「差し出がましい口をきくようですが……」
 亞里亞に使えるメイド(通称、じいや)は言いにくそうに言葉を続けた。
「お兄さまは、亞里亞様を甘やかしすぎではないでしょうか?」
「そうかな?」
「そうです。」
 電話1つで呼び出され、馬の代わりをするとか、虫歯が痛いとか、お菓子が食べたいとか、じいやが虐めるとか、風の音が怖いとか、本を読んでとか……
「お兄さまの献身ぶりは立派だと思いますが、真に亞里亞様のことを考えるならば時には厳しくすることも必要ではないでしょうか?」
「じいやさん、あなたも知っての通り、僕が亞里亞という妹の存在を知ったのはつい最近です。」
 遠い目をする。
 まるでフランスが見えるかのように。
「亞里亞が生まれてから、本来あるべきだったはずの時間は失われてしまいました。今はそれを取り戻している最中なんです。僕も、亞里亞も。」
「だからといって……」
「僕は、自分よりも亞里亞が大事なんです。それに、亞里亞はそんなに我儘じゃないですよ。きっと、まだ子供なんです。」
「兄や…兄やはどこ?」
「今行くよ亞里亞…待ってて。」
 軽く頭を下げて走っていく後ろ姿を見送り、じいやは呆れたような感心したようなため息を吐いた。
 
 
                    おしまい

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