「ねえ、お兄ちゃん。今度のお休みの日なんだけど……」
「あ、ごめん。先約があって……」
可憐が、両手に余る姉妹のことをほんの少し疎ましく感じてしまうのはこんな時。
たった1人のかけがえのない兄には、かけがえのない12人の妹がいて、可憐はそのうちの1人でしかない。
時々、そのことをたまらなく感じることがある。
「ごめんね、可憐。」
「ううん、先に約束してたなら仕方ないから。」
仕方ない……割り切れない思いを無理矢理言葉で割り切ってきた。
本当なら2人で歩いたはずの道を1人で歩く。
可憐の心の中と同じく、空模様はあまり良くない。
「お兄ちゃんもお出かけらしいけど…大丈夫かなあ。」
はっきりしない天候の中、可憐は夕方になるまで街をぶらついた。
ぽつ。
たったったっ……
雨宿りしながら、可憐はため息をつく。
「こんなことならお出かけするんじゃなかった…。」
空の向こうを見上げたが、暫く止みそうにない。
仕方ない……
そう思って雨の中へと走り出そうとした可憐の手が誰かの手に掴まれる。
「家まで送るよ。」
「お兄ちゃん。」
「可憐が風邪なんか引いたら心配で眠れなくなるからね。」
「(風邪を引いたら、その間だけでもお兄ちゃんの心は可憐だけのものになるのかな?)」
自分の速度に合わせて歩く兄の肩を、可憐はじっと見つめた。
「どうかしたの?」
「う、ううん、なんでもないの。」
2人でさすには少し小さな傘。
可憐は優しい兄を濡らさないようにと、心持ち頬を染めながら兄の腕をとる。
「か、可憐?」
「もっとくっつかないと濡れちゃうよ。」
2人の上を、しあわせがまだら模様を描きながら流れていった。
おしまい
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