「しかし・・・なんだなあ。」
 本田が寂しそうに教室の中を見渡した。
「えらく寂しくなったな。」
 櫛の歯が欠けるように、1人また1人と消えていった仲間達。
 その言葉に黙って頷く素子と、複雑な表情で素子を見つめる中村。
 生憎素子に突っ込むような人材はこの教室にはいなかった。
 だが、事態はそれだけでは収まらない。
「部隊を解散ですって?」
 隊長室に素子の声が響き渡る。
 そんな素子を善行は冷ややかに見つめていた。多少ずり落ちてしまった眼鏡の位置を直しながら嫌みたっぷりに呟く。
「人数が著しく減少して部隊の維持が困難になりましたからね。第一、誰のせいですか。」
「もちろん、政治が悪いからに決まってるわ。」
 珍しく、善行がこけた。
「政治が悪いと言うことに対しては反論しませんが・・・」
「何よ、じゃあ誰のせいだって言うのよ。」
 あんただ、あんた。(笑)
 などと善行が言うはずもなく、ただ薄く笑ってその場を取り繕った。
「まあ、解散するにしてもそれなりの日時が必要ですからね。・・・とにかく、これ以上人数を減らさないでくださいよ。」
「・・・言ってる意味がよくわからないけど?」
「わからないなら、それでいいです。」
「何よ、女の腐ったのみたいにねちねちと・・・」
「所詮私は奥様戦隊善行ですから・・・」
 (注)部隊を解散というのは冗談ではなく、確か学生の数が10人ぐらいになるとまじで起こります。ちなみにここまでの学生の被害者数は11人。(笑)
 
「しかし、森の靴下を盗んだのは誰だったのかしら?」
 ちなみに命を盗んだのは原さんです。(笑)
「相手が誰だろうと・・・多分向こうからやってくるばい。」
「どうして?」
「俺は依頼された中の20人分の靴下を集めた。そして森の靴下ば取った後、最後に残っているのは『原さんの靴下』だけじゃけん。」
 中村に言われて素子は納得する。
「しかし、中村君。ポケットに手を入れて歩くのはどうにかならない?」
「こうしないと肉襦袢がずり落ちるんたい。」
「・・・なら、仕方ないわね。」
 ひゅっ、ひゅひゅっ!
 鋭い刃の風切り音を耳にして、素子と中村は左右に分かれて転がった。それに一瞬遅れて2人の立っていた場所に突き刺さる包丁。
 詳しく説明すると、手前から出刃包丁、柳刃包丁、肉きり包丁の3本。
「ほう、良くよけたっ・・・」
 味のれんのおやじはそう呟いてその場に崩れ落ちた。もちろん、素子が背後から刺したのである。
「何しに出てきたのよこの親父。」
 まったくである。(笑)
「この親父さんも靴下愛好家たい。何らかのつながりがあろうもん。」
 と、これは中村。
 一体誰の差し金かはわからないが、少なくとも部隊の食料の生命線が絶たれたことだけは間違いないようだった。
「・・・大したものだ。」
 囁きにも似た低い声。
 素子は慌てて辺りを見回した。が、辺りには誰の姿もない・・・もちろん、中村の姿さえ。
「中村は預かった・・・返して欲しかったら今夜0時、旧市街までやってこい。」
「誰?」
「儂か?儂は『ミスター』さ。」
「待ちなさいっ!」
 強い風が土埃を舞い上げる。
 その中で、素子はただ1人誰もいない空間をにらみ付けていた。
 
 
        腹さんセカンドマーチ第10話・完
 
 
 とうとう部隊を解散にまで追い込んだ原さんの前に突如現れた(?)『ミスター』の魔の手。
 一体ミスターの正体とは!
 そして、岩田の思惑とは?
 さらに、味のれんが潰れた事による舞の食生活の行方は?
 複数の思惑が錯綜する中で、作者は温かく彼らを見守ることにします。

熊本市立図書館に戻る / 次の章へ→