真実に一番近い場所。
 もしこの世界に真実というものが存在するならば・・・きっとそこは今自分の立っている場所に違いなかった。
 昼夜を徹して士魂号の整備にあたり、幻獣との戦闘においては勇猛果敢に太刀を振るい続けた。
 そして今、自分はやっとその場所を手に入れた。
 その代償は・・・発言力3500!
 
 陽平はシャワー室の前に立って静かに涙を流していた。だがその瞳はしっかりと開かれている。見事なまでの男泣きであった。
「気持ちはわからんでもないが、泣くなよ滝川。」
「お前なんかに俺のこれまでの苦労がわかってたまるかよ!」
 半月ほどで彼女をつくるのをあきらめた。どうもこの部隊の女性の大半は自分のストライクゾーンから外れているのである。そのうち半分ぐらいは大暴投であった。
 そしてストライクの女性と言えば、どうも陽平自身が彼女たちのストライクゾーンから外れていたらしく相手にしてくれない。
 そんな苦労が今自分の目の前に立つ、靴下野郎に理解出来るはずもない。
「大体お前は靴下にしか興味がなかったんじゃなかったのか?」
「靴下にかける情熱と、真実を追い求める情熱は別物たい。」
 大きくふくらんだ腹をゆさゆさと揺すりながら、中村は胸を張る。そこまで断言する姿には一種の美学がある・・・かもしれない。
 陽平としては、自分一人で陳情したシャワー室を他の誰かに『有効に』使用されるのはちょっとしゃくなのだが仕方がない。
 実行犯と見張り役。二人でワンセットというのは犯罪の定番なのだから。
「では、早速・・・」
 そう呟いて足を踏み出した中村を陽平は殴り飛ばした。
「な、何ね?」
「馬鹿かお前・・・こんな真っ昼間にそんなことしてみろ、一発でばれるじゃないか!」
「た、滝川の口からそういう言葉を聞くとは思わなかった・・・。」
「俺はこれに全てをかけたんだ・・・。」
 陽平はそう呟いて遠い目をする。
「大体誰が入ってるかわからないだろ?・・・お約束で若宮の固そうなケツとか見えたらどうするんだよ。」
「写真を撮って隣の女子高生に売・・・」
 再び中村の身体が地面に転がる。
「俺の真実を商売に使うなよ!」
 激高する陽平には聞こえないように、中村は鼻血をぼたぼたと垂らしながら呟いた。
「俺の真実である盗んだ靴下は平気で売ろうとしたくせに・・・。」
「とにかく決行は夜だ。それまでおとなしくしてろよ。」
 
 そして夜が来た。
 シャワー室の入り口が見える場所をうろうろしていた陽平に中村が近づいてきた。
「今、誰が入っとる?」
「東原だよ・・・ちょっと待て。」
 いきなりシャワー室に向かって走り出そうとした中村の襟首をつかんで引き戻した。
「お前・・・何を考えてる?」
「いや、この時代そういうジャンルは高い値段が・・・。」
 地に転がる中村。
「あんな子供を商売のネタに考えるなよ!」
「俺達だって子供だろ?」
 などとやってるうちに次にシャワー室に入ったのは新井木である。
「行けよ、今度は止めないからさ。」
「俺、あいつは好かん。」
 中村は顔をしかめながら右の脇腹の辺りを手で押さえた。この前の喧嘩の時に出来たあざが未だに残っている。
「だったら余計に仕返ししてやろうとか思わねえの?」
「お前はしらんやろうが、あいつは怒らせると怖い。」
 何をするかわからないと言う点では、この部隊で一番であろう。陽平も自分が何回スカウトに転属させられたかを思い出して顔をしかめた。
 あれさえなければもっと早くこういう機会が得られたはずだったのだ。
 そうこうしているうちに新井木が出ていった。そしてシャワー室の前に現れた原の姿を目にして二人はいきり立つ。
 おそらくばれたときの危険度としてはナンバーワンのはずなのだが、その危険を冒すだけの価値を二人とも見いだしていたらしい。
 だが、原は単にその前を通りかかったというだけだったらしく、そのままグランドはずれへと姿を消した。
 額の汗を拭いながら来須がシャワー室に入っていくと同時に、陽平はゆっくりとそちらへ向かう。
「ちょ、ちょっと待つばい!」
「いや、そろそろ第八世界の要求に応えた描写が必要かと思って。」
「第八世界って何ね!」
 そんなことをしている間に来須はシャワー室から出ていった。
 それと入れ替わるように現れたのは芳野。どことなくふらふらしながらシャワー室に消えた。
「・・・滝川、確かお前のお気に入りじゃ・・・?」
「だって、酔っぱらってるぜあの人。」
 滝川の言葉を聞いて中村の顔が青ざめる。以前酔っぱらった芳野が、武装した本田と坂上を一撃で失神させた光景は忘れようにも忘れられない。
「フフフ・・・何を話してるんです二人とも。」
 突然背後から話しかけられて、二人は身体を硬直させた。振り返った先には岩田が踊りながらにやにやと微笑んでいる。
「真実について少しな。」
 岩田は大きく頷いてから口を開いた。
「今は、誰が入ってるんです?」
「芳野先生だよ。」
「素晴らしい!この幸運を今すぐこの手に・・・」
 二人が止めるまもなく、岩田はスキップしながらシャワー室の前に立つ。
 ・・・岩田が生き返ったのは1日後であった。ついでにぶっ壊れた扉を修理するのも1日かかった。
 
「ちっ、岩田の馬鹿のせいで警戒が厳しくなったな。」
「別の手を考えるばい。」
「そんな手間のかかることしなくてもカメラでも仕掛けたらいいんとちゃう?」
「馬鹿野郎!直接目で見ないと感動が薄れるだろ・・・って今の誰?」
 滝川と中村は狐につままれたような顔つきであたりを見回したのだが、誰も見つけることは出来なかった。
 静まりかえった整備員詰め所に響くのは微かなシャワーの水流である。
 二人は顔を見合わせた。
 整備員詰め所とシャワー室の壁は隣り合っている。つまりここをどうにかすれば、発見される恐れも少なく目的を達せられるのではないか?
 二人は巻尺を持って壁を測量し出す。そうしているうちに、中村が素っ頓狂な声を上げた。
「なんで、こんな所に隠しカメラのコードが?」
 さすがソックスハンターとしていろいろと悪事に手を染めているだけに、そういうことにはやけに詳しい。
「ちょっと、それをいじらんといてーな!」
 と、部屋の中に怒鳴り込んできたのは加藤祭その人であった。
「・・・金のためなら仲間も売るのか?」
「うちが売ってるのは男子の写真だけ。それとあんたらにそんなこと言われとうない。」
 ・・・どのみち犯罪である。
「違うぞ、俺は個人的に楽しむだけだ!」
 きっぱりと胸を張る陽平はある意味立派であるとも言える。が、これも立派な犯罪行為である。
「と、とにかく、うちは女性としてあんたらの行為を見逃すわけにはいかん。」
「なんだとおっ、お前なんか毎日毎日自分の裸は見れるし、狩谷の裸も見れるじゃないか。そんな恵まれた奴にこの俺の悲しみがわかるのか!俺なんかなあ、俺なんか、生まれてから一度も女の子の裸なんて見たことがないんだぞお!」
「い、いや、血の涙を流されても・・・」
 そう呟く祭の頬が少し赤い。
「くそおっ、俺は真実を知らないまま戦場に倒れてしまうのか?」
 床には既に血だまりが出来ている。
「わかった、わかったから泣きやんで!・・・ただし、一回だけやで。それ以上はうちは許さんからな。」
 
「ええか、一つの場所におれる人数は5人までや。」
 つまりシャワー室の中の1人、陽平、中村、祭で既に4人。ここにもう1人加えると新たな侵入者は現れない。
 陽平と中村は黙って頷いた。さすがに祭の考える計画は二人のそれとは違ってそつがない。
「後1人は?」
「ん、ブータや。ブータになら目撃されてもどうってことないやろ。頃合いを見計らってうちがあんたらを呼ぶから・・・。」
「なるほどおっ!(*2)」
 両手をあげてガッツポーズを繰り返す二人を、祭はにやにやしながら眺めていた。
 
『ごぱあっ!』
 盛大に鼻血を吹き上げてぶっ倒れた陽平を心配して中村がひそひそと話しかける。
『おい、滝川・・・大丈夫か?』
『俺・・・もう死んでもいい。』
 それを聞いて中村もまた扉に近づいていく。
『ぶばあっ!』
 これまた鼻血を吹き上げてぶっ倒れながら中村は呟く。
『靴下に勝るとも劣らぬ真実ばい。』
 白目をむいて失神した二人を、『今グランドはずれからやってきた』本田が怪訝そうに見つめている。
「何してんだこいつら?」
「ああ、その二人にはちょっと刺激が強すぎたみたいです。」
 祭はそう呟きながら誰もいないシャワー室の扉を開けて、備え付けた投影機から何かのテープを取り出した。そして、倒れた二人を見やって微笑む。
「本人がそう思いこめば、虚構もまた真実なり、やな。」
 
 
                   完
 
 
 ちょっと長すぎたか。(笑)
 しかし、私も死ぬまでに一度でいいから『興奮して鼻血を出す人間』を見てみたいものです。
 ちなみにゲームの中で3回程試みましたが、全て若宮でした。(笑)他のキャラって出てくるんでしょうか?

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