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 大地を蹴った瞬間、空気の重さを感じた。
 圧力で頬がめくり上がるような感覚……この壁を通り抜けない限りナイフは相手に届かない。
「善行ォッ!」
 服の繊維を切り裂いたところで、また善行の姿がかき消える。
 ゴッ
 音速の壁を突破した素子の引き起こした衝撃波が、運悪く前方を歩いていた滝川を直撃した。
 運が悪いとも言えなくもないが、善行と素子を結ぶ直線上をのほほんと歩いている自業自得とも言えよう。
「……避けなさいよ、そのぐらい」
 
 無理です。
 
 などと滝川が反論できるわけもなく、素子はため息をつきながら滝川の身体を背負うのだった。
 
 ベッドに腰開けて素子に治療してもらいながら、滝川は不思議そうに首をひねった。
「あの、1つ聞いて良いですか?」
「何?」
「原さんと委員長って……一体何があったんですか?」
 
 不用意な発言で、全治3日が全治2週間になった滝川は、無い知恵を絞って言葉を選んだ。
「あの、何が原因で喧嘩してるんですか?
 そして滝川は全治4週間の大けがを……(以下略)
 
「……酷いコトしますね、あなた」
「急所は外したわよ…」
 それどころか、内臓を傷つけなかったから消毒して縫ってしまえばそれで終わりの怪我に過ぎない。
 夕日に照らされてセピアに色に染まった教室内。
 そこにいるのはかつて恋人同士だった2人の男女……とはとても思えない殺伐とした雰囲気の中で善行と素子は同時に肩をすくめた。
 
 
                原さんファイナルマーチ第5話完
 
 
 ゴメン滝川。

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