外伝（炎の事務武官）

「あっかーんて！・・・今うちらの部隊が欲しい物資はどこの部隊も欲しいに決まっとるんやから！」

　今日も祭のうさんくさい関西弁が隊長室の中にスパークする。

　善行がずり落ちた眼鏡をくいっと元の位置に戻しながら、何事もなかったように司令の仕事に取りかかる。一応これでも慣れたのだ。

　そんな善行の様子を知ってか知らずか、祭は受話器を持ったまま立ち上がると、うさんくさい関西弁のピッチをあげてかみつかんばかりにまくしたてる。

「ほなからゆーてるやろ！うちらがめいめいに好きな物陳情してたら本部の方でも大変なんや。」

　通信の相手が祭に対してひるんだのだろう、祭はここで敢えて一呼吸おいてから猫なで声で話し始めた・・・といってもうさんくさい関西弁には変わりはなかったが。

「つまりやな・・・うちらは横のつながりを大事にしてそれぞれが陳情する物資の役割担当を決めとくわけや。わかるやろ？本部の方でも面倒な手続きがなくなって万々歳。うちらも全体的に見て物資の量が増える。」

　その分だけ、物資の再分配作業が増えるのだがそのことを匂わせすらしない。が、さすがに相手も百戦錬磨の事務武官。

「ああっ？人間疲れたってせいぜい倒れるだけや。・・・うちはな、物資がのうてあえなく戦死する人間をこれ以上見たないねん。わかるやろ？」

　などと泣き落としを始めた祭の方をちらっと見て善行はため息をついた。

　・・・まだ誰も死んでませんよ・・・まだ、ね。・・・

「さよかっ！わかってくれはりましたか！おおきにっ！」

　祭は受信機をたたきつけて椅子に座ると、今度は腕組みをして宙をにらみつけている。

　やっと静かになりましたか、とため息をつきかけた善行の方を祭が振り返る。

「司令！これから二回戦闘があったとしてうちらの部隊に最低限必要な物資てわかります？」

「・・・バズーカと煙幕弾でしょうね。やっかいなスキュラを最初につぶすことを会議で徹底しましたから。」

　そう答えながら善行は自分を見る祭の笑顔に少々嫌なものを感じる。

「司令、物資の確保に手段はえらばんでいいですよね？」

　祭はにまっと笑いながら自分の目の前にある箱を脇の方に移動させる仕草をした。

　どこかあきらめたような善行の呟きはどことなく木霊を連想させる響きがあった。

　物資の再分配作業を請け負うメリットは、あまり必要とされない物資に対しての最優先権であった。

　で、これらの物資は本来消耗品として各部隊に帳面上は行き渡っていることになっている。そこは各部隊の事務武官達が魔法を使って、戦闘の度にきちんと消費されてしまうのだがそれはまた別のガンパレードである。

「いややわ、おじさまったら。こんなべっぴんさんの上客をつかまえて『おまえか』だなんて・・・。」

　ころころとかわいらしく笑う祭に向けられる裏マーケットのおやじの視線は冷たい。

「・・・このまえのあれな、不良品が混じってたぞ。」

「それは納品のチェックの甘いそっちの責任やな。うちのあずかり知らんところや。」

「そうか・・・一目でわからないようなカムフラージュ工作も無関係なんだな？」

「うちのこのきれいな白魚のような指先を見てみ。そんな作業とは無縁の指やろ。」

　薄暗い店内に火花が散ったような気がした。

　その雰囲気を振り払うようにおやじがにやりと笑う。

「確かに・・・騙されるやつが馬鹿だな。」

「なにをゆーてんのや！商売ゆーんは信用が第一なんやで！」

　親父の顔に極太黒マジックで『どの面下げてぬかしやがった』と書き殴られており、祭の鼻はにょきにょきと雲を突き破る勢いで伸び続けている。

「まずは相場でも聞かせてもらいましょか？」

　おやじがつまらなさそうにパネルを開き、祭と手話のような手の動きを交えながらの交渉が始まった。

「君のことをわらしべ長者と呼んでもかまわないかな？」

　一方、本部における準竜師とその秘書、ウイチタ更紗の会話。

「何故士魂号のない部隊が、士魂号用の装備を陳情してくるのでしょう？」

「ほっとけ、陳情の８割がプールチケットであることを考えたらまだまともな陳情には違いない。」

　更紗は目の前に山のように積み上げられたプールチケットを眺めてため息をついた。

「あの、本当にこれって休日あけの『月曜日』に送っていいんでしょうか？」

　準竜師は何も答えず、ブラインドから窓の外をじっと見つめていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完（外伝・炎の事務武官）

　なんかゲームやってると、この部隊の事務武官って優秀とか言う噂が立つじゃないですか。

　そういや、今まで事務武官の仕事をまともにしたことない。（笑）