「・・・私はね、今おそらく真実に一番近いところにいるんですよ。」
「おいおい、タイガー。」
からかうような中村の呼びかけに対して、遠坂は涼しげに微笑んだ。
「そう呼ばれて逆上していた頃の私とは違います。」
「フフフ・・・、どうやら本気のようですねえ。」
それまで黙って踊り狂っていた岩田がその動きをぴたりと止めた。だが、その呼吸には少しの乱れもない。
「ええ、何の迷いもありません。」
中村と岩田が白い靴下に魅入られてからかなりの時間が経つ。
風紀委による苛烈なソックスハンター狩りを恐れ、協会から脱退していく人間はこれまでたくさん見てきた。
脱退する人間はみな何かに未練を残したような濁った目をしていたものだが、今彼らの前に立つ遠坂は明らかに違っている。
迷いの無い澄んだ瞳をしていた。
その表情を見て中村はほんの少しだけ俯くと、まるで自分自身に言い聞かせるように小さく呟く。
「・・・わかった。もう何も言わんばい。」
「フフフ・・・、我々からの餞別です。好きな方を選択してください。」
と、岩田がほんの冗談のつもりで差し出したのは『田辺さんの手作り弁当』と『田辺さんの靴下』。
それを見て遠坂は微笑み、何の迷いもなく選んでいったのは・・・・
ゆっくりと立ち去っていく遠坂の後ろ姿を眺めながら、中村は呟いた。
「なんね。俺はてっきり『靴下』に手を伸ばすと思ったのに。」
「そうですね。ここで『靴下』を選んでくれないとオチのつけようが無いんですが。」
そう呟くと、岩田は手元に残った靴下に視線を向けた。その瞬間、岩田の瞳がかっと見開かれる。
「フフフ・・・ヒャアハハハ!・・・そうでしたか、素晴らしい、素晴らしいオチです。」
「はあ?」
神経回路が2・3本ぶち切れたように笑い出した岩田はあきれたように自分を見る中村に向かって説明を始めた。
「この靴下・・・確かに田辺さんのものですが、新品です。これじゃあ『洗濯』したってオチようが無いに決まってますよ。傑作です!ふはひゃひゃひゃ・・・・」
笑い続ける岩田の隣で、凍り付いた中村の体がゆっくりと倒れていった。
完
よくは知りませんがなんとなく落語みたいですね。
それより、これじゃあ誰が主人公がわからないですって?
まったくです。(笑)
まあ、ちょっとした小話と思って最後にディスプレイをひっくり返していただければそれで充分です。(笑)
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