『幻獣軍、全滅っ!大勝利です!』
 暗雲漂う九州戦線で聞く、久しぶりの明るい話題である。
 興奮を隠せない友軍のオペレーターの通信を聞きながら、舞は小さい控えめな笑みを浮かべた。
「速水、私とそなたは良いコンビが組めそうだな……」
「そうだね…」
 人畜無害な……どこか無機質な笑顔を浮かべる速水。その表情が、たった今戦闘を終えたばかりの興奮も、戦闘に勝利した喜びも何もないように見えたのか、舞は訝しげに口を開いた。
「ふむ、奇妙な男だなそなたは…」
「そうかな…自分ではわからないけど」
「何というか……妙に居心地が悪そうな感じを受ける」
「……芝村は、面白いことを言うね」
 困ったような笑みを浮かべ、遠い眼差しで空を見上げる。
 誰かに似ていると思ったが、舞の記憶の中にその該当者は見つからなかった。
「……まあ良い。思っていたよりも頼りになるパイロットということがわかった。細かいことは気にせぬようにしよう…」
「そうだね、2人して絢爛舞踏でも目指してみようか……」
「ほう、大きな事を言う。だが……まあいい、今後それだけの努力を示すなら私はなにも言わぬ」
 1999年3月5日。
 後に地獄の戦鬼と呼ばれるようになる速水と芝村が初陣を幻獣の殲滅という大勝利で飾った日である……
 
「厚志、味のれんに行くぞ」
「え、僕サンドイッチが…」
「後で食べろ、後で…」
 ずるずると舞に引きずられていく速水を見て、壬生屋はくすりと笑った。
「ああいうの、尻に敷かれてるっていうんですよね……」
「戦場では…逆みたいな気がするけど」
 滝川の言葉を受け、壬生屋は包帯の巻かれた自分の右腕を軽くさすりながらて呟いた。
「そうですね……戦場で不用意に彼らに近づくと危ないですし」
「……壬生屋」
「はい?」
「どうして、あの時突っ込んだんだ?」
 オペレーターの指示が間に合わない程の疾さで、右手と左手に持った大太刀が別の生き物のように幻獣を斬りふせながら突進する2人を追って、壬生屋が的中に突っ込んで負傷したのはついこの間のことである。
 殺される事を願うかのように2人に群がる幻獣の中に飛び込み、狂った様な猛攻撃が滝川の目には異様に映ったのだろう。
 もし自信があったとしても、騎魂号のミサイル有効範囲に足を踏み入れることは2人にとって戦いをやりにくくする事に変わりはない。事実、壬生屋は戦闘後に司令から叱責を受けている。
「ふふ…銃を持たない私に、どうやって遠距離から攻撃しろと?」
「……別に、勲章が欲しいわけじゃないよな」
 速水・芝村の両名が戦闘に参加した3回に2回は銀剣突撃勲章をとり、初陣より12日間でアルガナ勲章を獲得しているのに比べて、壬生屋・滝川の両名の撃墜数ははそれぞれ5と2。
 しかし、これは比べる相手が悪すぎる。
 いくら新型兵器を使っているとはいえ、学兵でしかも戦場に出るようになってから僅か2週間であることを考えれば立派な成績といえよう。
 それに、彼らの獲物が戦場に残っていないことも事実ではある。
「……勲章なんて、死ねば貰えますよ」
「ん…いや…」
 滝川は、少し戸惑ったように鼻の頭をかいた。
「……壬生屋はさ、あいつらが絢爛舞踏を獲ると思うか?」
「獲るでしょうね、このペースだと後3回ぐらいの戦闘で。……でも」
 壬生屋は少しだけ目を伏せ、一旦言葉を切った。そして、自分の右手を見つめながら呟く。
「あの2人にとって…それが意味のある勲章だとは思えませんけど」
「……なんか恐くない?」
「えっ?」
「俺、芝村はともかく……あの人が恐いよ」
 何気なく呟いた滝川の言葉に、壬生屋は悲しげに目を伏せた。
「私達のクラスメイト……なのですよ?」
 滝川は机の上に腰を下ろしかけ、壬生屋の前だということに気づいて慌てて腰を浮かせた。そして、居心地が悪そうに壬生屋の顔をちらりと横目で見ながら呟く。
「壬生屋……俺、あの人の姿が恐いのに…恐いのに目が離せない」
「戦場で戦う姿が……ですね?」
「……ああ」
 白磁を思わせる壬生屋の顔に、僅かながら陰が落ちた。
「綺麗だと……思ってるんですか?」
「うん…」
 ずばりと心の中を言い当てられて、滝川は壬生屋から目をそらして俯いた。そんな滝川を落ち着かせるように壬生屋は穏やかな声で呟き始めた。
「人は…不完全な存在である人間は本来美しい存在ではありません。それが、醜い争いの場であるなら尚更のこと。でももし、戦いの場において美しく見える人間がいたとしたらそれは……」
 壬生屋はそれきり口をつぐみ、悲しそうに遠くを見た。
 言わずもがなのことを口に出した……そんな後悔に満ちた壬生屋の表情に、滝川もまた窓の外を見つめる。
 覗いてはいけない他人の心の中を盗み見た……そんな気まずさを感じながら。
 
「こんな夜遅くまで熱心だね、壬生屋さんは…」
 全く人の気配を感じていなかったため、壬生屋は手にしていたプラグを取り落として弾かれたように顔を上げた。
「ぁ…速水、さん…」
「でもね、3番機を壊すのはやめて欲しいな…」
 壬生屋の手からそっと工具を取り上げ、速水はコンソールパネルを覗き込んで数値を確認する。どうやら、作業に取りかかったところだったらしい。
「それに、騎魂号が整備不良なら僕はスカウトとして出撃するよ。少し、効率は悪くなるだろうけど…」
 事も無げにそう言い放つ速水をにらみ付けるようにして、壬生屋は拳を固めた。
 しかし、その視線には力がない。
「……んなに」
「ん、何?」
「そんなに、遠いところに行きたいのですか?私達のクラスメイトとして、平凡な生を生きたくはないのですか?」
 速水はパネルを閉じ、床の上に視線を落として呟いた。
「それがイヤなら殺せば?」
 壬生屋の顔が凍り付く。
「な、何を…?」
「いつも持ち歩いてる刀があるだろ?」
「こ、これは……この刀では人を斬ることはできません」
「うん、だから僕を斬れるよ」
「え…?」
 小さな、息が漏れるような頼りない呟きが自分の口から発せられたと気が付くまでに数瞬の間が必要だった。
「そ、そんなはずが…だって、あなたは……」
「人は人を殺すけど、鬼が鬼を狩るのは変?」
 壬生屋は鬼しばきの鞘に手をかけ……寂しげに微笑んで手を下ろした。
「……ふふ、冗談が過ぎますよ。それに……それが真実だとしても、私ではあなたに勝てませんし」
 壬生屋は敢えて軽い口調で喋った。
 冗談、もしくは仮定として聞き流したいのであろう。
「そうかな?生身の白兵戦では技量にそう差はないと思うけど……」
「あなたは私を殺せても、私はあなたを殺せませんもの。この差は大きいですよ……」
 ふと、壬生屋が何かに気が付いたように顔を上げた。
「どうしたの?」
「いえ……私、子供の頃から不思議に思っていたのです。比類無き強さを持つ青年を許嫁はどうやって殺したのだろうと……」
 どことなく虚ろな眼差しで右手を見つめ、そうして乾いた笑い声をあげて笑った。
「そうですね……壬生の血にあしきこころが混ざったとしたら、力を失うのが道理」
 壬生屋はひとしきり笑うと、壁に背中を預けて目を閉じた。
「速水さん……あなたが許嫁だったなら、どうしましたか?」
「……武における強弱は相対的なものだからね、強くなろうと努力したと思うよ。1人だけの…畏怖を呼ぶ強さでも、2人ならどうかな?」
「……ふふっ。速水さんらしい、あなたらしい答えですね……そういえば芝村さんが言ってましたね。強い人間は強くあらねばならぬ理由があるから強くなるのだと……」
 壬生屋は速水に背を向け、震える声で呟いた。
「……独りにしてくれませんか?」
「うん…また明日」
 遠ざかる足音を聞きながら、壬生屋は袖で涙を拭った。不作法ではあるが、誰もそれを咎める者はいない。
 
 戦闘が始まると同時に、速水・芝村両名の駆る騎魂号の前にさあっと道ができた。
 今や熊本の小隊内で地獄の戦鬼の名を知らぬ者はなく、いろいろな風評が尾鰭のようにまとわりつき、ある意味で幻獣よりも恐れられているためである。
 率先して中央を駆け抜ける騎魂号を避けるようにして左右に展開し、範囲外に逃れてきた幻獣をアウトレンジから攻撃するだけの友軍。
 5121小隊と共に戦いたくないという理由で、次々と各地を転戦せざるを得ない善行司令は2人の好きなよう戦闘をさせた。
 それが最も被害が少なく、かつ効果的なのだから否応もない。
「どうした厚志?」
 傷ついた最後の幻獣を目の前にして、のんびりと弾倉交換を始めた速水に向かって舞が通信機に向かって声を張り上げた。
「いや……幻獣の援軍が来る。まとめて叩こう」
「援軍だと…そんな連絡は何も…」
『北西より幻獣援軍部隊接近っ!』
「さて、行くよ…」
「おい、厚志?」
 北西に向かって回りこむように駆けてゆく騎魂号を眺め、善行はため息混じりに呟いた。
「やれやれ…我々の仕事はなさそうですね」
「軍人が暇なのは悪い事じゃありませんよ、司令」
「特定の個人に負担が集中するのは民主主義としてどうですかね?」
「力のある者が荷を背負う……正しい姿と思いますが」
「2人とも、よそ見してたらめーなのよ!」
 あろうことか、ののみに注意された瀬戸口と善行は、多少顔を赤らめて姿勢を正した。
 すでに、援軍としてやってきた幻獣の8割までがミサイルの射程内に収められている。後は、いつもの通りの光景が待っているだけに見えた。
「チェックメイトですか……おや?」
 いつものように発射されるべきだったミサイルの雨が降らず、騎魂号は幻獣の包囲網から横っ飛びに脱出した。
 心持ち緊張した顔つきで善行は戦場へと目を向けた。
 オペレーターを通じて聞こえてくる2人の会話に耳をすます。
「どうかしたの芝村?射出部の故障?」
「……すまぬ。射程内に犬がいた」
「犬?……優しいね、舞は」
「た、たわけっ!犬を巻き添えにすると、またそなたが悲しむではないか!」
 善行には珍しく、本気で眼鏡をずり落ちさせた。しかし、すぐに自分を取り戻して口を開く。
「速水君が悲しむ?……瀬戸口君、以前にそんなことがありましたか?」
 瀬戸口は少しだけ複雑な表情を見せ、器用に肩をすくめてみせた。
 それは見るものによっては肯定であり、また否定ともとれる微妙な仕草である。善行の目には、瀬戸口が敢えてそういう態度をとったと思われた。
「何か知っているのですか?」
「女性心理についてなら少々……」
「2人とも、めーっ!」
 どうしてこの2人はこんなにも仲が悪いのだろうと思いながら、ののみは速水達によって次々と斬り倒されていく幻獣達をスコアとして読み上げていく。
「……しめて37機撃墜ですか。これで、いくつめのシルバーソード勲章になるんですかね…」
「……」
 ののみの目を気にしたのか、瀬戸口は口を開きかけたが何も言わないで黙っていた。
 シルバーソード勲章はバスの代金が無料になるため、小隊隊員は2人から勲章を借り受けてバスに乗ったりしているのだが、これはまた別のガンパレードである。
『幻獣全滅確認…周囲に反応ありません』
「……5121小隊、撤収を開始!来須、若宮両名は付近の捜索をかねて最後尾位置を確保しつつ撤退を」
『…了解』
 善行は大きくため息をつき、瀬戸口の方をあらためて振り返った。
「瀬戸口君」
「……」
「……視野が広くてこれまで1人たりとも不幸にさせたことのないらしい瀬戸口君」
 ぼそぼそと聞こえよがしに呟くのがなんとも大人げなく、瀬戸口はさめた視線を善行に向けた。
「やれやれ…そんなことだから原女史に恨まれるんですよ…」
「君は以前言いましたね……絢爛舞踏はほんの少しだけ他人より殺し方が上手なだけだと」
「あるがままをそのまま受け止めたらどうです。速水は速水で芝村は芝村……そして2人は……と、それじゃあいけませんか?」
 どことなく泣きそうな表情で自分を見るののみに気が付いて、瀬戸口は右手を伸ばして頭を撫でてやった。
 善行は眼鏡をずりあげて、そこにはいない誰かに向かって話し掛けるように呟く。
「…私は昔、人に命令する立場の人間は人よりも苦労すべきだと教えられました。……もしそれが真実で、その逆が成り立つとしたら……」
「やつにしてやれることなどありませんよ……きっと」
「目を背けたらめーなのよ…」
 ぽそりと呟かれたののみの言葉に、眼鏡に触れたままの善行の唇が微かに歪んだ。
「……それだけですか、我々にできることは」
 
「……厚志。ちとおかしな事を聞くぞ」
「何?」
 芝村にはあるまじき、困ったような表情のまま舞はしばらく速水の顔を見ていた。そして、それを口に出したのはきっちり3秒後。
「……そなたは厚志だな?」
「えらく大胆な質問だね……じゃあ、僕は誰なの?」
「それは速水厚志だ。きまっている」
 速水は黙って空を見上げた。
 雨が降る程ではないが曇っていて、電波の通りは悪そうに見える。
「……岩田の通訳が必要?……それとも芝村独特の冗句?」
 あらぬ方向を見つめたままぶつぶつと頼りなさげに呟く速水を見て、舞は自分の説明が足りなかったことに気が付いた。
 普段の呼吸がぴったりなだけに、話さなくても理解してくれるという甘えが存在していたのかもしれない。
「すまぬ。私の言いたかったのは、そなたは前から……いや、まだ違うな」
 舞は一旦言葉を切り、しきりと頭を振る。
「……その、なんだ。そなたは臆病で……いや、臆病だから勇気があって、穏やかに笑って……わ、私にお弁当を作ってくれたり…ごにょごにょ…」
「お弁当を作って欲しいの?」
「違うっ!」
 力一杯否定した割には、どことなく未練がありそうな舞の表情。
「じゃあ、何?」
「幻獣との戦いにもルールが必要だと言って本田に殴られる……そういう厚志は、私の気のせいか?」
「……悪い夢でも見たんじゃないかな?」
 速水の左頬で乾いた音が鳴り響いた。
 しかし殴られた速水は体勢をよろけさせもしていない。そして、殴った舞はというと自分の行動に驚いた様な表情をして謝罪の言葉を口にした。
「……ぁ、す、すまぬ」
「珍しいね、舞が怒るのって」
「そんなことはない。私はいつもそなたに腹を立てて……いや、そなたが悪いと言うよりは単なる精神衛生上の配慮が足りぬと言うかなんというか……」
「そうかな……僕は舞以外の人間とはほとんど口も聞かないけど?」
 小首を傾げて微笑む速水を見て、舞は眉を吊り上げた。
「今、そなたは嘘をついたな。そなたは嘘をつくときいつもそんな表情をする」
「いつも……って、無茶苦茶言うなあ……」
「黙れ!そなたは私のカ……」
 舞の顔が真っ赤になり、動きが止まる。
 それでいて、舞の眼球は忙しく動き続けていた。そんな舞を楽しそうに見つめる速水。
「カ……何?」
「なんでもないっ!気のせいだ!気の迷いだ!最近妙な夢ばかり見るから、きっと疲れているのだ私はっ!……何がおかしいっ!」
 大荒れする舞の叫びが……夜風にのって流れてくるのを耳にしながら、岩田はプレハブ校舎の屋上で楽しそうに身体を動かした。
「いけませんねえ…曇った日は電波の受信状態が良くありません」
「星…見えない」
 低くたれ込めた雲に遮られ、星はおろか、黒・蒼の2つの月も見ることができないことが残念なのか、萌は俯いてぽつりと呟いた。
「……しかも、…うるさい」
「そうですねえ…蒼き月より舞いおりる舞踏はもう少し先のことでしょう…」
 とがった耳をピクピクと動かし、岩田は萌の身体を夜風から守るようにして丈の長い白衣の中に包み込む。
「……っ」
 少し驚いた表情で岩田を見つめ、萌は微かに頬を染めた。
「まだ……舞踏によって与えられる死を待っているのですか?」
「わから…ない…でも、意義ある生を、生きる…ためには…全てを終わりにする死が…必要なはず…だから…」
「……意義のある生の結果、死が訪れる…とは考えられませんかね?」
 萌は困ったように俯き、もう一度岩田の顔を見上げたときには何かでぬぐい去ったように表情を消していた。
「……今の岩田君…嫌い…」
「ああっ、怒らないでください萌さん。誰も…何が正しいかなんて知りはしない……速水君の信じる真実は、かつて狩谷君が見ていた真実とは別のものでしょうし」
「舞踏が、世界にもたらす…のは…死と再生……」
「……この世界が大事で、守ろうとしてる人もいます。のぞみさんなんかは、昔と今は重要ではないと言っていますが、あなたもそうですか?」
「……」
 萌は無言で岩田から離れ、あて付けがましく殊更風通しの良い寒そうな場所を選んで腰をちょこんと下ろす。
「どうしました…?」
「……のぞみ…誰?」
 夜だというのに、萌の顔が赤く染まるのが目に見えるようだった。
「フフフ…、過去にも未来にも行けず、世界から逃げ遅れたお間抜けさんの名前です」
「……それは、どこにも…行けなかった…から……じゃないの?」
 暗いけれども澄んだ瞳で、萌は屋上から乗り出すようにして1人からまわりを続ける舞の姿を見る。
 そして、いつの間にか自分の隣に来ていた岩田に気が付いて視線をあげた。
「どうか…した?」
「……ぼかぁ、時々萌さんが何もかも知っているような気がしますよ…」
「私…知らない。時が…くれば、少しわかる……それだけ…」
 ぷいっと、岩田から視線を逸らした萌。その身体が小刻みに震えているのに気が付いて、岩田は萌の手にそっと自分の手を重ねた。
「過去を知る者と未来がわかる者……さて、どちらが過酷な忍耐が必要なんですかね?」
「……」
「僕ぁ…ここに来て、未来がわかる苦しみを少しだけ知りましたよ」
 岩田の目が遠く旧市街の方角に向けられているのを見て、萌は少しだけ俯いた。
「……岩田君、優しい目…してる…」
「んじゃ、サングラスでもかけますかね……ああっ、世界はお先真っ暗です」
 どこからともなく取り出したサングラスをつけてクネクネと踊り出す岩田を見て、萌はほんの少しだけ笑って目を閉じた。
 他人の目にどう映るかは知らないが、この小隊にきてから萌の毎日は穏やかに過ぎている。しかし、この小隊のほとんどの人間が世界では厄介者扱いをされている。
「強すぎる人や…弱すぎる人…優しすぎる人……それが、悪いの…?」
 そう呟いて、萌は岩田を見た。
 
『厚志、私はお前を手放すつもりはない…いつも私の隣にいろ』
 がたあぁっ。
 顔を真っ赤にしたまま、舞は慌てて左右を見回した。
 一組教室の見慣れた光景と見慣れた級友、そして何人かの視線がちくちくと突き刺さってなんとも言えない気分になる。
「芝村さん……そこまで堂々と寝られると、先生ちょっと傷つくわ…」
 芳野が困ったように呟く。
「すまぬ……授業中に眠るなど不覚であった……?」
 けたたましく非常招集の警報が鳴り響いた。
「みなさん、すぐに準備を!」
 学生から兵隊へ……その急激な変貌に芳野は心を痛めた。
 自分には何もできないことを知っている。しかし、この小隊にやってきてから生徒達が死ぬという意識が自分から薄れていくのが不思議と言えば不思議だった。
「……多分、あの2人のおかげなのね」
 戦場における危険のほとんどを一手に引き受けているためなのか、消耗の激しい学徒兵の部隊にありながらただの1人の犠牲も出していない5121小隊は異質な存在と言えた。
「あの2人が死んだら……私、泣けるのかしら?」
 今までずっと泣くのを我慢してきた自分が、そんな心配をすることの滑稽さに気づいて苦笑した。
『左右陣はそのまま待機、中央の動きに合わせて側面より援護せよ!』
「……最近ますます期待されてるねえ」
「ふん、我らが背負える荷物が他人より重かっただけのことだ。厚志よ、おしゃべりしている余裕はないだろう」
 騎魂号の頭が下がり、右足の人工筋肉筒がはち切れんばかりに膨らんだ。
「揺れるよ…」
「わかっておる。我らがコンビを組んでどれだけ時間が経ったと……?」
「まだ半月だよ、舞」
 大きく跳ねるようにして前進し、幻獣達の注意を引きつける。
 幻獣達の現在位置および、射角範囲のデータを速水に送りつつ、舞は超人的な速さと正確さでこの後の動きを予測し、ミサイル弾の狙いをしぼってゆく。
 2つ、3つ……ミサイル全16発の照準計算が終わったことを速水に告げた。
「終わったぞ」
 後部のミサイル射出部が大きく口を開き、後部座席に座る舞にとって最も無防備な瞬間が訪れる。
 激しい振動。
 照準の細かな調整を各ミサイルに与える必要もない程全てが計算通りに進んでゆく。
 間髪入れず、機体が大きく跳躍する。
 このような状況で、弾幕を薄くした位置の敵を速水に伝えるまでもなかった。全ての行動につながりがあり、つながりを生むために2人の意志が存在している。
 速水はそれを線と呼び、舞はただそれを受け入れた。
 土煙の中におり立ち、傷ついた幻獣を一刀のもとに斬り捨てて再び跳躍する。
 撤退を始めた幻獣の最後の一匹を大きく斬り下げた瞬間、戦闘は終わりを告げた。
「妙だな……手応えがなさ過ぎる」
「いや、いつもと同じだよ」
「そうか…?」
「もしそう思うのなら……舞が強くなっただけのことじゃないかな?」
「努力はしているが、昨日の今日で変わるはずもない……いきなり強くなれるなら苦労などしないはずだ」
「最初はね……でも、ラインを踏み越えた瞬間はそうでもないんだ」
「最近、そなたの言うことは良く理解できぬ…」
 両手に大太刀をぶら下げたまま、2人の乗る騎魂号は撤収するために戦場に背を向けた。
 
 早朝。
 生徒会連合本部……
「昨日はお疲れだったな。……全世界への宣伝とはいえ…」
「つまらぬ挨拶はよそう。……で、私に何の用だ?」
「おまえに頼みがある……」
「聞こうか」
 舞は準竜師の前のソファーに腰を下ろした。
「速水を殺せ」
「……言っている意味がわからぬな」
「意味が分かってからでは手遅れになる可能性がある……まあ、今更勝手な言いぐさだとは思うがな、お前にしかできないことだ」
「断る。我らは一族の敵にしかその刃を向けぬ一族であるはずだ……そして私は芝村であり、厚志は私の味方だ。つまらぬ政治工作に厚志を巻き込むでない」
 準竜師は軽く眉をひそめたまま笑った。
 あまり、正視したくない類の笑みである。
「勘違いするな…軍上層部や政治的なごたごたではない……」
「聞いておる。気を持たせずに要点だけを話してもらおう…」
 準竜師の暑苦しい顔がぐっと近づいたが、舞は傲然と胸を反らしてその攻撃を受け止めようとした。
「……速水は、竜だ」
 
「あ、あの…どうかしたんですか芝村さん?」
「気にするでない……そんな顔をするな。そなたの心遣いは嬉しく思う、だが少し1人になりたいのだ…」
 概して芝村一族は楽天家である。
 その一族である舞が陰鬱な表情で歩いているならばよほどのことがあったのだろうと田辺は推測したに違いない。
「……お金に困ってるんですか?」
「……」
「そ、そんなわけないですよね。私ったら、いつも自分を基準に考えちゃうから……」
 困ったように俯いて頭をかく田辺を見つめ、舞は呟いた。
「そなたらは……善意の者か」
「え?」
 田辺の両肩に腰を下ろした2人の妖精神族。
 その1人が、かつて速水と共にいた妖精神であることを思い出す。
「そなたがここにいると言うことは……そうなのか?」
「あ、あの…芝村さん?」
「……田辺」
「は、はい」
 肩の後ろのあたりをじっと見つめていた舞の視線が急に向けられて驚いたのか、田辺が背筋をピーンと伸ばした。
「……速水はどこだ?」
「速水さんですか?……朝一番に一緒に訓練したんですけどその後のことは……」
「そうか、速水はそなたに託したのだな…いや、そなたにしか託せなかったのか…」
 深い悲しみをたたえた舞の瞳に、田辺も悲しそうな表情になった。
「な、何があったのか知りませんけど……明日はきっと良い日です」
「……そうだろうか?」
「はい。だって、良い明日を目指してみんなが一生懸命努力してるんです……だから、だから…明日は良い日です……だからぁ…」
 最後の方はもう言葉にならない様子で俯いた田辺の頭をそっと撫でてやった。
 指の間をさらさらと流れる青い髪の感触に、何故か心が安らいでいくのを感じて囁いた。
「泣くでない……そなたは笑え。そなたには明るく笑う権利がある。そして我はその権利を守る者だ」
 どこか遠い呟き。
 だが、それは田辺を涙をさらに流させる。
「……そなただけではない、私は大勢の笑顔を守る者だ。今そなたが泣いているならばそれは私の罪だ、責めるが良い」
「……ってください」
「何だ?」
「笑ってください……そんな顔をしないでください。私は、1人でも悲しい顔をした人がいたなら笑うことはできません…だから…」
 田辺はぎゅっと舞の腕を掴んだ。
 速水から何か聞いたのか、それとも何かを感じたのかはわからない。
「わかった、…私は誰1人として泣かせないことを約束しよう」
「……約束ですよ」
 そう呟いて、田辺は速水から預かっていたらしい手紙を差し出した。
 
 夜空に浮かぶ蒼い月と黒い月。
 太陽は全てを照らし、月の光は悲しみだけを照らし出す。
 そして、黒い月は全ての可視光線を吸収し続ける、その存在さえも疑問視されている天体(?)であった。
 時は3月下旬、場所は熊本城。
 月明かりの中、5分咲きと思われる桜の花びらが思い出したように散ってゆく。
「早く咲けば早く逝く……何故そんなにも急いだのだ、厚志…」
 右手に超硬度カトラスをさげ、要所要所で進路を塞ぐ幻獣をなぎ倒して無人の荒野をゆくがごとく駆け抜ける。
「私は……わたしはっ!」
 目の前に現れた浮遊タイプの幻獣を真横に薙ぎ払って舞は叫んだ。
「少しでも長くそなたと共にありたかったぞ!」
 頭の後ろでまとめられた髪を激しく踊らせ、本丸へと走り込むと同時にそこにいた人影に剣先を向けた。
「……やあ、早かったね」
 負の感情を感じさせない人畜無害の穏やかな微笑み。
「厚志……」
「いい夜だね……月がこんなに近く見える」
「厚志……」
「知ってた?人類の決戦存在って、竜を倒すために生まれるんだよ……そして、竜は己にふさわしい器をこの世界でずっと探していた」
「狩谷は……真の竜を生むために用意された竜だったのだな?」
「……狩谷は、竜に操られただけだよ。自分ではそうは思ってなかったかも知れないけど。僕も、こうなって初めてわかった」
「私が死んだときか……ならば私の責任なのだな?」
 速水は何も答えない。
 その代わり、舞の方を振り返って気軽な感じで声をかけた。
「少し…歩こうか」
「そうだな、夜は長い…」
 やわらかな月明かりに照らされ、2人は桜の花を見ながらしばらく歩いた。
 ふと、月明かりが薄くなったような気がして舞は空を見上げた。
「……ぁ」
 蒼い月が、黒い月によって少しずつ隠れていく。
 あの時は太陽だった……
「厚志……」
「うん……そういうことかな。大丈夫だよ……舞は強くなったから」
「馬鹿なこと言うなっ!わ、私は…そなたのせいで弱くなったぞ……いつもそなたが側にいないと……」
「舞…少し離れて。ちょっと意識が危なくなってきたから……」
「……そうか、そなたはだからあれほどまでに急いだのだな。馬鹿め、何故こんな大事なことを私に相談しなかった、馬鹿め、馬鹿め」
「あはは……熊本城にくると舞はいつもそれだね」
 ざわざわと寄生タイプの小型幻獣が2人の周りに集まりだした。
「厚志……そなたは私のものだ。他の女にも竜にもやらぬぞ、覚悟しておけ」
「……まずは勝つことだよ、舞。」
 蒼い月が完全に黒い月に隠れた瞬間、速水を中心として小型幻獣が次々と寄生していき大きな形を作りだした。
 
「……始まりましたか」
「舞踏は……優しいの。だから…人の…嫌がることを……自分が…する」
「僕ぁ、とらわれのお姫様を救い出す王子様のような気がしますが……」
「……速水君が…お姫様?」
「怒られますかねえ…?」
 萌はふるふると顔を振った。
「速水君は…怒らない…けど……芝村さんが…」
 和やかな会話を交わしつつも、岩田の表情は厳しい。
 全世界に散らばる幻獣が全て熊本城へと集結しつつある今、竜の回復量は無限ともいえるだろう。
 それに対するは1人の少女。
 唇を噛み、想像を絶する圧力に立ち向かいながら、少しずつ小型幻獣の鎧を削ぎ落としていく。しかし、削ぎ落とした鎧は次の瞬間に別の幻獣によって埋められた。
 それでも、少女は剣を振るう。
 呪文のようにある言葉を呟きながら……
「明日はきっと良い日だ……明日はきっと良い日に決まっているっ!」
 その言葉を何万回繰り返しただろうか……はがされた鎧が、修復されなくなり始めた。すかさず、はがれた部分に剣先を突き立て、抉った。
 目の前を通り過ぎる竜巻のような攻撃をやり過ごし、今度は反対側に回って鎧をはがして抉る。
 少しずつ消滅してゆく竜の実体……しかし、少女は決して剣を深く突き立てはしなかった。表層を削り取るような攻撃ばかりを繰り返す。
 いつしか、呟きが少年の名前へと変わっていることにも気が付かない。
 ガキイィンッ
 一際固い手応えを感じて、少女の表情が歓喜に染まった。
 少年が竜の器であるならば、おそらくは中核のようなものとして体内にあるに違いないと信じて剣を振るい続けてきたのだ。
 既に竜は竜の形をとどめず、ただざわざわと蠢く肉塊へとなりはてている。
 高鳴る胸を押さえつつ、中核を覆う外殻に渾身の一撃を繰り出した。剣先がはじけ飛ぶと同時に、外殻に亀裂が生じる。
「厚志…厚志…」
 その亀裂に向かって狂ったように折れた剣を叩きつけ、ついに中核の中身が舞の目に晒された。
 剣を捨て、少年の身体をずるりと引き出しにかかる。
「厚志!」
「……まずは勝つことって言ったのに…」
 少年の顔が醜く歪み、その指先が少女の身体を貫いた。
「厚…志……」
「君が戦っていたのは生まれ出ようとした僕を守っていた幻獣達だよ……仮にも決戦存在がそんなに弱いはずがないだろう」
「かふっ…」
 泡の混じった血が少女の口からこぼれた。
 少女の身体を押しのけるようにして、新しい身体の感触を確かめる少年。
「いい器だ……これならば充分に力が発揮できそうだ」
「これ…だと?」
「ああ、いままでで最高の器だよ……苦労しただけのことがあった」
「……取り消せ」
 ぐらつく身体を支え、少女は鋭い眼光で自分の前に立つ少年をにらみ付けた。
「厚志は私のカダヤだ……私以外の誰かに、もの呼ばわりされる筋合いはない」
「……カダヤって何?」
 舞の表情が憤怒に燃えた。
「また1つ許せん理由ができた……私と厚志の記憶を汚すな…」
「随分と女々しいことを……」
 少年が冷たい視線を舞に向けて右手を振り上げた瞬間、一筋の光が舞の身体に降り注ぎ始めた。
 少女の身体の傷がたちまち塞がり、新たな活力がわき上がってくる。
「……ち、無駄話が過ぎたか」
 少年は少女から離れて距離をとり、少女は薄い光に包まれた右手を見つめ、ぽつりと呟いた。
「……そうか、竜を倒すために決戦存在は生まれるのだったな」
 キラキラと降り注ぐ淡い光は、まるで銀の糸を紡いだ服のように少女の身体を覆い始めた。
『……最も新しき伝説の体現者である少女よ。後は我に任せよ…我は舞踏…竜と共に踊る者』
 少女の頭の中に響く穏やかな声が、何故か胸を締め付けた。
「……断る」
『汝は……竜を、あの少年を殺せるのか?一瞬のためらいは死と同義なのだぞ』
「我は芝村……己の判断と力を信じる者である。……私に指図できる者はたった1人しかおらぬ」
『それがあの少年ならばなおさら……』
「くどい!気の進まぬ事だからと人任せにする私ではない。我は芝村だ……芝村であることが我らが誇り、誇りこそ我ら……誇り無くして、信頼を寄せてくれた厚志達に合わせる顔があるはずもない!」
『承知した……そなたの誇り見せてもらおう』
 少女は身体のコントロールを取り戻し、右手に持っていた銀の剣を抜いた。
「……田辺よ、今の私はどんな表情をしている?」
「舞踏を拒否するか……大した精神力だ」
「私は厚志には遠く及ばぬ……決めたぞ。厚志は私を信じてそなたの好きにさせている…私はそう決めた。私がそなたを倒せば厚志は戻る……何事もなかった様にだ」
「……愚かな」
「決めたのだ……」
 少年は上段に、少女は正眼に剣を構えて対峙する。そして、構えたままお互いに動かない。
 お互いの目の光が、何かに誘惑されたように不意に変わった。
 気力や技とは違う別の何かが剣の動きを支配し、ぶつけ合う気合いも無しに2人は動き、ただ間合いだけが狭まった。
 少女の左腕が地面に落ちた……そして、少年の胸には剣が深々と刺さっていた。
「……厚志」
 懇願するような少女の呟きをあざ笑うかのように、少年の瞳がゆっくりと閉じていく……その瞳は、最後まで少女の知る輝きを取り戻すことはなかった。
 少年の身体を右腕一本で抱きかかえ、少女は地面に膝をついた。
「戦場は我らの故郷……あの時、私と共に来ることを決めたときそなたは言ったな。臆病だから私のいない世界で生きるのが恐いと……」
 舞は静かに少年の胸に刺さった剣を引き抜き、その身体を地面へと横たえた。
「私もだ……そなたのいない世界で生きることが恐いぞ。厚志…どうすればいい?」
 2人の身体に再び光が注がれた。
 夜空から、黒い月が姿を消している……
『そなたの誇り、見せて貰った……』
「……独りに、いや…厚志と2人にしてくれ…頼む…?」
 少女は、自分の左腕が元通りになっているのに気が付いて空を見上げた。
『我は舞踏……竜と共に踊り、死と再生を司る者』
 一際強い光が少年の身体に降り注ぎ、それきり気配が消え失せた。
 慌てて少年の胸に耳を寄せる少女。
 歓喜に満ちた表情へと変化した少女の頭を優しく抱き寄せる少年の腕。
 東の空が白々と明け……長い夜は終わりを告げた
 
 ガコーンガコーン……
「汎用性があるにも程がありますね……」
 工作車の乗り込めない複雑な地形で巨大なつるはしを振るう士魂号を眺め、善行はため息混じりに呟いた。
「ただ廃棄処分にするには金を食いすぎてるもの……最低限のメンテナンスだけなら費用と手間はそうかからないし。効率を考えると、この方が少しだけいいわね」
「……はあ、いい奥さんになれますよあなたは」
「じゃあ、もらってみる?」
「考える時間を下さい……」
 ごく少数の者しか知らない長い夜が明け、全世界から幻獣反応が消えたことに対して人類は深いとまどいを隠せなかった。そして半信半疑のまま数カ月が過ぎ幻獣に対する軍の解体は緩やかに、だが確実に進んでいる。
 まず最初に解体されたのは、いわゆる学徒兵と呼ばれる少年少女達である。
 その後、当然のように起こるであろうと思われた人間同士の争いを続けるには、人類はあまりにも傷つきすぎていたからである。
 数々の焦土作戦により、深く傷ついた大地の爪痕を覆い隠せる日はまだまだ先のことであるように思われる。
「おーい、みんな……えーと」
「ご飯だ」
「ごはんだよー!……ありがと、だいちゃん」
「よし、食うぞ!……今日の食事当番は誰だった?」
「私だ……そら、食え…遠慮はいらぬ」
「……いや、実は今朝から腹の調子が…」
「若宮もか…実は俺も……」
 わざとらしく腹を押さえる若宮と滝川を冷ややかに見下ろし、舞は猫のエプロン姿のまま腕組みをして呟いた。
「そなたら…何か勘違いをしているな。厚志を見ろ……おいしそうに食べているではないか…」
 舞の作った料理を口に運び、入り口付近で固まっている仲間達に穏やかな笑みを向ける速水。そんな彼を見て、壬生屋と田代はひそひそ声で話す。
「……愛だろ、あれは」
「ふふっ、勝てませんね」
「おおっ、この生野菜のサラダとパンは結構いけるばい」
 手のかかった料理に決して手をつけようとしない中村を見て、舞のこめかみが軽く引きつった。
「そなた……何が言いたい?」
「そ、そうですよ……食べもしないで勝手なことを……」
 善意の田辺が料理を口にする。
 にこやかな笑顔はそのままだが、何故か身体の動きが止まっていた。
「いかん、泡噴いとるばい!」
「石津、早く来てくれ石津!」
 今日も大騒ぎが始まる……
「……やれやれ、この子達が数ヶ月前まで手に武器を持って戦場を駆け回っていたとは信じられませんね」
「これでいいんですよ、きっと…?」
 芳野は、地面に落ちていた何かを拾い上げた。
「何か落ちてましたか?」
「……いえ、これからの時代には必要のないものです」
 かつて、兵士にとって憧れだった勲章……芳野は、それをためらうことなくゴミ箱に投げ捨てて笑った……
 
 
                     完
 
 
 ……我ながらとりとめなさすぎ。(笑)
 3回目のプレイで初めて2周目があることに気づき、そのまま田辺さんでSランククリアしたときに『ああ、最初の速水プレイでフラグを立てないといけないのだなあ…』などと高任は思ってました。
 その当時、頭の中でこのようなストーリーを予想していたのですが、かなり予想が外れてたことは言うまでもありません。(笑)
 竜との決戦での田辺のイベントがもっと大きく扱われて欲しいなあ……などと思っているので、そろそろあたためていた田辺が主役の外伝を手がけます。

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