第四話 任せて☆
セナを寮に送ってから、あたしは自分の部屋に戻った。
彼女のことが心配なのは勿論だけど、お兄ちゃんとの約束があるからだ。
昨日の服のままだしね。
あたしも一応女の子だから、そのくらいのことは気にする。兄とは言っても同じ服で会うのは何だか嫌なのだ。
数時間後、あたしは電車に揺られながら兄の上に向かっていた。
そっから帰るときは、何でかテーブルの上にあったタクシ−券使っちゃったんだけど(たぶんお兄ちゃんが用意してくれたんだろう)、さすがにソレも二枚だけで、再び行くには公共機関を使うしかなかったからだ。
目的の駅で降りると、迷わずに兄のアパートを目指す。
ま、どうせまだ起きてないだろうなぁ……。
「やっぱりね……」
部屋の鍵はかかっている……。
あたしは兄から預かっている合い鍵でソレを開けると、中に入り、取り敢えず昼食の支度を始めた。
時間は大凡昼過ぎ。丁度いいかは人それぞれだけど、あたしには丁度いい時間だ。
冷蔵庫を開けると、下味の付けられている材料が幾つかあり、それらの上にはそれぞれを使ったモノのレシピとあたしに作っていくようにと書かれたメモが置かれていた。
「まったく……こんなコトしないで寝ればいいのに……」
苦笑と溜め息が漏れる。
けど、コレがウチのお兄ちゃんのいいところだ。
ここまでやってあれば、後は本当に火を通す、ただそれだけなのだから。
一通りの調理が終わると、あたしはお兄ちゃんの部屋の扉をノックした。
「お兄ちゃんご飯できたよー」
………。
閉ざされた扉からは何の反応もない。
まったく……。
扉を開けると、薄暗い室内に一歩足を入れた。
と、その瞬間――
バキッ!
鈍い何かが折れる音と共に足の裏の痛みが走った。
「………ヤバイ、かなぁ……」
頭の中で“そりゃそうだろう”というツッコミが聞こえたが、あえて無視。
あたしは、ゆっくりとソレが何かを確認して胸をなで下ろした。
「なんだぁ……」
たぶん、何かの船のプラモデルの一部だ。普通は怒られるところだろうけど、お兄ちゃんはあまり気にしない。と、言うよりも、そう言うのを買ってきては、そのキットのコピーを自分で作っては楽しんでいるという変なヤツだからだ。
「お兄ちゃん……」
お兄ちゃんの寝て居るであろうベッドの側まで行くと、再び声を掛ける。
「………ン?ああ、来たか……飯、やっといてくれたか?」
起きるなりソレかい……。
目は覚めて覚めたみたいだけど、相変わらず寝たままの体制のお兄ちゃんを見ながらあたしはそんなことを思った。
「つくったよ……作ったから早く起きなよ」
「ああ……」
言いながら体を起こしたお兄ちゃんを見てあたしは両手で目を覆った。
「な。ななな、なな……」
起き上がったお兄ちゃんは、下は布団で見えないけど、取り敢えず上半身は裸だったのだ。
何で裸なの!
そう言いたいのだが、言葉が出ない。
「“な?”なって、なんだよ?」
当の本人は、ボウッとした様子で頭をかいてる。
あー、耳まで熱くなってきた。
「な、な、な、なんで……何で裸なの!!」
やっとの思い出喉の奥から言葉を発す。
「ン……ああ。言いじゃん別に。兄妹なんだしよう」
そう言う問題じゃあない!!
「なんだよ……ガキの頃お互い裸なんか見慣れてるだろうが」
そりゃ、確かに子供の頃はそうだよ!
「まったく……どうでもいいトコだけ、女になりやがって……もう少し立ち振る舞いとか勉強したらどうだ?ま、その前に体つきだな」
う、うるさい!
色々抗議の言葉は浮かぶけど、その全てが何故か声にならない。
「なんだよ、さっきから口だけ金魚みたいにパクパクしてよう」
な!?
「……お前、興奮してんのか?」
「ば、馬鹿なこと言わないで!!」
あたしは何とかそれだけ叫ぶと、部屋を出た。
「おーい、亜喜ちゃーん……どうしたのー?」
扉の向こうからそんな遊んでいるような声が聞こえてきてるけど、受け答えすらする気にはなれない。
あたしは、足早にお兄ちゃんのアパートを出た。
まったく、信じられないよ。
そりゃ、勝手に入ったあたしも悪いかも知れないけど、女の子が来るの分かっててあんな風に寝てる?普通。
頭の中にお兄ちゃんの姿が浮かび、再び顔が熱くなる。
……あたしって、こんなに純情だったのかなぁ……。
何でかそんな感想が出た自分がやけに虚しく思えた。
数十分後、あたしはお兄ちゃんのアパートからほど近いところの喫茶店にいた。
何となく、戻るに戻れない状況だし、かと言って自分のトコに帰る訳にもいかない。なので、仕方なく、お兄ちゃんから再び呼び出されるのを待っているのだ。
お兄ちゃんはもう一度呼び出す。経験上あたしにはその確信があった。子供の頃喧嘩とかしても、お兄ちゃんは、何だかんだ文句を言いながら自分から仲直りをするようにしてきた。勿論、お母さんとかがそうしろって言ったのかも知れないけど、それでも、一応兄としての自覚とかはあるんだろう。
「お待たせしましたー」
あたしは運ばれてきたアイスティーにガムシロとミルクを入れながら、時計を見た。
「以上でご注文の方は全てですか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞー」
マニュアル通りの事を言うウェイトレスさんの背中を見ながらストローでソレをかき混ぜる。
「いらっしゃいませー、お一人ですかー?」
丁度アイスティーを飲み干した頃、そう声がし――
「いえ、連れが居るんですけど……」
――その声にあたしは店の入り口を見た。
向こうとあたしの目が合い、その瞬間、ウェイトレスさんにその連れがいたことを告げる。
「ご注文はおきまりですか?」
「あ、じゃあ、珈琲、ホットで」
「かしこまりましたー、ホットコーヒー一点でよろしいですね?」
「はい」
注文を聞くと、去っていくウェイトレスさん。
「何で来たのよ?」
不服そうにするあたしに何も気にしない様子で置いてある季節代わりにメニュ−を見る。
「お兄ちゃん!!」
「大声出すなって……恥ずかしい」
恥ずかしいって……裸で寝てるの見た方がずっと恥ずかしいよ!
と、思ったところでさすがにソレを声に出すわけにも行かない。
「何で来たの?」
同じ質問を再び投げかける。
「歩いて」
もう何十年も……いや、もしかしたら何世紀も前から使われているかも知れないボケで返すのか、コイツは……。
「そうじゃないでしょ!理由を聞いているの!」
声のトーンは落としているつもりでも、半ば無意識のうちに大きくなるソレ。
「だから大声出すなって……理由ったって……お前がここにいると踏んだからだよ。まったく、来て早々に帰るなんてよぉ……つれないじゃないか。俺とお前の中だろう?」
「……ホントに帰っていい?」
「悪い。冗談だ……ちゃんと用はある。けど、ソレはうちに帰ってからな……取り敢えず、今は食後の一杯をゆっくりと楽しませてくれ」
そう言うお兄ちゃんに、あたしは取り敢えず言葉を止めた。
妙に真面目な顔をしていたからだ。
お兄ちゃんの部屋に行ってから、十数分が経過している。
そして、あたしはお兄ちゃんのパソコンのモニターを見て絶句していた。
「――ねぇ、これ……偽造?」
あたしは肯定を求めてその言葉をやっとの思いで吐いた。
お兄ちゃんは黙って首を横に振る。
「じゃ、じゃあ……捏造?」
言葉を換えただけで意味はそれほど変わらない。
「亜喜……」
困った顔をするお兄ちゃん。
「な、なら――」
「亜喜!」
あたしの次の言葉の前に、活を入れるように声のトーンを上げる。
「……事実だ」
何となく恐い顔をしながら、お兄ちゃんはパソコンの電源を落とした。
………。
思わず、いや、必然的に全身の力が抜け、その場にへたり込む。
「亜喜、かなりショック受けてるみたいだけど、続き聞け。共犯が居る」
「きょう、はん……?」
鸚鵡返しに聞き返すあたしの唇は震えていた。
「ああ。まだソレが誰だかは分からないんだけどな……お前が言ってたのを考えると校外からの撮影は一人じゃ無理だ……そいつを行ってたのがいるはずだ……」
お兄ちゃんはそこで一呼吸置くと、一瞬空を仰いで続けた。
「……だが、ソレを俺は探すつもりはない。必要なら、亜喜が自分で探せ」
あたしは寮の自分の部屋に戻った。
「何で……セナが……」
……セナが……自分でやってたなんて……。
ベッドの上に寝転がり、天井を仰いで言葉が漏れる。
お兄ちゃんのパソコンに写っていた画像はセナがカメラの角度を変えたり、付けたりしているトコだった。
つまり、自分を盗撮するためのモノを……。
確かに本人がやっていたなら、あんな風に室内の至る所に仕掛けられたカメラの謎も解ける。
でも、どうやってあんな物手に入れたんだろう……普通に売っているカメラじゃない。ソレに、カメラから撮った写真はメールとしてセナのパソコンに送られているはずだってお兄ちゃんが言っていた。
どう考えても、普通なはずがない。それも……共犯の人が……。
でも、だとしたら誰なんだろう……。
それに、セナが自分でやったなら、何でソレをあたしに見せたの?
目的が分からない……。
って、言うか……お兄ちゃんは、どうやってそんなことやってる写真を手に入れたんだろう?正直、こっちの方がかなり疑問だ。
――ピンポ〜ン……。
と、誰かが呼び鈴を鳴らした。
「………だれ?」
こんな所から小声で応えたところで聞こえるはずもない。
でも、あたしはその時その場から動けなかった。動こうと手足に力を入れても体が動かない。
金縛りとかじゃない……純粋に力が入らないんだ……。
でも、脱力感とかそう言った感じじゃない……何かに精気を吸い取られているような、そんな感じがした。
――ピンポ〜ン……。
再度呼び鈴が鳴らされる。
「…………」
あ、もう、声も出ないや……。
口は開く。でも、声が喉の奧で固まってしまったみたいで、周りの空気を揺らすことはできない。
諦めて、ゆっくりと目を閉じる。
――ピンポ〜ン……。
再び鳴る呼び鈴。
けど、あたしの耳にはもうその音は届いていなかった。
†
まぶし……朝……か。
カーテンを閉め忘れたせいで、朝日が直に顔に当たる。
!!
と、突然ケータイが鳴った。
「誰、からだろう……――」
何となく、着信表示の上にある時計を見る。
9:34
「――こんな時間に」
改めて着信表示にある名前を目にした。
「なんだ……」
お兄ちゃんか……。
「はーい、もしもしー」
『よ、オハヨ』
正直、自分のテンションもよく解ってない。
で……何でお兄ちゃんはこんなに明るい声なのかなぁ……?
「何?」
わざと不機嫌な声を上げてそう応えるあたし。
『なんだと思う?』
それでも気にせず軽くて明るいテンションで言うこのバカ。
「電話、切ってもいい?」
『あー、悪い悪い。まぁ、そう怒るなよ』
その焦ったような声を聞き、あたしは仕方なく電源ボタンから指を放した。
「で、何なの?」
『ああ、実は……彼女さぁ……』
彼女……?あ、セナのことか……。
「セナがどうしたの?」
『あ、ああ……』
歯切れの悪い声だけが通話口から響く。
――ピンポ〜ン……。
その時、呼び鈴が鳴らされた。
「あ、お兄ちゃんゴメン。誰か来たみたいだから、また後でかけなおすね」
あたしは早口でそう言うと、電話を切った。
何度か鳴らされる呼び鈴にあたしは玄関に足を運んだ。
†
「――巫山戯ンじゃねぇ!!!」
怒鳴り声が聞こえた。
お兄ちゃんの。
……そんな……気がした。
でも、そんなはずがない。
だって、目の前には、話し終わって涙眼になっている女の子が一人いるだけなんだから。
†
さぁて、どうしようかなぁ………。
ま、取り敢えず………もう一人の方に連絡入れるか……。
「やっほ〜ヒトミ」
「どうしたの、こんな時間に?今日学校も来なかったし……」
黄昏時もとうに過ぎ、時刻は既に夜九時過ぎ。
お店も既に閉まっている時間だ。まぁ、もっともソレを狙ったんだけどねぇ。
「で、どうしたの?お店もう閉めちゃってるんだけど」
ヒトミはあたしの顔を見て再びそう聞いた。
「セナのこと……知ってたンでしょ?」
「え……いきなり、どういうコト……?」
「………しらばっくれないで、セナから話は聞いたンだから」
「話って………?」
まだ、しらばっくれるか……コイツは。
†
「――ボクが……自分でやったの」
あたしがセナを部屋に通してしばらくの沈黙の後、彼女はそう言って俯いた。
彼女の方からそう話は切り出された。
ソレを受けて、あたしはお兄ちゃんに見せられた写真をコピーしてきた物を印刷したものをセナに見せた。
それを見せられたセナの眼は見る見るうちに赤くなっていき、直ぐに涙腺が緩んだ。
「何で……?」
あたしの声もいつの間にか小声に――小さくなっていた。
「………」
あたしの問に対するセナの答えはない。
しかし、あたしはセナに詰め寄りながら再び聞く。
「何で、こんなコト……しかも、何でソレをあたしに被害があったように見せたの?」
「………」
が、やっぱりセナからの答えはなかった。
って、言っても、考えてみれば当たり前だ。
あんなコトやって、弁解とか、そう言ったのができる方がおかしい。
「セナ………今日、何しに来たの?」
このままじゃしょうがないので、別の方面からセナに訊く。
「………ボク……アキちゃんに会いたくて、それで……謝りたくて……」
「セナ……」
うっすらとだが濡れている眼を見ながらあたしは天井を仰いだ。
あぁ〜、どうしたらいいんだぁ!
†
20分くらいかなぁ……お互いに何も喋らない沈黙が続いた。
「ボク……お兄さんの所行ってきたの」
沈黙の後、涙を拭きながらセナは口を開いた。
「お兄さんって……ウチのお兄ちゃんのトコ?」
「うん……」
うーん……それでお兄ちゃんセナがどうのこうのって言ってたのか。
「それで?」
「お兄さんにも……言われた……」
え?
「“何でこんなコトしたんだ”“亜喜に迷惑かけるな”って……」
……お兄ちゃん……。
「それで……叩かれた……」
「ハァ!?」
何故か頬を赤く染めながら右頬を手で覆うセナを見て、思わず叫んだ。
「何で?ソコまですることないじゃない!待ってて、今からお兄ちゃんシバキに行ってくるから」
言いながらあたしは立ち上がる。
「待って!」
立ち上がったあたしの腕をセナに掴まれた。
「何で?叩かれたんでしょ?お兄ちゃんだからって妹の親友殴って良いわけないじゃん!」
「アキちゃん………」
一瞬セナの力が弱まる。
その時に……あたしは振り返った。
思いっきり駆け出すこともできたんだけど……何故かあたしは振り返った。
「セナ………?」
セナはゆっくりと手を放しながら、あたしを見上げた。
「ボクが悪いの……」
言う彼女の瞳は、また涙で潤んでいた。
「ボクが……勝手にやったことなんだから」
セナはそう言うと顔を完全に伏せた。
「セナ…………」
あたしはセナの頭を見ながらゆっくりと腰を下ろした。
でも、お兄ちゃん許したわけじゃないからね……後でシバキ行こっと。
まぁ、ソレはさておき……。
「セナ……お願い……話して」
セナが落ち着くのを待って、ジュースを片手にあたしはセナにそう言った。
珍しく自分でも真面目な顔をしている気がする……(マテ
「………ボク、好きだったんだ……ずっと」
涙を拭き、ジュースに口を付けると彼女はそう切り出した。
「………は?」
セナには悪いと思う。でも、あたしは思わずポカンと口を開けそう返してしまった。
だって、名前は出してないけど、この状況から言ったら、お兄ちゃんのことなんだよねぇ。“好き”って……。
ってか……そう言う展開&結末かぁ……今時、やらんぞこんなコト。
発想は、仲間に襲わせて助ける一昔前のB級ドラマじゃんか……。
「……そう、だよね……ボクじゃ釣り合わないもんね。変だもんね。こんなの……」
いや、そう言う意図で今の緊張のない声が出た訳じゃないんだけど……。
「あ、あのね……セナ……そう言うコトじゃなくて……なんで………」
「……………………解らないんだよ…………良さに………」
良さが分からないって言われても……。
いや、仮にセナと同じ立ち位置にいても、キットあたしには解らないと思う……。うん、間違いなく。
「あの、さぁ……セナ、一個だけ聞いていい?」
「何?」
「どこがイイの?」
黙って神妙な顔をしてあたしはセナを見た。
「どこって言われても………そんなの分からないよ」
「分からないって……例えば顔とか(いや、コレは否定だな)、性格とか(お世辞にもイイとは思えない……)、お金持ちとか(不可能な話しだよなぁ・・;)………ゴメン、無いわ」
我が兄ながら………orz
「え、え、え?あ、別にそう言う意味じゃなくて………」
頭を抱えるあたしをよそに、セナはそこまでいうと声のトーンを落とした。
「……人を好きになるって、どこがいいとかじゃないんだよ。アキちゃんも、したことあるでしょ?恋」
こ、恋………。
いきなりそんなこと振られても……。
恋かぁ……初恋とか??
いや、でもなぁ………あたしどっちかって言うと体動かしてる方がいいしなぁ……。
学校の男子達とも何人も友達はいるけど、そう言う感じのはいないし。
そう考えると………あたし、今までに恋って、無いのかなぁ……。
それはそれで色々と悲しいものもあるなぁ……。
だって……十四年間何もないなんて……来年は高校受験もあるからそんな余裕無いだろうし……。
う〜ん………………。
無意識のうちのあたしは両腕を組んでいた。
ふと前を見ると、そんなあたしを見てセナは何とも微妙な顔をしている。
「あ、ゴメンm(_ _)mあたしの話じゃなかったね……」
軽く手を振りながら謝る。
「う、ううん……でも、アキちゃん、今まで好きになった人って、いないの?」
あまりに考え込んでいたあたしを見てか、いきなり核心を突いてきた。
どうでもいいけど、フツー聞くかー?
「あ、あたしのことはいいから……えっと、なんだっけ……あ、ああ、そうだ。いったい、どこがいいの?」
自分でも変なのは分かる。
だって、顔とか妙に熱いし、全身から変な汗出てきてるモン。キット顔真っ赤にしてるんだろうなぁ……ハズカシイーー(*^^*;)
「えっと、アキ、ちゃん?」
「あ、ご、ゴメン……えっと……ちょっと待って……」
言うと直ぐにあたしは後ろを向いた。
ゆっくりと深呼吸をしながら気持ちを落ち着ける。
両手で両頬をそっと触れてみる………まだちょっと熱いかなぁ……。でも、かと言っていつまでもこうしているわけにも行かないし……。
……
…
よし!
「あ、ゴメンね……なんか、変な気分になっちゃって……」
自分で言ってても恥ずかしいよ・・;あたし何言ってるんだろう……;
「で、えっと……それで、セナはどうしたいの?」
「………どうって………」
向き直ったあたしの問いにセナは視線をずらす。
まぁ、そうだろうなぁ……あたしにだけならまだしも、当の本人に知られちゃって、挙げ句怒られたんだからなぁ……。
どうしたいかは分かっててもどうしようもないよなぁ……。
「ボクは……………………とにかく、好きなの……変なのは理解ってる!」
やっとの思いで。その言葉が一番ピッタリと当てはまる状況だろう。セナは、喉の奥から声を絞り出すようにして言った。
「……うん。判った!じゃあ、セナ、あたしに任せて☆」
あたしは努めて明るく振る舞いながら、ウィンクしながら彼女に言った。
「え?」
戸惑った感じであたしの顔を見るセナ。
「だーかーらー、あたしが何とかしたげるって言ってンの」
「え、え、え、えーーーーー!?!?」
あ、いや、そこまで驚かれると……。
「いや、だって………じゃあ、セナはどうしたいの?」
あたしは、再び同じ質問をした。
――………………逃げたい………………――
え?
――巫山戯ンじゃねぇ!!!
怒鳴り声が聞こえた。
お兄ちゃんの。
……そんな……気がした。
お兄ちゃんがいるはずがない。それに、セナの口は動いていない。
じゃあ、今聞こえたのは………?
だって、目の前には、話し終わって涙眼になっている女の子が一人いるだけなんだから。
「セ、ナ……?」
「うん?何?」
「え、いや……何でも…………」
やっぱり、違う、よね。
「ネ――」
あたしは今のを聞き違えだと決めつけてセナの目を見た。
「――あたしに、任せて☆」
「…………」
セナは黙って顔を伏せた。
えっと………これって、OKって、ことでいいのかなぁ?
そんな疑問詞は出てきたけど――
†
「よし!じゃ、ちょっと行ってくるね」
「う、うん……でも、いいの?」
「問題ないって!」
あたしは、答えると一気に階段を駆け下り、駐輪場へと向かった。
ソコに置いてある、滅多に載らないマウンテンバイクに飛び乗る。
元々はお兄ちゃんのお古だから色は水色系の青――スカイ・ブルーだ。
ま、あたしも嫌いじゃないんだけど、やっぱ朱がいいなぁ。オレンジ系の赤。夕焼けの色で、大好きなんだよなぁ……。
ま、今はそんなことはさて置き、お兄ちゃんのアパートへチョッコーだ!!
あ、そう言えばお兄ちゃんはセナの気持ち聞いたんだよねぇ……たぶん。
だって、そうならあのロリコンのことだからゼッタイ喜んではいる。だからさっきの電話の時あんなに明るかったンだ……よね。
よし!
ポケットからケータイを取り出すと、着信履歴からお兄ちゃんの番号にダイヤルする。
何度目かのコールの後、着信に切り替わった。
『――YO!わざわざかけ直してくれたのか?』
ンな訳あるか……。だいたい、YO!ってなんだよ……。
「そうじゃないけど……ちょっとお兄ちゃんと話したいことあってさ」
『……何だ?』
急に声を低くしてくる。
こりゃ、何だって聞いてるけど、その中身は判断ってるな。
ま、その方が、話し早くていいんだけどね。
「行ってから話すよ。今向かってるから。部屋に、いるでしょ?」
『ああ……』
あたしはその言葉を聞くと何も言わずに電話を切ってソレをポケットに押し込んだ。
「やっほ〜」
呼び鈴を押すことすらせずにあたしはお兄ちゃんの部屋に上がり込んだ。
「早かったな」
それなりに神妙な顔をしているお兄ちゃん。
「そう?」
まぁ、そうかも……ちょっと、疲れてる……息も少しだけど荒いし、微妙に肩で息してる。
「そんなに急いでこなくても、今日は家にいるつもりだったんだがな」
そう言い、お兄ちゃんはあたしに向けてコップを突き出した。
「………」
黙ってソレを受け取ると、一気に飲み干す。
「――――ッ!!!」
思わず口を押さえてキッチンに駆け込む。
「うぅー……お兄ちゃん!何飲ましたの!?」
「ン?特性ブレンド茶」
特性って………。
コップが茶色かったからよく分かんなかったけど、あたしが吐き出したものは茶色の有色透明だった。
「………何、混入したの?」
「オイオイ、そう言う言い方ないだろ。別に毒じゃないんだからさぁ」
「で?何混ぜたの?」
「………熊笹茶と、ドクダミと、麦茶……後、蕎麦……あ、香り付けにジャスミンティー……ダメ、だった?」
……コイツ、毒味してないな……。
「ダメだったじゃないでしょう!まったく、変な物飲ませて!」
「そう怒るなって……まぁ、落ち着こうぜ」
そう言いながら、お兄ちゃんはあたしを自室に促した。
「ンで、何しに来たんだ?」
……白々しいなぁ……口元がびみょ−にニヤけてるし。
「言わなくっても理解ってるでしょ?」
「さぁな……」
さぁなじゃないだろ、さぁなじゃ……。
「あたしに言わす気でいるの?」
「亜喜が話したいって言ったんだろ?」
「お兄ちゃんが電話してきたんでしょ?」
「………わぁったよ――」
お兄ちゃんはこれ以上言い合いをしても無駄だと踏んだのか、溜め息混じりにそう言って折れた。
「――彼女のことだな?」
「そ。」
「どこまで聞いた?本人から」
「たぶん、全部……って、ン?お兄ちゃん、セナがあたしの部屋来たこと知ってるの!?」
「いや、彼女が家来てそれほど立ってないのにお前が来たからな。多分そうだと思ったんだ……まぁ、そんなことはどうでもいいジャン……それよりも、亜喜は、どうしたいんだ?」
「どうって……」
ソレは、あたしがさっきセナとした問答に似ていた。
きっと、セナも何を言って良いか判らなかったんだろうなぁ……それを、あたしは……。
ううん。今はそんなこと悔やんでる場合じゃない!よーし!!!
「えっとね……あたし、セナに聞いたんだ。セナはどうしたいのかって。それで、お兄ちゃん何かのどこがいいのかって……」
「……ン?ちょっと待て」
「何?」
「“俺の”って……どういう意味だ?」
「(?_?)」
え、だって、セナが好きなのって……お兄ちゃんじゃ、ないの??
あたしの早とちり……いや、でも、だって、昨日の行動と、今日の態度から言って……他にコレと言って思い当たる男って、いないもんなぁ……。
「あの、ゴメン、お兄ちゃん、セナに、何、聞いたの?」
|
|