ソンコ・マージュのコンサートでの語り集

エル・アラサン
(語り)私の栗毛の馬よ。お前と私は幾百という山道を行き交った。おまえは夕べはどんな星を探していて、崖から落ちてしまったのか。もしお前の世界にも天国があれば、自由に天をいつものお前のように駆けているだろう。じゃったんですがお前の世界に天国があれば自由な天国をいつものお前のようにかけているだろう。おまえは炎の帯のようになって私のもとへ駆け寄ってくれた。私はお前の名前をいつまでもいつまでも呼び続ける。という愛馬に寄せる挽歌であります。

ありがとうユパンキ
(語り)わがアタウアルパ・ユパンキよ。あなたはこのギターをいつも愛しの息子とよんでいた。愛しの息子よ。私はお前を大事に預かろう。そして君が大いなる祖国インカの魂を秘めたこのギターよこれからは混血となって何時までも永遠の私の灯火となっておくれ。

インディオの道
(語り)石ころころだらけのインディオの道。谷間よりはるかな星に続く道。私たちの古い祖先が南から北へ歩いた道。それは大地の神、パチャママが山深く隠れる遥かな昔。山に歌い、川に泣き。インディオの嘆きは夜に深い。ああはるかなるインディオの道よ。お前の石に口付けたのは月と太陽とこの私の歌だ。道は嘆く、人々をへだてる罪の深さを。

やるせない寂寞
(語り)私は静けさが憎い。なぜかって、あまりにも多くのものを失ったから。たまりかねて私はギターを持って森に入った。そうすると大きな静寂におそわれてやるせなくなってしまった。人がもし幸せに生きようとするなら黙っていてはならぬ。でも生来のだんまり癖は懸命に私を押し黙らせてしまうのだ。私を寡黙にしてしまう。だまってちゃだめなんですよね。

どこの生まれと訊かれても
(語り)「おまえはどこの生まれか」と皆は訊くが私には答えようすらない。何ひとつ持たぬわが身は身の置き場所すら知らぬ。緑なす畑にしみついたたくさんの血と汗。いつかはここに苦しみの麦を燃やせるだろう。そのときこそ自分の土地が持てるかもしれない。自分がどこの生まれかも知らぬが行く末だけはよくわかる。 

夜の祈り
(語り)私は何も持たぬこの世のさすらい人。ただあるといえば人としての心とギターと呼ぶひとつの情熱。夜の祈りを捧げるためのギター。思い出に耽るためのギター。はるかな祖国を思うためのギター。そして胸のうちの火を燃やすためにこのギターがある。私はもろ手に砂を握り締めた。だが手を開けば砂は何も残らない。ああ友よ平和は一体どこにあるというのか。この私のギターに平和はいつ訪れるというのだろうか。

牛車に揺られて
(語り)これはアルゼンチンの本当に寂しいパンパで、一人の農民が、轍(わだち)を、車の後をたどって、いつも行ったり来たり轍をいってですね、一人の農民が単純な人生を送ったんですが。彼は牛車の車軸に生涯ただの一度も油をささなかったのですね。だから傍目にはギッコンギッコン不愉快なんでしょうけど、彼は車軸に向かってこう叫びます。おれの牛車の車軸よお前に油なんかさしてたまるか、友は全部死んでしまって、こんな木霊すら返ってこないような大きなパンパの中で、唯一の伴侶は車軸の軋みの音なんだ。だから俺はお前には油を差すまいぞ、というような意味であります。

トゥクマンの月
(語り)トゥクマンに出る月よ、私はお前が美しく輝いているから歌っているんではない。月は私と一緒だった伴侶だからお前に歌ってあげたい。ああトゥクマンに出る月よ、でもおまえはときどき雲のなかに隠れて私を道に迷わせる。でもお前が雲から顔を出した時は歌ってあげよう、愛するトゥクマンの月に歌おう。孤独の月よ、お前はたった一人で世を照らし私もたった一人で旅をする。同じような身の上じゃないか、

わが影によせるビダーラ
(語り)あるときは私の前を行き。またあるときは私について来るいとしい影よ。私が死んだら一体お前は誰についていくのやら。物も言わず大地を這って私と同じ悩みを抱く影よ。私が永遠の闇に浸されるとき、影よ私の残していくものを大事にしておくれ。

薬草売り
(語り)ポレーオ、カルケーハ、ロメリージョの花、何にでも効く薬草はいかが、というふれ声をいつもしていたんですが、このおじいさんはある日、素晴らしい声を聞かせることができなくなりました。彼は長い眠りにつきました。彼は貧しい人に一片の夢を与え続けた。お前の人生は素晴らしい人生だった。もうお前の素晴らしいコオロギのような声を聞くことはできない。

ギターよ教えておくれ
(語り)私が世間に問えば 世間はおそらく私を欺くだろう。自分が変わらなくても 相手はすっかり変わってしまうものだ。あたかも緑なす大地が砂漠と化してしまうように。光を求めた私はギターと共に長い夜を過ごす。ああ 今夜はどうしてこんなに夜が長いのか。ギターよ答えてくれ。人間とは廃墟と化した寺院に住む死んだ神々だ。その望みも報われず一つの影のみが残った。一筋の光を求めた私はギターと共に夜を過ごすギターよ ああ 今夜はどうしてこんなに夜が長いのか答えてくれ。

一本の樹
ある日故郷の樹がいいました。
「おまえは故郷を離れてギターを持って世界へ出て行ってしまって一体幸せをつかんでいるのか、それとも不幸せでいるのか」
「私の故郷の樹よ、私はおまえの存在を仕事にかまけて全く忘れてしまっていた。世界をギターを持って回り、何を得たかというと、やはり拾ったものは嘆きだった。多くの嘆きを拾わないわけにはいかなかった。天は人間に智恵をあたえると同時に苦悩もあたえた。」
「どうかおまえの苦しい時淋しい時この私を思い出しておくれ、私はいつだってお前の故郷にじっとがまんして立っている、そしてお前のことを見守っている」というような意味であります、 

雪景色
 (語り)雪の高原にかすかな一本の細い道。羊の群れがたどる灰色の長いふみ跡。コンドルは大空の鏡に翼を映し、ポンチョの牧童が群れを追う。川よ、何故お前はこの私を忘れてしまったのやら。夏には歌ってくれたものを。 

雨乞いの歌
(語り)私は雨になりたい。乾いた大地に口付けて石の間を流れる、それが雨の宿命。そして太陽が照りつけるとき再び私は雨になりたい。私の愛しい畑よ。どんなにお前が恋しいことか。