ぎゅごごっごごっ、ごわごわっ・・・じゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!
 朝一番から奇妙な、それでいて軽やかな音が寮の調理場で鳴り響いていた。その音の合間には時々、悲鳴ともうめき声ともしれない舞の独り言が聞こえてくる。
「くっ、私は情報技能以外全ての技能に対して融通の利く天才技能を最高レベルで持っているのだぞ!それなのにそなたらはどうして私の言うことがきけんのだ?」
 と、哀れな姿になり果てた食材に向かってやおら説教を始めたりしている。
 どう考えても、被害者と加害者の正しい関係とは思えないその光景の中に、これまた朝っぱらから底抜けに明るい舌っ足らずな挨拶をしながらののみが乱入してきた。
「おはよーまいちゃん。こんなあさはやくからなにしてるの?ねぶそくはびようにめーだよ。」
「ぎくっ!」
 舞が凍り付いたように動きを止めた瞬間には、すでにののみはテーブルの上に並べられた物体を物珍しそうに眺めている最中であった。
「おそろしいおべんとうにきけんなおべんとうと・・もうひとつきけんなおべんとう・・?」
 ののみは背後に?マークを一杯飛ばしたまま軽く首を傾げて、舞の顔を下からすくい上げるように見上げた。
 舞はののみの視線を避けるようにして、わざとらしく咳払いなんかをしながら言い訳がましく語り始めた。
「その・・なんだ。私は事情を良く知らないので加藤に尋ねてみたのだが・・・どうやら毎朝だな、相手のためにお弁当を作らねばならんらしいのだ。」
 と、微かに頬のあたりを赤く染めながらしどろもどろになって話す舞を、ののみはにこにこと微笑みながら眺めている。ひょっとすると事情が良くわかってないのかもしれなかった。
 黙ったまま自分を見つめているののみの態度に勝手に圧力を感じ、舞は一層しどろもどろになりながら身振り手振りを交えて語り出す。
「しかし、なんだな・・・で、で、でぇとにしろお弁当にしろ、こ、このような苦労の末二人の絆がつ、強くなるのは、な、なんとなくわかるのだが・・」
 瞬間、舞の脳裏にぽややんとした速水の顔が浮かんだ。
「こ、こんな苦労を私だけがするのはだな、どこかおかしいとは思わぬか?あいつはいつもぽややんとして私のことを笑ってばかり・・・」
 滑らかになってきた舞の言葉を遮るようにして、ののみが幾分大きな声を出した。
「ねえ、まいちゃん?」
「なななな、なんだ?」
「これ、だれのおべんとうなの?」
「おかしな事を聞くのだな・・無論速水のに決まっておる。」
 ののみはテーブルの上の危険なお弁当を両手に持って舞の目の前に突き出すと、思いっ切り息を吸い込んでほおをぷくっとふくらませながら舞に詰め寄った。
「なんでまいちゃんが、はやみくんのおべんとうをつくるの?」
 その瞬間舞の顔が真っ赤になる。
「そ、そそそれはだな・・・私と速水が、その・・・ごにょごにょ・・・だからだ。」
 ののみは危険なおべんとうを持ったまま調理場の隅に歩いていき、一際大きな声でこう叫んだ。
「こんなおべんとうは、めー!」
 それと同時に、お弁当をゴミ箱の中に容赦なくたたき込む。舞が呆気にとられている内にテーブルの上のお弁当は全てののみの手によってゴミ箱へと突っ込まれた。
 ズギョオオォォン!
 いきなり耳障りな効果音が二人の間に流れ出す。
「・・・・お前を、殺す!」
「ふーんだ!こんなだれもたべてくれないようなおべんとうなんかめー、だもん!」
「お主は家事技能を持っておらぬだろう?情報技能以外ならオールマイティの天才技能を最高レベルで持っている私の作った弁当を愚弄するか?」
「ののみはきのうよーこさんにおしえてもらったからそんなことないもん!だからはやみくんのおべんとうはののみがつくるね。」
 と、舞の脇をすり抜けるようにしてののみが調理場の前に立つのを、舞が慌てて引きとめた。二人とも目が真剣である。
「ぬぬぬぬ・・・」
「むー・・・」
 ・・・・・・・・・・・・・
 昼休み。
 づかづかづかづか・・・
 突如速水の目の前に突き出された2つの物体。お互いを牽制しあいながら作られたお弁当は、両方ともそこはかとなく破壊的な香りを漂わせている。
「どっち?」
 速水はおろおろしながら舞とののみの顔を見比べている。
 そこに割り込むようにして中村が速水に話しかけてきた。
「キチー。この弁当やるばい。」
 そしてそのまますたすたと去っていく。
 多少しらけたような雰囲気の中で、速水は手に持ったお弁当を軽く持ち上げながら呟いた。
「・・・こっち・・・・がいいな。」
 ズギョオオォォン!
 
「速水の奴は休みだ・・・責任者は暇をみて見舞いに行ってやれ・・」
 次の日のホームルームで、やけに複雑な表情の舞と目の上のあたりに縦線の入ったののみを見ながら、本田がつまらなさそうに愛用のサブマシンガンをいじりまわしながらそう呟く。
「愛ゆえに人は苦しまねばならない・・・か。」
 瀬戸口はどこか悟りを開いたような独り言を呟きながら、帰りに裏マーケットに寄って胃薬でも買っていってやろうと考えていた。
 
 
                   完
 
 このゲームで『恐ろしい弁当』と『誰かの靴下』で学校を休んだ人はどのくらいいるんでしょう?
 私は初めてプレイしたときに、まず何気なく『危険なサンドイッチ』でいきなり。(気付かなかったのだ・・)そして焼きそばパンと無理矢理交換させられた『加藤の靴下』で・・・。
 だって、普通何に使うか気になるじゃないですか!(笑)特に靴下!
 しかも焼きそばパンは二ヶ月過ぎても腐らんし・・・。
 全然関係ないけど、家事技能はヨーコさんが最高レベルなんですよね。と、いうことはヨーコさんのお弁当が一番なのでしょうか?   

前のページに戻る