吉田精肉店

第三十一話苦痛

悪魔軍は原因不明の疫病にさいなまされアンノーンゲートの近くまで追いやられていた。
アシュタロンは副官のベリゼアルがいないことには多少の憤りを感じていたがそれを顔には出さ
なかった。
もう遊びは終わりだと言うことだ。
師匠とあがめる男を殺さねば、自分に勝利はない。
自分より強い彼にあこがれを、
自分より賢い彼にうらやみを、
自分の部下を幾人も殺した彼に憎しみを持っていた。
アシュタロンはヘレバルスと雌雄を決せねばならぬ。
皮肉な宿命だが、成長とは現状を打破しなければあり得ない。
俺は勝利を選択する。
やつの血をすすろう。
汚れた肉体を清めよう。
俺は成長する。
成長しなければならない。
我が神の期待にそうために・・。
だがそれは自分のため?


戦える悪魔はほとんど残っていなかった。
白い肉体と翼を持つスカルトンはその中の一人であり、ヘレバルスに付き従っていた。
「ヘレちゃん、大丈夫かぁねえ。これじゃヴィッ様に首ちょんぱだょ。」
「そのしゃべり方どうにかならんのか?」
「もぅ緊張をほぐそうと。」
スカルトンが答える。
「緊張は必要だ、俺を認めてくれたやつとの最後の決戦だからな。
ゼヴァス、ザーゴン、・・・カイン。俺は俺の戦いを全うするよ。」
旋風が吹いた。
ヘレバルスの前には戦場の青き孔雀が立っていた。
「行こうか、戦友よ。我が宿敵よ。」


自分の理想はなんて青臭いのだ、とゼヴァスは思った。
ヘレバルスも、ヴィシュヌも戦う意志を持って戦っている。
我輩はそれを止めようというのだ。
彼らが傷つくのがみたくないから?
違う。
傷つけさせたくないから?
違う。
自分が傷つきたくないからだ。
自分のエゴを他人に振りまくという点で自分は憎んでいるヴィシュヌと何ら変わりがない。
悪魔は生まれたときから呪われている。
人は二度死ぬと呼ばれている。
肉体の死と、・・・・世界に忘却されることだ。
二度目の死を迎え、悪魔となった彼らに待ち受けるはエルンとの永劫の闘争。
戦いという名の呪いをほかの悪魔たちは喜んで受けている。
我輩がおかしいのだ。
事実誤認であってほしいという気持ちとは裏腹に現実はそれを証明し続ける。
友すらも殺そうとしたザーゴン、闇に生き憎しみを振りまくグレゴリュフ、戦いを心の底から楽しむ
ヘレバルス。
彼らが絶対悪とは言わない。
だからこそ自分の願いが正義というものであるかわからないのだ。
「どうしたんだ?」
ドリブが優しく声をかける。
殺人兵器として生まれてきた彼ら。
だがニーズヘグという男は責任感があふれていたと思う。
彼がエルンと出会ったら、どうするかなど知らないし、興味もない。
彼はラグナロクというロットがした過ちから同族を救おうとしている。
ヘレバルスが言っていた。
同族で争うのは間違っていると。
「いやなんでもない。ちょっと考え事さ。」
「こっちはなんでもなくないんだよな。」
ドリブの意外な答えにゼヴァスは顔をしかめた。
一人の小柄な悪魔がたっていた。
そいつは物腰柔らかに言った。
「これはこれはゼヴァスどの、どこへ行くのですか?」
我輩の名を知っている?
「だれだ?」
「おやおや、ちんけな、いや矮小な下級悪魔なぞ知ったことではない。
そうですか。そうですよね。
ワタクシの名はアモン、クリス様の配下”苦痛”のアモンです。
あなた様を止めるように申しつけられておりますので、どうぞお手柔らかに。」



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