第三話 出かけて


連続して、シャッター音が聞こえる。
その方向を見ると、そこにはラッコとペンギンの赤ちゃんがいた。
へぇー、水族館って魚だけじゃないんだ。
普通の人なら当たり前と思うような感想を思っていると、セナがそのスペースに向かって歩いていっているのが目の隅に映った。
「あ、セナ待ってよ。ほら、お兄ちゃんも…………って、あれ、お兄ちゃん?」
見回したが、お兄ちゃんの姿はない。
と、その間にセナの姿も見えなくなってしまった。
まったく、どこ行ったんだよ……もう、しょうがない。この際お兄ちゃんのことは忘れて、取り敢えずセナを探そう。
「セナー」

セナを見つけ、館内を一通り見ていたとき、急に目の前に光が走った。
何ッ!?
発光源は――
水槽の裏!?
間隔を開けて、連続的にソレは丁度あたし達と逆の水槽の裏から発せられていた。
「セナ、動かないで!」
「え?なんで?」
「いいから!」
それだけ言い放つとあたしはセナから離れて光の所に向かった。

「――何、コレ……?」
そこにはあたしより早く何人かの人が集まっていた。
ま、当然だろうな……。
そこには、連続してシャッターを切るモノがあった。
天体観測とかに使ったりするカメラだ。何となく知識では解っていたけど、見るのは初めて。
そして、異常を期しているのはそれだけではなかった。
その試写体が、何もいないのである。つまり、それは空の水槽を連続撮影していたのだ。
更に、その水槽は掃除が終わったばかりみたいで水も濁ってはいなかった。
その札には『アオウミガメ』と書かれていた。きっと、掃除中移動しているんだろう。
それを撮ろうとしてたまたま居ない時間になってしまったなら別にいいんだけど……でも、その殆ど透明の水と強化ガラスの後ろにはセナが居る。
――って!
「まさか……考えすぎだよねぇ……第一、そんな都合よくセナがあそこに行くなんてコト……」
と、思ったとき、聞こえてきたその会話があたしの考えを消し去った。
「このカメラっていつからあるんだ?」
「さぁ?でも、一〇分前にはなかったよ」
え?
「そうかぁ。まぁ、どっちにしても早く片づけてくれないと、他のお客さんの迷惑だよなぁ」
「そうだな……片づけちゃってもいいかなぁ?」
「いや、さすがに勝手にはまずいだろう……」
一〇分前……水槽の清掃がそんなに早く終わるわけない……で、あたし達がここにきたのも一五分くらい前……あ、そう言えば……順路通りに回ってるんだから、あたし達がこのカメラの撮影範囲内に入る確率はかなり高い……。
そんなことを思っている中も、カメラのシャッターは連続で押されている。
止めなきゃ!
で、でも……あたしの早とちりだったら……。
そう思うと、動き出した足が止まってしまう。
そうだ!
「とにかく、セナをここから放さなきゃ!」

「セナ」
「ン、あ、アキちゃん。ほら見て見て、今からエサあげるんだってさぁ!」
ニッコリと笑い水槽を指さす。
うー……そんな顔されたらこっから引き離せないじゃない……。
しょうがない……。
あたしはポケットからケータイを取り出すと、発信履歴から電話を掛けた。
『………おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が――』
しばらくのコールの後に聞こえてきたのはその機械音……。
まったく……あの莫迦兄は……。
と、画面を見ると、あたしのケータイの電波も圏外になっていた。
どうやら、この水族館自体があまり電波状況がよくないらしい……。
と――
「何だ、こんな所にいたのか」
頭の上からいきなりそう声を掛けられた。
思わずセナの方を見ながらも身構えるあたし。
「亜喜、探したぞ……」
その声に上を向くと、そこにはバカ兄がいた。
「…………探したじゃないでしょ!まったく、入り口からいなくなって!お兄ちゃんこそどこ言ってたの!!」
「どこって……ちょっと荷物コインロッカー入れてくるから待ってろって言っただろ?」
へ……?
「そ、そうだっけ?」
「そうだよ」
「だ、だって、セナが……」
と、セナの方を向く。
すると、もう言っていたエサやりが終わったのか、セナはすぐ後ろに立っていた。

「カメラ、か……考えすぎなんじゃないのか?」
正直あたしもそう思う。
でも――
「――でも、もしもってコトもあるでしょ?」
「そりゃそうだけどよぅ」
と、セナがトイレから帰ってきた。
「ン?どうかしました?」
お兄ちゃんの顔を見てそう言うセナ。
「ううん、何でもないよ。ソレよりセナちゃん、これからどうする?」
結局さっきの場所から離れた後、館内を一通り見て、今はお土産屋さんのトコにいる。
ま、あたしが行きたがったんだけどね(^▽^)
「あ、セナーコレ可愛いよ!」
あたしは、お土産屋さんの入り口の所にあるストラップとかキーホルダーとかペンダントとかの所を見ながらそう言った。
「う、うん……」
「見てきなよ」
元気なく言うセナに、優しく声を掛けるお兄ちゃん。
「はい」
ソレに応えるセナ……なんだかなぁ。
その時、彼女はここに来てから初めてあの重そうなバッグを手から放した。
何、入ってるんだろう??
「ほら、セナこれッ」
ニコッ☆と笑ってあたしはセナに手に持っていたペンダントを手渡した。
ラッコのペンダントだ。
ラッコが持っている貝がクリスタルになっている結構かぁいいヤツ!
で、そのクリスタルのカラーが何種類か有るんだけど……。
「セナって、何色好きだっけか?」
「ンっとねぇ、虹色ぉ」
……ま、言うと思ったんだけどね。
でもフツーは単色答えるよなぁ……。
「じゅあ、一色では?」
「うーんと、アカ、かな」
赤かぁ……って、どうせ、あたしの考えてる赤とこの子のアカは違うんだろうなぁ。
ま、それでも、ここにあるアカは一個しかないんだけどね。
「じゃあ、コレ?」
あたしは、赤いクリスタルを持っているラッコを手に取るとセナに見せた。
「うーん……どっちかというと……コレかなぁ」
そう言って、セナが手に取ったのは、オレンジ色のソレだった。
アカ……だよねぇ……アカって、朱か?
まぁ、朱色なら普通の赤に比べたら、橙だからオレンジに近いけど。
「じゃあ、ソレね」
あたしはソレをセナの手から取り上げるように取ると、レジに向かった。勿論、自分の分も一緒に持って。
レジで金額を言われてお金を出そうとしたとき――
カシャッ!!
シャッター音!?こんな場所で?
コレと言って何も撮るようなものはない。それどころか、カメラを構えているような人もいない。
まぁ、今はケータイでも同じ音使ってるから、そっちかも知れないけど。
どっちにしても、そんな素振りの人はいない………じゃあ、どこから……。
思った瞬間、セナの所に送りつけられてきていた写真の何枚かが頭を過ぎった。
――盗撮――

「はい」
袋に入ったソレをセナに手渡す。
と、同時に、周囲を一瞥する。
「……いいの?」
「うん。今日はセナのために来たんだから。このくらい気にしないで。あ、そうだお兄ちゃん――」
「わかってる……取り敢えず、出よう」
「う、うん……」
「ん?」
と、小首を傾げているセナ。
どうやら、当事者だけはあまり自体を理解してないようだ・・;

取り敢えず、さっきセナを寝かしていたベンチのある公園の位置まで、あたし達は戻ってきた。
「セナ、どうする?もう帰る?」
「ン?」
いや、ンじゃなくてさぁ……。
まぁ、状況今一理解してないようだから(ホントは理解したくないのかも知れないけど……)しょうがないかも知れないけどさぁ。
「セナちゃん……悪いんだけど、ホントは俺あんまり水族館って好きじゃないんだよ……」
な!?いきなり何言ってンだ、兄!?
「だからさぁ、まぁ、イヤだとか、ここにいたいとか言うならしょうがないけど、もしよかったら、どっかほかのトコ行かない?」
………ああ、そう言うことか……うーん、この自己チューが自ら憎まれ役買って出るなんてなぁ……成長したな。ウンウン(誰?)
昼過ぎに出てきたんだから、時間は約十六時半。
まぁ、どっかに行こうと思えば行ける時間だ。でも、勿論帰ってもいい時間だ。
だって、ここまで約一時間だもん。
「あ、そうだ亜喜」
「うン?」
「明日休みなんだよなぁ?」
「そだよ」
「でさぁ、お前ントコの学校って、全寮制とはいいよぅ、休みの時、実家に帰ってもいいんだよなぁ?」
「うん、まぁね……」
「ンじゃさぁ……――」
お兄ちゃんはそこまで言うと一瞬言葉を切ってセナを一瞥すると、あたしにウインクをしながら続けた。
「――お前今日から俺の家来いよ。で、悪いんだけど、俺ちょっと明日はいねぇからさぁ――」
「うん、いいよ。あ、そうだ!ならセナも一緒にいこうよ!!」
あたしはセナの手を取ってそう言った。
「え?」
突然自分に振られたこともあって、戸惑った顔をするセナ。
か、可愛い………(><)
どうやら同じ感想を持ったようで、お兄ちゃんもセナの顔を何となく嬉しそうに見ていた。
あ、あたしは違うよ!ッて、誰に弁解してるんだ……あたしは?
「ね、そうしようよ!」
心を落ち着けて(?)セナにもう一押しそう迫る。
だ、だからあたしはノーマルだって………何なんだ……我ながら……?
「でさぁ、明日も一緒に遊ぼ?」
「う、うん……いいけど……お兄さん居ないんですよねぇ?」
「あ、ああ……」
ン?お兄ちゃん動揺してる?さては、ホントは何も用ないんだな。
ま、それはどうでもいいんだけど、何でセナが残念そうなんだ。お兄ちゃんなら解るけど……。
「ま、どっちにしてもさぁ……もう今日は帰らない?風も冷たくなってきたし」
お兄ちゃんの言う通り、秋風が身にしみる。
ま、あたしはちゃんと防寒してるから大したことないんだけどね。
一応秋用のコートも着てるし。
って、そういや、セナ寒そうな格好してるなぁ……。
今更ながら見ると、肩を出した袖の取り外しでノースリーブになるの一枚だ。下もショートパンツだし。
何となく実年齢より幼く見えるなぁ。ツインテールに結んである髪がソレを一層そう見せている。
「じゃあ、帰ろっか?」
「うん」
今一元気なくそう言うセナ。

それから、一時間半ほど走って、あたしとセナはお兄ちゃんのアパートに来た。
「亜喜、少し散らかってるからさぁ、“俺の部屋以外”片付けといてくれないか?ま、細かい理由は聞くな」
一々強調しなくたって入らないよ……それに、片づけられたくない理由も想像はつくって。
「ま、いいけど……って、お兄ちゃん今から出かけるの?」
「ああ」
ああって、あんた……もうかなり暗いッスよ。ま、いいけどね。
「ちょっと支度してからな」
そう言うと、お兄ちゃんは自分の部屋に入っていった。
アパートと言っても、それなりに広い。1DKのアパートで、小さいながらも部屋が3つある。
その内の一部屋を、あたしが時々泊まりに行ったときに使っているのだ。
この兄、気に入らないことに頭はいい。大学をかなりいい成績で出たあと、塾で講師をしている。
その収入で、これだけの部屋に住めるんだから、結構いいんだろうなぁ給料……って、中学生が持つ感想じゃないよな、我ながら……。
ま、塾って言っても小中学生相手のトコだから、何が目的なんだか……コイツは……。
と、そんなことは置いといて、あたしは普段使っている部屋にセナを案内した。
「セナー、こっちー」

片づけていない、と言う訳じゃないけど、この前あたしが来たときのままになっているのは何故だろう……?
この前来たのって……確かもう三ヶ月くらい前だよねぇ。
ま、あたしが使いやすいようにしてくれてあるって見方もあるけど……それにしても……机の上に落書きでもしようと広げた筆記用具とコピー用紙、冷蔵庫を開けると、食べかけのプリンまで放置されている・・・・うわぁ、何かとんでもない色してるよ。
それでも、ベットメイキングは出来ていて、昨日干したばかりのような、フカフカな布団がそこにはあった。
クローゼットの中にも同様の布団がもう一組……何であるのかは不明だけど。
室内の掃除はされてるし、前にあたしが来たときに頼んでおいたパソコンも設置されていた。昔お兄ちゃんが使っていたノートパソコンだ。
さて……この部屋で、どうしたもんかなぁ……。
「あの……アキちゃん……この部屋ホントに使っていいの?」
何となく不安げに見える顔をしたセナがそう聞いてくる。
「うん、あたしが時々来るとここに泊めて貰ってるんだ。セナ寝るときベッド使いなよ。あ、あたしのでよければパジャマとかも確かあるはずだけど……」
言ってクローゼットの中を探る。
結構前になるけど、一時的に着るのにはいいだろうと、ホントは処分する予定の服をこの部屋に持ってきたのだ。
「――あ、あったあった……さってと、あ、まぁ、何もないけど、テキトーにくつろいでて」
セナにそれだけ言うと、あたしは部屋を出てお兄ちゃんの所に行った。
扉をノックし返事を待つ。
『何だ?亜喜か?』
他に誰が……って、セナか……?何を期待してるんだか……。
「そうだよ」
『どうした?』
「うん、ちょっとね。入っていい?」
『ああ』
返事を聞くと、あたしはドアノブに手を掛けお兄ちゃんの部屋に入った。
うわー、相変わらずの部屋だなぁ……。
人のこと片づけるんなら、自分トコ片づければいいのに……。
きっと塾で使って居るんだろう。幾つかの参考書なんかが床に乱雑に置かれている。
そのくせ、机の上だけはキチンと整頓されていて、どこに何があるか一目で分かるようになっていた。
と、お兄ちゃんを見ると、ソレまでのラフな服装ではなく、カジュアルだけどスーツ系の上下に着替えていた。
その中で異常なのは一点。肩から提げられた、小さめのバック。この人、どこ行く気だ……。
「何かあったか?」
髪を解かしながら、振り向きもせずに言う。
「お兄ちゃんいつ帰ってくるの?」
「さぁ……終わり次第だ」
その声は何処か強ばって、あたしが知っているいつもの軽い調子の声ではなかった。
「ねぇ、どこ、行くの?」
「子供は知らなくていい…………」
その言葉に続く言葉がなく、沈黙が訪れる。
「なんてな……気にしなくてもいいって……大した用事じゃねぇから。それより、ちゃんと彼女の面倒見てやれよ」
お兄ちゃんはそう言うだけ言うと部屋を後にした。
その時は、いつも通りの軽い口調に戻っていた……何なんだ、いったい??

「さて、セナー……」
部屋に戻り、これからどうするかとセナに声を掛けたんだけど……。
「寝ちゃったのか……」
まぁ、お兄ちゃんの言ってたことが正しいなら当然と言えば当然か。
よし!
起きたときにいいように、ご飯作ろっと!
取り敢えず、台所に行って冷蔵庫を開ける。
おー!
色々そろってるじゃないか☆
男の一人暮らしとは思えないな。うん、関心関心――
「――なんてね……」
普通の男の人ならそうなんだろうけど、この人はちょっと違うんだよなぁ。
実は、お兄ちゃん、料理を筆頭に家事は結構得意だったりする。
あたしの創作料理はだいたいお兄ちゃんの影響を受けて作ったものだ。って、子供の頃からお兄ちゃんに料理は教えてもらってたけどねぇ。
ウチは共働きだから、必然的に年長のお兄ちゃんが家事とかをこなしていた。もうちょっと年が近かったら、女のあたしがやるのが筋なのかも知れないけど……。
「さってと、何作ろっかなぁ……あ、その前に一応……」
あたしはポケットからケータイを取り出すと、メールの受信覧からお兄ちゃんのアドレスを探し、メールを送った。
さすがに勝手に食材使うのは悪いからね。セナに作るのにって言ったからまずダメだとは言わないだろうww
「よし!」
何となく気合いを入れる。ま、理由はないけど……。

「セナー、入るよぉー」
ドアノブに手を掛けてそっと扉を開けた。
「みゃー」
何を考えているのか、ベッドの上にちょこんと座ってそんなことを言っている。
「……ご飯だよ……」
「やったー!」
……なんだかなぁ……。
セナを伴って食卓に着くあたし。
何やかんやで時間はかかっちゃったけど、一応まともなご飯が出来た。
メニューはアサリのチャウダー、マカロニサラダ、エビグラタン、それにフランスパンだ。後、デザートに栗のラムパウンドケーキとハーブティーを用意した。
思いっきり洋風だなぁ……あたしはホントは和食派なんだけどね。でも、セナはこっちの方が好きみたいだし。
なんか、目輝いてるよ……ホント、普段まともなモノ食べてないな……。
ま、いいけどね……。
「じゃ、食べよっか」
「は〜い!いっただっきまぁす!」
まったく……子供じゃないんだから。
ま、そこがこの娘の一番可愛いトコなんだけどねぇ……あたし的には。

「ごちそうさま!とっても美味しかったよぉ!ありがとねB」
「どういたしまして」
お互いに笑みがこぼれる。
自分なりにも結構今日のはよかったし、美味しいもの食べると自然と笑顔になるってホントなのかな・・?
と、ンじゃ、片づけるか。
そう思って席を立とうとすると、セナもほぼ同時に立ち上がった。
「ボクが片づけるよ。作ってもらってばっかりじゃ悪いからね」
そう言いながら、お皿を重ねていくセナ。
って、オイオイ……。
「セナァ、気持ちは有り難いけど、あたしがやるよ。セナは部屋にいて」
「うー、でもさぁ……」
「いいからいいから」
あたしはセナの肩に手を置くと、そのまま後ろを向かせ廊下に誘導した。
セナを部屋まで連れて行って戻ると、洗い物を改めて見直した。
一応、油の付き具合とかで重ね順あるんだから……まぁ、セナがやったみたいに大きい順の方が楽だけどさぁ……。

食器を一通り洗って、拭こうとしたとき、扉が開き、セナがひょっこり顔を出した。
「どうかした?」
当然ながらあたしは聞く。色々心配だしねぇ。
「うーん……別にどうかしたって訳じゃないんだけど……ボクも何か手伝えることないなぁと思って……」
そう言われてもなぁ……。
「そうだなぁ、じゃあ、お風呂入れてきてくれる?場所は廊下の突き当たりだから」
「はーい。りょーかいしまいたー!(`・ω・´)ゝ」
何故か敬礼をしながらそう言い、顔を引っ込めるセナ。
やっぱ……可愛いよ。うん。

「よし、おわりっと!」
食器の片づけが終わったので、取り敢えず部屋に戻ることにした。
「セナー」
部屋を見渡したが、セナの姿がない。
「どこいったんだ?」
と、そこで、パソコンが立ち上がっているのが目に入った。
立ち上がっているのは例のメールの送受信が出来るページ………?
まさか!
すぐに駆け寄りそこに表示されているモノを確認する。
【今日は、家にいないんだね】
やっぱり……。
自分のトコ見てたんだ。
で、やっぱり相手は……shine……死、ね……。
タイトルもそうだが、今日は添付ファイルはなかった。
しかも、今日はソレ一通のみ。
さぁて、どうするかなぁ……。
「アキちゃーん!」
ン?
考えようと何となく腕組みでもしたところで、そう少しくぐもった声でセナに呼ばれた。
「なにー??」
取り敢えず返事はする。
「お風呂入れたからさぁ、一緒に入らなぁい?」
……は?
「一緒にって……」
思わず呟くあたし。
「アキちゃん、聞いてる?」
と、今度は目の前から声がした。
見ると、バスタオル一枚の姿で立っているセナが目に入った。あ、頭にもタオル巻いてるから厳密には一枚じゃないか……セナ髪長いもんなぁ……それにサラサラしてるし、ホント羨ましい……って、そうじゃない!
「わ、わああぁぁ!」
色々感想を重いながらも、その姿に思わず仰け反りながら倒れるあたし。
「あ、アキちゃん、大丈夫?」
タオルを押さえている手を放して、あたしに手を差し伸べてくれるセナ。
その行為は嬉しいんだけどねぇ……ソレ放すと……。
「あ、キャッ!」
ほらね。
何も止めてなかったらしくて、タオルはふわっとセナの体を離れてあたしに覆い被さった。
「ご、ごめんアキちゃん」
謝ってる場合かなぁ……。そうは思ったけど、考えるだけ無駄なことはあたしは知っている。
慌てた手つきでタオルを取ると、再び手早く体に巻く。
「あのさぁ……セナ」
「ン?何??」
何って………。やっぱ、言うだけ無駄か。
「……やっぱいい。何でもない。で、お風呂?」
「うん。一緒に入ろ☆」
「うん、わかった。わかったから、先行っててね」
「はぁい」
そのニッコリと笑った笑顔が後ろを向き、部屋を出て行くのを見てあたしは思った。
この娘って、危機感とか羞恥心とかないのかなぁ……無防備にもほどがある気がする。いくらあたしが女だからってさぁ。
そもそも、もう中学生なんだから、もうちょっと恥じらいとかを……。
ま、あたしも人のことは言えないか、結構男勝りなトコあるしね(^^;
と、再びくぐもったセナの声がした。
「アキちゃん早くー!」
「うーん、今行くからー」
εー(′`;)はぁ……;
返事をしてから、クローゼットの中からパジャマと下着を取りだして脱衣所へ急いだ。

秋とは言え若干かいている汗の染みこんだYシャツとズボン等を脱ぎ捨てると一糸纏わぬ姿になる。
「あ〜、やっぱ、裸は寒いやぁ」
♪♪♪♪♪〜(^▽^)〜♪
浴室からシャワーの音と混じって鼻歌が聞こえる。
……この曲、何だっけ……どっかで聞いたことあるんだけどなぁ……??
なんか……とっても好きなような……。
「お待たせー。ねぇセナー、その曲って、何てのだっけ?」
浴室の扉を開けながらあたしはセナに聞いた。
「んー?知らない」
ま、そうだろうとは思ったんだけどね……ま、どっちでもいいんだけどさ。

「――そろそろ寝る?」
お風呂を出てから、秋の夜空をベランダから見上げながらあたしはセナに聞いた。
「うーん……もうちょっとこうしてたいなぁ」
彼女の言うのも分かる。
空気が澄んでいる……そう言うにはまだ少し早いかも知れないけど、それでもこの周囲には強いネオンを放つ建物もなく、自然が多いというわけではないが、それでも、夜の空から降り注がれる星の光を堪能するには十分だ。
それに、そんな空をうっとりとしながら見ているセナの姿を見るのは、あたしは嫌いじゃない。
後、お風呂から出たばっかりの火照った体の夜風が気持ちいのもあるけどね(^^
「じゃあ、ホットミルクでも入れてくるよ」
「はぁい」

数分後、レンジの完了音を聞いて、あたしは2つのマグカップをそこから取り出した。
冷蔵庫の上の蠅帳からハチミツを取り出すと、カップの内の一つに入れる。ソレはセナの分だ。
「お待たせ」
「うぅん…」
おっとりとした口調で彼女が答える。
ベランダにはコレと言って台になる物がないので、部屋の中の机にソレを起きながら彼女を呼ぶ。
「ここ置くからねぇ。後、そろそろ体冷えちゃうから中入りな」
「はぁい」
言いながら踵を返す彼女の目には、何故か涙が浮かべられていた。
「……セナ?」
意志にどうこうに関わらず彼女の名前を示す疑問詞が口を出る。
「ン……ああ、ちょっと眠くなっちゃって……ふぁあ〜〜」
言いながら、手を口元にやりながら、彼女は欠伸をした。

クローゼットの中にある寝具を敷いてから、ベッドに腰を落とした。
ほぼ同時に今敷いたばかりの布団の上にペタリと彼女が座る。
それぞれに手の中にはまだ湯気の立ち上るカップが握られている。
「…………」
「…………」
そして、おのずと沈黙は訪れた。
ゆっくりとカップを口に運び、乳白のソレをすする。
「あ、覚えててくれたんだ」
そう言って先に口を開いたのは彼女の方だった。
「ン?」
「ホットミルクにハチミツ入れるの」
「ああ、一応ね」
いつどんな風だったかは覚えていない。けど、彼女がそうして飲むのだと話してくれたことは覚えていた。だから昼間もそうしたんだけど……ま、いいけどね。
「コレ好きなんだ♪」
ニッコリと笑う彼女の顔の中には、昨日のような不安気なモノは一切なくなっていた。
それを見て、あたしは残りを一気に飲み干した。
そして、カップを机の上に置くと天井を仰いだ。
別に何かしたかった訳じゃない。ただ何となく……何となく涙がこぼれそうだったからだ。

「起きた?」
体の上に重みを感じて目を開けると、目の前にセナの顔があった。
と、視線を落とすと、彼女は顔だけではないのが解った。勿論、真正面に真正面の顔があるのだから、その体位から言って彼女だ上に乗っていることは予想できたが……。
「セナ、何してるの?」
「ウン?お兄さんがね……起こしてこいって」
「……は?」
あ、そうか……昨日からお兄ちゃんのトコに居るんだった。
で……起こしてこい??ってコトは、お兄ちゃん帰ってきた?
「だから……――」
「いい。判ったから」
再度言おうとしたセナを遮り、あたしは何とか動く右手でセナに退くように促した。
「あ、ゴメンね」
ゴメンじゃないだろう……まったく……。
セナが下りるのを確認すると、取り敢えず着替えをしようと体を起こした。
ン??
改めてセナを見ると、昨日のピンク色のパジャマのまんま……。
着替えろよ……お兄ちゃん帰ってきてるなら余計なサービスするだけじゃん……。
「セナ、着替えなの?」
「あ、そうだね」
「…………」
本気で言ってるのかなぁ……。

「おっはよ」
「うん、オハヨ!」
「おお、ようやく起きたか」
ニッコリとしたいつもの笑顔を返すセナと、ソレと対照的に憮然とした応えの兄。
ま、どうだっていいけどさ。
「お兄ちゃんいつ帰ったの?」
「ン?今さっきだけど……取り敢えず朝飯だけ作ったから。悪いけど、片付け頼んでいいか?」
「うん、いいけど。食べ終わったら寝る?」
「ああ。あ、そうだ、もう帰るよなぁ?」
「そのつもりだけど……何で?」
「いや……ちょっとな……亜喜、彼女送ったから、午後もう一回来てくれ」
何だなんだ……?
「いいけど……何で?」
「ちょっとな……聞かしたいことあってな。ま、後で」
お兄ちゃんは歯切れ悪い返事をそれだけすると、自室に籠もってしまった。