入学してまもなくの頃、グランドをかけ抜けるある人の姿に目を奪われた。貧血気味で運動音痴の自分は迷うことなくマネージャーという道を選んでもう半年以上が過ぎた。
 活気にあふれた放課後のグラウンド。あゆみの意中の人の姿はそこにはない。木地本が陸上部の中でも指折りの出席不良部員であることを知ったのは入部してから二週間も経たない頃だった。練習に参加するときは誰よりも真面目に練習するのだが、月の半分は練習をさぼって女の子に声をかけるので忙しいとか何とか・・。
 事実あゆみは6月に街中でナンパされかけている。
 −と、いうことは私はあの人に声をかけられるぐらいにはいけてるってことよね。−
 手の中のストップウオッチを握りしめて妙な盛り上がりを見せているあゆみに対して息を切らせた部員の声がかけられた。
「瑞木さん、タイムは?」
 あゆみは我に返って手の中のウオッチを見る。
 きまずい沈黙の後、あゆみはぺこりっと頭を下げた。
「すいません、とり損ないました。」
 あゆみはまだまだ修行が足りないようであった。
 
 陸上部といえば器具1つ1つがべらぼうに高く(例えばハードル1つが10万円とか槍一本で8万円とか)、また登録料や記録会の参加料金があって部費のやりくりが大変なのである。そのせいでけちれるところはけちろうとする陸上部ならではの倹約の1つにスターターの銃の火薬がある。あの火薬の入った紙を半分、または3分の1にちぎって使用したりする。(ひどいとこだとそれすら買えないところもある。)このちぎり方が悪いとパーンという音が鳴らないため人によっては難しい技術のようです。でも、陸上の器具は一旦買えば半永久的に使えるではないかとおっしゃるかもしれないがいえいえそんなことはありません。例えばハードルは傷んで折れるときもあるし、円盤(二万円。練習用のゴム円盤は五千円・・でもかけていく)は半年も使えばわれてしまいます。槍だって土の上だと一発で槍先が壊れてしまい修理に1万円もかかるので競技場で初めて槍を思いっ切り投げたという人だっているのです。棒高跳びのポールだって個人にあわせたポールが必要です。だから、半永久的に使えるのなんて砲丸と鉄製バトンぐらいなもんですよ。(笑)
 というわけでどんな部もかかるだけの費用はかかってるんです。当然自腹の部分のほうがでかいので生徒会の予算なんて可愛いモノなんです。ちなみに私の高校の野球部は一年で〇百万の部費が動きましたよ。で、生徒会の予算は25万円。それでもよそからはあれこれ言われましたけど・・。
 すかっ。
「ご・ごめんなさーい。」
 音のでなかったスタートに合図を待っていた部員が前のめりに倒れる。音が鳴らなくても走れることは走れるが、タイムがとれないのである。
 愛らしさにあふれ、ちょっと頼りないあゆみは陸上部の中ではマスコットのような存在として、男子部員からも女子部員からもかわいがられていた。
 
「マネージャー、悪いけど木地本に練習に来るように言ってくれないか?」
 男子部のキャプテンにそう言われてあゆみは悪戯を見つけられた子供のように慌てた。
「え・・どうして私なんですか?」
「それはね・・。」
 ぐっと拳を握りしめてキャプテンが力みかえる。
「俺が言っても効果がないのと、どうせなら可愛い女の子にそう言われた方がナンパばっかりしてるあいつには効果的なんじゃあないだろうかと考えたんだよ!」
「はあ・・」
 あゆみは曖昧に頷いた。
 などと昨日のことを思い出しつつ、2年3組の教室の前であゆみは大きく深呼吸した。
 どきどきどき。
「えっと・・キャプテンに頼まれてきました。ちゃんと毎日練習にでてください。」
 ぶつぶつと言い訳のように口の中で何回も繰り返した台詞。それでもやはり、学年が上の教室の中に入っていくのはあゆみにとって至難の業であった。
 あゆみの中で緊張感が極限まで高まった頃、不意に声がかけられた。
「何してるの?」
「**********っっっっっっ!!!」
 人の可聴域を越えたあゆみの悲鳴に廊下で何人かが被害に遭っていた。だが、あゆみに声をかけた人物が最も大きな被害にあったといえる。なぜなら、うずくまったところに気を失ったあゆみが倒れてきたのだから・・・。
 
 白い壁。
 あゆみは自分が寝かされているのに気がついて顔を右に向けた。薄い緑色のカーテンのようなものが見えた。
「保健室?」
「その通り。」
 非常に陰鬱な声が左の方から聞こえてきて、あゆみは慌ててそちらの方に顔を向けた。額に絆創膏を貼った少年の顔はどこか見覚えがあった。が、あくまで木地本の友人としての認識でしかない。
「あの・・・?」
 あゆみは何となく自分がこの人に迷惑をかけたのではないかと思い、できるだけおずおずと切り出そうとした。体を起こそうとして後頭部に激しい痛みを感じて思わず手をやると、知恵こぶのようにぷっくらとふくらんでいる。
 『不機嫌そうな少年の額に貼られた絆創膏』、『激しく痛む自分の後頭部』、『とぎれた記憶』とくれば導き出される答えはそう多くない。あゆみの頭脳は一瞬でこの場に的確な言葉を導き出した。
「すいませんでした、ご迷惑をおかけして・・・。」
「いや・・・君は大丈夫なの?」
 後頭部と額の激突だと普通額の方がダメージは少ない。でも、ひょっとするとこの少年は頭をぶつけたせいであゆみが気絶したと勘違いしているのではないだろうか。
「・・・大丈夫です。あの、私は1年3組の瑞木あゆみといいます・・。」
「僕は2年1組の早川大輔。」
 お互い自己紹介してしまえばもう会話が続かない。それもそのはずで、話すことなど何も見つからないのだから・・。
「じゃ、じゃあ僕はこれで・・・。」
 そう言い残して立ち去った大輔を責めるのは酷というものだろう。
 
 また逃げられちゃった・・。
 あゆみはため息をついて木地本が走り去った校門の方を見つめた。陸上部1の快速に追いつけるはずもなく、あゆみ単独で木地本の自主休暇を防ぐことはできないことは明らかだった。ぼんやりと校門を眺めているわけにもいかず、あゆみは踵を返してグラウンドの方へと歩き出した。と、その足がぴたりと止まる。
 あゆみの数少ない友人の1人である君子・・・と大輔のツーショットが視界に入ったためである。2人のずいぶん親しげな様子をみて、あゆみは自分と木地本がそうしている姿を想像してみた。
「あゆみちゃん、何してるの?」
 顔を赤らめて何かを追い払うかのように奇妙に踊るあゆみの姿を目にしたのか、君子が声をかけてきた。
「わ・私は別に・・。」
 見てはいけないものを目撃してしまった気がして慌てるあゆみの耳に、のんびりとした大輔の声が届いた。
「あれっ、この女の子・・君子の知り合い?」
「お兄ちゃん・・あゆみちゃんのこと知ってるの?」
 オニイチャン・・。『早川大輔』・『早川君子』・・・。
「あ、君子ちゃんのお兄さんだったんですか?」
 どことなく安心してあゆみは声をかけた。やはりよく知らない先輩というより、友達のお兄さんというのでは安心感がまるで違う。
「君子の兄です。君子がいつもお世話になってるようで・・・。」
「あ、そんなことないです。いつもお世話になってるのは私の方で・・。」
 高校生離れした堅苦しい挨拶が始まると君子がわざとらしくため息をついた。
「・・・・あゆみちゃん、なにかあったの?」
「・・・木地本先輩に逃げられちゃって・・。」
 その台詞をおそらく間違った解釈をしたのだろう。あゆみが口元をゆるませた。
「あゆみちゃんはのんびりしてるから・・。もっと積極的にいかないと・・。」
「へえ、あゆみちゃん木地本のことが好きなんだ?」
 兄妹ならではの無邪気なコンビネーションにあゆみは慌ててその場を逃げ出した。
 
 放課後の廊下であゆみは突然大輔に呼び止められた。
「あゆみちゃん、木地本はいいやつなんだ。」
「はい、わかってます。」
 そこで会話はとぎれ、あゆみは黙り込んでしまった大輔の顔を見つめた。心なしかおかしいな?という風に首をひねっているようにも見える。
 固まっていた大輔が突然ぽんと手をうった。
「そうか!あゆみちゃんが木地本のことを好きなんだ。いかんいかん方向が逆だったな。」
 何か納得したようにしきりに頷き、自分に背を向けて歩き出そうとする大輔の制服の裾をあゆみはぐっと掴んだ。
「早川先輩・・・何をするつもりなんですか?」
「・・・・別に何も。」
 これほどの白々しい嘘をあゆみは初めて耳にしたと思う。
「気持ちは嬉しいですけど、変なことはしないでください!」
 何かをごまかすように頭をかいていた大輔がぽつりと呟いた。
「でもさ、あんまり時間もかからないしさ・・・。」
「何の時間ですか?」
「何の時間だろうねえ?」
 ここであゆみはふとあることに気がついた。大輔は言葉巧みに本来自分が向かっていた方向から遠ざけようとしているのではないかということに。その証拠にさっきから思わせぶりな言葉と自分の視界を妨げるように奇妙な行動とをとっている。
「早川先輩・・・何か隠していませんか?」
「あゆみちゃん、もうちょっと静かに喋ろうか。ほら、静かな放課後なんだから・・。」
 あゆみは黙って大輔を押しのけると、目当ての教室に走っていき、中をのぞき込んだ。
 その瞬間あゆみは全てを理解した。
 呆然と立ちつくしたあゆみの手を引いて大輔は人のいない適当な教室の中にあゆみを連れて行った。
「木地本さんはあの人のことが好きなんですね・・。」
「さあ、どうだろう?」
 穏やかで優しい声だった。それだけに、あゆみにはその言葉が嘘であることがわかってしまう。あゆみは俯いたまま呟いた。
「早川先輩、あんまり優しい人は天国にはいけないそうですよ・・。」
「そりゃそうさ。天国だと他人に優しくできないじゃないか。適材適所というやつだな、うん。で、誰の話?」
 大輔の無茶苦茶な言い分にあゆみの顔の筋肉が悲鳴をあげる。頬の筋肉の緊張がゆるんだ途端、これまでこらえにこらえていた涙があゆみの目からどっとあふれ出した。
 
「あゆみちゃんおはよう。」
「・・・君子ちゃんおはよう。」
 あゆみにとって衝撃の日から数日が過ぎた。相変わらず陸上の練習にあまり顔を見せない木地本が今となってはありがたい。
 元気なく俯いたあゆみの目に絆創膏のまかれた君子の細い指先が目に入った。
「君子ちゃん・・その指どうしたの?」
「これ?包丁で切っちゃったの・・」
 君子は笑いながら自分の手を胸の高さまで持ち上げる。その屈託のない笑顔には痛みのかけらすらない。
「ちょうど研ぎに出したばかりで良く切れる包丁だったからすぱっと切れちゃったの。でもその分治りも早いはずだから・・。」
「そうなの?」
 不思議そうに聞き返すあゆみに対して君子は、自分もなぜだかわからないんだけど・・と前置きしながら答えた。
「良く切れない刃物とかでどのぐらい切れたかどうかわからない傷が一番治りにくいんだって。」
「すっぱり切られた方が治りが早いんだ・・・。」
 そう呟いて立ち上がったあゆみには気がつかずに君子は自分の指を見ながら喋り続けている。
「でも、切り落としちゃったら治る以前の問題だけどね・・。」
 
 一刀両断。
 立ち去っていく木地本の背中を見つめながらあゆみはぽそぽそと独り言を呟く。
「君子ちゃんの言うとおりね・・・全然痛くない。」
 胸のあたりに風穴があいたような感覚であった。自分の全人格を否定されたような喪失感があまりに強すぎて体中の感情が欠落したような状態。それをを冷ややかに見つめている自分が心のどこかにいることを感じた。
 ほんの少しでも期待していた自分があまりに愚かで哀しい存在のような気がしてあゆみは膝を抱えてしゃがみ込んだ。
 ふとあゆみは自分のみつめていた教室の床にぽつりと丸いしみがうかんでいるのに気がついた。
「なんのしみかしら?」
 あゆみは何気なく呟き、そのしみに対して手を伸ばしかけた。するとそのしみの側に同じようなしみが生まれ周囲の床に滲んでいく。
 そのしみが自分の涙であったことに気がついてあゆみは両手で自分の顔を覆った。そうしてみて初めてあゆみは自分の頬が知らないうちに涙で濡れていたことに気がついた。
 
「暖かくていい天気だね・・。」
 光合成を楽しむような大輔の言葉を耳にしてあゆみはふと顔を上げた。
「・・・・こんにちは。」
 あゆみから少し距離を置いて大輔は同じベンチに腰掛けた。2日ぶりの学校はいつもと変わらない装いでそこにある。隣に座る大輔も普段通りの大輔に見えた。
「・・・早川先輩、聞いてましたね?」
「聞いてたって何を?」
 小春日和の陽気に誘われた生徒達がうろつく時計広場の中で、2人のまわりにだけ妙な緊張感がただよっている。
「早川先輩はきっと地獄に堕ちますね・・。」
「・・・俺、悪い子だからなあ。」
 うんうんと頷く大輔を見てあゆみはぽつりと呟いた。
「そんなことないです・・きっと。」
 あゆみの言葉を遮るように無粋な校内放送での呼び出しが2人の耳にも届いた。
『二年一組の早川大輔君、今すぐ職員室まできてください。』
 大輔は腕組みをして呟いた。
「ほらね、悪い子なんだ。」
 慌てたように背を向けて駆けていく大輔の後ろ姿を眺めながらあゆみはもう一度呟く。
「・・・そんなことないですよ。」
 
 人影のまばらになる夕暮れ時の遊園地はどこかもの悲しい。
「早川先輩、最後に観覧車に乗りませんか?」
 あゆみは夕焼け空を眺めながら自分の隣に腰掛けた大輔に提案する。大輔はあゆみに賛成するように立ち上がった。
 閉園間近ということもあってか、観覧車には待ち時間なしで乗り込むことができた。
 どこまでも夕焼け空が続いているような西の方を眺めながら、あゆみは向かいに座った大輔に話しけた。
「私、木地本先輩のことをあきらめることにしました。・・・新しい恋を探そうと思います。」
「・・・あきらめることはないと思うけど、まあ前向きなのはいいことだと思うよ。」
 ゆっくりと上昇を続けていた観覧車は頂点を過ぎ、ゆっくりと下降にうつる。
 あゆみが横目でちらりと大輔の様子をを窺うと、大輔は眩しそうに目を細めて夕陽を眺めているようだった。あゆみは慌てて視線を戻し、また夕陽を眺めだす。
 同じ場所にいて、同じ景色を見つめている。
 それだけであゆみは心が暖かくなるのを感じた。
 
 朝のホームルームの時間。
 急に隣の教室が騒がしくなる。教室から漏れ出てくる騒音に混じって『うそー』などと微かに識別可能な声があゆみの耳にもとどいた。
 休み時間になってあゆみは隣の教室をのぞきに行った。さっきの騒動は一体何だったのかちょっと興味がわいたということもある。
 数少ない友人の周りには人だかりができていた。あゆみは不思議に思って同じ陸上部の男子生徒に声をかけた。
「何の騒ぎなんですか?」
「えっ?ああ、瑞木さん・・いや、早川さんが今学期一杯で転校するんだってさ・・。」
「えっ?君ちゃんが!」
 人山を押しのけることなどできないあゆみは辛抱強く順番を待って、ついに君子の前にその姿を現した。
「君ちゃん、転校するって本当?」
「・・・本当だよ、あゆみちゃん・・。」
 お互いに言葉がでない。
 あゆみは数少ない友人の1人がいなくなるという思いで胸がいっぱいであり、君子は矢継ぎ早に繰り出される質問に心がどうしようもなく疲労しているためであった。
 言葉少なく君子と別れて、ふとあゆみはあることに気がついた。
 あゆみは大輔の姿を求めて廊下を走り出す。タイミングが悪かったのか、それとも今日は学校にきていないのかわからないが結局あゆみは大輔の姿を探し出すことができなかった。
 
 屋上に吹く風はとても冷たい。この時期に屋上にやってくる人といえば1人になりたい人間か何か目的を持った人物でしかあり得ない。
 例えば送別会を途中で抜け出してきた自分を捜しにくるためとか・・。
「また・・泣いてるところを見られちゃいましたね・・。」
「3回目かな・・?」
 ぽそっと呟かれたような大輔の声を聞いてあゆみは無理に微笑んだ。
「やっぱり・・・見てたんですね?」
 あゆみは制服の袖が濡れるのもかまわずに涙を拭った。
「でも・・今回泣いてるのは早川先輩のせいですよ。」
「確かに君子に口止めしたのは俺だから・・。ごめん。」
 あゆみはゆっくりと首を左右に振った。
「確かに教えてくれなかったのは悔しいけれど、そうじゃありません。自分の好きな人と会えなくなるから・・。それだけです。」
 大輔は西の空に視線をうつして手すりに手をかけ、にっこりと微笑んだ。
「君子が聞いたら喜ぶよ・・。」
 大輔の返事を聞いてあゆみは大輔の制服の裾を掴んで引っ張った。
「私が好きなのは早川先輩、あなたですよ。・・・友達としてじゃなく。」
 大輔の返答を先回りするかのようにあゆみは小さく呟いた。いいかげん大輔の性格にも慣れてきている。
 突然大輔が大きくため息をついた。ぽりぽりと頭をかいている。少し頬が赤く見えるのは夕陽のせいかそれ以外か・・・。
「・・・わかった、卒業したら戻ってくるよ。」
 あゆみはふるふると首を振った。そんなあゆみの様子を見てか、大輔が不思議そうな顔をした。
「・・・まだ、返事を貰ってませ・・・」
 あゆみの身体が急に引き寄せられた。大輔に優しく抱き留められ高鳴る鼓動の中であゆみは恥ずかしげな大輔の小さなささやきを耳にした。
「俺もあゆみちゃんのことが好きだよ・・・。」
 
 シーズン真っ盛りの陸上部にとって4月は記録会の準備や新入部員への指導で忙しい。これに加えて陸連(陸上競技連盟・・・ここに登録しないと競技会には出場できない。ただし、学生については学生陸上競技連盟等があり、そこから届出をする場合もある)への届出などでマネージャーは目も回るほどの忙しさである。
「木地本先輩、瑞木先輩って可愛いですね。」
「・・年上に向かってその表現はどうかと思うが・・狙ったもむだだぞ。マネージャーにはつき合ってるやつがいるんだから。なっ、マネージャー。」
「知りません!もう木地本先輩ったら・・。」
 倉庫にスターティングブロックを取りに行った帰り、あゆみは新入部員と木地本との会話を耳にして思わず顔を赤くして声を荒げた。
 自分の背後に噂の本人がいることに気がついた一年生は慌ててどこかへ走り去っていく。
 この春あゆみは二年生になった。後輩のマネージャーもでき指導などで忙しいことには変わりないが去年ほどではない。何から何まで初体験の陸上競技部の一人きりのマネージャーだったあの頃。あの頃自分の心の支えとなっていたのは木地本の存在だった。
 今、自分の支えになっているのは違う人。
 出会ってからわずか一ヶ月。風のように吹き抜けていったあの人は今何をしているのだろうか?
 ふと見上げた青い空。薄く霞んだような雲が風に吹かれて流れていく。あゆみの視界がふと紙切れのようなモノで遮られた。
「マネージャ、この前の写真できたって・・。」
 木地本に渡された写真を見て、今夜手紙を書こうとあゆみは思った。遠く離れていても心の距離が離れていなければいい。ただ、それを確かめることのできない距離がちょっとつらいときがある。あの人もまたこんな思いをしてくれているのだろうか?
「あゆみ先輩、5分経ちましたよ。」
 後輩のマネージャーが時計を見てあゆみに声をかけてきた。あゆみはふっと現実に意識を引き戻された。後輩の方を振り返って軽く頷く。
「30Mダッシュ行いますので用意してください!」
 あゆみの声を聞いて、休んでいた短距離部門の部員達がゆっくりと立ち上がり始めた。
あゆみの髪を吹き流す突然の強い風。あゆみはふと大きな声であの人の名前を呼んでみたくなった。この風に乗って自分の声があの人の所まで届くような気がして。
 −早川さんお元気ですか?私は少し落ち込んだりもするけど元気です。−
 
 
 

 ラストは何故か魔女の宅〇便。(笑)とするとやはり投擲サークルの掃除用の竹ほうきと足下に黒猫ですか。別に嫌いじゃないですが絶対このキャラ小悪魔チックですよお。私の知り合いなんかもっとえげつないこと言ってましたが、あゆみファンに対して結構失礼な発言であることだけは間違いなかったです。(笑)
 しかし、このシリーズで出てくる動物はどうしてみんなこんなに怖いのか?例外は弥生との春デートのゴリラぐらいでしょう。前作の本多さんイベントの迷子犬でテレビ画面から思わずひいてしまった自分としては今回の『ユゲ』も厳しいモノがありました。あ、ライオンの赤ちゃんも何とかおっけーか?
 ちなみに冬です。小春日和ってのは晩秋から冬の始めにかけてぽかぽかとして暖かい日のことだからね一応。
 しかし、どの部活動にしても部費というのは大変ですよね・・。野球部時代は月5千円に遠征代、自分自身の用具代と両親に感謝してもしきれないぐらいの金をかけました。なんせ一ヶ月でアップシューズが使い物にならなくなるぐらい練習の厳しい部活でしたからねえ。まあ、正月3日は休みだったから某高校には及びませんが・・。(笑) 

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