旧満州・中国東北三省を行く




またしても中国病が再発した

 また中国に中国病の現地治療に行くことになってしまった。1年半ほど前NPO法人の会員仲間2人と連れ立って、中国奥地の三国志街道を15日間バスで走ったのを最後に、慢性化して再発を繰り返す中国病も鳴りを潜めていたのだが、またしても再発したようである。 
 NPO法人会員仲間の中国紀行文を読んでいるうちに、またしても「中国に行きたい」という、どうにもならないほどの衝動がこみ上げてきたのだ。
 それも今すぐ行きたいのである。個人旅行でプランニング作りをして切符やホテルの宿泊予約などしている時間的ゆとりが無い。仮に時間があったとしても、かっての現役時代のような、一人旅冒険旅行は体力的にできなくなった。
 
 今度は中国のどの方面に行こう!? すでに中国の旅は30回を越え、ほとんど行ってしまった。まだ行っていない方面といえば東北地方(かっての北満州)ぐらいである。 とりあえず病気治療費(旅費)の捻出のことは後回しにして、インターネットの検索でツアーで催行が決定しているものが無いか探してみることにした。
 
 すると新聞紙面に激安ツアーを大きく新聞掲載することで知られたH交通社(○○ピックス)が催行決定を確約してツアー募集している「中国東北三省(かっての満州)を汽車で巡る旅」があった。
 旅のコースは、千歳ー瀋陽(旧奉天)ー大連ー旅順ーハルピンー長春(旧新京)−瀋陽ー本渓ー瀋陽と周遊しコースの大半を、汽車でかっての満鉄アジア号の路線を走るのである。
 旅費はわずかに残っていたへそくり全てを吐き出してぎりぎり何とかなりそうである。それに決めさっそく参加申し込みを済ませ20日あまり後の出発を待つことにした。                     

千歳から瀋陽への機内

 31回目の中国へ出発の日が来た、千歳空港のツアー集合場所に行くと女性添乗員が、「今回の旅は佐藤様を含めて参加者が7名です」「ツアー催行決定をうたい文句にして募集したのですが、予想外にこの方面は人気がなくて集まりませんでした」というではないか!全員がシニア年代で女性2名男性5名の参加人員内容である。少々寂しい気もするが家族的なツアー旅行になりそうだ。しかし今回の旅、この人数では旅行会社は間違いなく赤字であろう!

今も使用されている瀋陽駅(旧満州時代の奉天駅)

 出国手続き後、千歳発中国遼寧省の瀋陽(かっての奉天)行きの直行便へ乗り込んだ。 機内はガラガラ空きで乗客は40名前後の人数である、今までこの便には7〜8回乗ったが、今回が一番少ない、何故だろう!時期的なものなのか?乗客が激減しているようである。
 機内サービスで軽食と相変わらず冷えていない缶ビールで喉を潤し一服後、空中小姐(スチュアーデス)が中国への入国カードと健康検疫カードを配りだしたので、カードを貰い記入を始めることにした。

 今回のツアーのH交通社は激安旅行代金を売り物にしているだけあって、旅行代金以外にもさまざまな料金を上乗せして請求してくる仕組みになっている。
 子供でも記入できる名前とパスポート番号を記入する程度の簡単な出入国カードの記入を頼みもしないのに、このH旅行社は初めから旅行代金の請求書に出入国カード記入料として4200円も上乗せして請求してくるのである。
 H社に電話を入れ、入国カード作成料は本来旅行会社の無料サービスではないのか! どうしても有料というならばこんな簡単なもの自分で記入するつもりだ! 本人の意向も確認しないで請求書に4200円も上乗せしてしているのは何故か!と聞いてみた。
 市民憩いの場、瀋陽の中山公園

 すると電話に出た職員が「それならば請求書の金額から4200円差し引いて振込みしてください」というではないか!。これじゃ詐欺に近いやり方ではないか! 恐らく大勢の参加者が請求される金額をそのまま支払っているのだろう。
 出発の1週間ほど前に旅行会社から送られてくる簡単な旅行ガイドブックに、出入国カードや検疫カードの記入の仕方が、分かりやすく印刷されているのである。何も4200円も払って旅行会社に記入してもらう必要はないのである。

 3時間少々のフライト時間で定刻より20分早く瀋陽空港に着いた。 空港には2名の中国人ガイドが出迎えてくれていた。一人は今日から旅の最終日まで一緒に添乗してくれる中国側元受旅行社の劉という名の女性添乗員、一人は瀋陽エリア現地旅行社の金という名の男性ガイドであった。
 これから旅の期間中、私達7人のツアー客に対し3名の世話役(日中各1名の添乗員と現地ガイド1名)が付くのである、少々申し訳ない気持ちがしてきた。

急激に変貌する瀋陽の街

 空港の外に出て送迎バスの駐車場に歩きだしたが暑い!今日の瀋陽の気温は30度と機内アナウンスで言っていたが本当のようだ! 待機していた20名乗りマイクロバスに乗り込んだ、ゆったりと2座席を一人で占有できる贅沢さである。
この「瀋陽」は遼寧省の省都で中国最後の王朝となった満州族による清王朝発祥の地であり、かっては満州国時代には奉天といわれたところだ。
急速に変貌をとげつつある瀋陽の街並み

 現在は重工業中心に人口720万人の中国で5番目の大都市に変貌をとげた。
 バスは今日の宿泊場所の瀋陽市内のホテルにむかって高速道を走り出した。ホテルまでは50分ほどである。                                                            
 流暢な日本語を話す金という現地ガイドの瀋陽市の説明に耳を傾けながら、話の合間に私が座席から身を乗り出し中国語で金ガイドに声をかけてみた!

 「金さん、もしかして貴方は朝鮮族ではないですか?」突然座席から中国語が飛び出したので、びっくりした表情で私の顔を見ると「そうです私は朝鮮族です、よく分かりましたね」と答えが返ってきた。(朝鮮族で一番多い苗字は金で、日本で一番多いとされる佐藤・斉藤の比ではない、いたるところに金という人がいるのである) すると彼が私にあれこれ聞いてきた「中国語が話せるのですか?」「どこで習ったのか?」「なぜ中国語を学習したのか?」「中国のどこが好き?」などとガイドを忘れて質問攻めである、よほど中国語を話す日本人がめずらしいようだ!
 瀋陽中心部の繁華街 おしゃれな若者でいっぱい


 やりとりをしているうちにバスは市内に入った、車窓からは4年ぶりに訪れた瀋陽市の激変した姿が目に飛び込んできた。
 高層ビルや高層マンションが林立し、道路上は渋滞を引き起こすほどの自動車が走っている。そのぶん自転車がずいぶん少なくなったようだ。
 経済発展と街の再開発スピードが異常に早いのである。
 日本では10年ひと昔というが、中国では2年ひと昔である。
 何しろ土地は全て国の所有なのである。政府が方針を決めたらその土地に住んでいる住民をわずかな移転費を払って強制的に追い出し、あっと言う間に人海戦術で1年もしない間に高層ビルを建ててしまうのだ。
 日本みたいに地権者や居住者と長々と補償交渉などしないのである。      

その米ドル札は偽札ではないぞ!

 バスは4時を少々過ぎたころ今夜の宿泊ホテルに到着した。郊外の4星ホテル(実際は3星半といったところ)で宿泊客の大半が中国人のようである。
瀋陽の宿泊ホテル
 チェクックインを済ませ部屋に旅行ケースを運び一服しても、6時の夕食時間まで時間があるので現地通貨の中国元に両替するべくロビーに降りた。    
 フロントカウンターの中では3名の女性従業員がひまそうにおしゃべりしている。 端っこの小姐(服務員)に中国語で「請換一下銭」(ちょと両替をして下さい)と言いながら米ドルの100ドル札を出した。(私は海外旅行用に米ドル札を何枚か常に財布に入れている)
 
 すると彼女は私がカウンターの上に差し出した米ドルを手に取らず、カウンターに置いたままジィーと眺め、そのうえ視線を私に移すと、全身を頭から足元までじっくり観察をするではないか!それからカウンターの紙幣を手に取るや何と!指先で擦ったり透かしたりしだしたではないか。
 挙句の果て、今度は隣にいる小姐(服務員)にお札を渡し「この100ドル札どう思う?」と聞くではないか。
 その小姐も渡された札を同じように指先で擦ったり透かしたりしてジィーと眺め、私に視線を移し容姿を上目づかいにチェックするや、何と!今度はその札を持ってカウンター奥の事務室に入ってしばらく出てこないではないか!

 しばらく待つと今度は男性従業員までが事務室から小姐と一緒に出てきた。
 冗談でない!何か不審があるのだろうか?・・少し不安な気持ちで私は二人に向かって思わず叫んだ!「その100ドル札は日本の銀行で両替したもので本物だ!偽札ではない!」と・・・・ 何だ!私はそんなに悪人顔でないはずだ!容姿だって多少腹は出ているがバッチリおしゃれにきめているつもり!紳士に見えるはずだ!それなのに何故か疑われている!・・・・・
 
 この瀋陽から北朝鮮国境まで車で3時間足らずである、いま中国では中国通貨の最高額紙幣100元札と米100ドル札の偽札がかなり蔓延してるのである。
 特に今回旅する遼寧省や吉林省は北朝鮮と国境を接しており要注意なのである。北朝鮮ルールがかなり怪しいのだ!きっとホテル側に政府筋から厳密にチェックするように通達がでているのであろう。偽札以外にも北朝鮮製造の日本製タバコや覚せい剤は公然化された事実なのである。それでも中国は北朝鮮を一生懸命かばい援助を続けているのである。

旅行社と添乗員のピンハネ

ホテル周辺の緑豊かな住宅街

 やっとのおもいで両替を済ませると、夕食までまだ少し時間があるのでホテル周辺を散策すると小さな超市(スーパー)があったのでミネラルウオーターを買うと1リットル1本が1.2元(18円)だった。 ちなみに酒の棚のビールの値段を見ると大瓶1本が2.5元(38円)で売られていた。
 夕食はホテル外の別レストランで参加者7名の自己紹介を兼ねながらの食事である。

 席に着くや早速小姐にビールの値段を聞くと、なぜか中国側現地添乗員とレストランの隅に行きとひそひそ何か話している。すると席に戻ってくるや「1本20元(日本円300円)」ですと答えた。
 私が思わず「太貴了(高すぎる)!」と言うと、小姐と添乗員はバツの悪そうな顔して互いに顔を見合わせるではないか。先ほど覘いたスーパーで売られていた値段の8倍である、普通は3倍ぐらいがレストランの相場のはずだ!

 本当のビールの値段がバレぬようテーブルからメニュー表が隠されてしまっている!ぼったくり値段だ!(実際のレストラ価格との差額は旅行社とガイドの山分けなのである)これから旅行期間中、旅行社に払うリベートが上乗せされたメチャ高い酒を呑まねばならないのである。
 悔しいが高くてもやっぱり呑みたいのである。悲しいのん兵衛の性(さが)を持つ自分が可哀そうになる。
 そんな高いビールを注文した挙句、もし温かいビールが来たらたらどうしょう!いままで中国では厭になるぐらい温いビールを経験しているのだ。 おそるおそる試しに持って来させて瓶に触れてみると何と!きっちり冷えているではないか!さすが大都会だうれしくなった。 小姐にむかって思わず叫んだ!「2本持って来い」!。 
 やがて東北料理を食べながら自己紹介が始まった!明日は午前中、「瀋陽市内」観光後、汽車で大連に向かう予定だ。 
                           

その2へつづく