カタカタカタ・・・。
 薄暗い整備員詰め所の中にタイピングの音が響いている。
「なんや、まだかかるんかいな?」
「フフフ・・・、そうせかしてはいけません。ハッキングというのは繊細でね、いわば芸術なんですよ。そう、つまりこの私はアーティストオォォッ!」
 ぱしこーん。
 とりあえずハリセンで岩田の後頭部をはたく。しかし、岩田はますますテンションが高まってしまったのか、立ち上がって怪しげに腰をくねらせながら踊り始めた。
「素晴らしいぃっ!突っ込みのタイミングといい、ハリセンを常備していることといい、このワタッチがあなたを関西人三段に認定してあげましょう!」
「ごちゃごちゃ言わんとささっとやりいやっ!」
 すると、岩田はぴたっと動きを止めて前髪をかき上げた。
「・・・今まで黙っていましたが、実はですねえ・・。」
「なんや?」
「とっくに情報は引き出していたのです!すばらしいいっ!私の仕事はすばらしいっ!」
 ノミのように跳ね回る岩田の顔をとりあえずグーで殴る。
「・・・見事だ・・・その幻の右で・・世界を・・・・タイガアアァァッ!」
 とりあえずしばらく生き返らないようにとどめをさすことにした。
 
「ふっ、あなたも容赦のない人ですね・・。」
 あんパンのように膨れあがった顔を氷で冷やしながら、岩田が呟いた。
「で?」
「ノンノンノン・・・もっと心に余裕を持ってですねえ・・」
 ガシャアアンッ!(サブマシンガンの弾倉を充填した音)
「ええ、やはりこの街のどこかに政治家の裏金の一部が遺棄されたみたいですね。」
「ほうか・・ただの噂やなかったんやな・・。」
「しかもその場所はズバリ公園!どうです、私の仕事は?」
 岩田は腰のあたりをぴくぴくと痙攣させながら、うちの手にあるサブマシンガンの銃口をじっと見つめているみたい。この銃口の向きを変えたら即座に『素晴らしいいっ!』とか叫びながら踊り狂うつもりなのだろう。
「よっしゃ、ご苦労さんや。じゃあ、見事探し当てたら報酬は8・2ってことで・・。」
「私が8ですか?」
 ジャキイイッ!
「私が2ですね・・・。」
「不服かいな?」
 岩田は顎のあたりに手をあて、珍しく真剣な表情で何かを考えている。時折視線だけをちらちらとうちの方へと向けてくる。
「ものは相談なんですが・・・」
「それ以上はびた一文払わんで。」
「・・・いや、私はあまりお金には執着しないので・・・どうでしょう?報酬の代わりにあなたの靴下をいただけませんか?」
 一瞬うちの思考能力が停止した。
「・・・・靴下あっ?」
「ええ、洗濯していない履き古しの白い靴下ならそれ以外の報酬はいりません。・・・どうでしょう?」
 メイクした顔をずいっとこちらに向かって突き出す岩田の目はあくまで真剣だった。
 うちの頭の中に『うまい話には・・・』なんていう言葉と『一体こんな靴下にどんな価値が?』という思いがごちゃ混ぜになって訳がわからなくなる。
「く、靴下なんか何に使うんや?」
「ご心配なく・・・個人的に楽しみたいだけで、それ以上の意味はありません。」
 楽しむ?・・・楽しむって何や?
 
「・・・これで良かったんや。靴下なんかいくらでも買えるだけのお宝を探してるんやから・・・。」
 はいていた靴下を渡した瞬間、岩田の身体がびくびくと大きく痙攣して倒れる。そんな昨夜の様子を思い出しながらため息を吐いた。
「さて・・・公園と言っても広いし、どこから探そか?」
 と、足下に紙くずが転がっている。
 舌打ちしながらそれを拾い上げてゴミ箱に投げ捨てた。
 ・・・微かに香るお金の匂い。
 ガコオオォォンッ!ゴトッ。
 そう思った瞬間うちはゴミ箱を蹴倒していた。するとまばゆい輝きを放つ細長い物体が転がり出てくる。
「ななななな、なんちゅう場所にこんな大事なものを・・・。」
 その黄金色に輝く物体を両手で抱え上げながら、うちの心臓が下手なダンスを踊り出すのを感じた。
「ふむ。何をしている?」
 そんな興奮状態の時にいきなり背後から声をかけられ、慌てて『金の延べ棒』を自分の鞄の中に隠し、何食わぬ顔でそちらを振り返った。
「うううう、うちは何も知らんで。今日はほんまにええ天気やなあ・・。芝村はんこそこんなところで何してるんや?」
 今度は何故か舞の方が慌てている。
「わわわ、私はででで、でぇとの途中だ。ほほほ、ほれあそこに速水がおるだろう。」
 そう指さした方から速水君が両手に何か抱えてこちらに走ってきた。
「あ、おはよう加藤。・・・ほら、これ今日のお弁当だよ、舞。」
「ううう、うむ。ご苦労・・・・む、もう持ち物が一杯だな・・・仕方ないどれか捨てるとしよう・・。」
 そう言って舞は無造作に『金の延べ棒』を取り出して惜しげもなくゴミ箱の中にそれを投げ入れた。
「では、我らはこれで失礼する・・・。」
 二人が去った公園で、うちは日が暮れるまで呆然と佇んでいた・・・。
 
                   完
 
 
 二周目に舞でプレイしていると、何故か憎しみの心で一杯になりました。
 『このブルジョワ野郎!』という叫びがのどちんこにひっかかってやっとの思いで飲み込みましたけど。(笑)
 イワタマンを書きたかったのか、加藤が書きたかったのかわからないまま終わってしまいました。やはり、ギャグしばりの原稿用紙10枚しばりというのは結構難しい。
 別に守らなきゃいけないと言う訳じゃないんですけどね・・。
 ちなみに私が初めて手に入れた靴下は『加藤の靴下』です。どうやらお疲れだったらしく焼きそばパンと交換してと提案されたんですけど・・・。
 あとは無言で靴下を投げて寄こす来須に目が点になったぐらいですが。・・・どうしろっちゅうねん。

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