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一月
帽子型や六角柱
つめたく結晶がまたたく夜、
二つとない結晶の鍵を渡されて
氷柱のホテルに宿泊する。
ホテルの看板には
《六花大酒店》
六花とあるのは雪の結晶のことか。
ふいに立ち寄ったホテルの、
鍵を開けた時には12ヶ月もの旅が始まるとは思ってもみなかった。
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†
ホテルの喫茶室に入ると
六角の窓から差し込む光がきらきらとかがやいていた。
ところどころにステンドグラスが嵌め込まれている。
それはまるでみかんのような甘い橙色。
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そこ
にいた女の子か、男の子か。
スタッフなのかお客さんなのか
聞くのもはばかられる静かな午後。
置かれていた本に
雪が結晶になる過程で帽子状になったりうんぬんかんぬん。
結晶の帽子?
さっき渡された鍵も
針金についた結晶から作ったと説明があったっけ。
ふたつと、ない。
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その
人は
角柱のグラスをからからと廻して
さっきからずっとぼんやりしている。
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二月 |
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ゆっ
くりと深海に潜った。
ぬくぬくと、思い出に思いを馳せる。
あまり動かず
あたまのなかでめぐるめぐる
思いがぐるぐる
いつの間にか体をまとっている、セーターのように。
早くあたたかな季節が来ることを願いながら。
そしてまた季節は巡ってくる。 |
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三月
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春霞
のかかる湖畔、春の宵。
漂っている人がいた。
多分月を見上げているのだろう。
声をかけると
この小舟は三日月藻とアクアマリンとシトロンでできていると
教えてくれた
ちょっと自慢げに。
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どこ
にいくのと聞くと
あたたかい季節に、と言った。
それはどこへいけば?
と聞くと
待ってればいい、言った。
そして手に持っていた白酒をくいっと飲み干し
ほろ酔いながら漂って行った。
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四月 |
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耕地
に立つ四月の女王。
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長い
冬がやっと終わった。
ひと雨ごとにあたたかくなって花も芽生える。
露の真珠がきらきら光る冠を頭上にいただいた女王。
鉱石を鎌や斧や槍にして
狩りへも出かけて行く。
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春夏
秋冬の絨毯の上で
ちょうど今日は、春の陽射しを浴びているところだった。
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五月
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森の
中で朝陽を受けてひっそり咲いている。
白い、雪のような少女に摘まれるのを待って、
赤いバラはすっくと立っている。 |
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イノ
シシの心臓を持った少女、だったっけ。
あれ、違ってたかな。
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深い
森の中では
磁場が歪んで
いろいろな物語が交錯している。
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六月
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冷た
いお菓子を売っている商人がいた。
初夏の空にはうっすら月が掛かっている。
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これ
何?と聞くと
ちいさな声で
「舎里八」
と言った。
よく聞き取れなかった。
シャーベット、と聴こえたような気がする。
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何
味?
「龍涎香とバラ」
ずっとずっと東の方、から来たと言っていた。
別の日には西の方、とも言っていた。
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ショッ
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