「お兄ちゃん。」
『おっけー。今行くぞ可憐。』
「お兄ちゃま。」
『花穂、あんまり無理したら駄目だぞ。』
「あにぃ。」
『どうした、衛?』
「お兄様、早く早くぅ……」
『ははは、咲耶はこんな時だけ子供なんだから…』
「おにいたま…」
『大丈夫だ、雛子。おにいたまはここにいるからね。』
「きゃーん、にいさまー。」
『白雪は本当に料理が上手だなあ。』
「アニキ、人類の発展のために是非御寄進を…」
『鈴凛、回りくどい言い方はよしなさい。』
「兄君様は私がお守りいたします!」
『春歌、危ないことはしないでね。』
「兄や……アイスが溶けちゃったの……くすんくすん。」
『亞里亞、ちょーっと待っててね。』
「今日の兄チャマは変です…チェキチェキッ!」
『……四葉の気のせいだよ。』
「兄くん、運命というもののほとんどは単なる原因と結果に過ぎないんだ……」
『……今日ばかりは千影の言うことが分かるような気がする。』
「兄上様……お顔の色が優れないようですが…?」
『……太陽が黄色かったから……』
意味不明の言葉を残して、1人の少年がぶっ倒れた。
泣き叫んだり、気を失ったり、取り乱したりする身内の中で、比較的まともな対応のできそうな可憐と千影が重々しい表情で医師の言葉を待っていた。
「先生、お兄ちゃんは……?」
うむ、と頷いたきり、医者は可憐と千影に負けないぐらいの重々しい表情をしてレントゲンやら検査表を見つめている。
「能なしを住まわせるには…この国は狭すぎる…」
物騒なことを呟く千影の身体を可憐は肘でつつく。
眼鏡を外し、鼻梁を指先で押さえながら医師は首を振った。
「私にはとても信じられん……」
理解できかねるといった表情で、医師はレントゲン写真を2人に見えるようにスタンドウォールに挟み込んだ。
「これといった異常は見受けられませんが……」
レントゲン図を一瞥して、千影が呟く。医師は大きく頷き、手元のパネルを操作し始めた。
「こちらがそれを拡大したものです。」
「……っ!!」
可憐と千影は同時に息をのんだ。
「こ、これが……」
「兄くんの身体……」
全身の骨に、無数のひびが入っていた。
「どうしたら…どうしたらここまで己の身体を酷使できるのか……私には理解できません。」
医師はそう言ったが、可憐と千影には思い当たる節が腐るほどあったので黙っていた。
眼鏡のレンズを拭き、医師は震える指先でそれをかけ直すと、独り言のような小さな声で話し始めた。
「これは、決して昨日今日傷ついた身体ではありません。長年に渡って身体を酷使した結果としか言いようが……」
そこまで話したところで、医者は2人の表情に気がついた。
「何か思い当たる節でも…?」
「……と、言うわけでお兄ちゃんは絶対安静です。」
可憐はみんなを前に宣言した。
「じゃあ、みんなで看病するのー。白雪はまずお料理当番を…」
バシシィンッ。
白雪の鼻先をかすめて、可憐の靴が壁に叩きつけられた。
「可憐ちゃん、明らかにキャラ違う……」
どこか呆然とした咲耶を無視して、可憐は再び声高らかに宣言する。
「いいっ、みんな。これから二週間、お兄ちゃんには妹禁止だからねっ!」
みなに衝撃が駆け抜けた。
その中で1人、千影だけが冷静に呟く。
「正確には、私達みんな兄くん禁止だね……」
「お見舞いは?」
「駄目っ!お兄ちゃんは、お兄ちゃんだからどんな状態でも無理するもの。」
亞里亞と雛子を除く全員が頷く。
可憐の勢いに気圧されていた春歌が、すっと手を挙げて発言する。
「では、実際問題兄君様のご看病はどうなされるつもりですか?」
「じいやさんにお願いします。」
「じいや、お願いなの……」
状況の良くわかっていない亞里亞だが、今の可憐に逆らってはいけないことを本能で悟ったらしい。
「はあ、亞里亞様がそうおっしゃるのでしたら……」
にこにこと微笑んだ可憐がじいやの手を握る。
「じいやさん、亞里亞ちゃんがなんと言おうとお兄ちゃんに会わせてはいけませんからね。」
目が笑っていない可憐の視線を、じいやは真っ正面から受け止めた。
「先ほどのやりとりで、敵に回してはいけない方が見切れましたのでご心配なく。」
そう言ってじいやは千影と鈴凛に視線を向けた。
そして4日目。
未だ昏々と眠り続けている兄をよそに、最初に禁断症状が現れたのは雛子だった。
「雛子、おにいたまに会いたいのー!」
みんなが何を言っても、この台詞を繰り返すのみ。
しかも、眠っているはずの兄の身体が雛子の泣き声に反応して軽く痙攣を始めたので、じいやは必死でその耳を塞ぐはめになった。
そして次の日。
「兄や、兄やが亞里亞を呼んでるの…」
「フフ、私なんか生まれる前から兄くんを呼んでいたよ……」
駄々をこねる亞里亞を、千影がなんとか落ち着かせる。
という具合に、一日ごとに入れ替わり立ち替わり誰かが理性を失っては押しとどめられるという戦いが続いていた。
特に10日目、暴走したメカ鈴凛と春歌の対決などは、大一番とも言うべき戦いであったことを明記しておく。
そして妹(兄?)解禁の前日。
禁断症状がでたのは兄だった。(笑)
「みんなっ、今行くぞうっ!」
一体何の夢を見ているのか、わけの分からない叫びが聞こえてくる。
一番迷惑を被っているのはじいやだろう。
「お兄様、頑張って。今日を乗り越えれば、綺麗な身体になれるのよ。」
ぐぐっと手を白くなるまで握りしめる咲耶を横目で見ながら衛が呟く。
「それって……僕達の相手をしてくれなくなるって事?」
ぴしっ。
これ以上はないぐらいの爆弾発言だった。
清々しい朝の訪れと共に、兄は目を覚ました。
「?」
だが、布団が重い。
首を伸ばすようにして自分の足先の方を見つめと、そこには……
「みんな……」
布団を取り囲むようにして妹たちが眠っていた。時折寝言で『お兄ちゃま…』などと呟いていたりする。
「やあ、兄くん……目が覚めたんだね…。」
みんなから離れ、千影だけが椅子に座って起きていた。
千影は眩しそうに朝日に手をかざし、笑いを堪えるような口調で呟く。
「兄くんの欠点は…いつまで経っても妹達を……兄離れさせてくれないことだね。」
「話が見えないけど……千影、寝てないんだろ?僕なら大丈夫だから少し眠った方がいいよ。」
兄の言葉を聞いて、千影はあきらめたようにため息をついた。
「兄くんは…いや、そうさせて貰うよ……」
そう言い残して、千影は静かな寝息をたて始めた。
おしまい
おかしい?最初の予定では、心温まるハートフル・ピュア・ストーリーだったはずなのに。(爆笑)
それはさておき、何故こんな物を書いたかというと。
『高任君、シスプリのキャラクター小説を知ってるかね?』
「あの、文字が大きい上に薄くて薄くて、どうして一冊にまとめないんだ?と非難されまくりのあれですか?」
『……詳しいな?(笑)』
「はまってる知り合いがいてね。(笑)」
『なるほど、君は示すべきだろう!あんな対談をのせてるからには!』
「何をや。」
『いや、あのゲームをああやって否定するからには、君には君なりの妹属性の萌という姿が……(以下略)』
気がつくと書き始めている俺がいたりして。(爆笑)
まあ、お話にすらなってないワンシーンだけですけどね。ゲームの設定と、アニメの設定、そして元祖としての設定がそれぞれ違うらしいし、また調べる気もないのでまともなお話は書けないざんすよ。
ちなみに私個人としては(ゲーム設定で)、千影がお気に入りです。後は特に……まあ、鞠絵のシナリオには失望はしましたが。(笑)
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