「よいしょっ・・・と。」
 士魂号の整備部品をかけ声とともに持ち上げた。
 ・・・お、重い・・・。
 うめき声すら出せない重さ。しかし、次の瞬間にその荷重が急に消えた。
「このようなときは男手を頼ってくれ・・・自分には力ぐらいしか人に誇れる物が無いのだからな・・。」
 あの重い荷物を軽々と片手にぶら下げたまま、若宮さんが白い歯を大きく見せて笑っていた。
「あ、ありがとうございます。」
「いや、礼はいい・・・それよりこれをどこに運べばいいんだ?」
「ハンガーの二階に・・・あ、ありがとうございます・・。」
 深々と頭を下げているうちに若宮さんはさっさと行ってしまった・・・。さて、急いで整備にかからないと・・・。
「あら、その士魂号の整備なら昨夜私がやっといたから・・・今日は簡単なチェックだけで十分よ?」
「え、ええっ?・・・どうして原さんが整備を・・・」
 原さんはどこかあらぬ方向を見つめたままで、ぽつりと呟いた。
「たまには整備しないと腕が鈍っちゃうのよ・・・書類とか指図するばっかりというのもあれだからね・・。」
「あ、ありがとうございました!」
 原さんは目のあたりをこすりながら軽く手を振って立ち去っていく。その後ろ姿を見て格好良いなあと私なんかはつくづく思う。
「あ、あれ?何か顔色悪いよ、ちゃんと食べてる?・・・ちょっと待ってて・・・はい、これあげる。」
 と、いきなり私の手のひらにのせられたサンドイッチを見て、私は首を傾げながら速水さんの顔を見上げた。
「え・・大丈夫。僕、こう見えても誰かさんよりは料理とか得意だから・・・。」
 速水君は一瞬だけ視線を私以外のどこかに向け、そう言って笑った。
 ・・・そういうつもりではなかったのだけど。
 そのまま速水君はぽややんと笑ったまま立ち去っていった。それと入れ替わりに舞さんが私のもとにやってきた。
「今、私の話をしていただろう?」
「えっ?いえ、別にそんなことは・・・」
「ふむ、そうか?・・・いや、速水があのような視線で私を見るときは、必ず私について失礼な想像をしたときと相場が決まっておるのだが・・・・ん、どうした?」
 何か言いたげな私の表情に気がついたのか、舞さんは私の顔に視線を向けて尋ねてきた。「いや、その・・・何か最近みんなが私に対して親切にしてくれるような気がするんですが・・・何かあったんでしょうか?」
 舞さんはじっと私の顔を見つめている。
 ・・・何か失礼なことを言ってしまったのかしら?
「ふむ・・・そなたの家が火事にあったと聞いたが違うのか?・・・私は芝村だけに良くわからないが、普通そのような目にあった者共は大層気を落とすものと聞いたが、そなたは芝村の者に負けず劣らずの前向きで明るい人間なのかもしれぬな・・。」
 ・・・・納得。
 ころりと忘れていたけど今は家族そろって空き地でキャンプをはっている。でも、ちょうどこれから暖かくなる季節だから運が良かったと思っていたのだけれども・・?
「ふむ、そんなに悩む必要はあるまい。親切にしてくれるなら素直に受け取っておけば良いではないか・・・どうしてもというならこの私が、そなたへの親切を禁ずるように軍法を書きかえてやっても良いぞ。」
 大真面目な表情の舞さんの申し出は一応辞退させて貰った。
 
「ちょっと・・・耳よりな話があるんやけどなあ。」
 周囲をはばかるように、加藤さんがひそひそと私を手招きした。
「どうしました?」
「このあたりでバイトできるところを調べてきたんやけどな・・・」
「味のれんと裏マーケットですか?」
 時計の秒針がきっちりと一回転するぐらいの間があったように思う。
「いややわあ、うちがそんな当たり前の情報を耳よりな話として持ちかけるとでも思ったん?うちの情報はもっとどかんと稼げる情報やで・・どや?」
 加藤さんはどこかむきになっているように私には感じられた。
「あの、そのようなうまい話なら加藤さんおひとりでなされた方がよろしいのでは?」
「違う!うちは今あんたが困ってるやろうと思って・・・とにかくうちは自分のもうけよりもあんたとの友情を大事にしたいんや!」
 ・・・加藤さんていい人だなあ。
 でも、なぜかこの場を今すぐ離れなさいと言うように、髪の毛ががんがん後ろに引っ張られているような気がするのは気のせいなのかしら?
 正直お金は欲しいけど・・私が参加すると加藤さんにまで被害が及びそうなので丁重に断ることにした。
 ・・・そろそろバイトの時間だ。
 味のれんで二時間ほど働いて残り物を包んで貰う。
 今日も一日何事もなく終わったことを感謝しながら、私は家族の待つ空き地への道を歩き始めた。
 明日はどんな良いことがあるのかしら・・・。
 
 
 
 最初は『愛少女ポリアンナ物語』のパロディにしてやろうかと思ったのですが、よく考えると今さら誰がわかるんだと思ってやめました。
 ちなみにポリアンナの特技は良かった探し。(笑)何せ事故で下半身不随になった人(何を書こうとしてたかばればれやっちゅうねん)に対して『下半身だけですんで良かった良かった』などと明るく笑顔を振りまくとんでもない少女(ちょっと極端な例ですが)なもんで、それはそれでしゃれにならない部分があるなあと、心のどこかでブレーキを踏んだのも事実ですが。
 ただ単に自分がプレイしていて、『良いうわさ』の時に『そら家が燃えたらみんな親切やろ』と突っ込んだだけの話なんですけどね。見事にオチが消えてます。(笑)

前のページに戻る