『友軍機、スキュラにやられました。』
『友軍機、ミノタウルスの攻撃を受け降車しました。』
『壬生屋機、被弾!』
 阿蘇戦区において、その日の戦闘は絶望的なまでに劣勢だった。
 一度は幻獣勢力を完全に駆逐したと思っていたのだが、つい先日福岡が陥落して大量の幻獣がこの地区になだれ込んだのである。
 人類側が、完全に後手に回った戦いであった。
『善行、悪いがしんがりを頼む。』
『……』
『お互い言いたいことはあるだろうが、全ては生き残ってからだ…』
 善行は一瞬の躊躇の後に、回線をオープンにして小隊に撤退を命じる。
「撤退です!余力のある士魂号は友軍を援護しつつ、南西方向に向けて幻獣の勢いを逸らしてください!」
 通常、撤退戦の被害はそれまでの被害に倍することが多い。
 被害を出さない撤退をしなければ、撤退の意味はあまりないことを善行以下小隊の全員が知っていた。
「未央!あんたは撤退しいや!芝村はんも、早めに!機体、ぼろぼろやろ…」
「……はい、わかりました加藤さん。」
「加藤、我らはミサイル発射後離脱する。使わぬライフルを捨てておく故、良ければ足で拾っていくがいい。」
「おおきに。動きの遅いあんたらは足手まといやしな。」
「ごめんよ、加藤さん。」
「かまへんて、火事場泥棒はうちの十八番やしな……」
 祭の操る士魂号2番機……軽装甲らしい俊敏な動きで、幻獣の群をあざ笑うように横っ飛びで逃げては、大太刀で突き、また逃げていく。もちろん、半分は偽装に過ぎないが。
 幻獣の注意が祭の士魂号に向けられた瞬間、周囲にミサイルの爆発音が巻き起こった。だが、射程内の幻獣はほとんどいなかったため、空しく土煙が舞うばかり。
 祭は、もうもうと舞い上がった土煙の中で舌打ちした。
「……あさいか。やっぱ逃げ腰の攻撃は効けへんなぁ…」
「加藤、我らは離脱する!そなたもその土煙に紛れて逃げるがいい。」
 舞の言葉に、祭は少し反省した。
 芝村の一族が、無駄弾を撃つわけもない。
 オペレーターから送られてくる状況を確認して、祭は静かにため息と共に愚痴っぽく呟いた。
「……まだみんな脱出できてないやんか。」
 おそらくは友軍に配置されたばかりの、中卒上がりの新兵か。
 土煙によって稼いだ僅かな時間。
 その貴重な時間を使って、祭はアサルトライフルを拾い上げた。そして残弾を確認して眉をひそめる。
「一発も使ってへんやないの……芝村はんももったいないことするわ…」
 そのまま土煙に隠れた幻獣達の方に向かって射角を調整する。幻獣の現在位置と、これからどう動くかの予測計算にしばらく精神を集中し、一気に弾倉を解放させるための準備をおこなった。
「ま…命より大事な物はあんまりないけど、なっ!」
 元々あまり大きな音のしないライフルだが、バズーカをぶっ放したような炸裂音が山中にこだました。
『加藤機、ミノタウルス撃破!』
『加藤機、ゴーゴン撃破!』
『加藤機、……』
「いちいち、『加藤機』なんてつけんでええっちゅうねん。」
 祭は再び幻獣の群の中へと士魂号を踊らせる。
『…加藤っ!』
 祭の鼓膜がびりびりと震え、士魂号の動きが一瞬硬直する。そこをすかさず攻撃してくる幻獣達。
 キメラの攻撃を慌てて回避しながら、祭りもまた叫び返した。
「中村ァッ!アンタ、うちを殺す気かっ!」
『頼むけん、早う撤退せいっ!』
 この緊迫した状況で、中村の悲痛な叫びは何故か小隊の各人の心ににユーモラスな感情を萌芽させた。
「今うちが撤退したら、鈍くさい友軍が死んでまうやろっ!そんなんもわからんのかアホウッ!」
『友軍なんかどうで……ウググッ、ムーッ、ムウッ!』
 何やら、二人がかりで後ろから羽交い締めにされて、口を塞がれたような中村の呻きが聞こえてきた。
 祭は申し訳なさそうにため息をつき、大太刀を目の前のミノタウルスに叩きつけながら呟いた。
「今背中を見せたら、瞬殺されるっちゅーねん……」
 自分の周囲を取り囲む幻獣の数だけでも3体。
 背を向けることはおろか、今となってはジャンプさえも幻獣の攻撃の的になることは想像に難くない。
「つき合う相手を間違うたんとちゃうか、自分……」
 そこにはいない誰かに呼びかけるような呟き。
 中村ではなく、若宮とつき合ってればバックステップが使えただろうに…と思う祭の身体に激しい衝撃が突き抜けた。
 はじけ飛んだ右肩の装甲が、祭の視界にちらりと映って消える。
『友軍、撤退完了…』
「遅いっちゅーねん……」
 祭の視線が、めまぐるしく上から右、右から左へと動き続ける。
 死なずに通り抜けられる道、それを求めていた。
 初めて戦闘に参加したときは、ただ無我夢中で生き残った。次の戦闘も似たようなもので……そうして幸運が自分を守っている間に、いつの間にか死なないテクニックが身に付いたと思っていたのだが。
「……あかんな、これは。」
 どうしようもない行き止まりの様だった。
 多分、あの恋人の絶叫は正しかったのに違いない。
 祭は、心の中で自分を……もしくは靴下をかもしれないが、愛してくれている中村にわびた。いや、正確には加藤祭という少女を愛している存在にわびる。
 心は達観していたが、身体は覚え込まされた動きを繰り返して抵抗を示していた。
 近づく幻獣を斬り伏せ、蹴り倒し、倒れた幻獣が虚に還る一瞬まで盾代わりに使用する。ただ見苦しく抵抗を続け、その瞬間を先送りにするだけの作業。
 しかし、中村という少年のために出来る限りの誠意を見せる必要があった。
 寝食を忘れ、気を失うまで士魂号を整備し続けた少年が愛するこの少女の身体を拝借している存在として……
 ミノタウルスの至近攻撃がかすめた左太腿の装甲に亀裂が入り、ぱらぱらと剥離していく。
「…っ?」
 その瞬間、左前方に道が見えた。
 無論、その向こうにも幻獣は待ちかまえている。
 迷うことなくその方向へと身を躍らせた士魂号に、キメラとナーガの照準が向けられていた……
『…航空支援を開始する!』
 爆弾の直撃を受けたナーガが、視界から消滅した。
 続いて、後方のミノタウルスが別の爆弾によって断末魔をあげている。
 爆風で舞い上がる土煙を最後のチャンスと見て、士魂号は糸に引っ張られるようにして宙に舞った。
 スキュラのレーザーが傷ついた左脚を貫通する。
 ついている…と祭は感じた。
 貫通力の高いレーザーならば、切断はされない。周囲の人口筋肉筒が生きていれば動かないこともない。
 跳躍を繰り返すたびに、筋肉が千切れていくイヤな音が響いてくる。
 祭が撤退ポイントに転げながら到達したとき、士魂号の左脚はその役目を終えたようにだらりとぶら下がった……
 
「馬鹿めっ!友軍を助けようとして自分が死にかけるなど愚かにも程がある!」
「まあまあ舞…しかし、無事で良かった。」
「うちはいけると思わん限り、あんなことせん。」
「なっ、なぬを!」
 病室のベッドに横たわった祭に向かって、顔を真っ赤にする舞とそれをなだめる速水の姿があった。
 祭の身体には大したダメージはない。
 神経を接続していた士魂号のダメージが精神的にフィードバックされた影響を受けてしばらく身体が言うことをきかないだけだという。
 病室の扉が開き、買い物袋を下げた中村が姿を現した。
「病室で騒ぐのはやめてはいよ…怪我にさわるけんね。」
「む…承知した。」
「ごめんよ、中村。」
 中村はベッド脇の椅子に腰掛け、手慣れた手つきでリンゴの皮をむき始めた。舞はその手つきを興味深そうに眺めている。
「なるほど…ナイフではなく、リンゴを回転させるのか。勉強になる。」
「舞……そんなの常識だよ。」
 それまで白いシーツを眺めて2人の言葉を聞いていたのだが、何か言いたげな中村の表情を目にして、祭は舞の方を振り向いた。
「……あー、芝村はん。ちょっと2人きりにさせてくれんやろか……」
 何故か舞の頬が赤く染まる。
「ゴ、ゴホン…加藤よ、その…そなたの身体はまだ自由にならぬのでは…」
「舞…そういうろくでもない知識を誰に教えて貰ってるの?ごめん、中村…僕達もう帰るから…」
 舞の身体を抱きかかえるようにして、速水は病室から舞を押し出していく。
「こ、こらっ…ヘンな所に触るでない厚志!」
「まったく…舞は妙なところで子供なんだから。」
「私はまだ発達途……ウムムッ!」
「じゃ、失礼しました…」
 速水は舞の口を手のひらで塞いだまま病室を出ていった。少し遅れて病室の外で2人が喧嘩するような物音が聞こえてきて、祭は微笑む。
「あの2人も…なんやかんや言いながらええ感じやな。」
「そうね。……俺はあいつが芝村いうだけで誤解してたかもしれん。」
 やがて病室の外が静かになると、中村は皮をむいたリンゴを皿の上に並べながら口を開いた。
「……随分と無茶したな。」
 微かに非難のこもる口調に、祭は素直に頭を下げた。
「正直あかんと思ったわ……」
「生きて戻って来てくれたからそれはええ……でもな、1つだけ忘れんでいて欲しいことがある。」
「どんなに無茶をしても、傷つくのは加藤祭という少女の身体……やね。」
 中村の表情をうかがったが、目立った動きはない。
 祭は大きくため息をついて上体をベッドに横たわらせた。
「聞き分けが良くて助かるわほんま。…介入者の立場としては、なんでそれがばれたのかが気になるところなんやけど…」
「俺にも良く分からん。……ひょっとすると、俺も遠い昔に介入者とやらに協力したことがあるんかもしれん。」
「……そうやとしたら、なんか運命的な何かを感じるな、うちらって。」
 介入者にもいろいろあるだろう……ただ、この世界の状態からして自分の望む結果は得られなかったようだが。
 少なくとも、中村という心許せる存在を作ってくれたことに感謝したかった。
 そして、中村とつき合っていた加藤祭という少女に対しても。
「あんたが気を失うまで整備してくれた士魂号……あれがなかったら、うちは今こうしてここにおれんかったと思う。」
「いや…あれは……俺は、好きでやっとるとたい。」
 中村は、どこか困ったように俯いた。
 照れているのかもしれない。
 ハンガー二階で、工具箱の側に倒れていた中村を詰所に運んで解放したのは祭だった。
 死んでも構わない、所詮ゲームだ……という気持ちが変わったのは、多分あの瞬間からだった。自分という存在を受け入れ、まがりなりにもその目的のために協力してくれる少年。
 でもそれは、自分ではなく『加藤祭』を守るための努力。
 祭は、自分の胸が少し疼くのを感じた。
 その疼きも、あの瞬間からの不透明な感情によるものだ。
 ふと視線をを上げると、中村が自分の顔を見つめていた。いつものことだ……2人きりでいるときは大体そうしている。
 だが、その視線をどこか遠く感じるときがある。
 ちょうど、今のように……
「……アンタ、誰を見てるん?うちは、うちやで…加藤祭とは違うんよ。」
 中村ははっとしたように目を逸らして俯いた。
「…ってうちが言えた義理やないけどな。ほんまは、アンタが怒らないかんねん。」
 そう言って笑う努力をした。
 笑う努力をしたのに……頬を流れていくものがある。
「泣かんでくれっ!……その顔で泣かれると、俺はどぎゃんしていいかわからんようになる……」
 祭の肩の辺りに一旦伸ばされた中村の手が、ゆっくりと引き戻されて自分の顔を覆うのを見て、思わず謝罪の言葉が口を衝いて出た。
「ごめん……うち、この世界を救ったら…ちゃんと帰るから。」
 300の幻獣を狩れ……この世界に介入し続けている存在からそう教わった。それは決戦存在になるための必要な儀式だと。
 突然背筋に悪寒が走った。
「……どぎゃんした?」
「い、いや…なんでもない、なんでもないんよ…」
 慌てて首を振る。
 世界を救うことは、この少年を不幸にすることかもしれない。
 もう一度首を振ってイヤな想像を無理矢理振り払う。
「なんでも…って凄い汗やぞ。」
「だ、大丈夫!ほんまにうち、平気やって。」
「お前は平気かもしれんが、加藤の身体は……」
 顔が強ばるのを感じた。
「うちの身体が感じてる感覚は、加藤祭のと同じものや。大したことあらへん。」
 身体の熱がさーっとひいていき、自然と口調が硬くなる。
 どことなく気まずい雰囲気の中で、面会時間の終わりを告げる合図が鳴った。
「……時間やで。」
「ああ。……リンゴ置いておく。」
 中村はゆっくりと立ち上がり、病室のドアに手をかけた。
「1つええか?」
「なんね…?」
 口の中にじわっと広がる唾液を飲み下してから、努めて何気ないフリを装って言った。
「あんた…加藤祭が人でなくなっても恋人でいられるか?」
「……加藤は、加藤ばい。加藤が俺のこといらん言うまでは、あいつと一緒にいる。」
「そう……吐いたツバ飲まんといてや…」
 中村の耳には届かないような小さな囁き。
 だが、それは確実に自分の心の深い部分を突き刺した。
 
「……かびの生えた話をします。」
 祭の了承も得ないまま、壬生屋は硬い表情で意を決したように話し出した。
 壬生の血にまつわる古い伝説だろうか、それらはほとんどが祭の中を流れていくだけだった。だが、未央が最後に呟いた台詞だけは別だった。
『正直…最近の加藤さんが恐ろしいのです。あなたは、何になるつもりなのですか?』
 そんなことは決まっていた。
 絢爛舞踏を獲り、決戦存在となる…それだけだ。
「……その時が楽しみやね。」
「え?」
 口端を歪めて笑った祭を見て、未央は思わず一歩後ずさった。そして強ばった表情のまま口を開く。
「あ、あなた…加藤さんでは…一体…?」
「うちはこれでええんよ……邪魔するようなら、潰すで。」
 未央の身体がかすかに震え出す。
 身体の震えをどこか信じられないような表情で受け止めている未央に背を向け、祭はその場を立ち去った。そのままその足でハンガーへと向かう。
「相変わらず熱心やねぇ…」
 屈託のない笑顔を振りまきながら、祭は整備を続ける中村の肩をポンと叩いた。
 中村は肩越しに振り返り、そして整備の手を休めずに淡々と答える。
「……俺には、こんなことしかできん。お前が傷つかないことを信じて、1pでも1oでも動けるようにすることしか……」
「さよか……信じてくれてるんやな、うちのこと。」
「お前のパイロットの技量がずば抜けていることぐらい、俺にも分かる。それに、身体が借り物でも、与えられる痛みは本物ってこともな。」
「……」
 足下が揺れるような感覚に襲われた。
 それを悟られぬ様に、祭は棚に手をかけて身体を真っ直ぐに起こす。
「へ、へえ…うちのコト、心配してくれてるんや。」
「仲間を…心配しない奴はおらん。」
 棚を持っている指先が白くなった。
「うちはこの世界の者やあらへん、介入者やで…」
「それでも仲間だ…みんなかけがえのない、な。」
「仲間か……アンタ優しいねんなあ。人は見かけによらんいうんが、ようわかるわ。」
「……一言多いぞ。」
 どこかむくれたように中村が呟く。
 いつの間にか整備の手が止まっていることに気づいたのか、慌ててカチャカチャと調整を始める姿が微笑ましい。
「いや、ほんま人は見かけによらん…覚えときや。」
「……加藤?」
 目標である絢爛舞踏を目前にして、少し精神が酔っていたのかもしれない。話を逸らして、中村の疑問を封じることにした。
「アンタ、普段もこの子のこと名字で呼んでたん?」
「……よく怒られたよ。」
「当たり前やん!」
 祭は、心底呆れかえって大きな声を出してしまった。慌てて口を押さえ、周りを見渡す。
「……変か?」
「そら、あまりに他人行儀やわ。……そりゃあ、つきあい始めていきなり名前で呼びだす男もどうかと思うけど、なぁ…」
 なんとなく落ち着かなくて、祭は中村の整備する士魂号の数値を覗き込んだ。
 この前の戦闘で派手に被弾したというのに、もう水準以上まで数値が戻っている。
「……あんた、うちの知らん所でまた倒れたんと違うやろな。」
 祭は眉をひそめて中村の耳を引っ張った。
 今現在の2番機の整備士は中村と新井木だけ。まともな整備でこれだけの能力向上が見られるわけがない。
「いや、もう靴下は全部…っと、なんでもなか。」
 何故かそっぽを向く中村。心なしか頬が赤い。
「最近気がついたんやけど、あんた嘘付くと鼻の穴が広がるなあ…」
「そ、そう?」
 ますます中村の視線があさっての方を泳ぎだす。
 それでも、鼻を押さえたりしないところがかわいげがない。
「はぁ…まあええわ。うちには関係のないことやし。でも気ぃつけや、女は恐いで。」
 そうして背を向けてハンガーから出ていこうとした祭は、ふと後ろを振り返った。
「仕事終わったんなら一緒に帰ろ思てたんやけど……?」
「……もうちょっとやっていくばい。」
「さよか。ほな、また明日。」
 もう後ろを振り返ることもなく、祭は階段を足早に下りて夜空を見上げた。
「……仲間や言われても、うちは嬉しないんやけどな。それがわからんから、酷い目に遭わしたなるねん。」
 自分に言い聞かせるような呟きが闇の中に消えていく。
『心を闇に染めるな、人を越えようとする者よ。』
 祭は慌てて周囲を見回した。
 闇…と言っても純粋な闇ではない。月明かりに星明かり、そうした光がぼんやりと周囲を照らしている。
「誰や?」
 姿のない気配に向かって呼びかけた。
『闇に染まりし魂は、人を越えて竜になり果てる。』
 祭は小さく笑った。
「……ええんよ、それがうちの望みやから。」
 世界を救う目的を忘れたわけではない。ただその結果を、あの少年に出してもらえばいいと思っているだけだ。
「楽しみやわ…どんな答えを出してくれるんやろか。決戦存在が出現しない限り、竜は姿を現せないんやから……」
 祭はうっとりとした夢見るような表情で夜空を見上げた。
「うちのことを心から憎んで、憎んで……そうしたら、どうなるんやろなあ…」
 夜空に浮かぶ黒い月に蒼い月。
 自分を狂わせたのは、どちらの月なのか……
 
 
 1999年4月8日
 5121小隊所属、加藤祭十翼長
 史上5人目の絢爛舞踏章を獲得、同セレモニー中に失踪。
 以後行方不明となる。
 
 同年、4月22日
 5121小隊所属、中村光弘戦士
 熊本城決戦において、300を超える幻獣を1人でほぼ全滅に追い込んだ彼は、人類6人目の絢爛舞踏章を受章した。
 翌日、彼は失踪し、行方不明となる。
 
 
 5月半ばを過ぎ、自然休戦期となった熊本は、束の間の平和を噛みしめながら、秋から再開されるであろう戦闘に向けて、物資の補給及び訓練にいとまがない。
 とはいえ、戦闘がないせいか多少弛緩した空気の中で隊員達は仕事を続けている様に見えた。
「……厚志。」
「どうしたの、舞?」
 パイロットの神経接続調整の手を休めて、速水は舞の方を振り向いた。
 舞は、主が2人までも失踪した士魂号2番機を見上げている。
「……舞?」
「あの2人、どこで何をしているのだろうな?」
「……さあ、わからないよ。」
 悲しげな表情で首を振る速水。
 2人の会話を耳にしたのか、未央が顔を上げた。
「2人が今どこにいるかは知りません……でも、2人が何をしてるかは分かるような気がします…」
 未央はそこに屋根が存在しないかのように、遠い眼差しで空を見上げた。
「中村君は、あの人を捜して……あの人は、中村君を待っているはずです。この世界のどこでもない、全てから隔絶された場所で……」
「……もう、会えないのかな?」
 ぽつりと速水が呟くと、未央はゆっくりと頷いた。
「人であることを超えた存在は、私達の側にあることはできませんもの……」
 舞は不思議そうに首をひねった。
「そんなに2人きりになりたかったのか、あの2人は……?」
 どこか的はずれの筈の舞の言葉が、何故か心に浸透していく。
 
 
                    完
 
 
 やっぱり設定をぶっちぎるのって爽快ですねえ。(笑)
 でも介入者との絡みを考えるなら、ここに岩田を登場させるのがベストのはずですよねえ……目の前の少女は自分の愛した少女とは違うというジレンマが…おおうっ、燃えるシチュエーションだ!(笑)
 でも、それやるとまた岩田×萌になっちゃう。どうも岩田と萌のお話は、死ぬほど脳味噌を振り絞って考えないと失敗することが骨身にしみましたし。(涙)
 で、なんで中村×加藤なんですかというツッコミが来そうですが、高任的にはしっくりくるんですこのカップリング。(汗)
 

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