「アニキ、一緒に帰ろうよ。」
鈴凛は屈託のない笑顔で笑いかけた。
兄と妹、実に微笑ましい光景である。
ただし、妹は兄と同じ学校に通っているわけではない。
「鈴凛、言いたいことがあるなら先に言いなさい。」
「あはは、お小遣いちょうだい。」
「仕方ないなあ……」
甘っ。
自らの生活費を削ってまで妹に財布を開くのだから、ある意味救いようのない兄であるといえよう。
「サンキュー、アニキ。」
鈴凛は白い歯を見せてにぱっと笑い、大げさに頭を下げた。
「その代わり明日一日、アニキにつき合ってあげるからどこか遊びに行こうよ。」
「調子いいなあ、鈴凛は…」
苦笑しつつも、兄はどこか嬉しそうだった。
何はともあれ、いつも研究室に閉じこもりがちの鈴凛を外に連れ出せるのが嬉しかったのかもしれない。
明日のことを話し合いながら帰宅している途中、ふと何かを思いついたように兄が口を開いた。
「…ところで、お小遣いを渡さなかったらどうするつもりだったの?」
「そ、それは……」
鈴凛の目元がほんの少し赤くなる。
「罰として、どこか連れて行って貰おうかと……」
恥ずかしげにうつむく鈴凛の頭を兄はそっと撫でた。
おしまい
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