、かすみは自分の頬を暖かいものが流れていくのに気がついた。一度道筋がついていたため、涙は目にたまることなく流れていたのだった。
「・・・・ごめんね。」
 ・・・いつも泣いてばかりいて・・・
「・・・・・・ごめんね。」
 ・・・あなたにそんな顔させて・・・
「・・・・・・ごめんね・・・」
 ・・・もっとあなたを悲しませることになるかもしれないけれど・・・
 かすみはおずおずと口を開いた。
「大輔君・・・聞いて欲しいことがあるの。」
 俯いていた大輔がその言葉に反応して顔を上げた。
「私・・・この街が好きなんじゃなくて、大輔君のいるこの街が好きなの。」
 そこで言葉に詰まった。
「だから・・・・・」
 声にならない想い・・・。
「・・・・・・・だから・・。」
 そこで俯くと、それまで頬を伝わっていた涙が直接足下へと落ちていった。そんなかすみの頭に大きくて暖かい手が乗せられた。
「一年ちょっと・・・我慢できるか?」
 待ち望んでいた言葉であったが、かすみの心は晴れない。
 自分が大輔の優しさにつけ込んでいるだけではないのか?そんな気持ちが心のどこかにある。
「ただな・・・」
 続く大輔の言葉にかすみは身をすくませた。
「俺はこの街じゃなくて、かすみが好きなんだけど・・・それでいいか?」
 かすみは何も言わず、ただ大輔の身体をぎゅっと抱きしめた。
 
 相変わらず冬の夕焼けはどこか刹那的で悲しい色をしていた。
 赤く照らされた帰り道を葵と二人で帰る。
「かすみ・・・最近になってふと思ったんだけど・・・。」
「何を?」
 受験を控えて少々ナーバスになっているせいか、最近の葵は時々こんな事を言い出す。
「あたし・・・早川のことが好きだったのかもしれない・・。」
「うん・・・・そうかもしれないね。」
「驚かないのか?」
「だって、別におかしな事じゃないもの・・・。」
 かすみはそう言って空を見上げた。
 あの日からほぼ一年が過ぎた。
 大輔がいなくなることで、かすみはそれまで忘れていたいろんな事を思い出すようになっていた。大輔がいなくなることでどんどんと想い出が無くなっていくのを恐れていたのが馬鹿らしくなるほどに・・・。
 それでも記憶は常に過去へさかのぼるだけであって、決してこれからの時間を映してはくれないとわかってから、かすみはあまりその事を考えないようにしていた。
「葵・・・今はどうなの?」
「ん、どうだろう。会えなくなったらどうでもよくなったかな。」
 葵の心の中の雪は全て溶けてしまったのだろう。こんなことをかすみに話すこと自体がその証拠かもしれない。
「あれ?」
 どこか場違いな葵の声にかすみは顔を上げた。
「えっ?雪!」
 空を見上げても雪雲らしきものは見あたらない。天気雨ならぬ天気雪であった。おそらくどこか違う場所から風で流されてきたのだろう。
「この冬が終わったら・・・また一杯に雪を積もらせるんだ、私。」
 そう呟いたかすみの顔を葵がどこか納得できないような表情で見つめていた。
 
 
                   完
 

『・・・と言うわけでな、某人気投票ではかすみが一位なんじゃよ。』
『へえ・・・。』
 などと幼なじみ属性全開の友人とかなり昔に話をしていた時のことです。
『ごめんね三連発。かすみファンとしてこれだけは譲れん。』
 なるほど。だったらこんなんでましたけど・・・(古っ)
 あまり話を考えないまま書き出してしまったせいで(ラストのみ)無茶苦茶ですが、途中退化してしまってからこれではいけないとしばらく充電してこうなりました。
 前半と後半で気合いの乗り方の違いがわかる男になってますね。(笑)
 なんとなく、夜の海に降る雪という光景に私自身も知らないトラウマがあるのかもしれません。(笑)
 さてかすみです。読者の方には訳わからんでしょうけどおおとりです。
 なんというか、かすみにはここから先は譲れないというものが感じ取りにくくてちょっとつらいです。『あなたがそういうならきっとそうだね』とか言う台詞に代表されるように、なんか主人公として増長してしまいそうでした。(笑)
 お気に入りイベントは、『ごめんね三連発』と『目にゴミが・・』ですかね。
 最初ぼんやりと考えていた話では、葵と絡めて三角関係一歩手前。そんな状況で主人公の転校を知ったかすみがおずおずとアタック開始。
 放課後の音楽室で1人、『私って卑怯だな・・・でもはやくしないと葵が自分の気持ちに気付いちゃうから・・・』とか言わせてみたかったんですが、本家のイベントでそんな状況があるからやめました。
 ところで、ブルームーン探偵事務所というのは、昔放送していた外国のドラマなんですけどあの最終回は凄かったです。最終回の途中でいきなり舞台のセットがばらされ始めていくんですよ。(笑)当然のように慌てるヒロインに監督に文句をぶつける主人公。おそらくそれまでの話を知らなくても一見の価値はあります。ディレクターとかも出てきて凄かったんですから・・・。(だめだ、誰もわからねえ)

前のページに戻る