「にいさま。はい、なのー。」
 葉っぱを刻み、泥をこねて作ったおままごとの料理。
 泣きじゃくりながら、それを兄に無理矢理食べさせた自分も自分だが、実際に食べた兄も兄であると白雪は思う。
「(ともかく、無事で良かったのー)」
 白雪はそのことを思い出すたびに、しみじみと兄の無事と自分の無事をかみしめる。
 兄が寝込んだときの、咲耶と千影が自分に向けた表情が、未だに忘れられない白雪であった。
 そんな昔のことを思い出しているうちに、朝から仕込みにかかった料理は、じっと見守る時期を過ぎた。白雪はふんわり巻き毛と、大きな黒いリボンを揺らして料理の最後に仕上げにかかる。
 てきぱきと味を調え、最後に自分の左手を料理の上にかざして念を込めて、はい、終わり。
 料理は愛情という基本を忠実に守る白雪であった。
 風薫る初夏の公園で兄と2人でピクニック。
 だが、お人形さんを思わせる白雪が、背中に大きなバスケットを担いで公園に向かう姿はあまりにはまりすぎていて、道行く人々の表情を和ませる。
「ちょ、ちょっと重すぎたかも……」
 いきなり白雪の荷物が軽くなる。
「きゃんっ…」
「白雪……これは本当に2人分のお弁当なの?」
「やーん、にいさまー!」
 がしっと兄の腰のあたりに抱きついて、白雪は一日ぶりに出会った兄の存在をしっかりと確かめる。兄もそんな白雪には慣れっこという態度を見せていた。
「じゃあ、行こうか。」
 兄を中心にして、白雪は右へ左へぐるぐると回りながら公園へと向かった。
「この場所がいいみたいなの。」
 そう言うが早いか、白雪はバスケットの中からとりだしたシートをぶあっと広げ…勢い余ってよろけそうになるところを兄に助けられる。
「にいさまはそこに座って待っててくださいなの。」
 白雪は照れたように視線を逸らし、バスケットの中からいろんな食器をとりだしては並べていく。どうやら今日のコンセプトはイギリスのティーパーティらしい。おそらくはイギリス帰りの四葉あたりに影響されたのだろう。
「さあ、にいさま。食べてくださいなの。」
 白雪の期待に満ちたまなざしを受け、兄は料理を口にする。
「うん、美味しいよ。」
「良かったなの。」
 白雪はひとまず喜ぶ。
 しかし、おままごとの料理を食べさせた時も今と同じように微笑んでいた兄を白雪は覚えている。
「……いつか、今以上の笑顔を見るの…」
「んっ、どうかした?」
「な、なんでもないの。ささっ、にいさま……」
 2人の頭上を、ふんわりとした雲が通り過ぎていく。
 
 
                    おしまい

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