吉田精肉店

第三十四話憎悪

ぼくはただただ憎かった。憎んでいれば後悔とか忘れられていられて気が楽だ。
誰が憎いのか。
それは自分に来てみれば明白だった。
自分自身だ。
この災厄のすべての原因となった剣をみながら自分にとって過ぎた力が破滅を招いたと言うこと
を感じた。
目的を果たせず仲間に合わす顔のない自分にはこの剣と命しか残ったものはない。
憎むべき悪魔の仮面は過去を捨てた証、そして自分を憎んでいることの象徴。


「兄さん、何で?悪魔とつるんでいるの?
それにそいつ、ぼくを殺したやつじゃないの?
どうして?」
弟の質問にノーフィスは混乱した。
「どうして・・・?生きているんだ?」
ノーヴィスは答えた。
「聞いてるのはぼくだよ。
どうして今まで兄弟だと言うことを黙っていたの?
いいよ自分で考えるよ。ぼくは頭がいいからね。
何で生き返ったかって?ぼくのサブ頭脳はたくさんあるからね。
そこの悪魔、ああザーゴンねにやられたからってさ。
平気さ。」
「俺たちの邪魔をするんだというのなら、何度でも頭を踏みつぶしてやる!!」
ザーゴンが叫んだ。
黙って様子を見ていたベリゼアルがザーゴンのほうを向いていった。
「まあまあ、兄弟の再会を我々のような無粋な輩が邪魔をすることはないぜ。
遊びたいって言うなら俺が相手をしてやるぜ。」
ベリゼアルは刃のような羽をばたつかせとんだ。
「さあつかまんなよ、おっと剣には気をつけて。」
ベリゼアルは足を捕まれと言わんばかりにつきだした。
「もっとも風船になって空を飛んでいきたいというなら別だけど。」

「ノーヴィス、ザーゴンが憎くないのか?」
ノーヴィスのカメラ・アイはノーフィスのカメラ・アイを見つめていた。
真意を探るかのように。
「過ぎたことはもういいさ、かれも言ったと思うよ、戦争では殺人は肯定されるみたいなこと。」
「そうだが・・。」
「憎いっていったら、にいさんだよ。なぜだまっていたの、兄弟であることを黙って、敵とつるん
で。
でもねえ、一番許せないのは・・。」
ノーヴィスの熱弁にノーフィスが聞き返した。
「許せないのは?」
「サードフォースなんて言う、ふざけたぬるま湯のような正義漢ぶった組織に入ってるって事
さ。」
ノーヴィスに対する負い目もあってか、黙って聞いていたノーフィスもさすがにとさかに来た。
時々ロットという機械でありながら来る感情の発露、これはいったい何を目的にしたものであろう
か。
「クリス様はねえ、本当に兄さんたちが気に入ってるんだ。
クリス様は自分たちのことなんて言ってると思う?
ネオ・サードフォースだって。
ハハハ。兄さんたちを本気でおちょくってるのさ。」
ノーフィスがノーヴィスを本気で殴ろうとしたとき別の誰かがノーヴィスを殴り飛ばした。
殴り飛ばした誰かの方をみると、黒いマントに悪魔の仮面をかぶった男がいた。
正体を知られたくないのか。
「”憎悪”、何をするのさあ。」
「ノーヴィス、あまりぺちゃくちゃ、しゃべるな。
ノーフィスはどれだけやっかいな男か知らないのか?」
憎悪と呼ばれた男は名前を仲間ですら知らないようで彼の正体を知る方法はないように見え
た。
しかしノーフィスはそのヒントをめざとく見つけた。
マントの切れ目からきらきら光る得物。
それはレーヴァティンだった。
「ニーズヘグ?」
ノーフィスが思わず口にすると憎悪は答えた。
「この剣を持っていた男、そんな名前だったなあ。
だがそいつはもういない。
俺が憎いか?小僧?」



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