……アンタのせいよ。
ずっと周りの人間の顔色を窺って生きていたら、いつしか私は、人の心が見えるようになった……
そうしたら、生きていくのが余計つらくなった。
突き刺さる悪意。
誰かにとって都合の悪いことが起こると、みんな私のせい。
心の底では誰もそれを信じていないのに、みんなが私を責める。誰かに不満をぶつけないと、心が折れてしまう弱い人たち。
だから私はずっと耐えてきた。
雨が降った。
それも私のせい。
抜き打ちテストが行われた。
私のせい。
………
全部私のせい。
理由はない……強いて挙げるなら、『私』が『私』であるから。
「岩田裕です。これからよろしく。」
……綺麗な心の人だった。
今まで自分の周りにいた人の、濁った心とは違う澄んだ色をした心。でも、その心はあまりに深くて、心の奥底まではよく見えなかった。
「……」
何故か声が出なかった。
私は小さく頭を下げて、その場を走り去った。
変な娘と思われなかっただろうか?
そんなことを考えるのは生まれて初めてだった。
次の日も、その次の日も、あの日の心はとても綺麗だった。静かで、深い瞳はまるで私の心を見通すようで少し怖かった。
多分、私の心は濁っているから。
この小隊に来て、私は少し救われた。
速水君や田辺さん、芝村さんに東原さん……無機質と思えるほど綺麗な心を持った人がいた。加藤さんや中村君は優しくしてくれる。
本田先生は、とても親切だった。
少なくとも、みんなが私を虐めたりしない。
私の居場所。
かけがえのない居場所。
私は、この状態がずっと続くことを願った。
永遠に続くことを……
そんなある日、幻獣との戦闘で滝川君が死んだ。
パイロットの中で、一番臆病な心を持っていた滝川君。
だから、彼は一番勇敢だった。
そんな勇敢な彼が死んだ。
明るかった小隊の雰囲気が少し変わったのが分かり、私は不安になった。
指の間から砂がこぼれていくような不安感……
次に、滝川君の代わりにパイロットになった遠坂さんが戦死した。
その瞬間、田辺さんの綺麗な心が真っ黒に濁った。
壊れていく…私のかけがえのない居場所が壊れていく。
私はひたすらに願った。
この世のどこかにいるはずの、神に向かって願った。
ある日雨が降って私は風邪を引いた。
私が学校を休んでいる間、雨が降り続いたらしかった。
そして1週間後、学校に行くと坂上先生から東原さんの死を知らされた。
悪意を感じて振り返ってみると、瀬戸口さんが私を睨んでいた。
……そうか、私のせいなんだ。
私は、唇を噛んで地面を見つめた。
自分の居場所を、自分で壊してしまった……
私の憎悪は、私自身に向かって向けられた。
それは、誰も救ってはくれない、むなしい悪意。
「石津さん…」
肩を軽く叩かれ、振り返ると速水君がいた。
「何…?」
悲しみに沈んではいるけど、相変わらず綺麗な心をしていた。
「ううん、特に用事はないんだけど…」
速水君の優しい気持ちが流れてくる。
多分、励まそうとしてくれている…言葉が見つからないだけで。
戦況が厳しくなってくると、誰もが他人に構っている暇が無くなってきた。
虐められたりはしないけど、何のぬくもりもない状態。
昔より幸せなのに…そう思えない自分がいる。
そんな中で、熊本城決戦が行われた。
勝った……勝ったはずなのに…次の日から、芝村さんは学校に来なくなった。
速水さんの心に穴が空いた。
声をかけようとしたけれど、振り返った速水君の虚ろな瞳が怖くて、私は何も言えなかった。
数日後、幻獣との戦闘で速水さんが死んだ。
「自殺だよ…あれは。」
誰かが呟いた。
誰もが笑わなくなったのを見て、岩田君が悲しそうな表情を見せていた。
私は準竜師に陳情し、パイロットになった。
そう、みんな私のせいなんだから…『私』は、『私』でない何かに生まれ変わらなければいけない。
「……さんっ、石津さん!」
誰かが私の身体を揺さぶっている。
目を開けると、綺麗な心をした人がそこにいた。
でも、悲しい色……
「私…死ぬのね…」
「いえ、そんな……」
岩田君が驚いたような表情になった。
多分、私が笑っているから。
「これで…良いの…きっと。」
首を振る岩田君を見ながら、『私』は眠りについた…
1999年3月。
私は5121小隊に配属された。
誰とも視線を合わさないように、下を向いて教室に向かう。
「石津さん……きみは何を…?」
かすれた、喘ぐような小さな呟きに私は顔を上げた。
綺麗な心をした人がそこにいた。
「あ、いえ……岩田裕です。これからよろしく。」
「……」
何故か声が出なかった。
私は小さく頭を下げて、その場を走り去った。
変な娘と思われなかっただろうか?
そんなことを考えるのは生まれて初めてだった。
静かで、深い瞳がまるで私の心を見通すようで少し怖かった。
多分、私の心は濁っているから。
世界が、私の好きな人と、私を好きな人だけであればいいのに……
完
高任は最初、竜ってのは固定されてないと思ってました。
もちろん、萌が竜だったりするんだろうなあ…とも思ってましたし、萌が竜なら世界のループはこんな感じかなあ、とも思ってました。(笑)
何やら聞いた話では、岩田&萌の同志の方がリンクをはってくださったとか。機会を見つけてその方のページにご挨拶に伺いたいものです。
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