「タ・イ・ガァッ!」
「……聞き分けのない人ですね、あなたも。」
 拳に付いた血をハンカチで拭き取り、乱れた髪を整えながら呟く遠坂。
 これで少しはおとなしくなるかな、と思って床の上に転がった岩田に視線を向けると、岩田は元気ぱんぱんの様子で、バネのように起きあがってきた。
「いいパンチしてますね……私と一緒に拳闘やりませんか?」
「……何の用ですか?」
「……何の用でしたっけ?」
 言葉もなく、ただ見つめ合う遠坂と岩田。
「……」
「……ふ。」
 遠坂の唇が微笑んだ瞬間、岩田はまたもや鼻血をまき散らしながらぶっ倒れた。
 だが、大したダメージも感じさせずに再び起きあがる。
「だーかーらー…そうやって殴られるたびに、私の貴重な脳細胞が億単位で破壊されてしまうんですが……」
「……打たれ強いですね。」
「どつき漫才は、身体が資本ですからね。パンチドランカーによる引退率が最も高い職業ですし……」
「用がないなら仕事に戻らせて貰いますよ……」
 冷たく背を向けようとすると、岩田は腰を振りながらしがみついてきた。
 はっきり言って生理的に嫌悪感を感じる体勢だ。
「いえね…何故あなたは、重たい金の延べ板なんかを持ち歩いてるんだろうと思いまして……」
「ああ…これですか。」
 そう言って、遠坂は制服の袖をまくり上げた。
 手首に装着された黒いバンドに、岩田は不思議そうな視線を向けた。
「…リストバンドですか?センスが悪いような気がしますが。」
 遠坂は軽く微笑むと、バンドを取り外して思いっきり岩田の顔面に拳を叩きつけた。
「パワーリストです……鉛より重い金を使ってるので効果が高いんですよ。」
「……ほんと、パンチ力の桁が違いますね……」
 床の上で危険な痙攣を繰り返しながら、岩田はうつろな表情で呟く。
 遠坂はそんな岩田を見下ろしたまま、涼しげな表情でパワーリストを元通り装着する。
「整備兵は、トレーニングに割く時間がありませんからね……」
「でも、センスは悪いですよ。」
 遠坂の踵が岩田を襲った。
「……ちなみに、パワーアンクルも付けてます。」
「筋力よりも、仲間に対しての思いやりを強化して欲しいものですが……」
 そんな岩田の言葉には耳を貸さず、遠坂は楽しそうに微笑んだ。
「大体、5日に一枚の割合で重りを増やしてるんですよ。この重りがポケット一杯になったときどうなるか、今から楽しみです。」
 
 そして2ヶ月後。
 遠坂は夜道で何者かに襲われて金の延べ板を全て奪われましたとさ。
 めでたしめでたし。
 
 
                   完
 
 
 ちなみに犯人は田辺。(笑)
 何故遠坂の持ち物に金の延べ板が増えていくのかという世界の謎に真正面から向かい合った意欲的なSSのわけがありません。(笑)
 やっぱり、漫画ネタだったねとか反省してます。
 しかし、舞なんかは金の延べ板を平気で捨てますよね。やはり、重たいからでしょうか?

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