「じゃあ、今度の日曜日に・・・」
「ああ、わかったばい。」
中村に向かって軽く手を振ると、素子は口をぽかんと開けたまま突っ立っていた森の方を振り向いた。
「何よ・・・何か言いたいことでもあるの?」
「正直言うと、ちょっと意外だなあと思いまして。」
「あら、どうして?」
森は頭のバンダナを一旦外して頭を振った。
軽くウエーブのかかった髪の毛が揺れるのを見て、素子は目を細めた。素子と森はかつて同じ長さぐらいの長髪だったのを思い出したからである。
素子が髪を切った3日後、森もまた自分に合わせるように髪を切った。
「いえ、原先輩ってずっと面食いだと思っていたもので・・・」
バンダナをまき直しながらそう呟く。その動作は単に素子から視線を逸らすための口実だったような気がした。
だが、その瞳に浮かぶ興味深そうな色までは隠せはしない。
素子はこの部隊にまでついてきてくれた可愛い後輩をじっと見つめた。もちろん、つきあいは長い。
全てに理由を求めようとする森の性質は、今の時代では危険がつきまとう。
「ふふっ、つき合ってる本人を前にしての台詞とは思えないわね。」
冗談めかしてそう応じておく。
「原先輩が選んだ人なら、多分私の知らない何かが中村君にはあるんだと思います。」
「・・・それでいいのよ。」
「え?」
森は不思議そうに素子の顔を見つめる。
「あの人の良いところがわかったら・・・多分あなたもあの人を好きになってしまうもの。」
「え、うち、別にそんなつもりで・・・」
真っ赤になってうろたえている森を見つめながら、素子は中村のことを考えた。
中村はアンダーグラウンドの人間として生きてきたせいか、思いやりがあってとても優しい。決して外見だけの人間でないことはすぐにわかった。
そして多分・・・彼は決して自分を裏切ろうとしない。
裏切るにしても・・・きっと心に痛みを感じるタイプの人間。そう信じたい。
「先輩は・・・幸せですか?」
森からの思いもかけない質問に、素子は現実に引き戻される。
「え?ええ・・・。」
「そうですよね、最近の先輩って本当に綺麗ですから・・・。」
そして日曜日。
戦時下ということで少ない化粧品をかき集めて化粧をすませ、精一杯のおしゃれをして校門の前に立つ。
時間を確認すると8時半である。
約束は9時だから、ちょっと早すぎるのはわかっていた。でも、そわそわしながら誰かを待つというのが素子は嫌いではない。これがデートだ、と言うこだわりもある。
しかし・・・素子は不機嫌さを隠そうともしない表情で回りを見渡した。
その視線はわらわらわらと素子の回りをうろつく人物達に向けられる。
「ちょっと、そこでうろうろされると中村君がやってこれないじゃないの。」
(注)・・・1つの場所にはプレイヤーを除いて4人までしかいられません。つまり魅力が高いキャラだと、校門前でいろんな人間にまとわりつかれて待ち合わせの相手が入ってこられないことが多々あります。
「いや、俺は原素子ファンクラブの会長として・・・」
「うち、なっちゃんと待ち合わせしてん。」
「・・・小杉達と遊びに行く約束がある。」
「私も来須さんと同じで・・・日曜日ですから思いっきり楽しもうと思ってます。」
素子は微笑んだままゆっくりと頷いた。
「・・・3秒だけ待ってあげる」
素子がにこにこと微笑んでいたため、そこにいた4人はほんの冗談だと思ったのかもしれない。
だが、原さんである!
とすっ!
若宮の身体が崩れ落ちるよりも早く、歴戦の勇者来須は身を翻そうとした。だが、素子にとってはスローモーションのような動きである。
そして素子は冷ややかな目つきで足下に横たわった5人の死体を・・・5人?
素子は見覚えのない『栗色の髪の女性』の顔をのぞき込む。
どうやら、名もない一般市民を巻き込んでしまったようである。その顔立ちにほんの少しだけ見覚えがあるような気がしたが、多分気のせいであろう。
そして待つこと50分。
素子はやきもち状態になった。(笑)
「うふふふふ・・・やってくれるじゃない。」
素子は薄笑いを浮かべながらバッグの中のオイルストーン(オイルにつけ込んだきめの細かい砥石・ナイフを研ぐ仕上げに使う)を取りだした。
いつも丁寧に手入れしているため、ナイフはすぐに鈍い光を放ち出す。ぴかぴかにするよりは、こういう状態の方が良く切れる。ついでに刺さることを素子は経験から学んでいた。(笑)
「やっぱりね、男ってのはにっこりと微笑んだまま誰かを裏切ることが出来るのよ。」
などとどこかで聞いたような台詞を呟きながら学校の周りをうろつく。
ちなみに速水は、素子の姿を見た瞬間わけもわからず逃げ出した。さすが前作のパートナーだったといえよう。
素子はのほほんと近くを通りかかった滝川を捕まえて問いただしてみる。
「中村君は何処っ!」
「あいつなら今日は休みだよ・・・」
「へ?」
どうやら熱を出して寝込んでいるらしい。そりゃあんな暑苦しいものを着込んでいたら熱も出すわね、と思ったが口には出さない。
そして中村の住む寮を尋ねてみた。
「じゃあな、大事にしろよ。」
そう言いながら彼の部屋から出てきたのは瀬戸口(ふりふりエプロン仕様)である。
しかも背中をこちらに向けている。
もう誰にもとめられない!だって原さんだから。
とすっ。
驚くほどなめらかにナイフの刃が体の中へと消えていった。
「た、多分俺とお前さんの間には、誤解という大河が流れているように思うんだが・・・?」
「人生こんな事もあるわよ・・・。」
床に出来た血だまりの上に瀬戸口の身体が静かに崩れ落ちた。
原さんセカンドマーチ第4話・完
ふっ、今回の被害者は森さんか・・・と思った人は多いでしょう。(笑)
まあ、ちょっとはひねっとかないとね。
いや、ひねくれてるのは私の性格ですけど。(笑)
それにしても、今回は原さん刺しまくりです。
『栗色の髪の女性』というのは、ゲームの中で(来須と遊ぶ等)出てきます。あくまで私の個人的な解釈ですが、多分『ののみタイプ』の1人ではないかと・・・。
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