層雲峡火まつり太鼓にまつわる伝説
 今は昔、北海道が今だ蝦夷が島と呼ばれておりました頃、大雪山

の山ふところ奥深くに、平和なアイヌの群落・上川コタンがありま

した。一族の酋長は、寄る年波には勝てず、新しい時代の酋長の座

を、コタンで一番の勇者・わが子、トミウェワインに譲るべきと悟

り、部落のエカシと相談をしてピリカメノコ「ユナミ」と縁組を取

り決め、7月の満月の宵に結婚と、酋長相続の日と定め、この日を

コタンの大きな祭りの日とすることを、部落の人々に伝えました。

 ところが、この事実を知らされた一人の若者ムネワカインは、常

日頃、己が恋焦がれたユナミへの熱い思いが破れてしまったことを

知るや、ついには嫉妬のために発狂して酋長を殺害し、狩に出かけ

ていた息子のトミウェワインを待ち伏せしてブシの毒矢で重傷を負

わせ、ユナミの激しい抵抗から、その思いを遂げることが出来ずコ

タンを捨てて山深い石北の峠道を越え、遠く北見アイヌの国へと逃

げ込んでいきました。

 ことの成り行きを知った、北見アイヌの部族達は、この時とばか

りにムネワカインを道案内人にしたて、山を下り、石狩川の激流に

丸木舟を並べて、上川コタンに攻め込んで来たのであります。

  老酋長の死。そして2代目、若酋長は、瀕死の重傷、しかしコタ

ンの人々はそれにひるむことなく、こぞって立ち上がりました。未

来の酋長の妻となるべき、ピリカメノコ・ユナミは、健気にも一族

の先頭に立ち、地獄谷の岩頭から、必死に矢を打ち続けました。や

がて、矢も打ちつき果てコタンの運命も、もはやこれまでと思われ

た。

 その時、突然・・・・・天空の一角から、大雪におわします火の

神、アベノカムイが現れ、石狩川の流れに注ぐ、全ての滝を火の滝

に変えてしまったのです。真っ赤に燃え滾
(たぎ)った火の粉は、容

赦なく北見アイヌの軍勢に降り注ぎ、さしもの部族も命を取り止め

た者は、あわてふためき、一目散に逃げ去ってしまいました。

 夢のような、激しい戦いが過ぎ去ると、アベノカムイの姿と共に、

火の滝もすっと消え、やがて、その滝壺から一斉に温泉が噴出してき

た。

 温泉で傷も癒えたトミウェワインを酋長に、若妻ユナミをめとり、

取り戻した上川コタンには、以来尽きることのない、いで湯の里が、

誕生しました。これが、大雪山層雲峡温泉、発祥の由来と伝えられて

おります。
 

 2005年7月30日 

 第44回 層雲峡峡谷火まつり ナレーションより

フクロウ神事

 フクロウ神事とは、アイヌ語で「コタンコロカムイオブニレ」アイヌの

神を送る行事として、今から数百年位前までイヨマンテの中で、最も格式

の高かったと言われるコタンコロ、モシリコロカムイと呼ばれるシマフク

ロウを天に送る儀式がありました。明治の世代以降はほとんどその行事は

行われておらず、狩猟で得た動物の霊を神に送るときに使われ、その儀式

は、数日に渡って行われたと記録に残りますが、この層雲峡峡谷火まつり

では、その本まつりと言われる部分を、再現、公開するもので、日本では

実に珍しい行事の一つです。

 昔、アイヌの天の神は、地上の人々に毛皮や肉を与えて生活の糧にして

やろうと、熊やフクロウ、狐、狸などの動物を贈り物としてつかわしまし

た。地上では、この有難い贈り物に感謝し、その魂だけは一旦神にお返し

して、再び、神の思し召しでこの地上に舞い戻って来て欲しいという願い

を込めた。大自然の中で生き続けるアイヌの人々ならではの、自然に対す

る感謝と喜びを表現する儀式が「フクロウ神事」です。

  イヨマンテは熊の霊を神に送る儀式としては、あまりにも有名なもので

すが、本来イヨマンテとは、必ずしも熊に限らず色々な動物の霊を送るこ

とを意味し、従ってこのオブニレとイヨマンテとは、同じ儀式を表現する

ものなのです。但し、厳密には、イヨマンテは幼い時から飼育していた動

物の霊を送る場合を意味し、フクロウ神事の言うオブニレとは、獲物とし

て捕らえた動物の霊を送る場合にのみ、用いられたものとつたえられてお

ります。

 儀式の流れ

コタンコロカムイ(シマフクロウ)が会場に

入ってくる。

シマフクロウをタクサと呼ばれる清めの棒で

前後左右に追って地上でのけがれを払い落とす。



 長老達の献酒・礼拝・祈り、シマフクロウと

人々との別れを惜しむかのような踊り、そして

3本の花矢が放たれ息絶えたフクロウの解体が

行われる。

 祭壇には、たくさんの魚や首飾りなどが飾られエシカ達が酒を捧げて

礼拝し続け、こんな送りの言葉を口ずさむ。

「我がいとしのコタンコロカムイの子よ、私達に限りない恵みを与えてく

れたあなたとも別れの時です。美しきこの祭りの庭で、あなたの最後の踊

りは本当に立派でした。

 今、新しく神となりご機嫌良く父母の神々の身元に、沢山のお酒とお

土産を持ってお帰りください。」

 こんなことをやさしく語りかけながら、竹で作ったヒゲベラを使い、酒

を滴らせながら別れを惜しみ、連夜にわたって礼拝をし続けるものだそう

です。

       2005年7月30日 

       第44回 層雲峡峡谷火まつり ナレーションより
抜粋



 

 
copyright(c) 2005 sounkyo.com

01658-5-3206
01658-5-3207

Tel 
Fax