三国志街道を行く




怪しいホテルのエレベーター嬢

なんとか漢中市の怪しげで危ない(危険の意味が違う)ホテルで、誘惑にも負けず健全な旅7日目の朝を迎えた。 ホテル出発が8時ということで早めに朝食を済ませ、ロビーに降りるべくエレベーターに乗り込んだ。
 ホテルの2台のエレベーターは、全自動(三菱製)なのだが、不思議 なことに、中にエレベーターガール(30台半ば過ぎの普通の顔立ちの女性、要するに美人でない!)がいる。

 エレベーターの中に椅子を持ち込み、行き先階のボタンを押す前で、ちょこんと足を組み腰掛けているのだ! 客が乗り込むとニコリともせずムスッとして「何階?」と聞いてくるのである。
 客が行き先階を言うと椅子に腰掛けたままボタンをなげやりに押す、サービス態度がまったくなっていない!
 
 全自動なのにボタンを押すだけの為に、エレベーター嬢がいるのだ!どう考えても人件費の無駄づかいにしか思えない。 そんなことを考えていると、突然、このエレベーター嬢、夜には按摩嬢に変身するのだろうかと一瞬そんな恐ろしい考えが、頭をよぎった! 私は彼女をジーと見つめたまま、本当に心から昨夜は部屋のドアを開けずによかったと思った。

 
きょうは、世界の珍獣「パンダ」や「金鵄猿」が生息していることで有名な、秦嶺山脈の標高2000mの峠を越え、宝鶏市までの長距離移動である。
 バスに乗り込む前に、ミネラルウォーターと陝西省の道路地図を買う為、ホテルの近くの売店に歩き出すと、ホテルの斜め向かいの交差点ロータリーは何百人もの黒山の人だかりがしている。大きな頭陀袋やバッグを持ち生活に疲れた表情の男女が、なすこともなく佇んだり、地べたに座っている。
 仕事を求めて近郊から集まった農民で、手配師や工事現場の責任者から仕事のお呼びがかかるのを終日待っているのだ! 私がそちらの人だかりの方に歩いて行くと、一斉に皆が視線を私に浴びせてくる!緊張しつつ黒山の人込みを抜け、売店で目的の買い物を済ませホテルに戻った。

漢王朝創立の功臣張良廟

 ホテル前には昨日までのバスが交代し、西安から来た国際旅遊バスが待機していた。乗降口に貼ってある座席表(毎日ローテーションで座席が替わる)を見ると、私の席は最前列になっている、2座席を1人で使うので疲れないのがありがたい。
 今日は峠越えで1日の大半をバスに乗ってる強行軍だ!バスは出発し渓谷の道を、眼下に古桟道を見ながら3時間ほど走り、漢王朝創立の功臣「張良」を祀った「張良廟」に到着した。
 ここに到着するまでヒヤヒヤの連続だった、バスの運ちゃん恐怖心が無いのか、何しろメチャクチャ飛ばす!細い渓谷の路を対向車が来ているのに、前方車をクラクションをけたたましく鳴らしながら、平気で追い越しをかける。
 何度も対向車に正面衝突しそうになるのだが間一髪でそれを避けることの連続で、最前列に座っている私は、無意識に足を踏んばりブレーキを踏みっぱなしで、足がだるくなったぐらいだ。

 さっそく崖の中腹にある「張良殿」を見学する為、急な石段を休み休み登って行くのだが、日頃の運動不足がたたり膝がガクガク笑って思うように進めない! 同行のO・M両氏は、SSNのクラブ活動で登山やゴルフなどで足腰を鍛えているせいか、平気で登っていく!
 彼らの顔と容姿は年齢相応だが、足腰だけは若い!さすがSSNのすばらしきシニアだ! なんとか頂上まで登り張良の金像を拝んだところで昼食タイムとなった。
 駐車場まで下り、張良廟のレストランで昼食をしながら、バスの運ちゃんの話題になった! 皆がこのバスの運ちゃんは運転が上手だ!すごい運転テクニックだとほめる、冗談でない!前列に座っている私から見れば無謀な暴走運転にしか思えない。

バスは走る秦嶺山脈を越えて

 午後からはいよいよ秦嶺山脈の峠越えの山道なので、安全運転で走ってほしいと願いつつ、食事を済ませると、相変らずめちゃくちゃ汚いトイレで用を足し、再びバスに乗り込んだ。
 秦嶺山脈のくねくねと続く峠道にバスは入った。途端にバスは大渋滞につかまってしまい、ウンともスンとも動かなくなった。
 この峠道は陝西省と四川省を結ぶ大動脈で、物資を運ぶ大型トラックがキャラバン隊のように延々と続いている。
 少しでも余計に荷物を積み込もうとして荷台を異常に長く改造しているトラックばかりなので、カーブ路でのすれ違いが突き出た長い荷台がじゃまして出来ないのだ! 中国には車検制度がないのか?改造車ばかりが走っている。

 長い時間バスは停まったままで対向車もやって来ない、やがて痺れを切らした運ちゃん、しゃにむにバスを対向車線に乗り入れると走り出した!辛抱強く渋滞待ちしているトラックの列を横目に暴走運ちゃんはアクセルを踏む、私は前方席でもし対向車が来たらどうしょうと気が気でない。片側は谷底なのですれ違うことなんてできないのである。
 案の定、対向車のトラックが来た鉢合せである、運ちゃん同士のケンカが始まるかと思いきや、対向車のトラックのほうがすれ違い可能なところまでバックしてくれるではないか!?なぜだ?走行違反しているのは我々のバスなのに?

 外国人専用バスの威力はすごい!何と!鉢合わせした対向車が道を譲ってくれるではないか!まるで水戸黄門の印籠みたいだ!「そこのけ、そこのけ、ひかえおろう!」で、我々のバスは平然と対向車線をぶっ飛ばしていく。
 暴走族運ちゃんの恐ろしい運転でなんとか峠の頂上に着いた。ここでしばし小休止である。展望台の秦嶺山脈と彫られた大きな石碑の前で記念写真を撮り、はるか下界に広がる景色を眺め、トイレを済ませると再びバスは走り出した。

 頂上を過ぎると渋滞も少なくなり、午後6時ごろには四川省から甘粛省の人口360万の宝鶏市に入った。 宿泊は市内では最高の4ツ星ホテルだのだが、運ちゃんも中国人ガイドもホテルの場所が分らない、携帯電話で場所を聞きながら走るのだが、ウロチョロするばかり、とうとう街中を走っているタクシーを停めて中国人ガイドが乗り込んだ! タクシーの運ちゃんに道案内してもらい、バスはタクシーの後ろを走りながら、やっとのことで駅前の巨大なホテルに到着した。

その12へつづく