「フフフ・・・、君の仕事は見事だとミスターも誉めてましたよ。」
 中村から紙包みを受け取った岩田は、身をくねらせながらそれに鼻を寄せてくんか、くんか、と大きく息を吸い込んでいる。
 普通なら失神するはずのその行動を繰り返している岩田を見て、中村は目を見張った。違う意味で恐ろしい男である、と。
「しかし、タイガーがいなくなったせいで・・・」
「よせ!・・・遠坂はその名で呼ばれるのを嫌がっていた。」
 岩田はほんの少しだけ驚いたような表情を見せて・・・そして小さく鼻で笑った。
「ふん、まあいいでしょう。それと、これはミスターからの報酬です。『善行さんの二十日もの』です。」
「・・・・いらん。」
「いらない?・・・フフフ、いつの間にかあなたもギャグのセンスがわかってきたようですねえ。」
 なおもその物を押しつけようとする岩田の手を軽く・・・しかし強固な意志をにじませて断った。
 それを見て岩田の表情が引き締まる。
 そして探るような視線で中村の顔をじろじろと眺めて、何か納得したように大きく1つ頷いた。
「原さんとつき合いだしたと聞いてましたが・・・あなた、転びましたね!」
「・・・さて、な。」
「まあ、あなたがきちんと仕事さえこなしてくれればどうでも良いことですけどね。」
 中村はじっと岩田の顔を見つめた。
 無論、岩田もその視線の意味に気がつかないほど愚鈍ではない。
「フフフ・・・やはりスリル満点ですか?原さんにばれないようにしてくださいよ。」
「・・・彼女は知ってる。」
 岩田がその場で軽くスピンした。
 何やら大きく頷いている。
「ははあ、なるほど、そう言うことでしたか・・・なるほど、では次は私の番になるわけですか。」
「何のことだ?」
「いいっ!凄くいいですねえその態度!」
 訳の分からぬ事を呟き続ける岩田に呆れ、中村は背を向けた。そんな中村の背中に岩田がそっと声をかける。
「御武運を祈りますよ。」
「・・・?」
 そうして中村の後ろ姿が見えなくなると、岩田はそっと白衣からメスを取りだした。と、同時に白衣を脱ぎ捨てて真横へ転がる。脇腹をかすめた熱い感覚に顔がゆがむ。
「フフフ・・・さすがのあなたも衰えましたか?」
「かわしたのか、わざと外したのか理解できない人間がそんな言葉を口にするもんじゃないわ・・・。」
 と、素子は一旦言葉を切って冷たく微笑む。
「遠坂君は立派だったわよ・・・」
「やはりタイガーはあなたの仕業ですか・・・私はてっきり幻獣共生派の件だと思ってましたよ。」
 そう呟きながら岩田は軽く左手を振った。
 音もなく4本のメスが現れる。
「中村君はあなたの正体をご存じで・・・?」
「私は原素子、それ以上でもそれ以下でもないわ・・・。それに、」
 かつて人でありながら竜を超え、絢爛舞踏をも圧倒した存在。そんなことが理解できる人間がそう多くいるはずもない。
「知らない方が良いことがこの世界には多すぎるもの。」
「そうやって真実から目を背けるから裏切られるんですよ。自分だけが相手に隠し事をするなんて調子がいいとは思いませんか?両方が隠し事をする・・・それが正しいあり方だと思いますよ。」
 素子は唇の端をつり上げて微笑んだ。
「彼に指令を与えているミスターとは誰なの?」
「教えるのは嫌だと言ったら?」
「そうね、楽には殺さないわ。」
 恐ろしい人ですねえ、と呟きながら岩田は微笑んだ。
「もし正体を教えたらどうなんです?」
「苦しませずに殺してあげる。」
「救いのない選択肢ですねえ・・・。」
 岩田の上体が微かに揺れる。
 と、同時に4本のメスが素子目がけて投じられたが、素子の右足がそれらをまとめて薙ぎ払う。素子キックが引き起こしたかまいたち現象によるものか、岩田の右頬にうっすらと赤い線のようなものが浮き上がってきていた。
「それだけかしら?」
「ここまで差を見せつけられるとアレですね・・・。しかし・・・何故、中村君に直接尋ねてみないんですか?」
 素子は黙って答えない。
「まあ、良いでしょう。裏切り者呼ばわりされるのには慣れてますが、靴下に関してだけはそう呼ばれることに耐えられそうもないのでね。」
「そう・・・男は馬鹿ばっかりね。」
「逆ですよ、馬鹿だから男なんです。」
 直立不動の姿勢をとった岩田の瞳の中にある種の決意を見いだして、素子は大きくその場から跳びずさる。
「覚えておきなさいっ!男は決して1つの靴下に縛られないっ!それが運命ですっ!」
 その絶叫とほぼ同時に、岩田は自爆装置のスイッチを押した。
 爆音と共にまきおこった土煙が風にながされると、そこには真っ黒になった塊が転がっているだけだった。それを見つめる素子の目には何の感情も窺うことは出来ない。
「・・・だったら運命を変えるだけよ。」
 素子はそうぽつりと呟いて背を向けた。
 そして誰もいなくなった校舎はずれを一陣の風が吹き抜けた。夕焼けの赤が辺りを血の色に染め上げている。
 そんな中で、黒い塊がゆっくりと起きあがった。
「くくく、やはり衰えましたかね・・・技量ではなく精神が。以前のあなたなら必ずとどめを刺していったでしょうに・・・。」
 そう呟きながら、黒い塊が腰(?)をうねらせながらスピンすると、黒い塊の表面がぼろぼろと崩れた。そして無傷の岩田の姿が現れる。
「私の名前は岩田裕、ギャグに生きる男ですよ。笑いのとれない死に方をするはずがないでしょうに。」
 メイクのはげた顔をゆがませながら、岩田はにやりと笑った。
 岩田裕・・・人は彼をトリックスターと呼ぶ。
 が、
 どすうっ!
「がはっ!」
「私の名前は原素子。地獄に行ってもちゃんと覚えておくのよ。」
「忘れてました・・・あなたが、あの、原さんだと・・・いうこと・・・を。」
 その場に崩れ落ちた岩田の身体は、今度こそぴくりとも動かなかった。
 
 
 
 
 ああっ、イワッチが!イワッチが死んじゃったよおっ!だが奴はフェニックス!(笑)何度殺しても生き返る不死身の男。
 でもイワッチと言えば自爆装置。
 ゲームの中で手に入れて、速攻で使いましたが死にませんでした。どうせなら死亡してゲームオーバーにした方が面白いと思うけど。(笑)
 後は戦闘でそう言うイベント(幻獣を道づれに自爆)があるかなあと思って、イワッチを戦場に送り続けたのも私です。
 

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