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 灯火管制下にある熊本の夜は真っ暗だった。
 そんな闇の中を歩いていく2つの影…
「先輩がいてくれて助かりました。やっぱり、こう真っ暗だと1人で帰るのが恐くって」
「……まだまだ子供よね、森は」
 などと答えながら、素子は考えていた。
 自分が闇を怖がらなくなったのはいつのことだったかを……
「…あの男のせいよ。」
「え、何か言いました?」
 素子の手が精華の肩をがっしりと掴んだ。
「もーりぃー、アンタ幸せそうね。そうよね、真っ暗なのが恐いなんて、男に捨てられたことがないってコトですものね」
「ちょ、ちょっと、先輩!何言ってるのか全然意味不明ですよ!」
「それとも何?アンタは男に逃げられるよりも恐いことを知ってるとでも言うのっ?」
 などと素子と精華が騒いでいたのと同時刻。
 同じように闇の中を歩いていく2つの影があった。
「やれやれ、『暗殺に警戒せよ』ですか。物騒な世の中ですね…」
「とか言ってる割に、委員長って全然平気そうだけど?」
 善行は隣を歩く滝川の方を振り向いて、眼鏡の位置を指先で調節しながら言った。
「……子供ですね、あなたは」
「なんだよ、それって…?」
 子供のように口を尖らせた滝川から目をそらし、善行は遠い目をして呟いた。
「この世で一番恐いのは……ですよ……」
 目をつぶれば今でもはっきりと思い出せる。
 閃光のように突っ込んでくる影。
 きらめく白刃。
 あれを奇跡的にかわした瞬間、自分は最も神に近づいたと善行は思っている。いや、普通の人間にはできない超常能力に目覚めてしまった。
「……幻獣は、デートだからって休んではくれませんからね」
「委員長、何言ってるのか全然分からないんだけど?」
 首を傾げる滝川に、善行は軽く微笑んだ。
「ははっ、知らないに越したことはありませんよ」
 そう、知らないに越したことはないが……一旦知ってしまったならば、知らない頃の自分に戻ることは不可能だった。
「あのさ、委員長……委員長と原さんってつき合ってたわけ?」
「……気になりますか?」
「そりゃあ、いきなり教室でナイフなんか振り回されたら」
 その行為が何の問題にもならないことに首を傾げる人間は多いだろうが、あいにく5121小隊には事ある毎にマシンガンを乱射する教官はいるし、何もない空間から一斗缶や金ダライを出現させる少女、さらには怪しく腰をくねらせながら自爆する男に、日本刀を振り回しながら錯乱する少女……はっきり言って、そういうことには全員が慣れっこになっているのである。
 非日常が日常をとっくに浸食しているわけで……慣れとは恐ろしい。(笑)
「まあ、なんといいますか…」
 善行は何かを言いかけ、闇の中から聞こえてくる女性の会話に気が付いた。
「噂をすれば影ですか……」
 善行はため息をつきながらそのまま歩いていく。
「そうよ!たかだか男に逃げられたぐらいで髪を切っちゃうほど子供だったのよ!」
「せ、先輩、ちょっと落ち着いてくださいっ」
「そうしたら会う男会う男『失恋でもしたの?』ですって。ばっかじゃないの?女の髪の毛に夢を求め過ぎなのよ!」
「先輩先輩、もう自分で何を言ってるのかわかってませんね?」
「大体ね、何もかも全部…」
「…私が悪いとでも言いたいんですか?」
「当たり前でしょ」
 まさに待っていた……とばかりに冷たい視線を善行に向ける。
 さっきまであれほど上気していた頬のあたりが元に戻っているのを見て、森は大きくため息をついた。
「はあ……なんだかやけに絡むと思ったら、聞こえよがしに当て付けたかっただけなんですか」
 雰囲気を察しない滝川であるが、叩きつけるような圧力を感じて動きを止めた。
「……え?」
「離れた方がいいですよ」
 滝川の制服の袖を引っ張る森の額には汗が浮かんでいる。
「もう、誰にもとめられませんから……」
 
「……いつ、始めますか?」
「もう、始まってるわ…」
「ですね……」
「……」
 白い光が一直線に善行の腹部に吸い込まれるかに思えた瞬間、その場にいた3人は善行の姿がかき消えるのを目の当たりにした。
「……っ?」
 あの間合い、あのタイミングで自分がしくじるなどあり得ない……ナイフの刃先を見つめたまま呆然とする素子。
「いいんちょ…?」
「……そういえば聞いたことがあります」
 顎に指先をやりつつ、森が呟く。
「選ばれた者だけが使うことができるという超常能力……瞬間移動」
「瞬間…移動?」
 出来の悪い冗談を聞かされたような顔つきで、素子が後輩の少女の方を振り向く。
「ええ……そういえば、全世界で通算4人目の会得者が現れたという噂が……あれは確か」
 森は一旦言葉を切り、ちらりと素子の顔を見て言葉を続けた。
「先輩と善行司令が別れた頃の……」
 
 
               原さんファイナルマーチ第2話完
 
 
 やきもち状態の原さんが出現した瞬間テレポートでその場から脱出してたプレイヤーは高任だけじゃないと思います。(笑)

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