きーんこーんかーんこーん……
 昼休みを告げるチャイムの音と同時に、ダッシュで教室から描けだしていく少年達。
「……あやつら、最近昼休みになるといつもああだが?」
 と、舞は不思議そうな表情で加藤の方を振り向いた。
「まあ、色気より食い気の子供が多いって事やな」
 と無関心を装っている加藤だったが、何故かこめかみのあたりがピクピクしている。
「……どういうことだ?」
「あのねあのね、舞ちゃん。みんなヨーコちゃんのご飯を食べに行ってるのよ」
「小杉の……」
 舞はあることに気が付いて顔を上げた。
「そう言えば加藤、最近そなたは中村と一緒に昼食を……」
 ぴきっ。
「あんのクソデブ!恋人であるうちの弁当よりヨーコの料理がええっちゅーんかあっ!」
 と、思いっきり机をひっくり返す加藤。
 そのこめかみを見ているだけでドキドキしてしまうほど、血管がうねうねととぐろを巻いている。
「加藤さんも、私も、家事技能はレベル2ですのにね……」
 と、これは暗い表情の壬生屋。
 ある意味グルメである中村はともかくとして、味より量、腐った弁当もどんとこいの鉄の胃袋を持つ若宮に裏切られた壬生屋のショックは大きいようだった。
「ふむ、確か小杉は家事技能がレベル3だったが……それほどまでに違うものなのか?」
「舞ちゃん、ヨーコちゃんの料理はすごいのよ……一口食べるだけでお空に虹がかかるの!」
「……に、虹?(*3)」
 理解不能……の表情で立ちつくす舞と加藤と壬生屋。
「もう少しわかりやすく説明できぬか?」
「んーとね、一口食べるとジュワジュワってして、ぽかぽかしてふわふわしてきゃーって感じでぴょんぴょんってなるの」
「……ののみは関西人の素質がありそうやな」
「加藤さん、出身地に素質も何もないと思うのですが……」
「いや、それは違うで。身体は男でも心は女性……またはその逆で、生まれてきた性を間違えた云々という話があるやろ。あれと同じで、生まれてきた出身地を間違えてきたという学説があるねん。東北出身やけど、心は大阪出身とかな……」
「……まつりちゃんは熊本出身なのよね」
「そう、うちは生まれが熊本やけど、心は関西人やねん」
「加藤よ、さっきからネームが長すぎるぞ……ふきだしで、顔が隠れてしまうではないか」
「……芝村さん、時間がないときは台詞が長く、ふきだしが大きくなるものなんです」
「みおちゃん、何の話?」
「行間を読むのは、小説だけじゃなくて漫画も同じという事です」
 お姉さんぶってののみに答える壬生屋を見て、舞は言った。
「背景とか人物を描いている暇がないと言うことか?」
「芝村さん、それは言わぬが華です……」
「何の話やねん……」
 加藤のツッコミで我に返ったのか、舞は前髪をかき上げながら言った。
「ふん、小杉の料理がそれほどのものなら食してみればいいではないか。その上で、自分自身を鍛錬すればいいだけのこと」
「あー。あかんあかん。ヨーコはんと一緒に訓練したり仕事したりしてみたんやけど、どうしても教えてくれへんねん」
「やはり、どんな技能でもレベル3ともなると何かしらの秘密みたいなものがあるのでしょうか?」
 と、考え込む壬生屋に、舞は何事もないように呟く。
「私もレベル3(天才技能)だが?」
「でも、まいちゃん卵も割れないじゃない…」
「卵は厚志が割ってくれるからいいのだ」
「ほうちょうで自分の指を切っちゃいそうになるし…」
「危ないときは厚志が代わりにやってくれるから問題ない」
「カップめんを、水から煮込むのはめーなの……」
「ちゃんと出来上がったではないか!」
 などという舞とののみの微笑ましい会話を聞きながら、加藤と壬生屋は大きくため息をついた。
 
「ハイ?おりょーりデスか?」
「うむ、聞くところによるとそなたの料理はすごいらしいではないか……できれば私も厚志にそのような料理を食べさせてやりたいと思ってな」
 少し照れたように、舞はヨーコの視線から顔を背ける。
「ウフフ……料理は愛情デス」
「ふむ、それならばそなたはこの小隊で最も愛をばらまいているというわけか…?だったら、瀬戸口なども料理が上手なのか?」
「……」
「違うのか?」
「おりょーりは、一に努力、二に実践デス!」
「そ、そうか……」
 にこにこと微笑むヨーコ(魅力S)に気圧され、何となく頷いてしまう舞。気が付けばあっという間に、ヨーコのお料理教室が開かれていたりする。
「……というわけで、このまま3分経てば出来上がりデス」
「ごく普通の手順だったな……」
 ほんわかといい香を発する料理を皿に盛りつけながら、舞は首をひねった。いつも速水が作ってくれる(笑)料理と大差がなさそうに見えたからだ。
「最後に愛情の……」
 盛りつけられた料理の上で、ヨーコは手に持った小瓶を……
「待ていっ!」
「オウッ、これがツッコミ!」
 ハリセンで後頭部を痛打されたヨーコは、何故か嬉しそうだった。
「何だそれは?」
「え?愛情の白い粉ですよ?プログラム・ブレインハレルヤの元データとなった、幻覚作用を含むハレルヤの粉末……」
 
 ドスゥッ!
 
「……どーも最近、善行がおかしいと思ったら」
「は、原さん……あなたの出番はここじゃないデス……」
「時を駆ける少女と呼んで……」
「少女?」
 
 ズシュウッ!
 
「芝村さん……あなたの目が嫌いなのよ」
「とってつけたような理由を口にするでない……」
 
 
                      完
 
 
 と、こういう話を夏コミ用の同人誌原稿で途中まで描いてたんですが。(笑)
 今になって思うと、めちゃめちゃピンポイントなネタだなあと思ったり。

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