「ヨーコさんの当面の目標は何ですか?」
「私、今度は人のいいお人好しやりたいデす。」
「え・・・今度?」
 怪訝そうな表情を浮かべた速水に向かって、ヨーコはその場を取り繕うように微笑んだ。ついつい速水のぽややんな雰囲気に流されてしまった自分に内心舌打ちを繰り返しながらである。
 にこにこにこにこにこ・・・・
 ちなみにヨーコの魅力は小隊において追随を許さない。もちろん泣く子も惚れるSランクである。そのヨーコの魅力が速水に向かってまともに浴びせかけられる。
「・・・あ、そうなんですか。」
 どうやらごまかせたらしいと判断して、ヨーコは心の中でほっとため息をついた。言葉がよくわからないということが良いカムフラージュになったのかもしれないなどとひとりごちながら。
 世界をまたに駆ける少女だけに、これまで自分が果たしてきた役割はそのほとんどが活動的なものであり、ヨーコがたまには違うキャラクターを演じてみたいと思っても、それは仕方のないことかもしれない。
 もちろんすらっとした長身に艶やかな黒髪、そしてSランクの魅力ときたら、それはある意味ではまり役には違いないのだが・・・
 ヨーコは自分を怪訝そうに見つめる来須の姿に気がつくと、速水のそばを離れてにこにこと微笑みながら来須の方に向かって歩いていった。
 ほんの少し来須が後ずさりしたように見えたのは単に目の錯覚であろう。
「・・・何のまねだ?」
「・・・余計なことを喋ったらあなたを殺すわよ。」
 本気である。
 ヨーコはとことんまで本気であった。そして来須もまた歴戦の雄だけにヨーコの本気を十分に理解したように見える。
 技量の上では互角であろうが、笑いながら人を殺せる。その一点において、来須はヨーコに及ばないであろう事がよくわかっていた。
「うふふ・・・お互いこの世界のためにしっかりと働きましょうね。」
 外見にそぐわない妖艶な微笑みを見せてヨーコが来須の耳元でささやいた。
 同じ仕事をするなら楽しく仕事をしたい。
 楽しさを奪うような存在は仕事の邪魔である。
 仕事の邪魔をする存在は敵である。
 ヨーコの見事なまでの自分勝手な三段論法には付け入る隙がなかった。
 
「来須君、イッショに歩きましょ。」
「・・・断る。」
 一見親しげに見える二人だが、その実体はかなりえげつないものである。
「心配しなくても仕事の話よ。」
「ならば、余計に危険な気がするのは気のせいか?」
「仕事に危険はつきもののはずでしょ。」
「・・・問題と答えがすり替わっているぞ・・・。」
 仕方なくといった風に来須はヨーコの後をついて歩き出した。やがて二人きりになったところでヨーコは来須の方を振り返った。
 そこに突然現れる滝川と新井木の姿。
 ・・・おのれー。(笑)
『ほっ。』
「・・・『ほっ』ってなによ?『ほっ』て?」
「・・・深い意味はない。」
 確かにわかりやすい意味しかなさそうである。
 何とか滝川と新井木の二人の来襲をやり過ごして再び向かい合う二人。
「もうほとんど時間がないわ・・・。」
「・・・ああ、可能性があるのは速水だけだが・・・」
 と、そこで来須は一旦言葉を切った。ヨーコの表情を窺っての行動だったのだろうが、ヨーコは視線で『そのまま続けて』と促す。
「・・・今の速水は強い。まだ人の身でありながら俺より強いかもしれん。」
 ここで来須は何かの言葉を飲み込んだような気がした。ひょっとすると『お前には負けるが』などという余計な一言だったのかもしれない。
「・・・そのせいで、幻獣達との戦闘そのものがおこらない。そういうこと?」
「・・・そうだ。」
 そう呟きながら来須は身体をこわばらせた。
 褐色の肌には不釣り合いなほどの色鮮やかな赤い唇が奇妙に歪められたのを目にしたからである。彼女がこんな表情を見せるときはかなり危険な状態であることが来須には骨身にしみてよくわかっている。
「何をする気だ?」
 ヨーコは来須を見て穏やかな微笑みを返した。
「もちろん仕事に決まってるでしょう?」
 
『幻獣襲来!幻獣襲来!』
 非常招集のサイレンの音が鳴り響き、小隊の動きがあわただしくなる。
「くっ、この区域の幻獣勢力はあらかた駆逐したと思ってたのですが。」
 いつも冷静な善行がほんの少しとはいえ驚きの感情をあらわにするぐらい不意をつかれた戦闘であった。
『来ます!距離2000!』
 いつもは味方との連携を考えて動く幻獣だが、今日の幻獣は狂乱と言っていいほどの無軌道ぶりを示していた。
 やられても撤退しないその有様は何とも形容しがたい違和感を感じさせるが、戦闘としてはいつもよりぐっと楽な戦いであった。
 そしてそれを各個撃破していく速水。
 戦闘と言うより、幻獣はただ何かから必死になって逃げまどっている様な感じではあったがそれに気がつくものは来須と速水だけであった。
 戦闘後。
「・・・どこに行っていた?」
「・・・お仕事。」
 そんな会話がかわされていたのを知るものは誰もいなかった。
 
 
                     完
 
 ヨーコさーん!やっぱりあんたの言動って謎が多すぎ。
 どう考えたってあの性格は演技としか私には思えない。いや、個人的にそう言うキャラが大好きという事実はおいといて。(笑)
 というわけでかなりブラックなヨーコさんですがファンの人は勘弁してください。

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