ぽてっ。
「あうー……」
「大丈夫か、花穂?」
「えへへ…また何もないところで転んじゃった…。」
 自分で自分の頭をコツンと叩く。
 そんなことには慣れっこだと言わんばかりの態度。
「ごめん、もう少し早く気がついたら助けられたのに。」
「ううん、花穂がどじっ子だから……お兄ちゃまのせいじゃないの。」
 心配そうな、優しい瞳を見ると、花穂は自分が恥ずかしくなってしまう。
「きゃっ…?」
「手をつないでいれば大丈夫だよ。」
「お兄ちゃま…」
 手のひらから伝わる体温。
「行こうか…。」
 花穂を気遣うようにゆっくりと歩き出す。
 少し恥ずかしげに俯き、花穂は手を引かれてそれについていく。
 兄の大きな背中を見て、花穂は心の中で昔のことを思い出す。
 自分のことをかまって欲しくて、わざと転んでばかりいたあの頃。それが癖になってしまったなんて聞いたらどう思うだろうか……?
「きゃっ!」
「おっと…」
 花穂の身体が逞しい腕に抱えられる。
「お、お兄ちゃま……」
「ほら、手をつないでいれば大丈夫だろ?」
 兄の腕に抱かれて、真っ赤になる花穂。
 今は、決して転びたくて転んでいるわけじゃない……はずなのに、こんな時は自分の気持ちが分からなくなる。
「お兄ちゃま、花穂を見捨てないでね…」
「馬鹿だなあ、そんなことあるはずがないじゃないか。」
 にっこりと微笑む兄の手を、花穂はぎゅっと握りしめた。
 
 
                     おしまい

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