「世界を救うのは愛さ・・・お前さんもそう思うだろ?」
 前髪をかき上げるようにして瀬戸口はどんよりとした曇り空を見上げた。ここ数日、ずっとこんな天気であり、幻獣との戦闘が毎日のようにおこなわれている。
「フフフ・・・お言葉ですが世界を救うのはお笑いですよ。愛というものはそれ自身がまた争いを産みますからね。」
 時折自分のメモ帳をのぞき込み、いろんなポーズに挑戦しながら穏やかな口調で岩田が反論する。
「・・・それは愛が足りないせいさ。」
 岩田の細い目がさらに細くなり、準竜師の糸目を連想させた。
「なるほど。では(ぴー)さんと(ぴー)さんを交えた三角関係も愛が足りないせいですか?」
「おいおい、誤解しないでくれよ。あれは彼女たちの心に愛が足りないせいで、俺の責任じゃない。」
 冷静に考えるととんでもない言いぐさであるが、岩田にとっては気にならなかったのだろう。その場で軽くスピンなどを繰り返している。
「だいたい三角関係というのは角が3つしかないからとがってて痛みを覚えるのさ。もっともっと愛があれば角はどんどん増えて最後には円になる。そうすればみんな仲良しってわけだ。俺の言ってることわかるだろう?」
 そんな瀬戸口の後ろから冷ややかな声が発せられた。その声は冷ややかではあったが、沸騰している。
「その立派なご意見をもう一度お聞かせ願いますか?」
「うー、ののみももう一度説明して欲しいの。」
 岩田は心底楽しそうに微笑んで、瀬戸口の肩をぽんと叩いてささやいた。
「フフフ・・・あなたの言う愛で何とかしてみたらどうですか?じゃあ、私はこれで失礼しますよ・・・お達者で。」
 どこから取り出したのか、岩田はボディブレードをひゅんひゅんいわせながらそれに共振するように体を震わせてその場を立ち去った。
 
「フハハハハ・・・所詮凡人の愛は1人の人間を救うことしかできません。そして・・・お笑いも1人では世界を救えないものです。」
 岩田は拳を握りしめて空を見上げた。
 今の岩田に必要なのは相方であった。どんなに素晴らしいボケも突っ込み無しではその威力は半減する、いや12分の1まで低下する。(笑)
 岩田は、今現在自分のギャグが認められていないのは相方がいないというだけの問題だと固く信じ込んでいた。
 おそらく8割ほどの人間がその意見に対して異議を唱えるだろうという国勢調査結果も目に入らない。目に浮かぶのはブロードウェイの階段を駆け上っていく自分と将来の相方の姿のみである。
 感情が高ぶったせいか、岩田は知らず知らずのうちにぶつぶつと独り言を呟き始めていた。
「そう、この右も左も真っ暗闇な世界に明かりをともすのがお笑い!お笑いこそこの世界を救うんじゃい!」
 その瞬間、岩田の身体が宙を舞った。まるで『リングにかけろ』のワンシーンのようである。
「何馬鹿なこと呟いてるんだよ。」
「た、田代さん。どつき漫才はちょっと守備範囲外なので遠慮したいのですが?ただでさえ、あなたは神の拳をもつ人なんですか・・・」
 SMAAAASH!
 再び岩田の身体が宙を舞う。
「フフフ・・・、あなたはまだ間の取り方がよくわかっていな・・・」
 三度宙を舞ったが、既に岩田の意識はとぎれていた。
 ・・・そして夜になって朝が来た。(笑)
 
「ふう、お笑いというのも命がけです。」
 プレハブ校舎前で一昼夜気を失っていたというのに、誰も助け起こそうとはしてくれなかった事実が岩田をさらに嘆かせる。
 やはりこの世界にはお笑いが必要なのだと。
 岩田は自分の手帳の中にある田代の名前に×印を付けた。その他にも何人もの名前が書いては消されていた。
 本田については、ことあるごとにマシンガンを持ち出すのでどうにもならなかった。突っ込みの度に死んでしまっては新しい笑いの形を模索する暇もない。
 この小隊に残された人材は後数名。
「私のレベルとは言いません、せめて私の半分でもユーモアのセンスを持った人間がいればそれで充分なのです!」
 がたごとごわっしゃあ!
 プレハブ校舎の屋上から、転げ落ちてきたのは中村であった。神をも恐れぬ岩田の発言に腰が砕けてしまったのだろう。
 それに続いて、岩田のユーモアのセンスとやらをブータがまたぐようにして通り過ぎていく。
 そんな岩田の前に現れた黒い影。
 その正体は加藤祭、その人であった。
「ふふふ、お笑いと聞いては見逃すわけにはいかんなあ。お笑いと言えば関西、関西と言えばお笑い、うちを呼ばずして誰を呼ぶ?」
「エセ関西人はいりません。」
「う、うちのどこがエセ関西人やゆうねん?」
 冷淡な岩田の態度に祭は噛みつかんばかりに岩田に詰め寄ったが、岩田は相手にしようともしない。
「フフフ・・・どこかにいないものですかねえ?」
 
 他を圧倒する個性に、一度見たら夢に見そうな組み合わせ。
 岩田はついに本物を見つけた喜びで体を震わせていた。
「私とあなたが組めば、ブロードウェイまではほんの100マイルですよ。」
「・・・言ってる意味が良くわからんな。」
「準竜師、あなたは私とコンビを組む運命だったのです!」
「帰れ。次の標的の靴下は後日連絡する。」
 背を向けた準竜師に向かって岩田は血の涙を流しながら嘆願した。
「世界を救った後、成長したのぞみさんの靴下の香りをかいでみたいとは思わないんですか?」
「ふっ、まかせておけ。」
 タン、タン、ターン!
 薄い紫色の煙を立ち上らせた銃口を見つめ、準竜師の秘書、更紗は静かに呟いた。
「いつの時代でも流されるのは女の涙だわ・・・」
 そして、今足下を流れていくのは男の血であった。
 
 
                         完
 
 
 ますます、訳わかんないです。(笑)
 個人的には最初の瀬戸口理論(角を増やせばみんな仲良し)がお気に入りですが、瀬戸口というキャラはこういうキャラじゃないよな・・・多分。
 イワッチのギャグは寒いとかいろいろ言われてますが、やはりこのキャラがお気に入りですなあ。(笑)

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