第五話 う〜ん……
「――だってよ」
そう、サラッと話して口を閉じるお兄ちゃん。
「…………」
……………………………………………………………。
お兄ちゃんが話してくれた内容はセナに聞いたことと大差はなかった。ただ一つ、核心以外は。
「……ウソ?嘘うそうそ!お兄ちゃんそんなこと言って冗談でしょ?ねぇ、冗談でしょ!だってだってそんなのおかしいよ変だよ――」
そこまで一気に喋ってあたしはセナの言葉を思い出した。
セナ自身も、何度も自分のことを“変”だって言ってた。そりゃ、確かにこの展開なら、そうだよなぁ……。
それに、あたしが何とかしてあげるって言ったときの驚きよう……そりゃそうだよなぁ……。
あたしが仮に同じ立場でも驚くよ……。
「亜喜、お前彼女が俺のこと想ってるとでも思ってたのか?」
「……うん」
小さく頷く。
「まったく……彼女は、一度でも俺の名前を出して話したのか?」
「出してない……でも、お兄ちゃんの所に言ったってところから話し切り出されてから……てっきり……」
「てっきりじゃないだろう?どうする気だよ。あっさり受けちまってよぉ」
「そんなこと言われても……」
そんなこと言われても……。
壁掛け時計の秒針が振れる音がやけに大きく聞こえる。
「まぁ、しょうがねぇよな……自分で何とかしろよ」
「そ、そんなぁ……」
「そんなじゃないだろう!」
そんなこと解ってる……理解ってるから悩んでるんじゃない!!
「じゃあ、お兄ちゃん、決めるのは自分でやる。だから、教えて……お兄ちゃんならどうするか?」
「………どうって言うと、俺が亜喜の立場ならってコトか?」
「あたしの立場って言うか………お兄ちゃんが同性から告白されたら!」
言ってるあたしの頭の中に紅白の薔薇が広がった・・;
オェ……想像しちゃったよ……相手は顔無かったけど……。
お兄ちゃんも似たようなビジョンが見えたっぽい(笑)妙な顔してるし……。
「殴り飛ばす」
「………うん。そうだよね。ゴメンm(_ _)m」
「ああ、いや、いい……そうだよな。困るよな……」
「うん………」
………
………
………。
しばしの沈黙が流れた。
「まぁ、しょうがないから何とかするよ」
あたしはそう言うとゆっくりと立ち上がった。
†
さぁて、どうしようかなぁ………。
状況は一応把握できた。それに、セナの気持ちも……。
でもなぁ、まさかセナが想ってたのがあたしだったなんて……。
そりゃ、正直言うと、うれしい、けど……でも、かなり複雑……そんなレズっぽい趣味はあたしにはないんだけどなぁ……けど、セナって、やっぱかわいいしなぁ……。
でも、セナにはおっけーみたいな返事しちゃったし(って、思われてるだろうし……;)
ま、悩んでもしょうがない。
取り敢えず………もう一人の方に連絡入れるか……。セナの共犯のトコに。
……やっぱ、明日にしよ。
何か、もの凄い疲れちゃった……;
結局、その日は帰ってあたしは寝てしまった。
†
翌日の夜、あたしはヒトミの店にやってきた。
「やっほ〜ヒトミ」
「どうしたの、こんな時間に?今日は学校も来なかったし」
黄昏時もとうに過ぎ、時刻は既に夜九時過ぎ。
お店も既に閉まっている時間だ。まぁ、もっともソレを狙ったんだけどねぇ。
「で、どうしたの?お店もう閉めちゃってるんだけど」
ヒトミはあたしの顔を見て再びそう聞いた。
「うん。理解ってる。ってか、そう思ってきたんだ。ヒトミ、もう帰るでしょ?」
「うん。コレ片付けたらねぇ」
そう言うと手に持ったモップをくるっと一回転させる。
「分かった。じゃ、掃除終わるまで待ってるよ。ちょっと、話したいことあるんだ」
「私に?まぁ、いいけど。じゃ、適当に座っててよ。あ、何だったら何か飲む?」
「ううん、いいよ。また片付けなきゃならないでしょ?」
「そりゃそうだけど……どうせお母さんか誰かやるからいいよ」
と、そんなやり取りをしていたら、目の前に紅茶の入れられたティーカップが置かれた。
ふと見上げると、女の人の顔が見えた。
「あ、こんばんは、お邪魔してます」
ペコリと頭を下げるあたし。
「こんばんは、アキちゃん。ヒトミ、もう少ししたら終わるからもうちょっとだけ待っててね。あ、それと、ソレは奢りだからね」
そう言ってくれたのは、ヒトミのお母さんだ。
「あ、いつもありがとうございます」
「いえいえ、よく来てもらってるからね。お得意さんにはサービスしなきゃネ☆」
そう言うと、おばさんはエプロンのポケットからスティックシュガーとミルクを取り出してカップの横に添えた。
にしても……この人若いなぁ……とてもウチのお母さんと同世代とは思えない。
やっぱ、対人業やってるとそうなるのかなぁ……結構身だしなみとか気に掛けそうだもんねぇ……。
「お母さん、ソレは今私が言ったから。だいたい、こういう時、普通だったらもういいから帰りなとか言わないの?」
「言わない」
おばさんはそれだけ言うと奧に引っ込んでしまった。
「まったく、子の心親知らずなんだから」
そう言いながらモップを床にこすりつけるヒトミ。
十数分くらいしてヒトミは小さなポシェットを片手にあたしの前に座った。
「行く?」
「うー、コレ飲んだら」
「じゃ、私は帰るわ」
座ったばっかりだって言うのにヒトミはそう言いながら立ち上がる。
「ま、待ってよ!分かった行くよぉ」
慌てて紅茶を飲み干すと、あたしも席を発った。
「おばさーん、ごちそうさまでしたー!」
「うー、舌火傷したぁ……」
「慌てて飲むかららだよ」
日が暮れてからのこの季節は当然冷える。
昼間は秋風なんて言ってられるけど、夜風はすっかり冬の北風だ。
「まったく……で、話って?」
「うん。あ、あそこで話そ」
あたしは寮までの道の途中にある公園の入り口を指さしてそう言った。
「えー、この寒いのに外でぇ〜〜」
明らかな抗議の声が聞こえる。
けど、あたしは気にせずヒトミの手を取ると公園の中に小走りで入っていった。
「はい、コレ」
ブランコに座っているヒトミにあたしは自販機で買ってきたホッとアップルティーを手渡した。
「やっぱり冷えるねぇ」
「そう言ってるでしょ?だから早く帰ろうよ」
「まぁまぁ、いいじゃん、たまには。こう言うのも」
月明かりと公園内に設置された街灯によって紅葉した木々と、既に落葉して地面に落ちている葉が神秘的にライトアップされている。
あたしは、そんなことを思っていたけど……。
「誰もいない公園に女の子二人なんて……痴漢とかに襲ってくださいって言ってるようなもんジャン」
ヒトミにはそう言うのは理解できないのか、はたまた興味がないのか……とにかくあたしとは正反対のことを思っているようだ。
「ま、その時はその時だよ」
言うあたしに諦めた&疲れた顔をするヒトミ。
「まぁ、そりゃね……それで、話って、なんなの?」
アップルティーのフタを開けながらヒトミはあたしに向き直るとそう言った。
「セナのこと……知ってたンでしょ?」
「え……いきなり、どういうコト……?」
「………しらばっくれないで」
隣のブランコに腰を下ろしながら、あたしは続けた。
「セナから話は聞いたンだから」
「話って………?」
まだ、しらばっくれるか……コイツは。
「だいたい、セナがどうかしたの?」
「どうかって………」
そりゃ、実際は何の被害にも遭ってないわけだし、そこそこ状況理解ってるなら今の言葉は不自然じゃないけど……。
「……じゃあ、ヒトミ――」
「ン?」
あたしはブランコをこぎ出しながら続けた。
「――セナが悩んでたって、知ってた?」
あえてこの訊き方をしているのは、ヒトミのホントのトコを知るためだ。
まぁ、そうは言ってもあたしにもよく分かんないんだけどねぇ……。
だって、あの娘のこと思うなら、言うか、言わないか。それは人それぞれだもんねぇ……。
「………………うん」
彼女は俯きがちにそう答えた。
「アキも相談受けたの?」
「も、って……ヒトミも?」
うーん……やっぱその反応か……。
「それで?」
「それでって?」
「ヒトミは、どうしたの?」
「私は………――」
さぁて、どっちかなぁ……友達を思うなら………。
「――応援した」
「応援!?」
「うん。だって、やっぱり友達だから……やり方は正しくないかも知れないけど……でも、セナのためだもん」
「うーん……」
「あ、ねぇ、アキ。アキも相談されたんだよねぇ?」
「う、うん……」
「で、結局誰なの?」
「え、え?」
この誰って言うのはどういう意味だろう……完全にしらばっくれてる風じゃない。でも、流れ的にはストーカーが誰かって言う取り方もできる。
「なんだぁ、やっぱりアキも聞いてないのかぁ……セナの好きな人」
「・・・・・(///^^///)」
何でか急に頬が熱くなる。
「もう結構前になるんだけど……セナがね……いつもみたいに店に来てさぁ、で、閉店間際までいたんだ。それで、何となく様子が変だったから聞いてみたら、好きな人ができたって」
………。
あたしは耳だけ傾けてブランコをこぎ続けた。
「で、聞いたら私も知ってる人だって言うから、じゃあ、応援するよ。って言ったらさぁ……“じゃあ、ストーカーして!”って」
「ストーカー……」
無意識のうちに、あたしはソレを呟いた。
「そ……普通あり得ないよねぇ、何世代か前ならまだしもさぁ……まぁ、それでも普通は襲われてるところを助けるんだろうけど……まぁ、その女の子版ってコトで心配させたいんだってさ」
「心配、ねぇ……」
まぁ、そりゃ、心配するよ。だから、セナの目的は一応達せられたんだけど……。
ン?
うわぁぁ〜〜、耳まで熱いよ。
そう感じたから、あたしはより強くブランコをこいだ。
冷まさなきゃ……。
「うん。だからまぁ、仕方なくだよ。まぁ、やったって言ったって、学校の外から教室撮ったりしただけだけどねぇ」
だけって……よく捕まらなかったなぁ。
あ、そうか、この娘生徒会の広報やってたっけ。生徒会誌用の写真とかなら十分写真くらい撮れるのか。
「ふーん……じゃあ、一昨日も尾いて来てたの?」
「一昨日?一昨日は、私は店の手伝いだから。ついてきたって、どっか行ったの?」
「うん、水族館……」
・・・・・・・・ン?ヒトミじゃない!?
此処まで言ったんだから、ここで嘘つくのは考えられない……。
って、コトは……偶然か?
「セナが行きたいって言ってたもんでね」
「ふーん……で、その後そのセナはどうなの?ストーカー作戦はうまく行ったの?」
う、うーん……そりゃ、うまく行ったと言えばうまく行ったんだけど……。
「そっか、ダメだったか……」
あたしの複雑な表情を見てか、ヒトミはそう勝手に自己完結した。
「まぁ、そりゃそうだよね。普通に考えてそんなんうまく行ったわけないよね」
いや、うまく行きまくりですぜ、ダンナ!
ってか、キッチリ成功して、あたしが困ってるんですけど……。
ま、そんなこと思っても、口に出して言えるわけがない……。
「ン?どうしたの、アキ?」
どうもあたしは顔に出るのが激しいらしい。
横を向くと、いつのまにこぎ出したのか、ヒトミが同じ高さで揺れていた。
「あ、あのさぁ……ヒトミ――」
†
「そっか、でも、あんたも大変だねぇ」
あたしはこれ以上黙っているのが辛くて、後、何とか相談に乗って貰いたくてヒトミに状況を打ち明けた。
セナが好きなのが自分だってコト。
ヒトミは写真を撮っただけって言ってたから、その写真とかを使ってセナが自分宛にメールを出し続けていたこと。
「で、アキはどうしたいの?」
「どうって……そんなのわかんないよ。だって、まさかこんな展開になるなんて思わなかったんだから。あたしは、てっきりセナが好きなのがお兄ちゃんだとばっかり思ってたし……」
「そうかぁ……でも、そう言われると、心当たりあるなぁ……」
「え?」
「ヨッと!」
ヒトミはブランコから勢いよく飛び降りるとあたしに向き直り口を開いた。
「アキ、あんた、何色好きだっけ?」
「朱……オレンジ系の赤」
「セナが好きなのは?」
………。
「じゃあ……あんたが転校してきたときに趣味音楽作ることだって言ってたでしょ?で、直ぐに昔作ったんだけどって、MDに入れてた自分の曲聞かせてくれたじゃない。何人かに」
あ……。
昨日お風呂でセナが口ずさんでたの……。
「ついでにもう一個。セナって、もの凄い心配性なんだ。自分一人の時ならあまり気にしないんだけど、仲のいい友達とかと一緒に出かけるときは、必ず小さめの非常鞄みたいの持ってくんだ……水族館行ったンでしょ?そのとき、かなり大きい黒いバック持ってなかった?」
「あ、うん、持ってた。何入ってるのって聞いても教えてくれなかったけど」
「ソレは、セナのとっておき。ホントに地震とかのときに持ち出せる用の非常鞄なの。セナがソレを持ち歩くときは、ホントに大切な人と一緒にいるときだけだって……私にストーカーやってくれって言いに来たときに言ってた……ま、その時点でフツーじゃないんだけどね」
ヒトミはそう言い、苦笑しながらアップルティーに口を付けた。
「うん……」
いつの間にか、あたしのブランコをこぐ足は止まっていて、気がつくと止まる寸前だった。
「ま、そう考えると、セナは結構本気みたいだねぇ」
ブランコが止まった。
あたしの足も地面についてただ何人もが擦ったところを同じそうになぞっている。
「アキ、帰ろ。悩んでも結論出ないことだってあるんだから。ネ」
「……うん……」
応えたあたしは、頬に何か暖かいものを感じた。
そっとソレに振れながら、あたしはソレが何なのかに気づいた。
泣涕してる……。
な、なんで………………何で、泣いて、なんか……。
無意識下で目を伏せる。
「アキ?」
ヒトミの声が聞こえる……。
タッタッタッ――
近づいてくる足音。
いや……。
来ないで……。
今は……。
涙を見られたくない……何でか分かんないけど、とにかく、今は――
「――いや!来ないで、ヒトミ!!」
「――!アキ……?!」
足音が止まる。
と、同時にあたしの目下に小さな水たまりが出来だした……。
涙が、地面に落ちた……?
……あ、違う……雨、降ってきたんだ……。
水たまりはみるみる大きくなり、その周囲にも広がった。
そして、当然ながらあたしにもその雨粒は降り注ぐ。
「ウ……わああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
突然自分でも不思議なくらいに叫びだした。
声が止まらない……いや、止められない。
悲しい訳じゃない。悔しいわけでも、まして、嬉しい訳なはずもない。
なのに、なのに何故か涙が滝のようにあふれ出し、声も異常なまでに大きく発せられた。
――わああぁぁぁん
――わああぁぁぁん
――わああぁぁぁん
――わああぁぁぁん
…………
――わあああああぁぁぁぁぁーーー!
「――わああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
勝手に顔が上を向く。
大きく開かれた口の中に雨粒が流れ込む。
ソレが喉を通り、その刺激が余計にあたしの感情を高ぶらせているような気がした……。
「――わああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
その声も、だんだんと強くなっている雨音にかき消され、たぶん聞こえているのはあたし自身だけ……。
どれだけ泣いたのか、よく解らない。
雨もまだ激しく降り続いている。
そんなあたしを、ヒトミはじっと佇みながら見ていた。
微動だにせず、無言で……ただ、じっと……。
「……ゴメン……」
あたしは歩きながら、ヒトミの横を通り過ぎるとき、そう呟くように言った。
そんなんじゃ、ダメ、だよねぇ、、、、。
トボトボ歩きながら、公園の出口に向かう。
門のようになっているコンクリで作られた木の形をしたポールがうっすら見える。
うっすら……?
いくら雨で視界が悪くなってるかって……うっすら……そんなに……?
確かにあたしの目は涙と雨で濡れてぼやけて見えてる。けど、まだそれほど支障はない、はず、なのに……。
「あ、あれ……何、コレ??」
瞼が急に重くなってきた……何でだろう…………………なんか、スッゴク、眠い、や……。
――あ、もう……立って・・いられ・・・・な・い・・や・・。
ドサッ!
最後にあたしの耳に入ったのはその自分が倒れる音と、更に強くなってる雨音、それに、駆け寄る足音……。
†
――見ると、その瞳はうっすらと濡れていた。
『ねぇ、そっとでいいの。ボクの手を、握って……』
――放課後の保健室で、彼女はそう言って布団の中から片手を出した。
『………』
――あたしは黙って頷くと、彼女の手を取り、包み込みように両手で握った。
――そして……。
『で、満足した?』
『えっと……う、うん……一応』
――彼女は少し顔を伏せながらそう言うと、布団を頭から被った。
†
「………夢、か………」
見渡すと、いつものあたしの部屋にいた。
室内には誰の姿もなく、
窓からは朱い日が差し込んでいる。あたしの好きな、夕焼けの、色。
何か、凄く長い時間寝てた気がする。
それで、何か、凄い長い夢を見ていたような……。
………………。
ふと、枕元の時計を見る。
5時、半……。
五時半ッ!?そう言えば、夕陽!!
「今日って、何曜!?」
思わず声に出して誰もいない部屋で誰かに問う。
『――火曜だよ』
「え?」
声の主はあたしの声と同時に扉を開け顔を出した。
「……ヒトミ……」
「あ、アキちゃん起きたんだぁ!」
「セナ?」
ヒトミが隙間から顔を出し、その下に割り込むようにセナが顔を出した。
「…………久しぶり…………二人とも………」
何でか、いきなりそんな言葉が出た。
久しぶり?
自分で言ってて意味不明だ。
だって、昨日、会った、はずじゃ……?
「ホント久しぶりだよ。アキちゃんずっと昏睡状態だったんだよ。もう二週間くらい」
「………ホント?」
「ホントホントぉ!それで、お兄さんなんか有給使って看病してさぁ。とにかく大変だったんだからぁ」
そう言うセナの顔はホントに嬉しそうだった。
「……そう、なんだ……」
じゃあ、アレは、全部、夢、なのかなぁ……。
それとも、公園で倒れてから二週間?
「ウソだよ」
「へ?」
「ああ〜、ヒトミちゃん言っちゃだめぇ!」
・・・・・。
「セナ、冗談が過ぎるよ。ホラ、アキだって何か凄く深刻な顔してるし」
「アハハ、でも、いいじゃん」
「でもって何だよ、でもって……ハァ、まったくこの娘は……。まぁ、今セナの言ったのはウソだから。一日寝てただけだよ。きっと疲れたんだよ」
言いながら、ヒトミはセナの頭を軽く“ポカッ”と叩いた。
「あー、痛いぃぃ!」
「はいはい、あんたはいいから。それよりアキ、何か食べる?簡単のなら一応作れるけど」
「う、うん……あ、いいよ。自分でやるから、それよりも……さぁ……」
†
「そっか……」
「うん……」
「心悲しいけど、ボクは、我慢するから……」
「セナ」
「何?ヒトミちゃん……?」
「心悲しいって、意味解って言ってる?」
「…………知らない………」
「“何となく悲しい気がする”って、コトだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スッゴク悲しいけど――」
「やかましい!」
ヒトミは手近にあったぬいぐるみをセナに投げつけた。
あたしのなんだけどなぁ………。
どうやら、ほとんど夢じゃなかったみたい。
夢なのは、起きる瞬間あったいつもの“あったかい手”だけ。
あたしは公園で突然倒れて(原因不明だって……ってか、ストレスみたい。我ながら現代人だなぁ……うん)、それでヒトミがお兄ちゃん呼んでくれて(普通は救急車だよねぇ?むしろ、ヒトミにお兄ちゃんの連絡先ってか家、教えたこと会ったっけかなぁ?)部屋に運んでくれたっだって。
それから、そのまま寝入って、今起きたと……。
って、コトは、つまり……全部事実じゃん!
はぁ、いっそ夢落ち(?)だったら楽だったのに……;
そうは言いよう悩んでもしょうがない!
「あ、じゃあ、あたし達帰るわ」
ヒトミは立ち上がると、セナの手を取って背を向けた。
「あ、待って……ヒトミ、セナと、話し、あるから……」
あたしは目を伏せながらそう言うと、布団を頭から被った。
「………うん、そっか。解った。じゃ、明日学校でね」
「うん、また明日……」
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