「ありがとうございました・・。」
立ち読みだけですませた葵の背中に、嫌みたっぷりの本屋の主人の挨拶が飛ぶ。このぐらいのことが気にかかるようなら立ち読みなんかしない。でも、特にやることもない暇な休みの日にはつい身体を動かしたくなる。そんな日は今のようにぶらぶらとあてもなく散歩を楽しむのが常だ。
「うーん、ここまでくればかすみの家が近いなあ・・・。」
誰に聞かせるでもない独り言を呟き、葵は大きな団地の連なる方角に足を向けた。
ぴんぽーん。
「はーい。どなた?」
「おばさん、かすみいますか?」
「あら、葵ちゃん。かすみなら多分部屋にいると思うわ。」
「そうですか、じゃあ、おじゃましまーす。」
かすみとは中学からのつき合いだけに、勝手知ったる他人の家である・・・。
こんこん。
返事がない。葵は多少ためらったものの、ゆっくりとドアを開けた。もし寝ていたらそのまま帰ろうかとも思ったのだが、どうやらその心配は無用だったようだ。
かすみはベッドの上に腰掛けて、食い入るように少女漫画雑誌を眺めていた。おそらく葵が部屋の中に入ってきたのも気がついていないのだろう。しかしまあ、かすみの表情からしてもうすぐ読み終わることは予想できたので葵は勝手にお手製らしいクッションを引き寄せ腰をおろした。
やがてほうっと深いため息を吐き、雑誌をぱたんと閉じてかすみは目を閉じた。そこら辺の感覚は葵には全然わからない。
そしてかすみが再び目を開いた瞬間に、葵は軽く右手をあげた。
「よっ。」
「・・!?えっ、葵!いつからそこにいたの?」
「いつからだと思う?」
「えっ、ええっ?」
慌てたようにきょろきょろと部屋を見るかすみの姿がやけに楽しい。
こんこん。
「かすみ、葵ちゃん、お茶が入ったわよ。」
ティーカップを2つ持ってかすみの母親が現れると、かすみの狼狽は頂点に達した。
「もう、葵ったら声をかけてくれれば良かったのに・・。」
「邪魔するのも悪いかなと思って・・・でもそんな真剣になるほど面白いかこれって?」
葵はさっきまでかすみの読んでいた少女漫画をぱらぱらとめくった。
「うん・・・葵はそういうの嫌い?」
「恋愛主体の漫画ってさあ、なんかすっごい不親切じゃないか。そりゃヒロインはハッピーエンドでいいかもしれないけど、他の女の子へのフォローが全くないんだもの。」
「・・・そうかな?」
「そうだよ。ヒロインが幸せになるために一杯他の女の子を不幸にしてる。それで、他の女の子はどうなったか?・・・それが全然出てこないんだもの。」
いくら好きな相手でも、自分の親友や知り合いの心を踏みにじってまで突っ走るというのが葵にはどうも理解できない。無論、そんな極端な話ばかりではないのだが、多かれ少なかれそういうところのある話は葵にとって生理的に受け付けないものであった。
「・・・言われてみるとそうかもしれないね。」
かすみはためらいながらも葵に同意した。それでも言いたいことがあったのだろう、つんと顔を上げて再び口を開く。
「でもね・・現実でも誰かと誰かがつき合ったりすると何人かは悲しい思いをすると思うの・・。それはやっぱり悲しいことなのかな・・?」
「・・・さあ、あたしにはわからない。そんな経験もないし・・・。」
不意に沈黙が訪れる。
こんな沈黙が最近二人の間でよく訪れるようになった。話し疲れたわけでもなく、お互いが何かに熱中しているわけでもない。そして沈黙に耐えきれなくなるのは決まって葵の方であった。
「さて、そろそろ帰らないと・・。まぐろを散歩に連れて行ってやらなくちゃ。」
とってつけたような言い訳。それがわからないほどお互い子供でもない。
「まぐろ・・・元気?」
「ああ、・・・じゃあね、かすみ。」
そしていつもかすみは葵の背中を悲しげに見送る。
「あら、葵ちゃんもう帰るの?」
「ええ、おじゃましました。」
玄関のドアを閉めて葵は階段を降り始める。
「よっと・・。」
長い階段の最後の二段を飛び降りて葵は顔を上げた。目の前には同じ造りの団地がいくつも並んでいる。
「・・・いつから、こうなっちゃったんだろ・・。」
葵はそう呟くと、下を向いて歩き始めた。
まぐろが何か物足りなさそうにぐいぐいと綱を引っ張るのだが、葵はそんな気分にはなれない。
「まぐろ、今日はゆっくり歩こうな。」
「ばうっ!」
ぐいぐいぐい・・・。
「ホントにわかってるのか・・?」
葵はまぐろに半ば引っ張られるようにして砂浜をかけていく。狭い砂浜の中程まで来ると、まわりに誰もいないのを確認して葵はまぐろの綱をはずしてやった。本当はそういうことしちゃいけないのだが、まぐろのおとなしい性質といつも自分の目の届く範囲だけを走りまわる習性を知っていたので葵はたまにそうすることがあった。
日は西に傾き、強かった陽差しは今やオレンジ色の柔らかな光となって海を染め上げている。ちょうど夕凪の時間帯なのか、波はおだやかであった。
だが、それを見つめる葵の心はあまり穏やかとは言い難い。
「ばうっばうっばうーっ!」
「うおっ。まぐろ、昔男前にしてやった恩を忘れたのか?」
「ばうばうばうっ!」
まぐろが騒がしいので葵が鳴き声のする方を振り返ってみると、葵の心を穏やかならざるものにしている張本人とも言える少年がまぐろに飛びかかられて砂まみれになっていた。
「何やってんだよ、早川。」
「おおっ、ちょうど良かった。助けてくれ波多野。」
まぐろに顔中をなめられ、どうやら困っているらしい。まぐろは多分その少年にじゃれついているだけなのだが・・・。
「たまにはまぐろの遊び相手になってやれよ。悪戯ばっかりしないでさ・・。」
「まぐろで遊ぶのはいいが、まぐろに遊ばれるのはイヤだ。」
呆れるぐらいの自己中心さである。ここまできっぱり言い切れるところはむしろ立派なものかもしれない。
「まぐろ、お座り。」
「ばうっ!」
一応躾だけは厳しくしてきたので葵が一言命令すればおとなしくなる。大輔は全身の砂を払い落としながらやれやれといった感じで起きあがった。
「まぐろ、今度はカラフルに決めてやるからな。覚悟しとけ。」
「ばうっ!」
「飼い主を前にしてそういうことがよく言えるな・・・。」
葵はため息をついた。
まぐろは引き続きそこらを走りまわらせておいて、葵と大輔は肩を並べるようにして砂浜に腰をおろした。
「まったく・・・いいな早川は悩みなんかなさそうでさ・・・。」
「神これを 創り給へり 蟹歩む・・って俳句知ってるか?」
「・・・・何それ?」
「誰の句かは知らないけど、いろんな解釈が可能でな・・例えば、蟹が横歩きするのは神様がそう創ったから。じゃあ人がいろんな悩みを抱えて生きるのも神様がそう創ったから・・・とかな。」
いきなり真面目な話題をふられたので、葵の方が展開についていけなくて目をぱちくりさせてしまった。
「つまり・・・俺に悩みが無いのも神様がそう創ったからなんだ。」
真面目くさった表情でぬけぬけとそう断言する大輔に向かって葵は砂を一掴み投げつけた。無論、目に入ったりすることのないように注意してだが。
「お前の話を真面目に聞いてたあたしが馬鹿でした・・。まぐろっ、帰るよ!」
「ばうっ!」
「じゃあな早川。」
「おう、また明日な・・。」
放課後になると演劇部は大抵3年の教室を使って練習している。位置関係や客席からの視点がどうしても必要と思われるときだけ体育館を使用できるように申請するのだが、それは大体発表前の期間に集中する事が多かった。
「はい、みんな。ちょっと注目。」
部長がぱんぱんと手を叩いてみんなの注意をひき、おもむろに切り出した。
「明日の日曜日なんだけど、運動部のほとんどが試合とかでいなくて体育館が空っぽになるみたいなの。まだ舞台の感覚を知らない一年生もいるから練習しようと思うんだけど?」
いつもならかけ声などの騒音で満足のいく練習ができないのだが、誰もいない体育館なら思う存分引け目もなく練習することができる。決をとるまでもなくこの日曜日を使って練習することが決まった。
運動部に気兼ねなく声を出して演技できるので、葵は上機嫌で自分の手帳にその旨を記しておこうとしてはたと気がついた。
「あ、やば。明日はかすみと約束してたんだっけ・・。」
葵は練習が終わるとすぐにかすみの姿を探しに教室を後にした。すると階段のところで見覚えのある後ろ姿を発見し、幸いとばかりに声をかけた。
「早川、かすみ知らない?探してるんだけどさ・・。」
「音楽室じゃねえのか?来月にコンクールがあるから1人で練習してると思うぞ。・・それよりいちいち俺に聞きに来るなよ。」
「私が探すよりお前に聞いた方が早いんだよ・・。」
そう言い残して葵は音楽室へと向かった。ほんの微かな胸の痛みを抱えたままで・・。
ひょいっ。
葵は音楽室の入り口から顔だけをのぞかせた。フルートの音がしているので練習の邪魔をしたら悪いと思ったのと、かすみ以外の人が練習していた場合のことを考えてのことだった。
かすみは窓際の椅子に腰をおろし、瞳を閉じたまま軽やかに細い指がフルートを滑らせていく。なんで目を閉じているのに穴の位置がわかるんだろうと、いつも葵は感心するのであった。
葵が入り口に立ったままその音色に耳を傾けていると、その軽やかな音色がふととぎれてかすみはフルートから唇を離した。自分の音に集中していたので微かな反響の違いに気がついたのだろう。
「葵、どうしたの?」
「ごめん・・・邪魔しちゃった?」
「ううん、そろそろ帰ろうかと思っていたから別にかまわないよ。」
かすみは葵に向かって首を振った。そんなかすみに向かって葵はぱん、と手を合わせて頭を下げた。
「かすみ、ごめん。明日一緒に行けなくなっちゃった。演劇部の練習が入っちゃって。」
「えーっ、楽しみにしてたのに・・。」
「本当にごめん。この埋め合わせは必ず・・・。」
「うん、仕方ないよね・・・部の都合だと。」
柔らかに微笑むかすみを葵はやや複雑な気持ちで見つめた。これまで葵はかすみに本気で責められたり怒られたりしたことがない。ちょっと怒ったふりをするだけですぐにこうして微笑みながら許してくれる。
葵はかすみのそんな優しさがわかっているだけに、彼女を悲しませるようなことはしたくないと思うのだ。
キイッ。
最近は家の中で遊ぶ子供が多いのか、普段静かな筈の児童公園からブランコの鎖の軋む音がした。
・・・珍しいな、誰かいるのか?
この時間帯、本当なら子供達のはしゃぎ声で賑わっていなければいけない。葵は単純にそう思った自分がちょっと寂しかった。
あまり広くない公園だけに、入り口のところから少しのぞき込めば全体が見渡せた。
「かすみ・・?」
俯いたままブランコに腰掛け、時折思い出したように身体を揺すってブランコをこいでいる・・・いや、ただ風に揺られているだけかもしれない。それぐらい今のかすみは元気がなさそうに見えた。
葵はかすみに声をかけることもできずにその場を立ち去った。その日以来、葵の目から見えるかすみは少し変わってしまったのである。
そんなある日、葵は大輔を誘って一緒に帰り道を歩いた。
「最近かすみの様子が変なんだ。時々悲しそうな目で遠くを見つめてたりしてさ。」
「そうか?・・・俺の前では普段通りのかすみだけどな。」
「・・・だったら、かすみの元気がないのは多分早川の責任だな。何をやったんだ?」
コンビニで買ったジュースを片手に、葵はじっと大輔の顔を見つめた。大輔はただ黙ってあらぬ方向を眺めている。その遠いまなざしは、多分かすみが見ていたものと同じものを見つめている。ふとそんな気がして葵はいたたまれなくなり大輔に背を向けた。
「もういいよっ!」
そう言い残して小走りに駆けていく葵の後ろ姿を見送りながら大輔はぽつりと呟いた。
「・・・俺にどうしろっていうんだよ。」
俯いた大輔の足下に、夏の強い陽差しによる濃い影がくっきりと浮かんでいた。
理由はわからないが夏になると潮の香りが強くなるようだ。海岸から少し離れた青葉台高校にもその香りは風にのってやってくる。
傾きかけた西日に赤く照らされたこの屋上は、まわりに風を遮る建物がないせいか一段と香りがきつい。家が寿司屋の葵にとっては慣れ親しんだ匂いである。
「ああ、葵。どうしたのこんな時間に?」
葵の姿に気がついたのか、振り返ったかすみの微笑みが痛々しい。本当は1人でいたかったのかもしれないが、親友としてかすみをほっとくわけにもいかない。
「かすみ・・・何があったんだ?」
かすみは何も答えずに優しい目で葵を見つめている。かすみのそんな態度とは裏腹に、葵は自分とかすみとの間に壁のようなものを感じてしまう。
「早川に・・・何かされたのか?」
かすみから何も聞き出せないことはわかっていた。ただ、自分がこうして1人で喋っているだけでもその糸口が見つかることはある。
「大輔君は・・・そんなこと絶対にしないよ。」
そう呟くと、またかすみが遠くを見つめる。
「じゃあ、1人で悩むより誰かに話した方が気が楽になるかもしれないじゃないか。」
「多分そんなこと無い。・・・葵に話したらきっと葵も私と同じくらいに苦しむから。そうしたら大輔君もきっと悲しむから。・・・・だから言わない。」
ぽつりぽつりとだが、かすみの話すその言葉には巌のような固い意志が込められているように感じる。だから・・葵には何となくわかってしまった。それでも気持ちのどこかに納得できない部分があって、それを口に出してしまうのが葵の性分なのである。
「どうして?どうして早川が苦しむんだよ?」
「葵は・・・嘘つくのが下手だから・・。」
葵が嘘をつくのが下手ならば、かすみは隠し通すことが下手であった。
大輔の身に何かあった。
おそらく大輔自身も隠しておきたい何か・・・。
葵は一晩考えて1つの仮定をたてた。おそらく間違ってはいないと思う。
「失礼します・・。」
葵は職員室の戸をゆっくりと開いて中へと入っていった。
「かすみに告白しろ。」
葵の目の前で大輔が牛乳を鼻からふいていた。呆れて声も出ない代わりに思わず違うものを出してしまったのだろう。
「波多野・・・?」
「ああ、そういう意味じゃなくて・・いや、そういう意味でもいいけど転校することをかすみにちゃんと話せっていってるんだあたしは。」
「なんでお前がそのこと知ってるんだよ。・・・まあ、かすみに関してはそんな気がしてたけど。」
「かすみはお前が喋ってくれないから落ち込んでるんだよ!そんなこともわからないのか、このバカ!」
大輔自身が心の中にやましい部分があるから、葵の剣幕に反論1つできないでいる。大輔のそんな態度もまた葵のかんに障ったので、葵は大輔の背中を蹴飛ばしながらかすみに話すということを約束させた。
・・・それはいけないことだったのだろうか?
「・・・結局大輔君は葵の言うことなら何でも聞くんだね。」
いつもバスで帰るかすみが珍しく葵と二人で歩いて帰ることにしていた。
「・・・なんのこと?」
「私は大輔君が転校のことすぐに話してくれなかったのが悲しかったけど、葵の態度は大輔君にとってどうなのかな?」
「どうって・・・・。」
「もし大輔君が私に転校することをすぐに話してくれていたなら・・・それはそれでちょっとショックだったと思うの・・。」
かすみはそこで一旦言葉を切って顔を上げた。
「少なくとも・・・私は大輔君がうち明けてくれなかったことに少し救われたの・・。」
かすみのそんな表情を見るのは初めてだった。かすみの視線が葵を責めている。
「・・・葵の態度じゃ大輔君は救われないよ。誰も傷つかないと言うことは誰も救われないことだもん。・・・私はそう思うよ。」
「かすみ・・・。」
「・・・・漫画のようには上手くいかないよね。現実の方がもっと残酷だよ・・。」
ぽつりとそう呟いたかすみの目元で、夕焼けの赤が輝いていた。
誰かを傷つけることでしか人の想いは満たされないのだろうか?
「まぐろ、どう思う?」
「ばうっ。」
まぐろは葵にかまって貰えて嬉しいのか、尻尾をぶんぶんと振っている。
「犬は嬉しかったら尻尾ふって甘えることができるけど、そうはいかないよな。」
「ばうっ。」
「本当にわかってるのかお前・・・?」
葵はそう呟きながらまぐろの頭をずっとなで続けていた。
1人屋上で風に吹かれている自分が少しイヤだった。まるで自分が誰かを待っているみたいで・・・。
「こんなとこにいたのか波多野。」
「あのさ・・波多野とかすみが最近上手くいってないのって俺のせいか?」
「うるさいな、大体お前達がずっとはっきりしなかったから・・・今まではっきりしないからあたしが・・。」
ひょっとしたら・・・なんて思ってしまう。
「じゃあはっきりさせてやる。俺はお前が好きだ。・・・これで満足か?」
葵は大輔の方を振り返り、胸のあたりを掴んで前後に揺さぶった。
「・・・なんで、なんでそんなこと言うんだ!かすみの気持ちはどうなるんだよ!」
「どのみち俺は転校するんだ・・・返事ぐらい聞かせてくれ。」
転校という言葉を聞いて葵の身体からすうっと力が抜けた。どうせいなくなるならこれからのことは考えなくてもいい。
「あたしは・・・」
そう言いかけた時、葵は屋上の入り口で立ちすくむかすみの姿が目に入って言いよどんだ。
「あたしは・・・別にそういうんじゃ・・。」
「・・・そうか。」
今の葵には大輔の表情よりもこちらに近づいてくるかすみの方が気にかかっている。何ら躊躇せずに歩いてくるかすみはやっぱり涙を流していた。かすみの気配に気がついた大輔が振り向いたと同時にかすみの右手が大きくふられて葵は目をつぶった。
ぺち。
撫でるような平手打ち。痛みよりも驚きで葵は目を見開いた。視線の先には涙を拭おうともしないかすみの顔がある。
「葵のうそつき!遠慮して楽しい?それとも私とは違うって言いたいの?」
ぺち、ぺち、とかすみの力無い平手打ちが続く。他人を傷つけるよりも自分にむち打つような平手打ち。
「私は葵ほど綺麗でもないし、運動もできないけど、それでも親友だと思ってたのになんでそんな事言うの?ねえ、嘘だって言ってよ。私に葵のこと嫌いにさせないで・・。」
かすみは平手打ちをやめて葵の肩を掴んで揺さぶっている。
何と言葉をかけていいかわからなくてただ黙っていた葵の頭に黙って立っていた大輔の手がのせられた。もう一方の手はかすみの頭の上に。
ゆっくりと撫でさするような手の動きに、葵は思い出したように涙を流し始めていた。
「かすみの奴まだ寝てるのか・・。」
「疲れたんだろ。かすみが人を叩くのなんか初めて見たからな・・。」
葵の隣には大輔がかすみを背負って歩いている。子供の頃は泣き疲れたかすみを背負って妹の君子とよくそうして帰ったと聞いたことがある。
「重くないのか?」
「波多野程じゃない。」
「背負ったこともないくせに・・。」
「まあな・・・。」
さすがに人目につくので児童公園のところで、一休みすることにした。それにしてもここまで目を覚まさないのは不自然で、何らかの意図が加わっているということに二人とも気がついていないようである。
「中学の時は絶対この二人つき合ってると思ったんだけどね・・・。」
「かすみがどうなのか知らないが、俺はそういうの隠さないぞ。ってそんな経験ないけどな。」
「この3人はみんな経験無いだろ・・。」
そう言って葵は大輔を軽く睨んだ。それが不服だったのだろう、大輔が鼻をならした。
「だって早川が何とかすれば何とかなってただろ。」
「それは波多野も・・・と言うことか?」
「今さらしらばっくれるのもね・・でもいつからなのかはわからないなっ?」
「聞いた。しっかりと聞いたよ葵。」
葵の首元にかすみの腕が巻き付いている。どうやら寝たふりをして機会を狙っていたのだろう。背負って歩いた大輔が馬鹿みたいである。
「葵、この期に及んで逃げたりしたら絶交だからね。」
「・・・でも」
ぺち。
「かすみ、それってすぐいなくなる早川とつき合えってことか?」
するとかすみはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫・・私大輔君のことならほとんど理解してるから。」
そう囁いてかすみは大輔の方を見た。
「どうしたの葵?」
青葉台高校の校舎をどこか懐かしそうに見上げていた葵に、かすみが横から話しかけてきた。
「うん・・・もうすぐ早川がこの街に帰ってくるんだなって・・・。」
「甘いなあ葵は。もうちょっと大輔君のこと理解しないと・・。」
そう呟くかすみはどことなくそわそわして落ち着きがない。
「え?ひょっとして早川の奴、今日帰ってくるの?」
「多分・・今頃二人ともびっくりするだろうななんてきっと考えてるよ。」
葵は思わず複雑な心境でかすみの顔を見つめた。しかし、葵が口を開くより早くかすみがそれを制した。
「葵、変なこと考えてない?・・・それに私は正々堂々と奪うつもりだから。」
「・・・・・・へっ?」
「あっ、今校門の前に隠れてるよ。葵知らんぷりして・・。」
「かすみ、今なんか気になること言わなかった?」
「葵の気のせいだよ・・。」
釈然としないかったが、かすみと二人素知らぬふりで校門に背を向け会話しているように見せかけた。
「おーい、波多野。」
背中からの呼び声に葵とかすみは大声で笑った。
完
ビバリーヒルズ高校白書のラストみたいにしてやろうかと思ったんですがやめました。わからない人にはとことんわからないでしょうし。(笑)
あとは高任ならではのブラック美樹原さんも真っ青なぐらいの性悪かすみにしてやろうかと思ったのですがそれもちょっとかすみというキャラの性格から死ぬほど外れてるのでやめました。じゃあ、美樹原さんは外れてないんですか?とか聞かれそうだから先に答えときます。ときメモって爆弾破裂したら陰口叩かれまくりますやん。それってみんな性格悪いのと違いますか?(笑)
適当に話をつなげたので、ここからここまではビバヒル、ここからここはブラック美樹原、などと推測すると楽しいかもしれません。
しかし、とうとうビバヒルシリーズも第十章でラストですか・・。まあ、途中で眼鏡さんがいなくなってからはとびとびでしか見てないんですけど。(笑・・結局それかい)
さて、雑談が長くなりましたが葵です。性格に腰があって結構好みのキャラです。途中まで僕自身どうなるんだと言うぐらい悩みに悩みましたが、ラストはご都合主義な少女漫画のように思いっ切り力押しです。まさにヒロインさえ上手くいけばいいのか?という魂の叫びが聞こえてきそうですね。(笑)
お気に入りのイベントは寄り道の浜辺です。
「もし、あたしが・・好きって言ったらどうする?」
「きんぎょってしりとりする。」
・・・人間の応対とは思えません。大爆笑させていただきました。もちろん印象は最悪でしょうけど選んでしまうんだなこれが。
本当は安藤とかのキャラと絡ませたかったんですが、せっかくキャラ同志の親友としてのつながりがあるんだからそっちを優先させました。
やっぱりはっきり白黒つけるエンディングはキャラの性格からしてためらいがありました。そこが不満と言えば不満です。やっぱりダークかすみとダーク君子の競演が良かったかなあ?
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