「ねえ早川君、陸上部に入る気はないんだよね。」
「うむ、個人的に止むに止まれぬ事情があるんだ。」
 大輔の鋭い観察眼が育美のこめかみの辺りで盛り上がっていく血管を発見した。おそらく練習中なので心臓が活発に働いているのに違いない。
「じゃあさ、なんで毎日陸上部の練習を見に来るのさ?暇なんじゃないの?」
「だって練習を見ていないと危ないじゃないか。いつ、砲丸とか槍とか円盤が飛んでくるかわからないからな。」
 痛いところをつかれ育美が口ごもる。ちょっと頬の辺りを赤く染めたりなんかして実に魅力的である。
「あれは・・・ボクが悪かったよ。でもそれなら家に帰ればいいじゃないか。」
「いや、陸上部に顔を出すのは他人には言えない事情があるんだ。」
 育美が肩を落として息を吐く。
「わかった。・・・でも練習の邪魔はしないでよね。」
「もちろんだ。」
 育美と大輔のやりとりが陸上部の日常となって早2週間。なんだかんだ言いながら育美自身そのやりとりを楽しむようになっていた。
 もちろん他の陸上部員にはある程度の事情はわかっていて、大輔と育美がくっつくかそうでならないかでトトカルチョがこっそりと行われていることなど幸せな2人は知る筈など無かった。
 
 ・・・なんかしっくりこないなあ。誰かと競り合って走らないと勘がつかめないや。
 自分より1秒以上遅れてゴールする女子部員を見てため息をつく。去年のインターハイで地区予選を勝ち抜いたのが育美1人という弱小部なのに加え、片や育美は全国でも屈指のスプリンターなのである。それを求めるのは酷だとわかっていてもついつい物足りなさを感じてしまう。
 じゃあ、とばかりに男子の短距離選手に視線を向けるとこそこそと視線を逸らされる。
 確かに競技会前に練習とはいえ女子の育美に負けるというのも彼らにとってはあまり精神的によろしくないのも事実だ。
 ・・・そこそこ足が速くてボクに負けても関係ない男子。
 育美がぽんっと手を叩く。
「おーい早川君。ちょっとおいで。」
 大輔は首を傾げながらも自分を手招きする育美の方へ近づいてゆく。
「足のサイズは26.5だったよね?」
 大輔は育美にスパイクを手渡される。
「もしもし?」
「ちょっと一緒に走ってよ。相手がいないと調子がでなくって。」
「もしもーし?」
「んじゃ、こっちがスタートだから。あ、ウォームアップがいるから10分後スタートでいいかな?」
「誰も走るとは言ってないぞ?」
 育美は屈託のない笑顔で大輔の方を向く。
「大丈夫。ボクに負けても誰も笑わないから。」
 当の育美にはそんな気持ちはさらさらなかったのだが、この発言に大輔はまんまとのってしまった。
「くっ・・・じゃあ、俺が勝ったら1つ言うことを聞いて貰おうか?」
「え?じゃあ、ボクが勝ったら言うこと1つ聞いてくれるの?」
「できることなら何でも聞いてやる。」
 和やかな練習風景が入念にウォームアップを続ける2人によって一転した。やる気満々の大輔に鼻歌交じりで新しいスパイクに思いを馳せる育美。
「・・・後藤先輩に勝つつもりかしら?」
「いや、早川が本気で走ればいい勝負だと思うけど・・。」
「今のところ7・3で後藤有利。一口100円。」
 実に練習熱心な陸上部である。
 
 スターティングブロックに足をのせるに至って、大輔が少しまごついた。
「あ、俺やっぱり後藤に賭ける。よく考えたら早川のやつクラウチングスタートの練習なんかしたこと無いからスタートで0.5秒は遅れるじゃないか。」
 賭の比率が一気に育美に偏っていくのを耳にして育美が笑う。
「どうする?スタンディングにする?」
「・・・・このままでいい。・・・ハンデだよ。」
「・・・まあ、男の子はそうでなくっちゃね。」
 育美自身こういう意地っ張りな性格は嫌いではない。その上新しいスパイクまで貰えるのだから手を抜くはずもなかった。
「用意。」
 マネージャーの声に反応して育美が腰を浮かせるのを見て大輔もそれにならう。
 乾いた音と同時にきれいに飛び出す育美とおもいっきりタイミングを狂わせた大輔を見て、2・3人が頭を抱えた。
 30メートル過ぎから部員が異変に気付く。本来なら加速で出遅れた大輔は育美に離されていくはずなのに差は広がらない。ということは大輔の方が加速に関して育美より速いということである。頭を抱えていた部員が一転して大輔に声援を飛ばし始めた。
 当の育美はそんなことに気付くはずもなくゴールの先にある新しいスパイクを目指していつものように走っていた。しかしラスト20で背中に威圧感を覚え、残り10の地点で肩に風を感じたと思ったときには目の前に大輔の背中があった。
「あれ?」
 ゴールしてから育美は首をひねる。無意識にマネージャーの持つ時計を見る。悪くないというより調子のいい部類に入るタイム。
 このとき育美は自分が思っていたより遙かに大輔が速いということを理解した。
「なんで?体育の時とは全然違う。」
「授業なんかで本気で走るつもりはないからだよ。・・・さて、約束は覚えてるよな?」
 育美は頭をかきながら大輔の方に振り返った。
「残念、せっかく新しいスパイク買ってもらおうと思ったのに・・・ま、約束だからね。一応言っとくけどボクのお小遣いあんまり残ってないよ。」
 大輔はぶんぶんと首を振り、なんかわざとらしくせきなんかして視線を逸らす。
「・・・今度の休みの日に遊びにつき合って貰うよ。」
「え、そんなことでいいの?よかったあ。でも早川君、ボクなんか誘うなんてひょっとして友達がいないの?」
 育美の発言に、周りにいた陸上部員が数人もらい泣きをしていた。いや、ひょっとすると賭に負けたからかもしれないが・・。
 
「ん?ボクの顔になんかついてる?」
 2人でボーリングを楽しんだ後、目に付いたファーストフードで大輔がシェイクを持ったまま自分の方を見て固まっていることに疑問を感じ、3つ目のハンバーガーにかぶりつきながら育美が尋ねた。
「いや・・なんかスポーツ選手ってもっとこう・・・なんていうか食事とかに気をつかうもんだと思ってたんだけど・・。」
「まあ、ふぉうゆうほほもひひひはひと・・・」
「いや、食べ終わってからでいいから・・。」
 ほほえましい姿に大輔は笑みを浮かべ、育美は慌ててシェイクでハンバーガーを流し込んだ。
「成長期だから何でも食べるようにしてるよ。厳密に言うと良くないんだろうけど、精神的に苦痛を感じるやり方は良くないと思うんだ。」
 そう言って4つめにかぶりつく育美。負けず嫌いの大輔もそんなことで張り合おうとはさすがに思わない。
 育美の方を眺めながらにこにこと笑みを絶やさない大輔を、育美は不思議そうに見つめていた。
「早川君ってさあ、ボクと一緒に遊んでて・・・楽しい?」
「せっかくの休日を楽しくもない相手と過ごす趣味はないけど・・。」
 大輔の返答に育美が眉をひそめる。
「なんかそういうもったいぶった言い方好きじゃないな・・もっとはっきり言ってくれないとおべっか使われてるみたいで・・。」
「・・・・楽しいよ。」
「それならいいんだけど・・。ボクだけが楽しい思いしてたら早川君に悪いからね。」
 店を出て育美は大きく伸びをした。
「さて、今日は楽しかったよ。良かったらまた誘ってよ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
 元気良く走り去っていく育美の後ろ姿を大輔は手を振って見送った。
 
「やっぱりね、もったいないとおもうんだ。」
 大輔の目の前にずずいと突きだされた育美の顔。育美の大きな瞳にのぞき込まれて大輔は思わず視線を逸らしてしまう。
「土の上で11秒台が出せるんだから、ちょっとスタート練習すればすぐ10秒台に突入できると思うんだ。・・・・ねえ、熱でもあるの?」
 顔を赤くした大輔のおでこに自分のおでこをこつんとひっつける育美。無意識なところがなかなか小悪魔である。
「・・・・いろいろ事情があるんだよ。」
「うーん・・じゃあ、今年も1人寂しくインターハイに行くことになりそうだなあ。」
 腕組みをしながら呟く育美は思い出したように大輔に説明する。
 インター出場が育美1人ということで去年は学校から補助がでず、1人きりで応援もないままに開催地へ行くはめになってしまったこと。そして、おそらく今年もそうなりそうなことなど・・。
「予選っていつやるの?」
「この前話した来月の競技会だよ。・・・どうしたの?」
 盛大にひっくりこけた大輔を育美が不思議そうに眺める。
「後藤さん、陸上競技をなめすぎだよ・・。」
「うーん、今年は無理かもしれないけど来年は絶対全国までいけると思うけど?これでもスポーツに関しては見る目はあるんだボク。それに、走るって動作がシンプルなだけに練習だけでは到達できないものがあるんだよ・・。」
 遠慮がちだが、大輔が育美に対して口を挟んだ。
「・・・才能とか素質とかいわれてもよくわかんないけど、俺の場合努力をするための熱意が欠けているから後藤さんの思うようにはならないと思うな・・。」
「走るのって嫌い?」
 きょとんとした感じで育美が聞き返す。
「いや、そうでもないよ。でも走り続けるのはおっくうだな・・・それ以前に今はクラブに入れない理由があるんだけど・・。」
 大輔の口調に現れたこれ以上の追求を封じるはっきりとした拒絶を感じ取って育美は頭をかいた。
「そっか・・じゃあせめて応援にはきてよ。」
「・・・・・・可能なら。」
 このときの何かをおし殺したような大輔の口調をしばらくたってから育美は思い出すことになる。
 
「あのさあ、なんか早川君見てると友達とか多そうじゃない?」
 大輔から渡されたジュースの缶を開けながら育美が伝えるともなく呟いた。
「そうかな?」
「うん・・廊下とかで女の子とかともよく話してるし・・・なんでわざわざボクなんか誘うのかな?なんて・・・・これって世間一般でいうデートってやつだよね?」
 育美は視線を足下に落とし、気ぜわしげに足先で地面をとんとんと蹴る。
「・・・まあ、そうかな?・・・後藤さんひょっとしてつまんない?」
 大輔が首を傾けて育美の方に顔を向けると、育美が首を静かに振っているのが見えた。
「なんか最近変なんだボク・・・記録は伸び悩んでるし、なんか心の中がもやもやっとして・・・よくわかんないけど。」
 空き缶をゴミ箱へと投げ捨てて大輔は育美の腕を掴んで引っ張った。
「じゃあ、せっかくの休みは楽しまないとね。」
「え、ちょっと?」
 育美は急に引っ張られたせいでバランスを崩し、大輔の方に倒れ込む。
「あっ!」(*2)
 時間にして2・3秒、2人の時間はとまった。
「ご、ごめん。」(*2)
 2人は気まずい思いのまま遊園地を後にすることになった。
 言葉数も少ないまま河原の辺りまで帰ってきた2人の顔を赤い光が撫でていった。
「あっ、早川君こっち来て。」
 育美に引っ張られるままに土手を駆け下りて河原にやってきた大輔は、全てが赤く染まったかのように錯覚しそうな風景に目を奪われた。
「ワタシね、ここで見る夕日が一番好きなんだ・・。」
 大輔は黙って頷いた。ごくたまにではあるが、こうやって言葉を見失ってしまうシーンに出会う事がある。口に出した瞬間全てが安っぽくなってしまうようなシーン。
 身じろぎもせずに夕日を眺めていた大輔に対して、育美はふと何かに気が付いたように首を傾げた。やがて、ちょっと混乱したような表情は照れたような表情に変わった。
「早川君、あそこまで競争だよ。」
 突然河原の先を指さして走り出す育美。不意をつかれた上にフライングまでされては大輔も勝てるわけがなかった。
「・・・ボクの勝ちだね。」
「後藤さん、それは卑怯だよ。」
 そりゃないぜといった感じに大輔が呟く。
「ボクは女の子なんだからハンデだよ。じゃあ、1つだけボクの言うこと聞いてもらうからね。」
 なぬっ?とばかりに大輔は顔を上げ口を開きかけたが、育美の笑顔を見てそのまま口を閉じた。
「俺にできることならね・・。」
 育美は足下の石を拾い上げて川に向かって投げ込んだ。
「今はいいや。願い事は大事にとっとくよ。」
「早めにしてくれないと俺の方で忘れちゃうよ?」
 大輔も育美につられて手頃な石を拾い上げながら答えると育美は首を振った。
「ダメだよ、ボクはずっと覚えとくからね。」
 2人は夕日が沈むまで河原で水切りを楽しんだ。
 
 僅かな時間の中に自分の全てを燃焼させるような濃密な瞬間。マラソンと並んで陸上競技の華(日本に限る)といわれる100Mダッシュは感覚的に言うと花火に似ているかもしれない。とは言ってもゴールラインを駆け抜けるまで約50歩。ストライドの伸びが1センチいつもより縮むだけで約0.05秒遅くなるシビアな競技である。
 全てのスポーツに言えることだが、走るということにリズムは重要である。1つ歯車が狂うと全てががたがたになる。一流の走りになるとカードのピラミッドを積み上げるようなものである。
 育美はマネージャーの差し出すウオッチを見て満足そうに頷いた。
「よーし、ぜっこーちょー。」
 どうやらスランプは脱出したようである。
「ふーん調子良さそうだね・・。」
 鼻歌交じりで自分の隣に座り込む育美に大輔が呟いた。
「うん、早川君のおかげだよ。」
「俺は何もしてないよ。」
 そんなことないよ、と育美は首を元気良く振った。
「早川君はね、ボクに気付かせてくれたんだよ。」
 何を?と視線で問う大輔に対して育美はぺろっと可愛く舌を出した。
「内緒だよ・・。」
 育美の頬の辺りには夕日とは違う色が混じっているように見えた。
 
「嘘だよね?」
 大輔に対して半身に立ち、視線を床におとして質問すると言うよりは哀願するといった感じで呟く育美に大輔は黙って首を振るだけだった。
「そっか・・・クラブに入らない理由はそれだったんだ・・。」
 さばさばとした口調で育美は天を仰いだ。それも一瞬のことで再び視線を落とす。
 重い沈黙。
 育美の肩が微かに震え、忍び笑いがもれた。何がおかしいのか大輔には全く見当もつかない。育美の肩のふるえは次第に大きくなってきた。
「後藤さん?」
 育美は大輔の視線を避けるようにして背中を向けた。
「この前河原で競争したじゃない。ボクのいうこと1つ聞いてくれるんだよね?」
「俺にできることなら・・・。」
 育美が振り向いたことで大輔は理解した。育美が声をあげて泣き出したい衝動を必死でこらえていたことに。
「転校しないで。・・ずっと、ずっとここにいてよ!」
 涙の粒が目尻から一粒こぼれて頬をつたっていった。
 大輔は困惑しながらも首を振るしかできなかった。
「それは・・俺にはできないことだから・・。」
「・・・・・そうだね、そうだよね。」
 先程より重い沈黙。
「後藤さん、俺は後藤さんのこと・・」
「・・・帰って。ボクのお願いだよ、今すぐ帰ってくれないかな。」
「後藤さん・・・。」
「これなら、キミにできることだよね?帰って!」
 育美はそう言い残して大輔の脇をすり抜けてゆっくりと離れていく。全てを拒絶した育美の背中に大輔はのばしかけた手をおろして肩を落とした。
 
 次の日の授業中、2年B組の教室のドアが開けられた。
「授業中すいませーん。後藤さんいますか?」
 何事かと呆気にとられた先生を後目にして大須賀が育美の方に近づいてきた。
「大須賀君?だっけ、ボクに何か用?」
「いや、早川のやつ学校に忘れものしやがって届けてくれないかな?12時の電車で出る筈なんだけど・・。」
 大須賀は頭をかきながら屈託のない笑顔を見せる。
「・・・なんでボクに頼むのさ?」
「いや、後藤さんの足なら間に合うんじゃないかなと思って・・。それに後藤さんもあいつに対してなんか忘れものがあるんじゃないかと思っただけさ。」
「ワスレモノ?」
 育美が大須賀の言葉を繰り返すと大須賀もまた笑顔で繰り返した。
「そう、忘れもの。」
 育美は大須賀の手から包みを奪い取るようにして教室を飛び出していった。大須賀は1人うんうんと頷いてている。
「いやあ、中学生日記みたいだねえ・・。」
 次の瞬間、漫画みたいにバケツを持って廊下に立たされる羽目になった大須賀の顔はそれでも笑っていた。・・・・いいやつである。
 
 きょろきょろと構内を見回して奇跡的に大輔の姿を見つけたはいいが、育美はなんと声をかけていいものやら悩んでうろうろしていた。やがて大輔が育美の姿に気が付くことになった。
「後藤さん・・・?」
 大輔の口調が疑問調だったのは確認ではなく恐れであった。昨日あれだけの拒絶を示された相手に対する。
 育美は大輔からぷいと視線を逸らして包みの中をさぐった。・・・さぐる?育美は包みの中を調べてみたが何もなかった。
「あ、大須賀君に忘れ物を届けてくれって頼まれたんだけど・・・・。」
「忘れ物?」
 大輔が微かに笑って口笛を吹いた。
「大須賀のやつもやることが粋だねえ。・・・・後藤さん、俺の忘れモノは後藤さんだからそれでいいんだよ。」
 大輔の言葉を理解して育美の頬が朱に染まる。
「いや、正確に言うと違うか?・・・後藤さん、俺後藤さんのことが好きだよ。だから、転校のこと言えなかった。・・・この言葉が忘れモノ・・かな?」
 俯いて黙っている育美に気が付いて大輔は言葉を続けた。
「転校していく俺にいわれても迷惑だよねやっぱり。」
 育美は声をあげて笑い出した。思ってもいなかった育美の反応に大輔はぎょっとする。
「なんだ、忘れものってボクの忘れものと同じだったんだ。」
 育美は指先で目尻の涙をぬぐい取ると、正面から大輔に向き直った。
「ボクもキミのこと好きだよ・・。ううん大好きだよ!」
 飛び込んできた育美の身体を慌てて受け止める大輔。数人の人間が2人の姿に微笑ましい思いを抱き見て見ぬ振りをして通り過ぎていった。
 
 
「育美せんぱーい。準備できましたよー。」
 育美は後輩に声をかけられてにやにやと笑いながら目を通していた雑誌を脇におろした。
「あれ、何読んでたんですか?陸マガですか?」
「ん、今年のインターハイで懐かしい友達に会えるんだ。・・・一年ぶりかな?」
「お友達は何が専門なんですか?」
「ワタシと同じ種目だよ。」
 育美はそんな風に答えながら、去年大輔とかわした約束(?)を思い出していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 −ボクのお願い聞いてくれるんだよね?−
 −俺のできることなら。−
 −じゃあ、来年のインターハイにでてきてよ。−
 −俺のできる事っていってるじゃないか!−
 −大丈夫だよ。ボクが保証する、キミならできるよ。−
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 大輔はきっちり育美のお願いをやり遂げたのだ・・・・必要以上に。
 無造作に投げ出された雑誌が風でぱらぱらとめくれていきあるページで止まった。
 そこにはスプリント界の新星として取り上げられた大輔の顔写真と、育美の希望する体育大学からのオファー等が殺到している記事であった。
 もちろん手紙のやりとりでそんなことは百も承知だったが、記事になると確信に似た心持ちになるものであってひと味違うのだ。
「大学に入ったらずっと一緒に走れるね。」
 自分のお願いと大輔が示した約束を同時に果たした少年に対して育美は呟いた。
 南の空に気の早い入道雲らしき雲が顔をのぞかせている。おそらく今頃は大輔も同じ空を眺めながら練習しているに違いない。
「さて、やるぞー!」
 育美の大好きな季節がやってきていた。
 
 
 

 これは昔自分が同人漫画で・・・・・あれは未完成だったな(笑)確か締め切り直前で仕上げが残り12枚というところであきらめたような気がする。ふっ、認めたくはないものだな・・・若さ故の過ちというやつは。(笑)
 しかし、このお話他のキャラが出てないっすね。僅かに大須賀のみ。深い意味はないです。もっといろいろ書いてみたいシチュエーションはあったんですが、話の流れからして無駄な部分は省きました。無意味に長くしてもつまらないですし読むのも退屈でしょうから。エンディングが全然違いますがそこはそれ、このぐらいはやらんとそのままやないですか?個人的に電車の別れって好きなんですよ、もっとだらだらと書こうかと思ったけど別のところで使うことにしました。どうしても育美の性格からしてそぐわないようなきがしたもんですから・・・じゃあ、これがふさわしいお話かという突っ込みには耳を塞ぐだけですが。(笑)ただ、自分のお気に入りのキャラを書くときは神経使いますね、確実に。
 自分なりに理解したキャラクターとしての人格を損なわないように気を付けます。これがパロディーとしての醍醐味だしマナーだと思ってますが、キャラをどう理解するかは人それぞれだから摩擦があるんでしょうけどね。
 オリジナルに対する敬意、もしくは愛情が強いほど摩擦はでっかいわけで一部の醜い争い(失礼)が出てくるんでしょうね。
 メーカーさんもメーカーの利益が損なわれるとはっきり言ってくれれば納得もいきますが、キャラのイメージを損なうという説明はやめていただきたい。生産者が抱くイメージと消費者の抱くイメージは異なって当然なんですからねえ。・・・なんか重い文章になってますが深読みしないでいただきたい。別にも何もないですから。

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